海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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33.コワイ

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 ── 行きは良い良い

    帰りは怖い ...

 

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 結構遅い時間になるのは明白だったから寝てろっつったんだけど、案の定ヒロもケンジも起きてた。そろそろ明るくなり始めてもいい頃だぞ。

 お前らを布団に突っ込むために宿舎に乗り込むぞって脅して追い掛けたら「ひっ」て帰った。

 さすがに女の子かもしれない奴を部屋に入れる気は起きなかったらしい。

 おかげでちょこっと寝れた。

 

 朝食の席で早々に二人がそわそわしながら寄って来る。

 見回すと……ぐえっ! ムクとへーじ君の悪縁が少し濃い。

 他の子も心配だけど自分に遠視の能力はない。

 

 へーじ君とムクをじーっと観察しながら朝食もそもそしつつ、ヒロとケンジにひそひそ一部始終を話す。

 

「……! 絶対めちゃくちゃやべぇじゃねえかそこ」

 

 内心はどうあれひそひそを崩さないケンジは、さすがの元警察官。

 

「でも何でそんな危ないことがしっかり伝わってないんだろう」

 

 ヒロが首を傾げてる。

 

「伝えないことで人目につかないようにした、封印条件に人払いが含まれていた、色々考えられるけど……ワノ国の侍って、ものすごく高潔なんだよ。日本のをイメージしてくれたらだいたい合ってる」

 

 ふむ、と二人は相槌を打つ。

 

「だから後世に功績を伝えようとしなかった、あるいは現地の人に不利益な情報があってそれごと隠した、とか、可能性は色々考えられる」

「成程ねえ……」

 

 緩く握った指を顎に当てて思案げにするケンジ。

 

「……でな。今晩その大狼(おおがみ)一座の怨霊を殲滅しに行く」

「!!」

「今のお前たちなら気配で斬れる。刀はあたしのと一緒に勝手に清めておいた」

 

 道場の同じとこに仕舞う物だから毎夜ついでにやってた。

 一人特攻ダメ絶対。

 

「出発前に井戸で水浴びといて」

「りょーかい」

 

 ケンジが何を躊躇うこともなくサクっと了解したのに少し驚く。

 ……今までいろいろあったせいですか(良心が痛い)。

 

「な、何で夜なんだ?」

 

 ヒロは少し腰が引けてる。これまでの経験が経験だもんね。

 

「悪い()が活発になるのは夜中だからね。明るいうちに仕掛けると形になっ(起き)てない奴を取り逃がす」

「そっか……」

「ま、って訳で、夜までは気休めに精神統一図るか、睡眠時間取り戻すか、しっかり食べて飲んで休んで備えるくらいしかやることないよ」

「分かった」

「りょーかい」

 

 しかし午後の鍛錬終了間際、今度はつぐみが道場に駆け込んできた。

 

「へーじ君! へーじ君! へーじ君……!」

 

 つぐみはそう繰り返しながらへーじ君にしがみつくばかり。

 道場のみんなは大人も子供も皆びっくりして固まってる。

 

 何が起きた……。

 緊張しながら様子をうかがうと……げ。

 ムクとへーじ君の悪縁が更に濃くなってた。

 

「……へーじ……ハイノも、死んでもた……」

 

 いつの間にか戸口に立ってたカズハちゃんが呆然と言うと、つぐみは今度はカズハちゃんにすがりついて大泣きした。

 

「ごべんねえ! ごべ、ごめ……うわあぁあん、カズハちゃああん!」

 

 また誰か、死んだのか。

 ギリ、と拳を握りしめる。

 

「……うわ!」

 

 ムクの声がしてバッとそちらを向くと、彼は手の甲の下を見て青くなってた。

 まさか。

 走り寄って手を掴んで確認する。

 

 やはり薄っすらあの狼のマークが浮かんでる。

 へーじ君にも同じことをする。……ある。

 つぐみとカズハちゃんには、ない。

 

 怨霊が動くのは夜中。

 今何か報告があがるものは、昨晩以前の出来事になる。

 

 ……ムクとへーじ君にほぼ同時に変化があったってことは……。

 

「な、何やルリ」

 

 へーじ君の様子もさすがに少しぎこちない。

 

「コウシロウ先生、すみません早退します。

 くいな、ゾロ、ヒロ、ケンジ、手伝って。

 ムク、へーじ君、つぐみ、カズハちゃん、みんなでトウヤの家行くよ」

「ハァ?」

 

 ゾロの顔に「なんでおれまで?!」って書いてある。

 

「強い奴が必要なんだ」

 

 言うと彼は一瞬きょとりとして、

 

「……おう」

 

 目を逸らしながら頷いた。照れてる? 可愛い。

 

 ぞろぞろと連れ立って走る。

 トウヤは自室で震えてて、「たくさんお友達が来てくれたわよ」とお母さんになだめられた。

 

「助かるために皆集めたんだ。話を聞いてほしい」

 

 そして一連のことを説明する。

 皆難しい顔して考えてる。

 

「ときにカズハちゃん」

「う、うん……?」

「洞窟で皆はなにをやったの」

「……っ!」

 

 しかし反応したのはつぐみだった。

 

「ごめんなさいごめんなさい!! 私が、くだらない理由で皆を肝試しに誘ったの!!」

 

 うん?

 

「街の友達も誘ったら人数増えるから、怖がりのカズハちゃんでも来てくれるかなって……そしたら絶対へーじ君も来てくれるって……うぅ」

 

 ……。

 これは痴情のもつれってやつですね。

 

「怖いことが起きればへーじ君に抱き着けるって思ったの……でも、何も起こらなかったから、最後の洞窟で、街の……モズとハイノにね、お願いしたの……っ」

 

 ……うわ、やばそうな気しかしない。

 

「二人にいかにも何かありますよって感じしてた石碑を蹴っ飛ばしてもらって、キャーって抱き着いたでしょ、あれは、そういうこと……」

 

 当時カズハちゃんがぷんぷんに怒ったことが想像されるけど、今のカズハちゃんは気遣わし気につぐみを見ていた。

 

「そしたらモズとハイノ、もっと何かしてあげようって思ったのかな、ムク君とへーじ君に、『お前ら剣士なら入り口の岩壊せるよな?』って頼んで……」

「……あれは頼んだんやあれへん、挑発や」

「ふえ……」

 

 つぐみはへーじ君の機嫌が悪いからかさめざめと泣き始めた。

 大丈夫よ多分彼のこの機嫌の悪さは挑発されたことへのものだろう。

 

「うん、なんか色々分かった気がするよ。話してくれてありがとう、つぐみ」

「……ううっ」

 

 彼女はわぁあんと大きく泣き出した。

 ……吐き出した安堵からの涙だったらいいけれど。

 

「肝試しメンバーはここにいる以外にもいる?」

「うん、あと二人街の子がおったよ」

「……そっかぁ」

 

 天を仰ぐ。手が届かないんだってば。

 

「ねえ、へーじ君、ムク、その手の印、なんか変な感じする?」

「変な感じも何も……あること自体が変や……こいつ急に出てきたで」

 

 とても気色悪そうなへーじ君。

 

「えっとさ……気のせいかもしれないけど、なんか、ずっと……海に行きたい、んだ」

 

 ムクが青褪めながら言った。

 

「……成程ね。拉致して運んだんじゃなく、暗示だか憑依だかで行くよう仕向けてた訳だ」

 

 フンッとゾロが鼻を鳴らした。

 

「なんかずっと非現実的な話してるよな」

 

 ふっとこっちが笑う。

 

「そうだね。非現実的な物でさえ斬る修行ができる機会だよ。まあもしかしたら実体持って出て来るかもしれないけど」

「……?」

「まあ、ついて来るだけついてきてよ。斬れないんだったら帰っていいから」

「!! ばかいえ! おれは何でも斬ってみせる!!!」

 

 そう来なくっちゃ。

 

「……お前も挑発しよるなぁ……」

 

 へーじ君がジト目で見て来るけど、非現実的なもの信じない人にこれ系のお願いするのはなかなか難しいんだぞ?

 

「んで、だ。何でも斬る修行したくない人はこの部屋から出ないで。絶対終わらせて来るから。

 斬ってくれる人は外で待ってて。暗くなってからになるからご飯食べてきても大丈夫。あ、それと、刀井戸水で洗っといて」

 

 皆素直に従ってくれた。

 ここに残ったのは、カズハちゃん、つぐみ、トウヤ。

 道場の皆は全員戦ってくれる気らしい。心強いね。

 

 籠城することになるから食料などを持ち込んでもらった。

 

 部屋の四隅に粗塩を盛り、出入り口に結界を張るために刀を握る。

 三人は少し身構えた。

 

「窓の反対側にいて」

「う、うん……!」

 

 皆が離れたのを確認して、すうっと一つ息を吸う。

 

 窓の前で重心を落とす。

 

 溜めて、溜めて。

 

 居合斬りからの返し数本で領域を敷いて結ぶ。

 

 残心、納刀。

 

「……ルリちゃんの剣、ほんと綺麗やなぁ……」

 

 カズハちゃんがほうっとした感じに言う。

 

「よく言われる。これじいちゃんの刀なんだって」

「そっちやのうて! なんかこう……刀の振り方っちゅうか……」

 

 お、おう……。

 

「そうそう、へーじが言うとったで、ルリちゃんの刀全然ブレへんって!」

 

 ブレない。ふううむ……。

 ……舞いのおかげな気がする。

 あれは『斬る』っていう行為を現わさなきゃいけないから、『形』を執拗に高めなきゃいけない。ブレたら美しくないからその分効力が落ちる。

 

「って、皆を外で待たせてるんだった。よく分かんないけどありがと。入り口も外から封じるから、あたしがあたしの手で開けに来るまで、扉も窓も、どんなことがあっても中から開けるなよ。家族や友達の声がしてもだ」

「う、うん……!」

「絶対だめだからね」

「わ、わかった!」

 

 ダメ押しすると三人はこくこく頷いた。

 にこっと笑っておく。

 

「じゃ、行ってくるよ」

 

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 太陽が水平線に溶けていく。

 

「遅いぞルリ」

 

 ゾロがむすっとしてる。

 

「守るべき人たちのお家に厳重に鍵かけてただけだよ」

「守るべき……」

 

 ゾロがなんかしみじみ考え込んでいる。

 くいながその様子を見てふふっと笑ってた。

 二人がこうして並んでるの尊いな(ミーハー)。

 

 そして我々七人は討ち入りのような雰囲気で 海岸の洞窟 を目指した。

 ムクとへーじ君は行ったことがあるから迷うこともない。

 

 現着。

 

「あぁ……」

 

 原位置を保っていないのが明白な大小の岩、石。それぞれの剥離面はどれも新しい。

 

「鎮魂塔だったものだ。全文を復元するのは今は面倒だけど……ほらこれ」

「……!」

 

 覗き込んだ皆が息を飲み、ムクとへーじ君の手首に浮いた狼のマークに視線が集中する。

 

「これそのものだねえ」

 

 ケンジが眉間にしわを寄せていた。

 

 ヘージ君がふるふるとその腕を振り始めて、皆は一歩引く。

 

「んあー! 俺も引っ張られとる気ぃする! 気色悪い!」

 

 海が近いからか、悪縁が強まったか……。早く奴ら(・・)が出てくるといいんだけど。

 

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 ── 怖いながらも 通りゃんせ

    通りゃんせ ...

 

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許さんぞ、ワノ国の侍どもォォオオオ!!!

 

 おどろおどろしいがなり声が響いて、地面が揺れた。







登場人物紹介絵を復活させました。

生成AIは意地でも使いません。
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