鎮魂塔や封印の岩の残骸のせいで足場が悪い。そもそもが岩場、加えて姿の視えない敵。
ゾロとくいなは背中を預け合いながら、集中して気配を探る。
その研ぎ澄まされた感覚が、浜の方で大きな力の流れが発生したのを捉えた。
横目に見ると、縄と砂が暴れている。
ゾロはハッと笑った。
「悪魔の実の能力ってのは、随分大掛かりだな」
そしてキッと表情を引き締める。
「こっちだって負けてらんねェ……おいみんな、ちょっと退がれ!」
全員ゾロの声に反射的に従った。。
(言葉が調子を整える、ね……)
その昔、ゾロが村のジジイに『いらねー』と切り捨てた言葉。それを口にするムクに続いて、浜の子供たちは何やら叫び始めた。
その結果がこれだというなら。
やりたいことを思うと同時に、薄っすら浮かぶ言葉。
「──“
退避する皆とすれ違うようにして踏み込み──
「“巻き”!!!」
回転する二つの剣圧によって、文字通り竜巻が吹きあがった。
視えないが恐らく
「ハッ、小せェ気配がなくなった……あとはデカブツだけだ」
利き腕の刀を突きつけるように掲げるゾロに、残るは大ボスのみと察知する面々が猛りの声を上げて突撃する。
「ゾロ、今のいいね!」
走りながら称えるくいなに、ゾロは照れを内心に押し隠し、
「言葉にするのも、悪くねェ」
ぶっきらぼうに呟く。
ふふっとくいなは笑った。
巨大な一個に全員で畳み掛ける。
示し合わせたように次々とテンポよく斬り掛かる。何の打ち合わせをせずとも発揮された連携は、常日頃一緒に汗水垂らす仲のためか。
その一体感が心地良かった。
しかし。
「……イマイチ手応えがねェな」
「そうだねえ。全然弱らせられてる気がしない」
ぽそりと呟いたゾロにコウシロウが同意する。
仲間と共に斬り掛かりながらゾロは思案する。
この状況をよく知っていそうな人間には心当たりがあった。
「ルリィ! お前こいつが視えてんだろ!」
襲い来る化け物を刀で斬り払って、彼女はゾロを振り返る。
「真っ赤っ赤に怒り狂ってるよ」
さらっと言うルリ。
「攻撃が効いてる気がしねぇ。知ってることあったら言え」
「んー……」
目を凝らすルリ。
「……うん。気合いが足りん!」
「ハァ!? 舐めてんのか!?」
状況に対しても、自分たちに対しても。
「違う違う。気合いが足りなかったのはあたし!」
言いながらルリは、猛スピードで食らいついてきた骸骨犬数匹を、一刀のもとに斬り捨てる。
「ちょっと離脱!」
「おっけー!」
ケンジが頷いて、ルリが走り寄ってきた。
いつの間にか手に赤い実をつけた枝が握られている。
「たかあまはらにましまして...」
ルリは何事か呟きながらサラり、サラり、と枝を振った。
「ひふみよいむなやことの...」
胡散臭さに眉をひそめていたゾロは、しかし気づく。
「これは……」
そう呟いたのは誰だったろう。
──澄んでいく。
どこまでも、澄んでいく。
そして──
「たちどころにはらいきよめたまい...」
──何かが自分の肩に降りてくる。
「!」
「...かしこみかしこみもおす」
シャッと枝が振られた。
「……うん、相性いいみたいだね」
「これは……夢か何かか」
道場の誰かが呟いた。
ここに巨大な鬼がいた。
赤い黒いモヤをまとい、狼の頭を半ば被って、額から角を生やす鬼が。
── るおぉおおおん!!!
この空気の揺れは咆哮だったらしい。
一同、チャキリ、と刀を構える。
「哈ァ──ッ!」
その直感で再び、驚異的な連携で肉薄する道場の友柄。
「──“
上段に構えたくいなが、
「“
鋭く一閃振り下ろし、
「“鬼”」
ゾロは二本の刀を右上方に振りかぶり、
「“斬り”!!!」
一息に袈裟斬りにする。
今まで以上の手応えはあった。しかし血が吹き上がるようなことはない。
それでも相手はよろめいて、苦悶の唸りをあげている。
このまま畳み掛ける!!!
一同更に奮起し、猛攻を繰り返し──
やがて、赤黒い鬼はよろよろと頽れながら、霧が晴れるように拡散していく。
浜を埋めるほどだった化け物どもも、もう新手が海から這い出してくる様子はなかった。
── 許さん、許さんぞ、侍どもォ……おれは、おれたちはァ……
「ハイ、いい加減、終わっとけ」
シャアァン
軽薄な声とともに振り抜かれたルリの一閃は、刀のものとは思えない、鈴のような音がした……ような気がした。
今度こそ、 洞窟の悪霊 が霧散する。
「……お前いったい何なんだ」
ゾロの口から勝手に言葉がこぼれる。
「うん? ロプロプの実の能力者だよ?」
ケロリと答えるルリ。
「縄が関係あるようには見えねェ」
「えー、想像力だよ想像力!」
「あぁ?」
「うっわ怖い顔すんなって、これ以上は企業秘密だ」
「……訳の分からないことばかり……面貸せよ、5,286戦目だ。ちゃんと悪魔の実の能力使いやがれ」
「はあ? やだよ。あたしはゾロに『刀』で勝つんだから」
「……! そうかよ」
それが『対等』なのかは分からないが、ゾロは、『刀』一本にこだわる彼女の姿勢は嫌いじゃなかった。
そんな二人の様子をくすくす眺めていたくいなに、
「おい、何ひとごとみたいな顔してる。くいなも9,237戦目だ」
「えー、ちょっと休もうよ二人とも。ふふ、でも──」
くいなは凛とした笑みを浮かべた。
「もうすぐわたしの一万勝記念だね」
「何だと!?」
あははと笑う親友達に、絶対勝つとゾロは息巻いた。
✦祝詞
ゾロたちの波長を付近の龍脈のそれに近づけました。