海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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36.岩場の戦い

 鎮魂塔や封印の岩の残骸のせいで足場が悪い。そもそもが岩場、加えて姿の視えない敵。

 

 ゾロとくいなは背中を預け合いながら、集中して気配を探る。

 

 その研ぎ澄まされた感覚が、浜の方で大きな力の流れが発生したのを捉えた。

 

 横目に見ると、縄と砂が暴れている。

 

 ゾロはハッと笑った。

 

「悪魔の実の能力ってのは、随分大掛かりだな」

 

 そしてキッと表情を引き締める。

 

「こっちだって負けてらんねェ……おいみんな、ちょっと退がれ!」

 

 全員ゾロの声に反射的に従った。。

 

(言葉が調子を整える、ね……)

 

 その昔、ゾロが村のジジイに『いらねー』と切り捨てた言葉。それを口にするムクに続いて、浜の子供たちは何やら叫び始めた。

 その結果がこれだというなら。

 

 やりたいことを思うと同時に、薄っすら浮かぶ言葉。

 

「──(たつ)

 

 退避する皆とすれ違うようにして踏み込み──

 

“巻き”!!!

 

 回転する二つの剣圧によって、文字通り竜巻が吹きあがった。

 視えないが恐らく斬れている(・・・・・)

 

「ハッ、小せェ気配がなくなった……あとはデカブツだけだ」

 

 利き腕の刀を突きつけるように掲げるゾロに、残るは大ボスのみと察知する面々が猛りの声を上げて突撃する。

 

「ゾロ、今のいいね!」

 

 走りながら称えるくいなに、ゾロは照れを内心に押し隠し、

 

「言葉にするのも、悪くねェ」

 

 ぶっきらぼうに呟く。

 ふふっとくいなは笑った。

 

 巨大な一個に全員で畳み掛ける。

 示し合わせたように次々とテンポよく斬り掛かる。何の打ち合わせをせずとも発揮された連携は、常日頃一緒に汗水垂らす仲のためか。

 

 その一体感が心地良かった。

 

 しかし。

 

「……イマイチ手応えがねェな」

「そうだねえ。全然弱らせられてる気がしない」

 

 ぽそりと呟いたゾロにコウシロウが同意する。

 

 仲間と共に斬り掛かりながらゾロは思案する。

 

 この状況をよく知っていそうな人間には心当たりがあった。

 

「ルリィ! お前こいつが視えてんだろ!」

 

 襲い来る化け物を刀で斬り払って、彼女はゾロを振り返る。

 

「真っ赤っ赤に怒り狂ってるよ」

 

 さらっと言うルリ。

 

「攻撃が効いてる気がしねぇ。知ってることあったら言え」

「んー……」

 

 目を凝らすルリ。

 

「……うん。気合いが足りん!」

「ハァ!? 舐めてんのか!?」

 

 状況に対しても、自分たちに対しても。

 

「違う違う。気合いが足りなかったのはあたし!」

 

 言いながらルリは、猛スピードで食らいついてきた骸骨犬数匹を、一刀のもとに斬り捨てる。

 

「ちょっと離脱!」

「おっけー!」

 

 ケンジが頷いて、ルリが走り寄ってきた。

 いつの間にか手に赤い実をつけた枝が握られている。

 

たかあまはらにましまして...

 

 ルリは何事か呟きながらサラり、サラり、と枝を振った。

 

ひふみよいむなやことの...

 

 胡散臭さに眉をひそめていたゾロは、しかし気づく。

 

「これは……」

 

 そう呟いたのは誰だったろう。

 

 ──澄んでいく。

 どこまでも、澄んでいく。

 

 そして──

 

たちどころにはらいきよめたまい...

 

 ──何かが自分の肩に降りてくる。

 

「!」

 

 視えた(・・・)

 

...かしこみかしこみもおす

 

 シャッと枝が振られた。

 

「……うん、相性いいみたいだね」

「これは……夢か何かか」

 

 道場の誰かが呟いた。

 

 ここに巨大な鬼がいた。

 

 赤い黒いモヤをまとい、狼の頭を半ば被って、額から角を生やす鬼が。

 

 ── るおぉおおおん!!!

 

 この空気の揺れは咆哮だったらしい。

 一同、チャキリ、と刀を構える。

 

「哈ァ──ッ!」

 

 今なら届く(・・・・・)

 

 その直感で再び、驚異的な連携で肉薄する道場の友柄。

 

「──瑕疵は(かしわ)

 

 上段に構えたくいなが、

 

(もち)”!!!

 

 鋭く一閃振り下ろし、

 

“鬼”

 

 ゾロは二本の刀を右上方に振りかぶり、

 

“斬り”!!!

 

 一息に袈裟斬りにする。

 

 今まで以上の手応えはあった。しかし血が吹き上がるようなことはない。

 

 それでも相手はよろめいて、苦悶の唸りをあげている。

 

 このまま畳み掛ける!!!

 

 一同更に奮起し、猛攻を繰り返し──

 

 やがて、赤黒い鬼はよろよろと頽れながら、霧が晴れるように拡散していく。

 

 浜を埋めるほどだった化け物どもも、もう新手が海から這い出してくる様子はなかった。

 

 ── 許さん、許さんぞ、侍どもォ……おれは、おれたちはァ……

 

「ハイ、いい加減、終わっとけ」

 

 シャアァン

 

 軽薄な声とともに振り抜かれたルリの一閃は、刀のものとは思えない、鈴のような音がした……ような気がした。

 

 今度こそ、 洞窟の悪霊 が霧散する。

 

「……お前いったい何なんだ」

 

 ゾロの口から勝手に言葉がこぼれる。

 

「うん? ロプロプの実の能力者だよ?」

 

 ケロリと答えるルリ。

 

「縄が関係あるようには見えねェ」

「えー、想像力だよ想像力!」

「あぁ?」

「うっわ怖い顔すんなって、これ以上は企業秘密だ」

「……訳の分からないことばかり……面貸せよ、5,286戦目だ。ちゃんと悪魔の実の能力使いやがれ」

「はあ? やだよ。あたしはゾロに『刀』で勝つんだから」

「……! そうかよ」

 

 それが『対等』なのかは分からないが、ゾロは、『刀』一本にこだわる彼女の姿勢は嫌いじゃなかった。

 

 そんな二人の様子をくすくす眺めていたくいなに、

 

「おい、何ひとごとみたいな顔してる。くいなも9,237戦目だ」

「えー、ちょっと休もうよ二人とも。ふふ、でも──」

 

 くいなは凛とした笑みを浮かべた。

 

「もうすぐわたしの一万勝記念だね」

「何だと!?」

 

 あははと笑う親友達に、絶対勝つとゾロは息巻いた。







✦祝詞
 ゾロたちの波長を付近の龍脈のそれに近づけました。
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