海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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32.孵りは喰らい

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 ── ちょっと通して下しゃんせ

    御用の無いもの通しゃせぬ ...

 

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 肝試しに一緒に行ったという子供たちの大半が家に篭りきりになっているらしい。

 無理もない。

 こうなるといよいよ街の子たちには接触できない。

 

 ……もどかしい。

 

 モズ君の遺体には悪縁の残り香はあったけど、彼の魂の痕跡がなかった。いなくなるには早すぎる。

 肝試しが関係してるのはほぼほぼ確実。

 その上で魂どっかに持ってかれてる可能性が高い。

 

 モズ君以外にも障るのかは不明にしろ、他の肝試しメンバーもまだ安全とは言い切れない訳だ。

 

 自分が視た子供たちには命に係わりそうな強い悪縁は繋がってなかった。だからヤバイとしたら街の子の方。

 もしこっちのみんなの薄い悪縁を切ったら、強いのがくっついてる人にますます絡まる可能性がある。

 

 ……普通自分は心霊スポットとか行かない。見ず知らずの人間のためとか尚更だ。

 正式な依頼でもなければ絶対に近づかない。

 けど情報が足りない。

 

 村の子たちは最早見ず知らずとは言えない。

 自分が年食ってようと、子供と遊ぶってのは、いつの間にかこっちも楽しくなってるものだよな。ケンジとヒロとか子供好きだから尚更だろう。

 そうやってみんなでわいわいしてもう長い。

 ほっとくとかあり得んのだ。

 

「……ルリ」

 

 ピリピリしてるとヒロが少し怖い顔で声を掛けてきた。

 

「君のことだから何かする気だろう」

 

 ……。

 ふっと笑う。

 

「まあな。友達のためにできることをするのは当然だろ」

 

 何故かちょっと表情をくしゃっとするヒロ。

 

「君はそうやっていつも……」

「人の事言えないだろ」

「え?」

 

 ヒロがゼロを始めとした親しい人を守るために自決した原作を知っている。

 今だって多分彼のメンタルはあの頃とそう変わらない。

 

「……こーあんなんて、国のために自分を押し殺した奴ばっかだ」

「っ!」

 

 そもそも配属された時点で過去の自分との繋がりが全て絶たれるんだから。

 

 固まってるヒロにニィッと笑ってみせる。

 

「でもまあ、無茶するなって散々言われてるし、何をやろうとしてるかは白状しておくよ」

「……!」

 

 何も言わずに特攻するから怒られるんだよな。

 たとえ、誰も手伝ったりできないとしても。

 

 今は準備中だ。

 島の植生を調べた。その上で。

 トウテンの、赤い実を付けた葉の綺麗な枝をひとつ。

 白いキヨサゴユリをたくさん。

 それらを調達する目処をつけて、自分と装束と刀を井戸水で毎夜清める。

 

「お前もケンジも着いてくるって言いそうだけど、同じ禊ぎをしたとしても、纏わり付かれるよ」

 

 ひゅっとヒロの喉が鳴った。

 

「そのお守りは、」

 

 ヒロが服の下に首から下げてる巾着を指す。

 

「お前を霊さんたちからできるだけ隠すためのものだけど、自分から関わりに行くならただの石コロ」

「……うぅ……」

 

 俯いてしょんぼりするヒロ。

 ふっと笑う。

 

「だからな、ここだけは一人で行かせてくれ。お前たちができそうなことあったらちゃんと頼むから」

 

 過去のことが分からないなら、過去の人に聞けばいい。

 

「ひとまず今晩、村の墓場にお参りに行く。情報収集だよ。帰ったら全部報告する」

 

 ぽかーんとした感じにこっちを見つめてたヒロだけど(それだけ一人で突っ走って来たってことハハハ)、ぱあっと表情を輝かせて、

 

「っうん!」

 

 こくこく頷いた。

 

「絶対だからな!」

「わーってるよ」

 

 いつになく押しが強いヒロに、そして周りに散々心配かけてきてる自分にも苦笑した。

 

 日が落ちて。

 清めた諸々を身に着けて、赤いトウテンと野の白ユリを手折り、それらも井戸水で清めて、墓場に向かった。

 

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 トウテンをゆらりと振りながら、小さく唄を歌う。綺麗だと自分が思う歌を。

 さくらとかの童謡やお謡の歌を使うことが多いけど、何となく今はウタの『世界のつづき』を選ぶ。

 

 墓場の入り口に着く。

 深くお辞儀をする。

 祝詞を唱える。

 深くお辞儀をする。

 左足から入り口を潜る。

 

 再び『世界のつづき』を小さく口ずさみながら、トウテンの枝をゆっくり振って進む。

 

 その内に。

 

 くすくすと笑う声がぼんやり聞こえる。

 

〖そんなガチガチに畏まってどうしたの。初めて見た〗

 

 髪の長い女性が墓石の上に座ってる。

 

 ペコリとお辞儀をした。

 

「自分は侵入者ですから、礼を欠く訳にはいきません」

 

 顔を上げると、ひょこひょこと墓石や卒塔婆の陰から顔を出す子供たちがいた。

 

〖堅苦しいなあ。……ま、ヤな奴にはお仕置きしてるけどさ〗

 

 きゃいきゃい子供たちが笑ってる。

 ヒトにお仕置きできる系の霊さんなのね。

 

「数日前の夜中に来た子供たちは、何か粗相をしませんでしたか」

 

 あは、と女性は笑った。

 色々聞いたら、ここでの粗相はなく悪いモノも感じなかったそう。

 肝試しメンバーがこの墓地を訪れたのは三ヶ所目。

 だから、現場は 海岸の洞窟 な可能性が高まった。

 

〖洞窟、ねえ……〗

 

 女性も真剣に考え込んでくれている。

 子供の霊さんたちは人死にが出てることが怖かったのか、顔を引っ込めてしまった。

 

〖そうそう。あなた、この村の歴史を知ってる?〗

 

 ふと彼女は顔を上げてそう聞いた。

 

「ワノ国に関係あるのかな、くらいしか知らないです」

〖ふうん。成程ねえ〗

 

 成程とは。

 やっぱり洞窟で過去に何かあったのかなあ。

 

〖ワノ国を出た連中の一部がこの島に来たときにはね、〗

 

 女性は苦そうに笑った。

 

〖盗賊が暴れてたのよ〗

 

 ふと例の五十六皇殺し大将緋熊が思い浮かんでしまう。……あれは山賊だし流れが台無しだ。

 

〖そいつら、大狼(おおがみ)一座とか名乗ってた気がする〗

「……オオガミ」

〖そ。大きい狼。狼の頭の毛皮被ったり、色々と刺青してたみたい〗

「!」

〖さっき言ってたよね、死んじゃった子に狼のマークついてたって〗

「えぇ、関係ありそうですね……」

〖だよねえ〗

 

 うーん、と女性は真剣な顔で唸る。

 

〖そいつらが洞窟に関係あるかは分からないけど、人攫いが酷かったみたいよ。……特に子供のね〗

「……ぐ」

 

 胸糞案件確定のお知らせ……。

 

〖……(わらし)

 

 後ろから別の声が聞こえて内心飛び上がる。

 振り返ると細身ながら精悍な男性がいた。

 彼は墓石に座る女性のいる方向へすーっと移動した。

 

〖恐らく、大狼の奴らが攫った人間を囲っていたのがその洞窟だ〗

 

 ……そりゃ酷い場所だ。

 

 女性はひゅうっと口笛を吹いた。

 

〖さすが年長者。よく知ってるね〗

〖お前とそう変わらない〗

 

 ええ〜? と女性は口を尖らせた。

 

〖しかし……悪霊と言うなら大狼のことだろう〗

 

 んん。首を傾げる。

 

〖ワノ国の侍たちが討伐に動いた時、奴らはそこに立てこもった。……攫った人々と一緒にな〗

「……!!」

 

 自分も女性も瞠目した。

 

〖どうにか交渉しようとしたがままならず、止むなく眠り玉を投げ込んだ〗

 

 おっ、これは助かる流れ……?

 

〖侍たちが突入し生存者は救出したものの、中は酷いものだったらしい〗

 

 ……ひえ。

 

〖更に大狼の頭領が目を覚まし、自爆した。奴の手下と、幾人かは巻き込まれた〗

「……何てこと……」

 

 思わず呟く。

 

〖その跡に踏み込めば二次災害は必至……弔いの経をあげながら巨石を墓石として封印し、鎮魂塔を建てた。それが『悪霊を封じた海岸の洞窟』だ〗

 

 うぅうううわぁああ!!

 ムクとへーじ君が心配すぎる!!

 

〖どうしたの頭抱えて〗

「うちの道場の門下生が頼まれてその巨石を壊そうとしたようです。壊れなかったみたいですが……」

〖……ワーオ〗

〖……ふむ〗

 

 でもあの二人にはそうヤバイ悪縁憑いてなかったけどなあ……。

 ……考えたくないけど自分の『眼』が節穴の可能性ある?

 

〖童〗

「は、はい……」

 

 消沈で返事がナヨい。すんません……。

 

〖こいつを連れて行け〗

 

 男性はふっと左腕を──鳥を停まらせるような感じに上げた。

 ほんとに鷹が現れた。白い。

 

 え、うわ、霊格高い子だ。

 ……てか、連れて行けって仰った???

 

〖お前なら手懐けられるだろう〗

「え」

 

 男性はにっと笑うだけだった。ウゥ。

 そしてふいっとこちらに向けてその子を放つ。

 慌てて手を伸ばすと素直に停まってくれた。か、可愛い……。

 

〖名を、(サク)と言う〗

 

 彼はふわっと笑った。

 

〖可愛がってやってくれ。せいぜい嫌われないようにな〗

「うぅっ……よ、よろしく、朔さん」

 

 ふいっと顔を逸らされた。何と!?

 

「さ、朔君」

 

 男の子なのは分かる。

 でもこっち向いてくれない。うぐ。

 

「……朔」

〖キュゥ〗

 

 こっち向いてくれた。

 

「おお……人懐っこいんだな君、可愛い」

 

 初っ端から呼び捨て要望とは。

 男性が呵々と笑った。

 

〖狩りならこいつ程役に立つ奴は居ない〗

 

 ふっと、女性も、いつの間にか子供たちも、一緒にふわっと笑った。

 

〖子供たちをお願いね〗

 

 誰の声だったか分からない。皆のだったのかもしれない。

 すうぅ、と皆いなくなった。

 

 深く、深く、頭を下げる。

 

「ありがとうございました」

 

 白ユリを、女性が座っていた墓石と、子供たちがいた場所、男性が立ってた所にお供えする。

 

 そしてまた、お辞儀をする。

 

 来たときと同じようにトウテンを振り『世界のつづき』を口ずさみながら、右足から墓地をあとにした。

 

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 ──    の  の   に

      を納めに参ります ...

 

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