海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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29.月と星空の唄

 ゼロが側にいないとそれ系(・・・)が寄ってくる。

 やはりヒロのその体質は今も健在だったようで、たまに何かがくっついてる。

 

 良くない奴だったらこっそり散らすんだけど、動作をしっかり記憶されてるのかヒロにもケンジにさえも察知されることがあって、たまに彼らは青くなって震えてる。ぴえん。

 

 頻繁に、じゃないのが救いだけど、あのお守りが多少効力発揮してるってことは……うん、考えないことにしよう。

 お守り都度作ってあげよう。もっと強力に作れるようになろう。

 

 毎朝の剣舞はここでも続けてるんだけど、神さんのような気配を感じる方向には水平線が見えるばかり。ここからも見えないかあ……。

 

 雑念を捨てて舞って、ふうっと一息ついてると、何か気配を感じた。

 またこのパターン???

 不自然じゃないふうにそちらを向くと、ばっちり目が合ってしまった。エエ。

 

 なんか頭がでかく見えるのは気のせいなのかな。ちょんまげ結びがながーくなったような髪型をしてる和服のおじいちゃんだった。

 にいっと笑われる。

 

〖お前、道場の人間についてる変なモン(・・・・)、祓ってるだろう〗

 

 ワァ……ヒロのあれだあ……。

 

 それに気付く人には視えてるってバレバレだよなあ……。

 まあこの人は妙な色してないし輪郭ぽやっとしてるし、悪い霊さんではなさそうだけど……。

 

「そう……ですけど……」

〖お節介め〗

「えっ」

 

 ええ、もしかしてこの見た目で悪霊の親玉かなんかなの?

 見た目で安易に警戒解くのはやっぱ得策じゃないのかもなあ。

 

 思わず身構えてるとおじいさんはニヤっと笑った。

 

〖おれに警戒した所で意味はねェ。こう(・・)なってからは何一つできやしねェ。退屈で仕方がない〗

「……こう、なってから」

 

 うーん……とはいえまだ警戒解く気にはならない。けど、退屈で仕方がない状態で在り続けてるっていうのは、どういうことだ。

 こうやって現世(うつしよ)をふらふらしてる霊さんたちは何か目的あって残ってるはず。見守りたいとか守護霊するとか。でなきゃ何もなくて病んじゃう。

 

〖なあクソガキ。良くねェからって片っ端から祓ってたら、憑かれた奴が成長しねェ〗

 

 ……あー。

 一理あるとは思う。

 

 片っ端からと言ってもよく知らない人のを頼まれもせず祓いはしてない。前世でヤな思い出あるからね。

 ……忠告したくなるくらいヒロの頻度が高いってことだね(遠い目)。

 

「本人が気づかない内に払っちゃったら、なんで憑かれたか自覚できないから、ですか」

 

 世の中にはヒロみたいに、何もしてなくても魂に惹かれて憑かれる人間もいるけども。

 

 軽微でも障りがあれば、目に見えないもの信じて無かろうと「◯◯のせいかもね~笑」なんて、何となく今後改める人はいると思う。

 

 おじいさんは答えることなくふいっと海の方を向いた。

 うっ。

 まあ、こういうのはやる人間の意思による部分もあるから、危うい部分はきちんと指摘して、あとは自分で決めろってことなんだろう。

 

 ひとつの可能性が頭に浮かぶ。

 

「おじいさん、どこか遠くに危なっかしい教え子がいらっしゃったりしませんか? 行方不明とか」

 

 おじいさんは海を見たまま答えてくれない。

 ぐぬぬ。

 

〖……宇楽(うがく)一文字。そいつは不真面目な刀でな、海楼石の象嵌のせいで斬れ味が鈍っとる。切っ先のしなりが普通と違う訳よ。あいつはあまり抜かずに兜金の海楼石で殴っとったが〗

 

 ……うえ?

 

 ぽかんとしてるとおじいさんが振り向いた。

 

〖そいつだ。おれが打った刀だ〗

「ええ!?」

 

 おじいさんが指差したのは、ガープさんが持ってきてくれたじいちゃんの刀。

 受け取ってからはこれで剣舞を捧げてる。

 

「これ……じいちゃんの刀だって聞いてます」

 

 思わず、鞘ごと腰から外してじいっと見つめていると。

 おじいさんが大きく笑い出してびくっとした。

 

〖そうか孫か、どおりで〗

 

 にまっとこちらを見ながらおじいさんはまた笑う。

 

「ど、どういう……」

 

 たじたじしてると、おじいさんはふっと小さく息を吐くような笑いをこぼす。

 

〖クソガキ、名を何と言う〗

「ヤシロ・ルリ、です」

 

 おじいさんはにいと笑う。

 

〖どこに行ったか分からん教え子、な……あいつがそうといえばそうかもしれん〗

 

 う、うええ……?

 

〖ヤシロ・ムラサキ。出国ついでに霜月の名をやろうとしたら、頑として断られてな。『夜に在る白』として、月だけ押し付けた〗

「!!?」

 

 え、えぇえ!?

 何かひょんなことで自分のルーツを知ってしまった……?

 目眩がする。

 確かに前世で『夜白』だったけれども。

 

 てか、『出国』。

 ……ワノ国?

 ……ひえッ。

 シモツキ……そーじゃん、この村なんかそんな話あったような……。

 

 狼狽える様子が面白かったのかおじいさんがまた呵々と笑ってる……。

 けどそれはぴたっとやんだ。

 

〖……何故、教え子だなんだと推測した?〗

「……ええと」

 

 混乱から抜け出そうと努めながらなんとか答える。

 

「普通、することがない人はこの世に留まらないはずです。それから……見ず知らずの子供にさえ大事なことを教えようとしてくれました。そういう気質なら、って」

 

 おじいさんは少しだけ間を置いてまた大笑いし始めた。

 なんかよく笑う人だな。好きだけど。

 

「まあ、じいちゃんがそれなんだとしても、可能性のひとつでしかないんでしょうけどね」

 

 てかもし原因だったんなら、母さんに心配かけるだけでなく先生にまでとか、じいちゃんのイメージがヤバイ奴になってしまう。

 ……けど、ガープさんたちの剣幕からしてお前が言うなとかそっくりとか言われそうな……(震え)。

 

〖それを孫が持ってんだ。あいつもくたばったんだろう〗

 

 おじいさんは少し切なそうな気がした。

 

「それが、分かんないんです。話きいたことなくて」

〖……そうか〗

 

 ちゃんと聞いておくんだったな。

 

「手紙で、じいちゃんの刀もらったんだけどとか言って、色々聞いてみようかな……」

 

 するりと鞘から抜いて、刀身を眺める。

 象嵌の話が気になった。

 

「あたし悪魔の実の能力者なんです。だからこの兜金に嵌ってる石触るとポンコツになります」

 

 言うとおじいさんは噴き出した。

 

「さっきのお話からすると、先の方のこの模様も、この石なんですか?」

〖ああ。だから刺されてもポンコツになるだろうな〗

「こんな模様にまで使わてれるとか……先が思いやられます……」

 

 おじいさんはまた笑う。

 

〖言っただろう、不真面目な刀だってな。普通切れ味を損なう可能性のある彫り物なんざ、刀身には入れねェよ。

 ……こんな『殺す』より『捕らえる』ことに重点を置くようなモノ、本来は刀と呼びたくもねェ〗

 

 ヒッ。

 何か圧を感じる。

 

〖だが癖を掴めば『刀』になれんこともない。お前は果たしてこいつを服従させられるかね〗

 

 ニィっとおじいさんは不敵に笑った。

 

 じいっと、海楼石の象嵌を見つめる。アルファベットの O みたいなのを流水のような線が貫いてる。……なんか音符に見えてきた。

 あれ。だから『宇楽(うがく)一文字』なのか? 鍔は星だし。

 夜空の系統は『霜月』からの諸々として……じいちゃんも音楽好きだったのかな。

 

 しかし、海楼石ってダイヤより硬いし加工も難しいって話じゃなかったっけ。どうやったら象嵌なんてできるんだろう。

 

 聞こうとしたらもうおじいさんいなかった。

 おぉん。

 また出てきてくれるかなあ。








✦宇楽一文字
【挿絵表示】
 画像は鍔と剣先の海楼石象嵌。
 コナン映画27作目に出て来る星稜刀にそっくり。
 この世界の刀にしてはチャラい見た目かもしれない。
 今は『不真面目』ゆえに序列にもありませんが、オリ主は木刀ででも斬るし覇気もあるしで今後どうなるか分かりません。
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