1.再会
村で向こう側が透けた色のないおっさんを見かけた。
それ自体は
さすがに頭痛しそうで顔をしかめた。
あれ幽霊サンじゃん。
いい加減霊感とも前世の記憶ともオサラバしたかったが???
思い出したと言ってもぼんやりだけみたいだけど……。
例えばいつどう死んだとかは二回とも分からない。
霊らしきおっさんはもちろん放置。
面識ないんだから敢えて突撃する意味はない。
無害かどうかも分かんないし。
……えと、今は母に手を引かれるまま市を歩いてて、ええと、そうだ、村で採れる野菜を仕入れに来たんだ。
Bも使えるけど、物々交換にも応じてくれる柔軟な店ばっかりで──は、B?
……べりー?
待って、ますます頭痛しそう。
「どうしたのルリ、具合悪くなっちゃった……? 帰る?」
母さんが足をとめて優しく聞いてきた。
ご、ご心配お掛けしてすみません。
そういえば名前も名字も前世まんまだ。
分かりやすくていいけど。
「んーん、なんでもなーい」
にこっと笑うと母さんはほっとしたようで、それでも気遣うようにゆっくりと歩き始める。
母の優しさをしみじみ噛みしめていると、すれ違った子に腕がちょっと掠ってしまった。
「んあ……は? ヤシロ?」
夜白は我々の名字だけど、何で「は?」なんて言われなきゃいけない。
その子が足をとめたために、その子の手を引いていたお父さんらしき人と、名字を呼ばれたうちの母が足をとめた。
声をあげた子をじっと見てみる。
天パの黒髪、水色の丸くて大きな吊り目、どこかヒネた雰囲気。
「……マ」
「ちょっと待て。……とーさん、友達みつけたから遊んできていい?」
相手の無邪気な様子に、思わず変な笑いを浮かべる。
多分こいつ『前』の高校時代の悪友だ。──松田陣平。
「……おかあさん」
見上げると母はふんわりと笑った。
「いってらっしゃいな。お昼ご飯までには帰って来るのよ」
「は〜い」
なんて会話も終わらないうちに、松田にがしっと手を引かれて市の中を駆ける。問答無用か。
家々の間の空き地になっている所で、数人の子供たちがワイワイしてた。
ついでに透けた人もふよふよ漂ってる。意識しないようにしよ。
「……ハギ、来い」
女の子と話し込んでいた子を、松田は同じく問答無用で引っ張って再び走り出した。
「ちょ、じんぺーちゃん邪魔するなよ」
「うるせえこいつを見ろ」
その子は抗議しながらも、大人しく松田に手を引かれて走った。
サラっとした少し長めの黒髪に薄紫の垂れ目。
こいつもどう見ても同じ高校の悪友だ。萩原研二。
萩原は松田に言われるがままこちらを見て絶句した。
「……ええと。えーっと……」
「わからねぇのかよ」
「いや今色々思い出して混乱してるだけ……」
ハッと松田は鼻を鳴らした。
そして無人の空き地でようやく足をとめた。
「なあ、ヤシロちゃん、だよな」
「うん多分。ハギワラは相変わらず女の子好きそうだね」
「最初に言うのそれかよ!?」
「最初に見たのがそれだったからね」
萩原は「第一印象が」と頭を抱えたそばから「第一印象?」と首をひねってた。確かに扱いに困りそうね。
「じんぺーちゃんは、思い出してて黙ってたのかよ」
「ちげーよ。さっき市でこいつとすれ違って、思い出した」
「へえ。こっちもついさっき、
松田と萩原が、引きつった顔でこちらを見た。何だよ。
「じゃあ……今も
「ていうか居るのか……」
「生物がいる限り居るんじゃない? いい加減視えるの勘弁」
二人は何だかげっそりしていた。そうしたいのはこっちだよ。
「……なあ、そーいえばさ、フルヤちゃんとモロフシちゃんとダテ班長も見た気がするんだけど」
「……ああ。俺も知ってる」
「マジ? あんま村の中心来ないから知らなかった」
えー、皆居るのかあ。
少しわくわくする。
「……どーりで今まで見かけなかったわけだ」
「父さんが漁師でさ、もうちょっと釣りやすいトコの近くに家ある。ここ近海のヌシがたびたび荒らすじゃん」
そーいやそうだな、なんて萩原が頷いてる。
「なんでこんな危ないとこのほうが、村の中心なんだろ」
「入り江の形とか、建築物の建てやすさじゃない? あと、ヤバイヌシがうろついてたほうが、海賊も近寄りづらそう」
「あーね」
そんなこと話してたら、松田がふっとアンニュイに笑った。
「海賊……中世か?」
「そんなことない、と思うけど」
「なあなあ」
少し考え込んでる様子だった萩原が、少さく首を傾げながら声をあげた。
「俺まーだぼやっとしか思い出せてないっぽいんだけど、ヤシロちゃんって性別なに? 今もなんか中性的だし」
「えっ失礼なやつ。分かれよ」
とても酷いと思う。
「分かるかよ」
「マツダまで何言ってんだ」
酷すぎると思う。
「許さない。察しろ。教えない」
「はぁ? ガキの性別なんてぱっと見分からねぇよ」
「お前たちがまた男なのは見て分かる」
「人それぞれだろ」
「じゃ分かるだろ!」
「むり」
「ハァ!?」
ぜっっったい教えてやらん!
お昼には帰って来いって言われてたから、さっさと退散させてもらった。
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「何で居ねーんだよ」
「何で居るんだよ」
何で家の前で松田が仁王立ちしてるんだ。
あと母さん、穏やかに笑って見守らないで。聖母か。
「ルリ、友達かい?」
でっかい魚を何匹も背負ったりぶら下げたり抱えたりしてる父さんは、豪快に笑ってから聞いてきた。
「まあそう」
「まあって何だ」
「ふふ、仲がいいのねえ」
にこにこ笑う母さんには沈黙で答える。
「ちょっとすまんな、魚は鮮度が命だ」
「あ、はい」
松田は素直に父さんを避けた。
父さんは何匹か家の冷蔵庫に放り込むと、大部分を抱えたまま再び家を出た。
「んじゃ市に行ってくるよ」
「行ってらっしゃ〜い」
母さんと一緒に手を振って見送った。
「ええと、ジンペイ君は朝ご飯もう食べたのかしら?」
母さんが松田に視線の高さを合わせて、優しく聞いた。
どうやら二人は既に自己紹介済らしい。
「はい」
しかしグゥーと腹の鳴る音がした。
思わず母さんと顔を見合わせ、そして噴き出す。
「お前そんな嘘下手だったっけ?」
「うるせー」
少しだけ赤くなってムスっとする松田。
「うふふ。うちの旦那さんの魚、食べて行ってちょうだい?」
母がニコニコしながら首を傾げた。
松田がたじたじしてて面白い。お前うちの母に惚れるなよ。
まあ、
斯くして朝ごはんの支度を手伝ってると、父さんが帰ってきた。
Bだけじゃなく肉にも交換してきたんだって。松田に食わせてやろうと思ったのかな?
「何の肉?」
「コルボ山の猪だよ」
「へー。あんなとこで猟してる人いるんだ」
すげー危険なんじゃなかったっけ?
「たまにらしいけどね。珍しいから少し交換してもらったんだ」
「そうだったんだ」
肉は少し塩を振って馴染ませ、よくよく加熱してソースを加え、更にキャベツ等のスライス野菜を加え、肉野菜炒めに。
魚をいくつか捌いて塩を振り、じっくり揚げる。
白飯何杯でもいけそう。
水分は緑茶。
「アオイさん食堂開けそう」
モグモグしながら松田が言うと、あらやだ、と母さんは笑う。
母さんからどことなく「おばさん、じゃないわよ?」って圧を感じる気がする。
たまに雑談しつつ朝食は終了。
「ごちそうさまでした。今度お返しさせて下さい」
松田のくせにしおらしい。……いや、案外礼儀正しい奴ではあったっけ?
「あら、いいのよ、気にしないでね」
我が母ほんと聖母か。
松田にがっと手を掴まれた。
そして引きずられる。
「遊びに行ってきます」
「おい食器片付けてない」
「いいのよ、行ってらっしゃい」
聖母しないで。これ拉致だろ!?
そのまま無情にも村の中心部に連行されていく。
松田は途中でまだ眠そうな萩原を拉致して、どう見ても伊達
「な、何だよジンペ……あれ? んんん……?」
松田に引きずられながら、伊達は小首を傾げた。
やべーしっかり伊達なのに可愛く見える。幼児ってすごい。
「なんだやっぱりかよ、どいつもこいつもヤシロ見せると思い出すみてえだな」
「物みたいに言うな」
そこは普通『会わせると』とかじゃないのか。
両親に送り出されてしまったから、混乱してる様子な伊達と萩原を引きずって行く松田を、ジトっと眺めるくらいしかすることがない。
中心部よりちょっと外れたとこにある家の庭で、老夫婦らしき二人と小さな子供二人が畑仕事をしていた。
「おーい、レイ、ヒロミツ〜」
松田が声を掛けると、金髪の子供と、焦げ茶で猫っ毛の子供が振り返り、老夫婦も顔を上げる。
まあ、降谷零と諸伏景光だなこいつら。『前』では大学のサークル仲間だった。
今生も相変わらず眩しいぞ降谷。おかげで霊さんたちが逃げてくんだ。
「お友達かい? 行っておいで」
おじいさんがにこにこと言った。
「でも、まだ」
諸伏が反論しようとしてたけど、降谷がその腕を引いた。
「ありがと、行ってきます!」
キラキラの尊い笑顔でそう言って、降谷がこちらに駆けてくる。可愛い。
けどなんで腕掴むんだやめろお前の健脚には着いていけない。
松田と降谷に引きずられて、我々は人のいない空き地に連れ込まれた。
村の家々は疎らだから、姿が隠れはしないけど。
降谷と松田以外は、へたり込んでひいはあ息を整える。
この二人だけ既にゴリラだな。
特に降谷、お前に掴まれたとこ跡になってんだけど。
「ようお前ら。揃いも揃って仲がいいな」
「(今世も萩原と親友っぽい)お前が言うな」
松田はなんでそんな偉そうなの。ジト目を向ける。
「ね、ねえ、きみたちいったい……あ」
戸惑ってる様子だった諸伏が、こちらを見て固まった。
松田が言った通りなのか? 本当何なん?
「思い出したんだろ? なら作戦会議だ」
「何のだよ」
やっぱり松田には、本人の言うとおりアクセルしかついてないんだろう。
「この田舎から出るんだ」
「えー」
ちょっとそれは面倒しか見えない。
「何だヤシロ、不満そうだな」
「お前この世界がどんだけ危険か知ってんの? 『前』と比べ物にならないぞ」
「そりゃこんな大昔みたいな……」
「時代じゃない。世界が違うんだ。世界地図見たことある?」
「……へえ」
松田の目がすっと細まった。
昨日の今日だ。それこそ、この田舎で得られる情報は限られてる。
「模式図みたいなもんだけど、世界地図が見たかったら、雑貨屋の……」
「おーい、じんぺー! けんじー!」
ひく、と思わず背すじが伸びる。この声は。
ミーハーアンテナがピンッと反応してる気がした。
「何やってんだオメェら? 一緒にあそぼーぜ!」
にぱっと輝くような笑顔を見せながら走ってきたのは、やっぱりあのルフィだった。
ただしちっちゃいし顔の傷もないし、あの麦わら帽子も被ってない。何歳だろ。
しかしそうか、彼と同年代なのか我々。
……ていうか既に松田と萩原はルフィの知り合いなのか……。
「いや今はこいつらと話が」
「お前もフーシャ村の子供か?」
松田の声を遮って、降谷がルフィに声を掛けた。
「うん! おれルフィ! お前は?」
「俺はゼロ。こっちはヒロ」
「よ、よろしくね、ヒロだよ」
堂々とした立ち居振る舞いの降谷と、おずおずと気弱そうな諸伏。
この二人が揃ってる絵面は本当に尊い。よき。
「ルリだ。よろしく」
「ワタルだ、よろしくな」
伊達が握手しようとしたものだから、ルフィはそれを気に入ったらしく、伊達だけじゃなく皆に握手を求め始めた。
可愛くてよきよき。
松田が肩を竦めている。
まだ今は海賊にこだわりが無いらしいルフィは、特に海賊ごっこみたいなものをするでもなく、走り回ったり地面に絵をかいたり、木の実を拾ってみたりと、ただただ子供らしいことをしていた。
可愛い。とても可愛い。
聞けばまだ五歳らしい。我々は皆四歳で一個下だった。マジか。
ルフィのほうが随分可愛らしいのに。ショックだ。
いやこちらの精神年齢が高いせいだろうけど。
お昼近くなって、ルフィのお腹が怪物の咆哮みたいな音を連続で発し始めて、我々は笑い転げた。
「お前めちゃくちゃ腹減ってんじゃん。昼飯食ってこよう。また今度な」
「うん、またな!」
案外大人しくルフィは帰って行った。
「で、話はどうする?」
「先に世界地図見てこようよ。市の雑貨屋の壁に貼ってある」
「へー」
六人ぞろぞろと連れ立って歩く。
「てかフルヤ、呼ばれはゼロでいくの?」
「ああ。そうしたい」
にっと笑って降谷が言うと、諸伏が少し照れたように微笑んでいた。『ゼロ』って呼び始めたの諸伏らしいもんね。
「それなんだけどさぁヤシロちゃん」
「うん?」
萩原が神妙な顔をしていた。
「ここってさ、ファーストネームで呼び合うのが普通な文化圏な気がするんだよな」
「あー……そうだな」
何が言いたいか分かった。
「だから名字で呼び合ってたらちょっと浮きそうっていうか、つるんでて不自然に見えそうっていうか……班長なんて、今までジンペイとかケンジとか呼んでくれてたのにマツダ、ハギワラになりそうなのがちょっと淋しいっていうか」
「ウッ」
伊達が固まっている。多分そうするつもりだったな。
「呼び方なんて、各自好きにすればいいとは思うけど……まあ、周りに変な勘繰りされるのもごめんだからなあ。いいよ、下の名前で呼ぶ」
「お、俺もそうする」
「つか、班長呼びはもうやめろよ。……呼びたきゃ呼べばいいけどさ」
ワタルが口を少し曲げながら言った。大体皆生返事を返してた。
そうこうしてる内に雑貨店に着いた。
奥に貼られた世界地図を、ぼんやり眺めながら通り過ぎる。
こいつらならこれで充分だろ。
手ぶらな子供が市をうろついてたら、下手したら万引きだと思われるしな。
「な。全然違うだろ。だから別世界か、大陸移動気候変動諸々が遙かに進んだ未来かだと思う。言語は主に日本語と英語だ。だからお前たちも新聞読めると思うよ」
「……何だよ、そうだったのか……」
じんぺーが口を尖らせた。負けず嫌いめ。
「ほら、こっちはお前たちより情報源多いし?」
霊関連だと想像する皆は目を泳がせたけど、そうじゃないよハハハ。
「ていうか『前』のことあんま思い出せないんだよ。そんな皆をびびらすことした?」
これは本当。
前々世に関しても尚更そうで、もう名前も性別も分からんし、よく覚えてたはずのコナンについても怪しい。
ワンピはストーリー追いつつ「あの人の声だ〜」でミーハーしてた程度だった気がするから尚更だ。大長編二作もは手に余る。
……我ながら随分贅沢な旅してるな。
しかし本当、前の人生では果たして彼らに何をしたんだろうなあ。
降谷推しが高じて警察学校組箱推しになってたから、コナンは比較的よく観てた。
でも自分の性格的に無理矢理彼らの
……結果
何だか皆化け物を見るような目でこちらを見ていた。
それやめてくれん?
……まあ、彼らの場合、他の奴らみたいに霊関連を貶めるような意図はないんだろうけど。
「いや、ルリちゃんには皆たくさん助けられたんだぞ? 特にヒロちゃん」
「んん?」
そう言われても本当あんま思い出せない。
「ほら、俺たち職業柄恨まれたり、理不尽な逆恨みされたりが多かっただろ」
「ええ……」
それが警察官にとっての日常であってほしくはないけどな。
思わず顔をしかめる。
「なんか……寄ってくるんだろ、ヒロの旦那には」
「んんん…………あぁ、そうか……生き霊も死霊も神霊も
「……っ!」
じんぺーの言葉にそういえばと思い出せば、ヒロが怯えて固まった。
「でもそういうの、フルヤ……ゼロのそばに居たら寄り付かなかったでしょ」
「う、うん……」
小さく頷くヒロは、少し青ざめてさえいる気がした。怖がらせたいわけじゃないんだけどな。
「ゼロが相変わらず眩しいせいで、今のヒロもそうなのかは分からないけど、今は周りに何も居ないから安心して。今生も寄ってくるようなら、散らしてあげるし」
「そういうとこなんだよ」
ケンジが何か神妙な顔をして頷いてる。
「? どういうとこだよ。……ひとまず昼ご飯食べてくる。母さんが心配する」
皆も頷いた。
「食ったら俺んちの前集合」
「どこだよ」
何で皆知ってる前提なんだじんぺー。
「あっちに緑の屋根のあるだろ。あれだ」
指差す方向に緑の屋根はひとつだけ。すぐ示せるからだったのか。
「わかったよ、じゃあな」
すたすたと歩き出す後ろで、「でも畑の」と言うヒロに「畑ばかり構ってると心配されるぞ」とゼロが遮っていた。
そういえば今生二人は兄弟なんだろうか。
他の皆と同じで前のまま幼児になったようなものだから、見た目は全然似てないんだけどね。
✦霊感は見聞色
オリ主の他に『所謂霊感』持ちはいない設定なため、本人含め誰も気づけません。
霊感も色々感じ取る力だよね、ってことでどうか一つ。