海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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40.解凍

 数日後、エースから「あの熊倒すぞ」と言われてきょとんとした。

 

「お前の顔に傷残したやつだよ!! 最近よくうろついてんだ」

「!!」

 

 ……存在忘れてたぜ。

 

「……よし来た!」

 

 にっと笑ってついていく。

 

「けどどーしてその個体だって分かるんだ?」

「あのあとおれは、お前の木刀をあいつの目にぶっ刺した。あの傷は絶対に忘れねェ」

 

 エースは不敵に笑う。

 

 その個体を見付けて襲いかかったんだけど、結果はエースのワンパンでした。

 

「……あたし必要だったか?」

 

 苦笑いする。

 

「必要に決まってんだろ。……サボもな」

「……!」

 

 そうだな。

 あの時はサボもいた。

 

 彼が生きてるのを知ってるけど、伝えるべきかどうかが分からなくて、ずるずるとそのままになってる。

 

 物語通りだとエースは知らないまま死んでしまう。

 ……生きて自分で知ってほしいから、願掛けに……してもいいだろうか。

 勝手すぎるけど。

 でも……。

 

「おい、もっと嬉しそうにしろよ」

 

 エースがそう言って苦笑してる。

 

「あはは、そうだな。エースすごいや」

「熊のが人間より成長はえーんだ。仇取るまえに勝手にくたばってたかもしれねェ」

 

 確かに。三倍だっけ。

 

「六年もどっか行きやがって」

「さ、里帰りしたじゃん」

「短ェよ。熊探す暇なかったし」

「あ、あはは……」

 

 でも。自分は忘れちゃってたのに。

 

「なんか、ほっとしたってか……ありがと」

 

 この熊に家族とかいたら、復讐の連鎖とか生まれたかもしれないけど……。

 

「今日のメシは熊肉だな」

「あ、皆呼んでくる。せっかくだから特別料理にしよう」

「はは、そうだな」

 

 生命頂いたからには最後まで。

 私怨で生命取ったにしても、弱肉強食でございます。多分。

 

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「えー。近所のエイミーが、ちゃんと女の子らしいです」

「エイミー二個上じゃん。あとケンジセクハラ」

 

 秘密基地近くの開けたトコでの鍛錬を終えて。

 おやつにしてたらケンジがアホなことを言い始めた。

 

「うるせえ! 同年代が女の子らしくなったら、明かすって言ったのお前だろ!」

 

 ちょっと恥ずかしそうなケンジ可愛い。

 女たらしなトコもあるのに。

 

「俺達もだいぶ筋肉付いてきたしな。結構男女差が分かりやすくなってきた」

 

 じんぺーが自分の肩を見ながらくるくる回してる。

 

「んで? 周りはともかく、分かりやすいか?」

 

 腕を少しだけ左右に広げてみせる。

 ……全員眉間にシワを寄せてじっと見てくる。

 

「周りが分かりやすくなったら教えるとは言ったけど、つまりは? みんな自分では分からないってこと? 降参?」

「うっ」

 

 全員引きつってやがる。

 

「ルリちゃん縄巻いてないよね……?」

「巻いてねーよ。さすがに誤魔化さないって言ったろ」

 

 ケンジ疑い深すぎ。

 

「あー分かりづれえ……この幼児体型が」

FA?」

 

 じんぺーてめえ……。

 

「鍛えりゃちゃんと筋肉つく奴には、この苦しみは分からんだろうよ!」

「そこなんだよな。筋肉が太くなりづらい、六年女の子してバレなかった……」

 

 ヒロがじっと考え込んでる。

 

「男性にも筋肉が太くなりづらい人はいるけど、そういう人でも骨格はゴツゴツしてるんだよな」

 

 ゼロがじーっとこっちを見ている。

 

「タッパはそこそこあるから、成長遅いってこたねえと思うんだよなあ……」

 

 考え込むワタル。

 まあ身長、お前らの誰にも届いてないけどな。こいつら高すぎ。

 この世界だし、将来六メートル超えたりしても、おかしくない連中だと思ってる。

 

「んんー……」

 

 ケンジが目を眇めてじっと見てくる。

 

 胸を張って腰に手当てて偉そうにしてみる。

 

「……楽しそうだなルリちゃん……」

「だって前世じゃ、お前らに勝てたこと何もないんだもん。こんなんでくらい悦に浸ってもいーじゃん」

 

 何でみーんなげんなりした顔するの。事実だろ。

 

「ルリこそ、誰にも替えが効かないことができるだろう……」

「ここにいる全員お前に助けられてんだが」

 

 ゼロとワタルがジト目で言う。

 ……霊感のことか?

 ……ちょっと、ふっと、苦笑する。

 

「あんまいい思い出ないことで、持ち上げられるのはな……」

「……」

 

 職場でヤバいの憑いてる人見かけてついお節介したら、頭おかしい奴扱いされて、言い掛かり色々つけられて、結局仕事辞めざるを得なくなった。

 似たようなことが過去にも色々あった。

 

 要らぬお節介がとめられないなら、もういっそ『霊能者』という肩書きで動いたらって親に言われて……。

 そっか。

 家の神社継いで、そんで……『霊能者』アピールのために配信者にもなった。

 

 ペラペラ喋る性質(タチ)じゃないのに結構口が回るのは、オカルト語りを職にしてたからか……。

 ……まあ、画面にどーんと映してたのは、膝に抱えたシロだけどね。

 そういや他の配信者さんとコラボさせてもらう時は、サバトラのぬいぐるみ持っていったな。はは。

 

「……他のどんな知らない奴が何と言おうと、僕たちが君を尊敬してるのも、感謝してるのも……素晴らしい人間だと思ってるのも、変わらないからな」

 

 ……ゼロの一人称がいつの間にか、前世とおなじ『僕』にもどってる……。

 

「……買い被り過ぎだ」

 

 逆に身が縮む。

 

「……うん。でもまあ、今更うじうじしても仕方ないしな。ありがと」

 

 にーっと笑う。

 プラスに言ってくれてる奴らの前で凹むのは、なんか違うし。

 

「んで答えは?」

 

 考え込むみんな。

 ……やがて。

 

「「……降参」」

「……はあ? 全員?」

 

 思わず素っ頓狂に言う。

 頷くみんな。ぇえ……。

 

 頭を抱える。

 

「……女だよばーかばーか。マジ馬鹿野郎ども。分かんねーとかガチ失礼!」

 

 腕組みしてぷいっと顔逸らす。

 

 ハアァァァ、とどいつもこいつもデカイ溜め息をついた。

 

「……もっと柔らかい言葉使ってろよ」

「うるさいじんぺー。前世男だった癖とかじゃね。そっちも忘れてんだろお前たち。ほんっと酷い」

「うわああぁあぁ! 紛らわしいいぃ! どおりで両方の雰囲気ある訳だよ! 詐欺だ!」

「何言ってんだケンジ。高校からつるんでたのに覚えてない方が酷いだろ」

「うがー!!」

 

 フンッ。

 

「……ふふ。それで? 僕たちに一生何をさせる気だい?」

 

 苦笑しながらゼロが問う。

 しかし。

 

「んー。まだ決めてねーや」

「「ハァ!?」」

 

 すげー顔で詰め寄ってきた。

 

「いきなり答えろってなったしなあ。無茶言うなよ」

 

 ジト目で睨まれる。

 

「それに、お前たちが最後まで分からんなんて、あんま思ってなかったんだぞ。何でも解いちゃうのに」

「ルリこそ買いかぶりだよ」

 

 ヒロが苦笑してる。

 

「ま、一つ貸しってことで」

「……ルリちゃん貸しのまま終わらせる気がする」

 

 ジト目のままのケンジ。

 

「まあだってさ、隠したかったってより、単にお前たちとじゃれたかっただけなんだもんよ」

「……」

 

 なんか皆またげんなりした顔下。

 

「そういう所だよ……」

 

 だからどういうことなんだよケンジ?

 

 ……まあ?

 性別なんてどうでもいいよね?

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