海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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2.修行

 朝の奴に呼ばれてると言うと両親はにっこにこになった。

 個人的には家の手伝いとか泳ぐとか、一人で遊ぶのが性に合ってて良かったんだけど、親心的には村の子どもたちとも遊んでほしかったのかもしれないね。

 

 じんぺーの家の前に着くと既にケンジが居て、すぐにワタルが合流して、少し経ってゼロとヒロが現れた。何かイメージと逆な気がする。いや、ケンジは案外マメだったりするんだけどさ。

 

「悪い、待たせたみたいだな」

「そんな経ってねーよ。村少し出る。でないとまた話せなくなるかもしれねえ」

 

 ルフィをはじめ村の子どもたちと遊ぶのも楽しいけど、こいつらときちんと話しとくのも多分大事。ここじゃ別世界の常識なんて通用しないから、下手したらそれで死ぬしな。

 

 でもさすがに四歳児が六人もぞろぞろ歩いてると目立つ。しかも村から離れようとしてる訳で。

 

「おーい、ガキども、そっちは危ないぞー!」

 

 屋外で木製の何かを製作中だったおじさんが叫んだ。

 原作補正なのか二頭身くらいの姿に違和感はない。

 

「まえいったとこだからだいじょぶー! おかあさんにたべられるくさとっていくんだ、みんなでやるからへーきだよ!」

 

 じんぺーがしゃあしゃあと子どもっぽく言ってのけた。空っぽの籠抱えてんのこのためか、準備ばっちりかよ。

 皆してそれに乗っかってにこにことおじさんに手を振ってみせる。

 

 おじさんはたじたじした様子になり、「き、気を付けてな……」と言うと作業に戻った。母への孝行(しかもきっと嘘)を傘に着た我々は正に外道ってやつかもしれなかった。折角老婆心で声を掛けてくれたんだろうに……。

 

「心が痛い」

 

 ワタルは同じことを思ってたらしく口をひん曲げた。

 

「うっせもう共犯だ。つか、ミズソバとかゴアイチゴとか採れるもんは本当に採って誤魔化す」

「悪知恵かよ草。てか何その草たち聞いたことない」

 

 ゴアイチゴの方はこの辺も一応ゴア王国だからありそうだけど、ミズソバとは。ミゾソバの言い間違いか?

 

「お前が魚の名前並べたら俺もそうなるだろうよ」

「あー……成程」

 

 確かに、前世じゃ聞いたことないのだらけだ。

 

 斯くして、ちょっと開けた野原まで来ると、じんぺーがこれは食えるこれは食えないとさらっと教えてくれた、んだけど。

 

「でもまだ採るな。帰るまでに萎びる」

 

 水を瓶に入れてきてるらしく、採るときにはそれを布に少し含ませて、草を包む気らしい。

 

「何か植物の鮮度を多少保てる水らしいけど、にしても限度がある。材料は知らん」

「へー、じゃ、ここに食用植物採りに来たことあるのは本当だったんだな?」

「まあな」

 

 ヒロがきらきらな表情で感心したように問うと、じんぺーはぶっきらぼうに肯定した。

 

「んで、だ」

 

 じんぺーがじっとこちらを見る。

 

「ニュース・クーと何某(なにがし)の分、ルリが一番情報持ってんだろ。どう危険な世界なんだ」

 

 何某、ねえ。本当、前世でどんな経験して明言を避けてるんだか。

 

「野生動物が軒並み前世の百倍は強い。あとデカイ。やべー奴は冗談抜きで一億倍とか強いかもな。あと、クラーケンとか普通に実在する」

 

 皆絶句してる。まあ、そうなるわな。

 

「ただ、人間も強い奴は強い。そのクラーケンワンパンするようなのがわらわら居る。魚人とか人魚とか巨人とか小人とか三つ眼族とか色々実在する。んで問題は、だ」

 

 ふう、と一度息を吐いた。

 

「国は数多あるが世界政府が牛耳ってて、頂点は一つだけだ。世界貴族・天竜人。これが権力に溺れた屑ばかりでな。一般人は下等生物だと思ってて普通に奴隷にするし、こうして文句言ったり前を横切ったりしただけでその場で殺す」

「……は?」

 

 全員顔が怖くなった。

 

「気持ちは分かるけど抑えろ。この世界の正義はそいつらの狗になることだ。海軍っていう世界中から集められた超巨大な軍隊で、六人ぽっちじゃどうにもならない」

 

 眉をひそめる皆。

 海軍にもいい人たちがいるの頭では分かってるつもりだし、偏見かたまりすぎな自覚も少しあるんだけど……ぐちぐち責め事ばかり言ってしまった。

 

 ……エースも白ひげも殺されちゃうし、イスカ浮かばれないし、汚職が目立つのも事実だし……。

 

 あと『それが仕事だった』のではあっても、だ。

 シャボンディとかマリンフォードとか、めちゃめちゃ邪魔して敵対してきただろ?

 ああやって、その時掲げてた正義の元に、言いがかりともつかない罪状で真っ直ぐな好青年とその"父"を殺したのに、あとになってルフィたちの味方になりそうな、そのブレが個人的に気に入らない。

 

 せめて、最後まで海賊の敵であれよ。

 誰かの大切な人理不尽に殺しておいて、その時抱えてたお前の正義を有耶無耶に流すなよ。

 

 ……だから実は手を下した本人だけど赤犬はそこまで責めたくならない。あの人はどこまでも海兵で、一貫した信念のもと行動してった。残虐と言える部分があるにしてもな。

 

「ふ……六人、か。ルリは味方してくれるのか」

 

 ゼロがニヤリと笑っていた。え、どういうことだ。

 

「……何? もしかして前世じゃ敵だった?」

 

 全然覚えがないけどまさか組織の構成員だったりした?

 

「ああいや……そうじゃない。君は……そうだな、飄々とした一匹狼という感じだった。だけど、今も味方になってくれたら嬉しい」

「言われてみれば一匹狼楽そうだな。五人で頑張れ」

「……オイゼロてめぇ……」

 

 じんぺーが拳を握り締めて片方ぐっと持ち上げた。やめろゼロを殴るな。

 

「お前たちが村を出ないなら味方になってやるよ」

「ハァ?」

 

 じんぺーが臨戦態勢のままこちらを睨んだ。拳がゼロに飛ぶのはとめられたかもしれないけど、こっちが痛いのは勘弁願う。

 

「何でそんなに外に出たいんだよ」

「ここじゃ何にもねーだろうが」

「色々あるだろ、家族も、畑も、海も、山も。力試しがしたいなら猛獣もすぐそばにわんさかだ」

「そんなもん要らねえよ」

 

 じんぺーがぶすっと口を曲げて目を斜め下へ逸らす。

 

 ……あー。

 

「機械弄りしたいのか」

 

 じんぺーはますます表情を歪めて黙り込む。まあ、肯定だな。

 確かに、それ系に関してはこの村じゃ物足りないかもしれない。

 ……現状は、だけど。

 

「……あの山、コルボ山っていうんだけど」

 

 指差すと、皆顔ごとそちらを見遣った。

 

「中間の森を挟んだ北側に、不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)ってゴミ捨て場がある。その更に向こうに、この島の首都みたいなのがある」

「そこがここより栄えてるってことか?」

 

 じんぺーの表情が少しだけほぐれたけど、でもすまんな。

 

「一応ここもその国の一部らしいけど、その街に引っ越せるかとかは知らない。世界貴族なんてのがいるんだから分かると思うけど、この世界は基本身分差が厳しい。この国は王サマが治めてて貴族もいるからあとは分かれ。この村はめちゃくちゃ離れてるおかげでその影響下にないだけだと思う」

 

 じんぺーがまた顔をしかめた。

 

「ただ、そのグレイ・ターミナルってゴミ捨て場にはまだ使える物も捨てられるんだ。金属どころか機械部品とか山ほどあるはず」

「……ほーう」

 

 じんぺーの表情がまたほどけて、目が光る。

 

「だけどな、そこにはならず者もうようよしてる。普通に命取られる」

 

 じんぺーの表情がまた歪む。忙しいな。少し楽しい。……ごめんて。

 

「……お前が諦める訳ないよな?」

 

 ニヤリと笑うとじんぺーは目を丸くした。

 

「言っただろ。この世界の人間は前世と比べ物にならないバケモンだらけ。つまりは鍛えりゃお前たちもそうなれる。……試しにジャンプでもしてみろよ。お前たちなら今でさえあほみたいに跳べそう」

 

 言うと戸惑いつつも皆素直にその場で跳んだ。幼児が五人もぴょこぴょこしたら普通は愛らしいものだけど……ほらみろ。揃いも揃って自分の身長くらい跳びやがって。

 

「……可愛くなさすぎる」

 

 効率のいいフォームまで知ってる元警察官どもだから尚更だ。

 こんなふうに突っ込んだら文句の一つでも返してきそうな連中なのに、全員ぽかんと自身を見てる。……この光景は可愛い。眼福。

 

「幼児のうちから鍛えたら成長が阻害されるだのも多分ない。てか多分早ければ早いほど良さそう。お前たちなら鍛え方くらい知り尽くしてるだろ。存分に励めば十歳になる頃には、グレイ・ターミナルで掘り出し物見つけてくるくらいはできるんじゃない」

 

 エースとサボは十歳だったよね多分。

 

「なーに他人事みたいに言ってんの?」

「は?」

 

 いきなりケンジが満面の笑みを飛ばしてきて眉をひそめる。

 

「ルリちゃん言ったよね? 村から出ないなら味方になってくれるって」

 

 フーシャ村は地図にその内と外の境界を示されるような村じゃない。壁で囲まれてる訳でもない。

 そしてグレイ・ターミナルはあの街の内だとは認められてない。

 

 自分には境を証明できない。

 

 彼らに舌戦で敵うとは思えない。屁理屈だろうと丸め込まれる気しかしない。

 

「味方と仲間は違うと思う」

「たくさん知ってるルリちゃんがいないと、俺らよく分からんまま飛び出して死んじゃうかもよ?」

「……」

 

 くっ……己らが懐かれているのを知っている発言……!

 

「じ、自分で勉強しろよ」

「俺らじゃユーレイからは情報もらえないし」

「おい、おま……っ! そいつらに聞かれたら……!」

 

 じんぺーが珍しく慌てた。

 ……あー。

 見えないにしろ存在する前提で話してると寄って来る場合もあるって、忠告したことあったっけな。だからの『何某(なにがし)』か。でもね。

 

「今は大丈夫。ゼロが居るから近くには何も居ない」

「……つよ」

「俺は別に何もしてないから複雑なんだけど」

 

 ジト目でゼロを見るじんぺーにゼロは半笑いだ。

 

「だからゼロちゃんも仲間な♡」

 

 ウィンクするケンジがあざとすぎる。

 

「まあ……断る理由はないな」

 

 目を逸してすまし顔。素直じゃないゼロも可愛いな。隣でヒロがくすくすと笑っているのも尊い。

 

「ルリちゃんもな♡」

 

 またウィンクしたケンジ(幼児)の攻撃力が高すぎる。

 

「媚び媚びされると名前にちゃん付けが余計痒くなる」

「か、かゆ……」

 

 どっかのゾンビみたいなこと呟いてしょんぼりした萩原が可哀想だ。自業自得だけど。

 

「普段のお前ならそういうキャラだからって許せてただけだから、肝に命じるように」

 

 素直に絆されてやれなくなるから逆効果です。

 

「許せてたのか」

 

 なのに何故かぱっとケンジの表情に明るさが戻った。

 

「しょうがないだろ? そういう世の中なんだから」

 

 分かってくれないらしいケンジがにこりと笑う。

 

「ふふ……ともかく、俺らがこうならルリちゃんも叩けば伸びるってことだろ? 一緒にがんばろうぜ」

「ハァ? 諺っぽく言うな、叩けば普通折れるか潰れるんだよ」

「でもその普通って『前世』の尺度だろ?」

 

 それにはぐうの音も出ない、んだけど。

 

「……どうした、何かしつこいぞ」

 

 訝しむと、ケンジは黙って俯いた。……だけじゃなく何だか空気が重い。一体何なんだ。

 

「この世界は物理的な危険が随分多いんだろう? 俺たちはルリにも生きてほしいんだ」

 

 ファンが百億の男にしようと奮闘したようなゼロにそんなこと言われたら、大多数がきっと心臓とまる。

 だけど何だか、引っ掛かる。

 

「留守番してりゃ危険はない。連行しないで」

「紹介しといてそれか、って言いたくなるがそれより……その間に、海賊だの山賊だのが村を荒らしに来たら同じだろ」

 

 じんぺーが、真顔で言った。

 

「……知ってたか。『賊』の類がうようよ実在してるの」

「ああ。新聞読んだからな。海賊以外にも、盗賊、山賊……こうなりゃ空賊なんてのも居そうだな」

「まあ……そういう賊の類に賞金かけて一般人に狩らせてるのも世界政府の狗だ。『村の外』がどれだけ滅茶苦茶なのかは、もうお前らになら分かるだろ?」

「……」

 

 また、皆して黙り込む。

 中には本当の極悪人もいるにしろ、腐敗した中枢に盾突いた者まで賊扱いされるのは目に見えることだろう。

 

 個人的には更にそこに、ただ冒険してて邪魔者をぶっ飛ばしてるだけな仮面海賊すら、髑髏掲げてるだけで問答無用で殺されても文句言えなくなる点もいただけないのだけれど。

 

 まあ、冒険家にしか見えない彼らもその「ぶっ飛ばす」時に「建造物侵入」とか「器物損壊」とか色々してる訳だから見ようによってはゴロツキと大差無いのかもしれない。まあ、『日本』と法律が同じとはとても思えないけど。

 でも「食い逃げ常習犯」は確実に罪だよな?

 

「こっちだってお前らに死んでほしくないんだ。だから村から出るなっつってんの。お前らみたいな、『正義の味方』は、あの狗どもの『正義』とは喧嘩する。何せ、奴らが掲げるのは正しさを天竜人(他人)任せにした幻想だ」

 

 皆が目をぱちくりする。

 

「一つの国の『法律』っていう一本の芯に『味方』したお前らとは、外の世界は根本的に合わない。……まあその『法律』も力不足な時がないとはとても言えなかったけどさ」

 

 こいつらは決して自分自体を『正義』だと正当化しなかった。

 どうしてもその時々で揺れてしまう個人の好みじゃなくて、そして傲慢な貴族のためじゃなくて、たくさんの血が流れたその反省の上に民意に沿って作られてきた共通の(ルール)に味方して、あるいは信念のもとに逆らって『悪』だと自負しながら、国民を守るために戦い続けた。

 

 独りでこの世界に飛び込んで来たのなら外に出てみたいと思うこともあったかもしれない。

 だけど、彼らがそばに居るのならそうはならない。壊滅的に相性が悪い。一番の危険はここな気がしてる。

 死なせたくない。

 

 ……でもね。

 

「……っていうのはあくまで個人の見解だ。思いっ切り先入観持たせて悪いが、あとは自分で調べて判断してくれ。腹括ってのことなら邪魔なんかしない」

 

 彼らを縛り付けるのもきっと違うんだろう。

 へらりと笑うと、

 

「……ずりぃだろ、その顔」

「ん?」

 

 誰かが何か呟いた気がした。

 

「うおぁああ!? やめろ潰れる!」

 

 五人して突進して来やがった!

 おかげで思い切り後ろに倒れ込んだんだけど……痛くなかったのは、きっと、ここの草がふかふかだったからだろう。

 

 そうやって全員にもみくちゃにされているうちに絆されて、鍛錬に付き合うのを承諾してしまった。でも、そもそも前世でモヤシだった気がする人間に元警察官たちとご一緒しろとか無理がある。できない約束なんかさせるな鬼か。

 

「掛け声くらいならかけてやるよ」

「お前海ならいけるだろ」

「……は」

 

 ニヤリと笑うじんぺーが腹立たしい。

 

「いい具合に焼けてるし、親父さんの漁ついてってんだろ」

「道具の整備とか釣りしてるだけ」

「親父さんもお前も銛持ってたじゃねーか」

 

 こいつめ。

 

「潮溜まりに取り残されたヤツ突付いてるだけ」

「でけーのに銛の痕があった。あんなん潮の満ち引きで陸に取り残される類じゃねえ」

 

 これだから観察眼お化けは!!

 

 はあぁあと盛大に溜め息を吐いて両手を少しあげた。降参だ。

 

「でも、泳ぐのは好きだけど鍛えるためにやってる訳じゃない」

「お前も跳んでみろよ。言っとくがわざと手ぇ抜いたら俺たちには分かるからな」

「跳んでもチャリーンとか音しないよカツアゲ反対」

「は? 訳わかんねぇこと言ってねぇでとっととやれ」

 

 ……まあ、コナン世界じゃこんなミームなかったし通じる訳なかった。ボケスルーと同じ気まずさを憶えながらその場で跳ぶ。

 

「……」

「……」

 

 今まで自分の身体能力なんて意識したことなかったんだけどさ……。

 身長の1.5倍くらい跳んだ??? しかも難なく着地??? 何これ怖すぎワンピ世界すご。

 

「……すげえ跳んだな」

 

 ワタルが遠い目してる。

 

「ちょろちょろ遊んでただけの幼児に比べりゃ、泳ぎで余程鍛えてる訳だしさあ」

 

 ケンジが苦笑してる。

 

「負けてられないな」

「うんうん」

 

 にやりと笑うゼロにきらきらの目で見つめてくるヒロ。眩しいですごちそうさまです。

 

 ……じんぺーが怖い顔で対抗心燃やしてるのを感じる。

 

「……とっとと草採って海行くぞ」

「今から帰ったところで海に入るには少し遅くなるから……今日は柔軟体操くらいにしてくれ……」

 

 じんぺーにジト目された。いやしょーがないだろ。今日この後は少しマズいと思う。

 気温水温明るさもだけど今からなら少し泳ぎ出したくらいで引き潮になる。危ない。

 

 その辺を説明するとしぶしぶ納得してくれた。

 

 けどそういえば。

 

「なあ、ゼロとヒロんとこの家、畑仕事やってたじゃん? 手伝えたら結構な運動にならない?」

 

 はっと二人がこちらを見た。またヒロの目がきらきらし出す。可愛い。

 ヒロが気にしてそうだったのはあの家の畑結構な広さがあったからじゃないかな。作業してたの老夫婦だったしさ。……いや、この世界のご老体ってやべえ強え人いっぱいいるけどさ……。

 

「おー、いいなそれ」

 

 ワタルが笑顔で同意してくれている。

 

「イイねえルリちゃんやる気じゃん」

「……鍛錬のやる気じゃないからな。運動になりそうなのはついでだ」

 

 にこにこなケンジに口を曲げるもへへっと笑われた。

 

 という訳で(?)ケンジに「何で幼児のうちからそんな固いの!?」なんて理不尽に目を丸くされつつ柔軟体操を習い、じんぺーに教わりながら食用植物を集め、村に帰る頃には──ほらやっぱ引き潮の時間になったじゃん。

 

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 じんぺーの家に植物を届けるとじんぺーのお母さんが目を丸くして全員を撫でてくれた。カモフラージュに利用しただけなのが大変申し訳ないけどなでなでを享受する。幼児の身体につられてるとかは分からないけど撫でられるの好き。

 何か作ったらお家に届けるわ、なんて本当に嬉しそうに言われてまた少し良心が疼くなど。

 

 で、皆でゼロたちの家に押しかけて畑仕事がしたいと言うと老夫婦が目を丸くした。大人の目を丸くするのが得意技らしき幼児の群れ草ァ。

 

 こんなにちっちゃいうちから偉いねえ、悪いねえなんて言いながらにこにこする二人に、いつもお世話になっていますからとゼロが安室透(潜入捜査時)みたいなキラッとした笑顔を返した。えっなんか他人行儀?

 

 水汲んできて水撒いたり雑草抜いたり悪さする虫排除したり。

 案外楽しいけどしゃがんでることが多くて足とか背中とか痛い。

 毎日やってる老夫婦すごい。やっぱはいぱーご老体のうちのお二人なのかもしれない。

 

 本日の作業は終わりということでお家で採れたものが材料だって野菜ジュースやパウンドケーキをいただいた。うまっ。

 こういうのが作れるキッチンとか冷蔵庫とかも普通にあるんだから、中世ヨーロッパちっくな文明じゃないと思うんだよな。

 

 おやつの旨さににっこにこになってたら、夜ご飯まで遊んでおいでと送り出された。素直にお言葉に甘えた。

 

「……っあー、もう筋肉痛なってら、身体若ぇー」

 

 伸びをしながらケンジがおっさん臭いこと言ってる。

 

「おっさんくさ……でも、てことは前は爺までちゃんと生きれたわけ? お前の職場特に物騒だったし何より。良きかな良きかな」

 

 機動隊の爆発物処理班だったからね。

 物語じゃ若くしてあんなことになりはしたけど、現実的に考えたらこいつらみたいな優秀な奴らの退場にしちゃあれは早すぎるんだよ。自力で潜り抜けてたって何も不思議じゃない。

 

 しかし皆真顔になった。

 

「……え、まさか……無神経だったか? ごめん……」

 

 ……死んじゃった話知ってるのに。そうじゃなかった可能性に飛びつきすぎた。

 

 ケンジが、俯いたままふっと笑って、ふるりと首を振ってこっちを向いた。

 

「……ああ。生きたよ。全部『夜白(やしろ)ちゃん』のおかげだ。時間オーバーで防爆スーツ着てらんなくなった時は、交代人員が望めなさそうだろうと、爆発の心配がなくなってようと、油断せずいったん撤退しろ、って会うたびに言われてさ」

 

 うっわウザそう。よく友達続けてくれたなお前……。

 

「そんな状況ある? って思ってはいたけど、やたら具体的だったから気をつけようとは思ってたんだ。そしたらドンピシャな事態に何度か(・・・)遭遇してさ……防爆スーツ着てようと木っ端微塵だったろうって規模のこともあった。言ってくれてたおかげで何度も助けられたよ、俺は(・・)な」

 

 ……何か端々意味深な強調感じるんだけど。何なんだよ。

 しかしやっぱ手ぇ出してたのな。まあ、知ってて抑えとける気がしなくはあるけど……。

 

「……未来予知なんてできないと思うんだけど」

 

 知らばっくれるために首をひねる。

 

「守護霊が必死に訴えてくるって言ってた」

「ああ、たまにあるんだよ。成程な」

 

 そう誤魔化した訳ね、まあ、本当にないこともないけど。

 

 しかしそういえばゼロが近くにいると守護霊さんまで隠れることあんだよ。強すぎか。

 まあ、彼がいたら守護霊さんができそうな範囲のことは彼が跳ね除けてくれはする分マシではある。

 

 なんて会話をしながら筋肉痛をほぐすために皆で柔軟体操してたんだけど──。

 

「おお! お前たち! 柔軟なんぞしおって! どこで覚えたんじゃ、感心感心!」

 

 ……うげ。

 見つかっちゃならない人に見つかった気がする。

 

「おー、ルフィのじーちゃん。久し振り」

 

 ガープさんが海兵たちを引き連れてのしのし近づいて来ていた。

 うわー、港にしっかり軍艦来てじゃん、くっそ、見逃してた。

 

 じんぺーが片手を上げて挨拶してたから、思わずペコリとすると、同じく面識ないらしきワタル、ゼロ、ヒロがつられたように追従してて、ケンジはじんぺーと同じくにこにこと片手をあげてた。

 

「孫にも見習わせたいもんじゃのう」

 

 皆してアハハと冷や汗をかく。

 なんせガタイの良すぎる大人の群れのボスが言うんだ。幼気な子供(ルフィ)を修羅の道に巻き込んだ可能性にすぐ思い至ったっぽいな。

 

「お、俺たちは好きでやってるけど、なんも分かんないうちから無理やりやらせたらきっと嫌がると思うよ!」

 

 ケンジが必死に訴えたんだけど、

 

「何を言っとる。お前たちはルフィの一個下じゃろう。何度も言いつけてあるしあいつならもう分かっておるさ」

 

 逆効果だった。

 萩原の物言いが子供らしくなさすぎたんだ。今この人(ガープさん)の中で四、五歳の子供という存在の標準がおかしくなったのがはっきり伝わってきた気がした。

 既に物心付いてて大人と変わらない会話ができて、そのへん走り回ってるような男の子は須らく身体鍛えるの好き、みたいな……ついでに柔軟体操くらいなら素でできるみたいな……。

 

「ル、ルフィはルフィだ、俺たちじゃない。ちゃんとあいつのこと見てやってくれ」

 

 じんぺー、まっとうだけどお前も子供らしくなさすぎる。

 

「ふむ? そうか……?」

 

 ガープさんが悩むように首を傾げている。

 うん、彼は血の繋がった家族なんだ、孫の意思確認はきちんとやってくれるはず。

 

「よし! 仲のいいお前たちと一緒なら楽しくもなろう! 行くぞ!」

「は、ハイィ!?」

 

 ガープさんと海兵たちによって我々六人は問答無用で連行され、途中でルフィも連行され、初っ端から岩ばんばん投げられるなどして前世では考えられない動きを叩き込まれた。

 

 ちなみに、毎日農作業頑張ってたゼロとヒロは最初にジャンプした時は手を抜いてたことが発覚した。最初から普通に背丈の二倍くらい跳んで必死に岩避けてた。お前ら何で隠したの???

 

 ルフィはヒンヒン泣いたし(マジごめん)、我々は青ざめつつも、数日かけて次第に幼児らしくなく動けるようになっていき、避けそこなった岩にぶちあたってもそう酷い怪我にならない自分たちに自身で困惑していた。この世界怖い。

 

 ぼろぼろになりながら皆して大の字に転がってひいはあしてた時、ガープさんが豪快に笑いながらご満悦そうに言った。

 

「お前たち、みーんな強い海兵になるんじゃぞお!」

 

 皆は一瞬はっとしていたけどすぐに隠した。

 何人かはガープさんが海軍って知らなかっただろうしな。

 

 ガープさんとルフィと別れて家路につく。

 

「……あの人海軍の人間だったのか」

 

 ぽつりとゼロが言った。

 

「ああ。港に停まってたあの人たちの船は軍艦だ。帆や背にMARINEってかいてあるが、いつも俺たちからは見えづらかったかもな」

「そう、か……」

 

 じんぺーが教えてくれて、ゼロは複雑な表情をした。

 修行はめちゃくちゃすぎるけどガープさんが悪い人じゃないってのは分かるもんな。

 

「おいゼロ、言っただろ、前言ったのは偏った主観にすぎないからな。自分の目で見たものが事実だ。前の警察と一緒だよ、イイ奴もいれば悪い奴もいる。……天竜人が関われば法よりそいつが正義になる、それだけだ」

 

 言うと皆一様に眉根を寄せた。

 

「もうちょっと世界を知らないときっとなんの判断もできかねると思うよ。だから、お前たちは引きずられずに自分の目で見ろよ。今のとこ自分には腐って見えるってだけ」

「……ああ、そうだな」

 

 苦笑しながらそう言ったゼロの胸の内は、どんなだったんだろうな。

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