海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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37.あとかたづけ

「朔、ありがと。なんかお礼になることない?」

 

 デカブツに最後一緒に特攻してくれた朔が、スーっと腕に降りてくる。

 たくさん頑張ってくれたんだ。消耗がないはずない。

 

 朔は少し首を傾げた。

 えっ。もしこの子にとって『あの程度なんでもなかった』として、色んな意味で無償はだめだぞ。

 しかし困ってるのかまた小さく首が傾ぐ。

 

 ……何回かそれが続いた。

 

 えぇ……。

 こっちも困って眉尻が下がる。

 

 じいっと見つめてくる朔。

 むむ。

 

 やがて彼は意を決したように翼を広げた。

 えっこのまま帰ったりしないよね。

 

 困惑してると、朔はふわっと頭上に飛んで──

 

「……って!」

 

 ぷちりと、髪が二、三本持ってかれた。

 それで帰ってったらしい。

 

 成程。髪って霊力宿るっていうからなあ。

 こういうこと無いではないけど、でもたったそんだけでいいのかよ?

 対価は見合うもんじゃないといけないんだぞ。

 ……謙虚か?

 

 はは、と苦笑して小さく溜め息つきながら、みんなの様子をうかがう。

 

 へーじ君とムクの手首から、狼のマークが消えてる。

 二人はそれに気付いて、ふるふる振ってみたり、ぺちぺちはたいてみたり。

 そして安心したように笑って、へたり込んだ。

 他の皆も似たようなもの。

 あんな大量を相手取ったことなんて、そうないよね。お疲れ様。

 

 みんなを内心で労りながら、洞窟の方に歩いていく。

 

「一人で何する気?」

 

 目ざとく察知しやがったヒロとケンジが着いてきた。けど。

 

「お前らがこの道通ったら同調(・・)して面倒、ダメ」

「う。もう全部倒したんじゃないの?」

 

 ケンジがたじたじした。

 

「悪霊に捕まえられてた子たちは、まだだよ」

「……そう、か……」

 

 ヒロは痛ましそうに俯いた。

 

「そーだ。何か手伝ってくれるならさ、しばらくしっかり休んで、明かりと接着剤持ってきてよ。あと喉乾いた」

 

 そのへん遠慮なく頼ります。だから許して。

 

「しばらく? 接着剤?」

 

 二人は心配そうな顔をした。ははは過保護だな。

 

「浄霊済んだら、鎮魂塔直す」

「それ、接着剤でいいの……?」

 

 どこか引きつってるケンジに、くすりと笑う。

 

これ(・・)なことに意味があるからね。当時の人たちの想いが詰まってる」

「そっか。分かった」

 

 二人は頷いた。そしていそいそと歩き出す。

 ……浄霊済む前に帰ってきそう。ヤメロ。

 

 コウシロウ先生が近付いてきたので、身体ごと向き直る。

 

「先生?」

「すまないね、こんなことに子供たちを巻き込んでしまって」

 

 ……死んじゃった子たちがいる手前、安易に何か言えないけども。

 

「先生だって世代じゃないでしょう」

「はは……どこにも話は残ってないはずなんだけどなあ」

 

 はは。

 しー、と、苦笑しながら人差し指を唇に当てる。

 コウシロウ先生は困ったように笑った。

 

 皆が帰ってくのを見送って、色々と清めながら洞窟を進む。

 当時大狼の頭領が自爆しただけあって、メチャメチャになってて苦労した。

 だけどできるだけ奥へ、奥へ。

 

 あぁ……。

 

 つらかったな、苦しかったな。

 もう上がって、次に進むんだよ。

 

 彼らを見送って入り口まで帰ったら、既にケンジとヒロがいた。

 ……どんだけ待ったんだろハハハ。

 

 こっちが鎮魂塔の修復にかかってる間に、ケンジとヒロはポールにロープを張って入り口を閉じ始めた。

 うん。もう皆上がったにしろ、遊び半分で入れないようにしないとね。

 何も言わずともそれをやってる彼らに、ふわりと心が温かくなる。

 ロープはあとで注連縄(しめなわ)に育てとくね。

 

 鎮魂塔の方は……普通遺物の接合なんて、何日かかかると思ってたんだけど……。

 

 なんか、分かるってか、伝わってくるってか……。

 割れた数に苦労したくらいで、すぐに終わってしまった。

 これも見聞色なんかなあ。便利だ。

 前世でも欲しかったね(無理)。

 

 三人で道場に帰って。

 ああさすがに眠い。

 

 コウシロウ先生なんでまだ起きてるの。

 じゃあついでに。

 

「もう何もいないですけど、別のが謂れに釣られてたまるかもしれないから、肝試しなんかで行かないように、あとで何か考えましょう」

 

 ふふ、と先生は笑った。

 

「今はもう休みなさい。お疲れ様ですよ」

 

 泥のように眠ってたら、起きた時には夕方だった。

 

 ……おいゾロ、勝負とか勘弁しろよ。

 

 ……なんか勝った。

 ゾロも疲れてない訳ない。

 今日くらい大人しく休め。

 

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 前と同じく色々準備して、今度はウタの『風のゆくえ』を歌いながら墓場に向かった。

 あの女性と男性と、子供たちが迎えてくれた。

 

〖またそんな堅苦しくして来る〗

 

 女性がくすくす笑う。

 

 ……洋服な子供が増えてる。

 みんなできゃっきゃしてる姿は、とっても微笑ましい。

 

〖ありがとうね〗

 

 多分自分との繋がりはないんだろうに、ふわりと笑ってそう言う女性が温かい。

 

 ここへは報告を兼ねて朔を返しに来たんだけど、もう状況知ってるみたいなのと──返すなって言われた。えぇ!?

 

 ここの霊さんたちは、のんびり村を見守ってるんだそう。

 そうすると朔は動けなくて、暇なんだって。

 だから着いて行きたいって言ってるらしい。

 ひィ。

 

「よ、よろしくお願いします……」

〖キュゥ〗

「あでっ!?」

 

 何で頭つつくの!?

 

 男性が大笑いした。

 

〖堅苦しくするなとさ〗

「うっ」

 

 そうだねこの子、人懐っこいもんなあ……。

 

 そんなこんなで朔は着いて来ることになった。

 

 後日。

 

「あのね! 村の墓場にね! 歌いながら歩いてる、ざんばら髪の侍のユウレイが出るんだって!」

 

 ……つぐみ。

 目ぇきらきらさせて何言ってるのかなあ?

 

 さすがに懲りて?

 きつく叱っておきました。

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