とあるルートからルリの状況を聞いていたガープは、ルリがある程度回復するであろう頃にフーシャ村に帰還した。
彼は常ならず恐ろしい表情を浮かべており、村民は緊張しながら見守る。
ガープは一直線にヤシロ家へと向かった。
「ガープさん……」
もともと線の細かったアオイがますます痩せており、ガープは眉根を寄せる。
「こうお前に心配を掛ける所はムラサキそっくりじゃ。そんな所似んで良かろうに」
「……ふふ」
アオイは眉を下げて微笑む。
「しかし……あいつを迎えに行く前にここに寄ったのはじゃな……」
眉間にしわを寄せたまま持ちかけられた提案に、アオイもデリックも目を見開く。
少しの間そのまま硬直していたが。
「……そうですね。良い機会なのかもしれません」
力なく笑う夫婦が痛ましく、ガープは深く溜め息をついた。
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「えっ、えぇええ!?」
数日前に退院して一心道場に運ばれていたルリは訪れた客にぎょっとした。
にこにこと笑っているが圧を感じる。
「な、なんで……」
ガープがおほんと鷹揚に咳払いする。
「お前、しばしば無茶をするようじゃから、ここで心身を鍛えさせることが決まった。もちろん両親の許可も下りておる」
「えぇえ!?」
ルリは更に瞠目した。しばし、しどろもどろする。
「……あ、あの……な、なんで……まさか……この二人も一緒に?」
「察しがいいのう?」
ガープはにこりと笑ったが、やはり圧があった。
横に並んでいるヒロとケンジも先程からずっと同じような笑みを浮かべている。
「危険も早々に察して避けてほしいもんじゃがなあ?」
青筋がいくつか浮いてルリは身を縮めた。
「すっ、……すみませ」
「謝るなら親に謝れい」
「うっ……」
ただ、ルリがあの場にいたことで多少被害が減ってはいた。
早めに避難を始められたことで助かった者が少し増え、海に飛び込んだ者はおらず、始め中間の森に向かおうとしていたことでダダン一家の退避距離が縮まり、怪我などが多少軽くなった。
しかし誰一人知る由もない。
すっとガープがルリの前に一本の白い鞘の刀と竹刀を置いた。
続いて、ヒロとケンジの前にそれぞれ黒い鞘の刀と竹刀が置かれる。
「ここでは真剣も学べる。ヒロとケンジのやつは量産品しか間に合わなかったが、ルリの刀はルリのじいちゃんの物じゃ」
「!!」
ルリも、ヒロもケンジもその白い刀を見つめた。
星型の透かしになっている
「……綺麗な刀ですね」
ヒロとケンジがほぅっと目を奪われたように感嘆している。
(まるで星稜刀みたいだ……)
ルリだけは、コナンの比較的新しい映画のキーアイテムだった刀を思い出していた。似ている、という程度だが。
「ルリ、
「? はい」
前世でも真剣に触れていたために、それがどこなのかを思い出せた。
柄の終端、槍や薙刀でいう石突の位置にある飾り。
それに触った瞬間ルリはヘロヘロと床に伸びた。
「ルリちゃん!?」
慌てて駆け寄るヒロとケンジ。
「ケンジも触ってみい」
「えと、はいっ」
言われて素直に触って、ケンジもへにゃりと床に伸びた。
「えええっ!?」
驚きながらヒロも触ってみるが彼には何の変化もなかった。
一瞬混乱して。
「あ、もしかして……悪魔の実が関係してますか……?」
「ああ。正解じゃ」
ガープはにいっと笑った。
伸びたことで手が離れた二人がへろへろした様子で身を起こす。
「その飾りに嵌っておるのは海楼石といってのう。海の性質を持っておる。純度が随分高いようじゃな」
「こんな石が存在してるんだ……能力者つらすぎじゃないですか……?」
肩を落とすケンジに、安心せいとガープは笑った。
「希少ではあるんじゃ。だから普通に生きていれば遭遇することは稀じゃろう。しかし当然、能力者を相手取るような場合には多く使われる。二人はまず、触らないよう気を付けることを覚えるんじゃ」
「はいっ!」
ケンジと、そしてルリも真剣に頷いた。
「けどほんと……こんなに準備していただいて、ありがとうございます……!」
「いやいや、お前たちのその刀の方は本当にただのなまくらじゃからなあ……壊れんうちにもっとまともなものを見繕ってくる」
ヒロとケンジは恐縮しきりだ。
「そこまでお世話していただくのは悪い気がします……」
居心地悪そうにしている二人に、ガープはぶわっはっはと豪快に笑った。
「なあに、友人に振り回される苦労への餞別とでも思っておれ。代わりに何か要求したりはせん」
「……! ありがとうございます……!」
部屋の入り口からふふふと笑う声がした。
道場の師範であるコウシロウとその娘くいながいた。
「すごく怒られてたみたいだね、ルリ」
「く、くいな……」
「あと、ルリのもらった刀、わたしのと少し似てる。ちょっと楽しくなっちゃった」
「そうなんだ、あとで見せて見せて」
言いながらも、状況が目まぐるしくてルリは頭がぐるぐるしていた。
二人が四人の前に茶と菓子を並べていく。
「おお、すまんな。気を遣わんでくれ」
「いえいえ、せっかくですから」
しかし気を遣わんでと言いつつ、せんべいとおかきに目がないガープは早速頬張っており、彼の好物を知る子供たちはこっそり微笑んだ。
その子供たちも久々に味わう和菓子に頬を緩めている。
「……という訳でな、とんでもないお転婆と、たまに一緒に突っ走る悪ガキ共じゃ。かなり苦労をかけると思うが、どうかよろしく頼む」
ガープが頭を下げ、三人は恐縮に震え、くいなとコウシロウは微笑ましさにふふふと柔らかく笑った。
「頭をお上げ下さい。しっかりと、承りました」
コウシロウが言うが、ガープはすんなりとは上げなかった。
「厳しく育ててやってほしい」
そこまでダメ押ししてようやく顔を上げる。
その圧に三人の "悪ガキ" たちは顔を引きつらせる。
「しっかり真面目に鍛錬に励むのじゃぞ!!」
一喝されて悪ガキたちはぴんと背筋を伸ばした。
「「「はい!!」」」
そこで初めて彼はにーっと含みのない不敵な笑顔を浮かべ、すっと腰を上げた。
ヒロとケンジの肩をぽんと叩き、二人にだけ聞こえる声を紡ぐ。
「しっかり手綱を握ってやるんじゃぞ」
一瞬恐縮して、そして二人は苦笑しながらコクリと頷いた。
そのままコウシロウを連れてガープは部屋を出て行った。
三人も子供を預けるのだ、きちんと金銭等を払っておくためである。
やがてコウシロウだけが戻ってきた。ガープはもう帰還するらしい。
忙しい人だものな、とここまで世話をしてくれたことに内心で感謝を送る。
「ヒロ君とケンジ君は、宿舎の二人部屋が空いているけど、そこでいいかな?」
「はい」
特にこだわりのない二人はこくりと頷く。
「ルリも宿舎で生活してるんですか?」
この鉄砲玉の居所は是非把握しておきたい。
「いや、
「!?」
思わずばっとルリを見遣った二人にルリは気圧される。
少し後、話す時間ができた時。
「ルリちゃん?」
「ルリ、君、女の子ってこと?」
ルリはすまし顔で肩をすくめた。
「ブルーベリーが
「くううー!」
ケンジは天を仰ぎ、ヒロは苦く笑った。
「……なあ、海でセイレーンに会ったりしなかったか?」
ヒロをじっと見つめながら言うルリに、ヒロとケンジは顔を見合わせた。
そしてクスクスと笑いだす。
「前にルリがお守りくれただろ? あれが効いてくれたのかもしれない」
にこっと笑ってヒロが首に下げていた小さな巾着を取り出した。
「……成程」
中身は、以前コルボ山で見つけた "いい感じ" の小石に一月ほど様々施して魔除けにした物。
ルリはまだまだ前世のようには作れなかった感覚がしていたが、どうやらちゃんと働いてくれたようだとほっとした。
船旅の疲れや体調を気遣われたが、三人は次の日から早速教えを乞うた。
「ねえやっぱりあれってどう見ても」
「うん」
「西の名探偵君と恋人ちゃんだねえ」
家から道場に通っているという褐色肌の子供に寄り添い、サポートする少女。所謂ケンカップルにしか見えないやりとり。
前世でいう関西弁が特徴的なその二人は、前世と違って彼らと歳が近そうだった。
「でも二人とも、俺たちと違ってルリちゃんと話しても思い出さなかったみたいだねえ」
「ぽいな。人によるのかな。しかし……何か、面白いなあ」
「あは、世界越えてるっぽいのに懐かしい人たちに会えるのって……不思議で、楽しいな」
「はは、そうだねえ」
三人はこう和んだりしつつ、真剣に、一心不乱に修行に取り組んだ。
身体が消耗していたルリはさすがにスロースターターだったが、比較的すぐ調子を取り戻していた。
そのうち、ルリはゾロという少年に頻繁に勝負を仕掛けられるようになった。
「ふふ。ルリまでターゲットになっちゃったね」
「この道場でおれが一本も取れてないのはお前らだけだからな!」
対抗心でギラギラと輝く目にルリは気圧される。
(ゾロにこんな扱い受けるとか……手を抜いて勝負から逃げたい気分だけど……それはダメ、だと思う)
本気で世界一の大剣豪を目指している彼に全力でぶつからないのは、最大級の失礼な気がした。
とある夜。
「2,000対0とかすごすぎじゃん」
「キミだってもう86対0でしょう?」
「ゾロのチャレンジ精神やばすぎ……あたしまで回数どんどん増えてく……」
「がーーー! いつかおれが絶対二人ともに勝つ!!」
「ふふ。そうだね」
「おれたち三人の誰かが世界一の大剣豪になるぞ!!」
「そ、そうだな」
「何だよルリ、ビビってんのか!?」
「うっ、いや! あたしも頑張るぞ!」
クスクスと微笑みながら二人を見るくいな、は。
その日階段から落ちて。
──落ちようとして。
一緒にいたルリに支えられてことなきをえた。
「っ!! ……ご、ごめん、ありがとう……何かふらふらしちゃって」
「いや、多分仕方ない……」
ルリはくいなをコウシロウの元へ連れて行った。
(そっか。ただの不注意とかじゃなかったんだ)
しかし今阻止できたとしてこれからも大丈夫だとは限らない。
ケンジは前世で何度も同じ事態に見舞われたと言っていた。だから、安心し切るのは愚の骨頂だろう。
ただ、くいなが階段を利用するたびいつもいつも側にいられる訳はない。そもそも今回だって確信できていなかった。
助けられない所では落ちないでくれたらいいなあと、ルリは切に願った。