海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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38.巡り廻る

 とある日。

 

 鍛錬終えて涼んでたら、朔がちょこんと肩に乗ってきた。

 呼ばずに出て来る子じゃないから小首を傾げる。

 

「どしたの?」

 

 くいくいと髪を嘴で引っ張り始めた。

 どっか連れて行きたいとこがあるのかな。

 

 朔に着いてってるとヒロとケンジに察知された。

 

「どこ行くの」

「あっはは、過保護すぎだって!!」

 

 思わず大笑いしてしまう。

 まあ、自分の日頃の行いのせいだしなあ……(遠い目)。

 

「友達が着いて来てほしいみたいでさ」

「友達」

 

 何だよ?

 

「別に悪い子じゃないっていうか……むしろ良い子なんだけど」

「『前』の仲間たちみたいな子?」

 

 ヒロが聞いてくるので頷く。

 

「一昨年みんなで洞窟のヤバい奴鎮めたじゃん。情報提供者の霊サンから受け継いだの。あの時もかなり活躍してくれたんだぞ」

「へ、へー」

「……情報が多い……」

 

 何で二人は引きつってるんですかね。

 怖いなら着いてこなくてもいいんだぜ。

 

 朔は気にせず飛んでってるから、別に二人が来ても構わないんだろうな。

 

 村を出て、森に……おや。

 行き先は氷吉(ひよし)神社みたい……?

 

「ねえ朔、あたしそっち行っていいか分かんな」

 

 躊躇ってたらくいくい髪引っ張られた。

 

「って、わっ、わ、分かったよ!」

「勝手に髪が摘ままれてる……」

「オレにはぼんやり白い子が視えるよ」

 

 二人がなんか言ってる。

 

「……ヒロ、お前また視えるようになったのか……」

「う」

 

 可哀想に。

 

 祓えないのにぼんやり視えるせいで、余計怖い思いをするんだこの子は……。

 ヒロがちょっと引きつり気味なのは、その過去のせいかもしれないね。

 

 緩やかにカーブした道、ちょっとした石段、立派な鳥居、と辿って境内を少し進m……。

 

「ぶわっ!」

 

 いきなり顔面に何か飛んできて、びびったし尻もちついた。

 やっぱ来ちゃだめだったのでは!?

 ……いやそういうの普通体調とかに現れん?

 

 とか混乱してたら顔をぺろぺろ舐められとる。

 うおおおなんだなんだ。

 ってか真っ白いモヤでなんも見えん。

 

「ル、ルリ!? 大丈夫か? 多分なんかひっついてるぞ!?」

 

 ヒロの慌てた声がする。

 

「んんん……多分悪い子じゃ、な」

〖ピゥゥ〗

 

 ばさっ

 

〖ミャァアァ!!〗

 

 お、おわぁぁ。

 

 朔の翼にはたかれて吹っ飛んでったのは、我々よりでっかい白猫だった。

 いや、白猫……?

 

 違うや、薄っすらサバトラ模よ、う……え?

 

「……シロ?」

〖ミャウゥ!〗

「うわぁあぁ、その巨体で特攻してくるなよ」

 

 尻もちついてたとこにまた来たもんだから、ぺそっと背中から倒れ込んでしまった。

 

「あはは、こら、やめなさい」

 

 うん。

 なんでこんな巨大なのか知らんけど、どうみても前世うちで飼ってた猫です。

 サバトラなのにシロってつけたのは父です。夜白のシロっつってたっけ? 家族だーみたいな……。

 病院で、夜白シロちゃんだったんだが。

 

「だ、大丈夫……?」

 

 ケンジもあわあわしてる。

 

「大丈夫だよ、こいつ、『前』飼ってた猫。シロだよ」

「ええ!? シロちゃん!? なんでこの世界に!?」

「ヒロちゃん、それ俺たちにも返ってくるから」

「た、確かに……」

 

 巨体でじゃれてくるシロを宥めつつ、ヒロとケンジの気の抜けた会話を聞く。

 

「お前、実体あったらあたし潰れてるぞ」

 

 両腕でぎゅっと顔を挟んでやる。

 

〖なーぅ〗

 

 気持ちよさそうな顔すんな。

 

「シロちゃんだったら視たかったなぁ……」

 

 ケンジが少し切なそうに言った。

 高校時代から構ってくれてたもんね。

 

 それが聞こえたからなのか、シロがケンジの方に行った。

 やっと身体起こせる。

 

「……ん」

 

 何か感じるのかケンジが自分の周りを見つめてる。

 シロが普通の猫がするみたいにすり寄ってんだけど、図体がでかすぎて最早胴に巻き付いてるように見える。

 

 思わずくすっと笑う。

 

「そっち行ったよ。お前、かなり構ってくれてたしな。未だに覚えてるみたいだ」

「マジ!?」

 

 ケンジはちょっと嬉しそうにしてる。微笑ましい奴め。

 

「お、オレはぁ?」

 

 寂しそうにするヒロ。

 

「あ、待てヒロ」

〖ナオォォン!〗

「わぁあぁあぁ!」

 

 今度はヒロが背中からひっくり返った。

 

「……シロ。ヒロを食うなよ」

「ヒッ!?」

「冗談だけど。でも安易においでおいでするな。お前こういう子たちに絶大に好かれるんだから」

「うぅ」

 

 顔をぺろぺろされておりますね。前世でもよくされてたね。

 

「ついでに言うとなんか巨大化してる。あたしたちよりでかい」

「……どおりで……圧が……あはは、でもなんか、くすぐったい」

 

 あっという間に離れてかれたケンジが、微妙そうに苦笑してる。

 

「なーんかジェラっちゃうねぇ」

「お前もヒロ並みに霊サンに好かれたい?」

「……遠慮申し上げます……」

 

 ハハハそうだよな。

 

「……朔、こいつに会わせに来てくれたのか」

〖キュゥ〗

 

 朔が肩にとまる。ふっと微笑む。

 

「ありがとうな」

〖ピュィ〗

 

 なんか胸張ってるな、可愛い。

 

「けどなんでシロがここの神社にいるんだ?」

〖ニャァ、ミャァ〗

 

 ヒロから離れて、てくてくこちらに来ながら、シロが何か言ってる。

 けど今の自分には何言ってるか分からない。

 

「ごめんな、まだ『前』みたいにはっきりした会話はできないんだ」

〖ミャウゥ〗

 

 向こうは分かってるのか、ちょっとしょげられた気がする。

 いや、『前』もシロとは話せてた訳じゃないけど。

 霊サンたちと話してたのはシロも見てたから。

 

「うん、ますますやる気出た。お前たちと話したいから、頑張るよ」

 

 ぱちんと自分の両頬を挟むようにしてはたく。

 

〖キュゥ〗〖ニャ〗

 

 二人はちょっと嬉しそうな気がした。

 

 どうやらシロは神社の外へは出れないらしい。

 何言ってるか分かるようになったら、何でなのか聞いてみよう。

 

 

 

 しばらく経って、彼らが何言ってるか分かるようになった頃。

 シロは別の場所から神社を介して跳んできてて、元は霊体な訳じゃないらしい。

 それでこっちじゃ神社から出れないみたいだ。

 ……つまりはこの巨大なもふもふが、どっかに存在してるってことになるんだけど(わくわく)。

 

 どこかって……この神社にいた訳だしそうだよなあとは思うけど……鈴後(りんご)

 

 ワノ国はいま不穏でしょ……心配だよ……。

 でもそのへん教えてくれないんだよね。なんでだ。

 

 あと多分、氷吉神社に自分がすんなり入れたことから、後ろ盾の神さんその鈴後の神社にいらっしゃるんじゃないだろうか。

 単に相性が悪くないだけかもしれないけどね。

 

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 時は流れて六年目。

 

 特に期間を設けての修行とは聞いてなかったんだけど、所謂『君たちに教えられることはもうないよ』状態らしく。

 

 三人同時だからかいつものことなのか、卒業記念試合?みたいなもので、門下生全員によるトーナメント戦が開催された。

 ……大人と子供の垣根すらない。容赦ないな?

 

 自分は準々決勝でケンジ、準決勝でヒロに当たった。

 

 ……自分がヒロとケンジに勝っちゃうのは、前世のイメージからかけ離れすぎて、やっぱり信じられない。

 

「お前たち手ぇ抜いてないだろうな……」

「自覚なき煽りはやめろよ〜」

「ほんとに強いんだってルリは……」

 

 二人は苦笑してる。

 ほんとかよ……。

 

 準決勝でくいなを下したのはゾロ。

 この頃になるとゾロはたまに、我々から勝ち星をあげるようになってた。

 しかし勝率ひっくり返すまではまだ負けだっつって、我々は未だに永遠に勝負してるよ。

 

 てことで決勝戦は我々二人。

 

 竹刀を中段に構える。

 小さい頃始まりの構えは、居合以外分からなかった。成長したなあってぼんやり思う。

 

 すっと二人して膝を折りしゃがむ。

 そして。

 

「──始め!」

 

 コウシロウ先生の合図で決勝戦の口火が切られた。

 

 パァン パシッ パンッ

 

 竹刀のかち合う乾いた音がいくつも続いていく。どんどんテンポが速くなる。

 緊張と同時に腹からあがってくる高揚感。

 

 二人してニィッと不敵に笑いながら肉薄する。

 

 横から。受けられる。左肩から。受けられる。

 隙を伺われてるのを誘って、突きを繰り出され、絡めとって踏み込もうとしたら、間合いを取られたから──

 

 すっと腰を落として納刀。

 

 ゾロは「やべっ」って顔したけど、退がったせいで重心が後ろに流れてて──

 

 パシンッ

 

 左下から胴を一閃。直撃。

 

「あぁあぁ!」

 

 ゾロは頭を抱えた。

 

「くいなに勝ったので精神力持ってかれただろ」

 

 にいっと笑う。

 

「そ、そんなことねェ」

「ふふ」

 

 でもその疲れがあったのは本当だと思うよ。

 くいなは道場一の剣士だと思ってるし。

 

 ふう、と一息ついてるとコウシロウ先生が近付いてきた。

 

「おめでとう。道場一の成績での卒業だね」

 

 にこにこ言われるけど。

 

「たった一回ずつの勝負じゃ、なんとも言えないですからね。今回の試合では、ってだけですよ」

 

 苦笑する。

 トーナメント戦となると、運要素も入ってくる気がする。

 

「うん。じゃあ……優勝者特典として、私と、試合いましょう」

 

 ……。

 

 ……。

 

 えぇと。

 

「はい?」

「少し水分補給して、開始です」

 

 にこにこ。

 

「えっえぇっ!?」

 

 という訳で恐ろしい試合と相成った訳だけど……。

 速さも打ち込みの威力もすごかった。

 

 だけど、だけど。

 

 受けて、流して、躱して絡めて詰めて、払われて間合いを整えて、そして納刀して構えて、一気に床蹴って間合いを詰める。

 

 ピシイッ

 

「……え」

 

 肩で息をしながら、ぽかんとする

 

「ふぅ……ふふ、師範を下すんですから、紛れもなく実力一位ですね」

 

 先生も多少息上がってる、けど。

 

「……華持たせるために、手抜いてませんよね……?」

 

 信じらんなすぎる。

 

「失礼なことを言うね」

 

 いつもの糸目が薄っすら開かれた。

 ひっ。

 

「自覚無き強さは時に、厄介事を引き寄せる。心得ておきなさい」

 

 息を呑む。

 

「君の居合は、私にも見えない(・・・・)。しかも竹刀でなんだ……それをよくよく知っておくんですよ」

 

「……!」

 

 そんなまでに、なってるんだ。

 ……自覚。

 

「わ、わかりました……!」

 

 まだびびってるにしろ、厄介事なんて引き寄せたくないもん。

 自覚、自覚……。

 

 ……あぁ。

 それほどだというならば。

 

 胸に手を当て、ふう、と一つ深呼吸。

 

 にこっと、コウシロウ先生に笑顔を向ける。

 

「女の子は世界一になれないなんて……金輪際言わないでください。あたしがくいなに勝つかどうかは、半々です」

 

 先生はきょとんとして……破顔した。

 

「ああ、本当にね」

 

 くいなも一瞬きょとんとしたけど、ふわっとひまわりみたいに笑った。

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