とある日。
フーシャ村にやって来たガープさんの表情がとても硬い。
「……少し良いか」
その顔で連れ出されたのは自分。
え。え??? 今度は何。
いや何もしてなくない!?
着いた場所は毎朝剣で舞ってる場所。
ひと気がないから、内緒話するのに良い所ではある。
ガープさんはじっと海を眺めていた。
「……赤髪海賊団が四皇になった」
ガープさんはぽつりと言った。
へーこの時期だったんだとぼんやり思った。
「よんこう?」
すっとぼける。
「今における四大海賊といったところじゃ」
「ふーん。そんな強かったんだ」
ちょっと忌々しそうな雰囲気を感じたので、テキトウなことを言う。
「エレジアの件で、お前が新聞に載ったことは覚えておるか?」
「……とても良く」
げっそりしながら目を逸らす。
「お前、『赤髪の娘』と書かれておったな」
「……デマだよ?」
まさか何か飛び火してる?
「ガープさんうちの両親知ってるじゃん」
「明かせん。平気で赤髪に養子に出した親、なんぞという言いがかりをつけられかねん」
「ええー……」
嫌な世の中ですこと。
「てか、『RUBY』が誰かなんて分からないでしょう?」
「いつかは辿り着かれる。少なくともエレジアでは、顔も名もバレバレじゃからな」
うっ。
「……海兵になれ、ルリ」
……うん?
「言ったじゃん。そんな覚悟ない」
「覚悟なぞ、後からいくらでも着いてくる」
そういうことも、あるかもしれない、けど……。
「今はもう、お前の自由意思を尊重しておる場合ではない。海兵であれば、海賊の身内がなる訳がないとなる」
それはそうなんだろうけど……。
「……エースにまで海兵になれって言ってるのってさ、そういうことだよね」
「……」
ガープさんは答えなかった。
だけどこれが、彼なりの家族愛なんじゃないかな。
ルフィもドラゴンの息子だからとか。
自分と同じ仕事に就かせたい、っていうのもあるんだろうけどさ。
「ガープさん、ありがと。こんな見ず知らずの子供にまで、気を遣ってくれて」
心がふわふわと温かい。
でも、でもね?
同じくらいきゅっと苦しい。
「……けどさ、この近くに海軍支部ないじゃん? ……おとうさんと、おかあさんと……少し、考えさせて……」
既に人生の半分は家を出てた。
自分の中身がどんだけ大人だろうと、まだ、あの人たちから離れたくない。
……あいつらとも離れたくない。
ははっとガープさんは笑った。
……今日初めて、雰囲気が解れた。
「子供らしい所もあるんじゃのう」
「……人のこと一体なんだと思ってるの」
子供モドキではあるけどさ。
-----------------------------------
時は流れて。
「おれ今日出るわ」
毎朝の場所。
エースはいきなりそう言った。
「は?」
十七で島出るって言ってたから、そろそろだろうとは思ってた。
だからこれは分かってないふりなだけ。説明くらいちゃんとしろ?
「海賊になる。行ってくる」
にぱっとエースは笑った。
最初の頃に比べて随分と目付きが柔らかくなったのは、きっとルフィという可愛い弟と長く過ごしたからなんだろう。
「お前、着いてこないか?」
そんなこと言ってくれるのは嬉しいけどさ。
ふわりと首を振る。
「自由になりたいんだろ? わたしは色々口うるさいぞ。ほら、食い逃げすんなとかさ」
一瞬エースはきょとりとして、噴き出すようにして笑った。
「そうやって歯止めになってくれる奴が必要な時も、あるんじゃねェか」
今度はこっちがきょとりとする。そしてふっと笑う。
「似合わねーこと言うなよ。わたしはお前の手配書眺めて笑ってるくらいが丁度いい」
「笑うのかよ!?」
あはは。笑うってのには、意味が色々あるだろ?
エースはぽすんと頭に手を乗せてきた。
むぬぅ。手ーでかいな。思わず目を細める。撫でられるの好き。
けど。
わしゃわしゃわしゃ、と乱暴に髪をかき回される。
「むえー! やめろ!」
「あははは! ……忘れんなよ、おれのこと」
「忘れられるかあぁ! やめろって!」
「だってお前、変な所でいきなりバカになるだろ」
「お前こそバカかっ、やめ、やめろって、わー! 離せコラ! ハゲさす気か!」
逃げらんねえ!
こいつもムキムキしやがって!
寄越せその筋肉!!
あははとエースは笑う。
「お前は友達だし、妹みたいなもんだと思ってる」
「意地悪な兄ちゃんだな!! やめろっての!」
まだ笑ってやがる! 離せ!
「目ェ離すとすぐなんかやらかして、放っといたら……知らんうちに死んじまいそうだ」
「ぶえぇぇ、お前こそだよ、ざっけんな、やーめーろー!」
またぽすんとして、やっとエースの手はとまった。
……振りほどいてやろうと思ったのに、何か温かい。
「お前、撫でられるの好きだろ。だからってほいほい着いてくなよ」
「えー!?」
バレてんの悔しいけど、実際、ふわふわ撫で始めた手から逃げる気は起きなかった。くそー!
「ブルージャムなんかに着いてったと思ったら、六年もどっか行きやがって」
「そ、それは、別に……だいたい、里帰りしたじゃん!」
「短ェっての」
「えー……」
しょうがなくない???
「勝手に死ぬんじゃねェぞ」
……だから海賊に誘ったのか?
せめて見えるとこで死ねって?(違)
「お前こそだよ死に急ぎ!! 熊から逃げなかったのまだ根に持ってっかんな! 死ぬ暇あったらとっとと海賊王になりやがれ! 知らせ待ってんぞ!」
「……はは」
エースは何だかくすぐったそうに笑ってる。
「まあ、一番はお前が自由になることだからな。そんでどっかで楽しくやってろよ」
生きることを諦めないでくれ。
諦めないでいいんだよお前。
「簡単に死ぬのだけは許さん」
あははとエースは大きく笑った。
「お前の『名声』、ずっと待ってるよ」
お前のことは忘れないけど、わたしのことは忘れてくれたって構わない。
どこかで必ず生きてくれ。
それだけでいいから。
エースはまた頭を撫でて、そしてぽんぽんした。
目を細めて享受する。
撫でられるの好き。
だけど。
さすがに思惑も何もなしに、知らん奴に着いてったりしねーかんな!!
-----------------------------------
エースは本当にその日のうちに出発してった。
たくさんの人に見送られながら。
ロジャーとルージュは何故か一緒に見送ってる。眩しそうにしながら。
「なんで着いてかないの?」
周りに聞こえないように問うと、二人は苦笑した。
〖おれたちはここまでだ。いい加減子離れしねェとな〗
「あいつ、守ってやらないとすぐ死にそうじゃん?」
二人は噴き出した。
あいつ守護霊さん抜きでやってけるんだろうか。
幸薄そうじゃん。
〖お前こそ着いてってやらねェのか〗
「前言ったじゃん」
〖はは、頑固だな。てめェがしねェことを人に押し付けんなよ〗
ウッ。
いやでも立場が違いすぎるよ!?
〖ま、あいつが独り立ちするってんだ。親は黙って見送るもんだろ〗
「……そういうもん?」
〖ああ〗
「……そっか」
ロジャーはにっと笑った。
〖嬢ちゃんのことも心配だが、先客がいるからな。大人しく還るわ〗
……先客。
自分の守護霊さんって、視れたことないんだよな。いない人はいないもんだから、そうかと思ってたけど、いるってことかな。
ありがたいことだ。
〖元気でな〗
ふわりと笑うロジャーとルージュ。
「どこに行くかは知らんけど、エースのこと見ててやれよ。あんたより有名になるってさ」
がははと彼は笑った。
〖そりゃおれの息子だからな〗
ふふっ。
なあエース。
お前の親父さんはお前が大切で、大好きなんだよ。
それがこの先届くかは分からないけど。
〖そんじゃな〗
すっと二人は消えてしまった。
名残惜しくて眺めていると。
「……なあルリちゃん……誰と話してたの……?」
ケンジの怯えた声がして噴き出す。聞こえてたんかい。
くすくす笑いながら、しーっと人差し指を唇に当てると、ケンジは表情を引きつらせた。
すまんな、だって言っていいのか分からんもん。
「本当は着いて行きたかったんじゃないのか?」
ん?
何言ってんだゼロ?
「君、エースたちとすごく仲良かっただろう? ……彼、サボの分も有名になるって言ってたし」
あはは。そうだね。
だけど。
「着いてくだけが応援?友情?じゃないだろ。それにさあ」
肩をすくめてみせる。
「あいつらは、あれこれすんなって常識押し付けるより、好きにさせとかないと寧ろ前に進めない気がするんだ。でもわたしはお節介せずに見守る自信ない」
いつの間にか集まってた五人が顔を見合わせてる。
……何なん?
やがて五人ほぼ同時に噴き出した。
マジ何なん!?
「そっか、自分のお節介癖は自覚してるんだ」
「ああ? disってる?」
くすくす笑いながら言うケンジをジトリと睨む。
「ううん。それで無茶しないでくれたらもっといいんだけどねえ」
……。
「お前たちのほうがお節介だよ!」
どいつもこいつも心外そうにした。
人のこと言えんの自覚しろ!!
-----------------------------------
とある日。
村に帰ってきたガープさんの表情がとても怖い。
そしてどすどすと歩いてきたのは自分の所。
だから、なんで!?
「エースの奴、海賊なんぞになりおって……!」
う、うん?
まだ手配とかされてないのにどこで知ったんだろ。
あと、なんでこっちを見つめながらそれを言うの?
「感化されん内にお前は連れて行く! いつ勝手に出て行くか分からん!」
「え、えええ!? 海賊になんかならないよ!?」
「ええ? ルリ海賊にならないのか〜?」
ルフィいぃいい!!?
「それ見ろ! 放っておいたら連れて行かれる!!」
「ない! ないってば!! ルフィの自由を邪魔したくないもん!」
「こいつを自由にさせたら海賊になるじゃろうが!」
「ええぇ?」
もう支離滅裂のめちゃくちゃだ!!
わっしとガープさんに抱えられてさすがに慌てる。
「ちょ、ちょっとガープさあああん!! やだやだ、おとうさんおかあさあぁん!! ……ゼロー! じんぺー! ワタルうぅ! ヒローーー!! ケンジいー!! たすけてえぇ!!!」
硬直して見守ってた連中が、はっとしたように駆け寄ってきた。
……ルフィ呼んだら逆効果かもしれないし?(拗ねた)
「ガープさん! ルリをどこに連れて行くんですか!」
「海軍本部じゃ」
「!?」
わたし含めみんなまた硬直した。
「ルリは、海兵になるんじゃ」
「っ! じゃあ僕も連れてって下さい!」
「ほう?」
ゼロの声。ぴくりと震えてじたばたをやめる。
「……駄目だ」
「ルリ?」
怪訝そうな声。だけど。
「お前と、特にヒロには、もう
「え?」
ヒロも怪訝な顔をする。
「自分の信じる正義に、背かなきゃならない時の顔」
「……ルリっ」
納得行かなそうな声。
「もう天竜人の犠牲になる奴は見たくない」
「……それ、は……」
言葉に詰まるゼロ。
ガープさんもぴくりとした気がした。
……サボだけの話じゃないもんね。
じいちゃんのことだって、あるんだから。
「お前は犠牲になってもいいっていうのか」
「違う。これ自業自得なんよ。……新聞覚えてる?」
「!」
「海兵になったら、疑われない」
「……じゃあ、前から決まってたのか?」
「ううん。まだ村から離れたくなかった。ゆっくり心決めたかった」
ガープさんだってそのつもりだったはず。
今だって、話す間も与えずに連れてこうとはしてないんだもん。
「あぁ、お前たちに『一生言うこと聞かせる』こと思いついたわ」
「!?」
皆が息を飲んでいた。
「自分の人生は自分で決めろ。わたしに左右されるな」
「っ! ……くそ」
はははゼロ、そんな言葉、可愛い顔が台無しですよ。
「……いっつもずるいんだよ、ルリちゃんは」
ケンジ、なんでお前が泣きそうな顔してんだ。
「……ふふ。一緒に行く、じゃなくて、引き止めてほしかったなあ」
「!」
あはは。
……だから、来るな。
「行くしかなくなっただろー?」
ぺらぺら喋っちゃったもん、自業自得だって。
にーっと、苦笑する。
「なあ」
これは聞いてよね?
「帰る場所とっといてよ」
皆が眉根を寄せる。
「そしたら帰ってこれるからさ」
「……君は」
俯いてたゼロが顔を上げた。お前の無表情って怖いんだぞ?
「嘘つきだ」
「えぇー?」
なんで?
「六年も帰って来なかっただろ」
「それは、里帰りしたじゃん」
じんぺーも顔怖いよ。
「ちゃんと帰って来いよ」
「そうだな。お前のお守り作らないと」
ヒロがくしゃっと表情を歪ませる。
「っ! ……あぁ、そうだよ、君がいないとオレ、どうなるか分からないんだからな!」
「……あーあー。ヒロちゃんにこんなこと言わせて」
そうだなケンジ。ヒロはこんな人任せにする奴じゃない。
自分で抱え込もうとする方だ。
だから勝手にこっちから世話を焼くんじゃん。
「ったく、あんま振り回してくれるなよ。案外デリケートなんだぜ、俺たち」
「あはは……知ってるよ」
今はワタルの言を茶化せない。
「知ってるなら、勝手にどっか行くな」
ワタル、お前に真顔で注意されると心にくるんだ。
「なんか今生の別れみたいじゃん、やめろよ」
「うるせえお前は信用できねえ」
じんぺーめ。
「……おれ、じいちゃん嫌いだ」
ルフィがぽつりと言って目を丸くする。
「誰もルリに行ってほしくないのに、勝手に連れてこうとして」
「ルフィ、それは違う」
こんなことで家族を嫌わないでくれ。
「ガープさんはわたしを守ってくれようとしてるだけだよ」
「……何だよ、それ」
「ルフィのじいちゃんは、内緒で人を助けるのが好きなんだ」
「……ルリ」
あは。さすがに当てつけ入りだって気付かれたみたい。
「……行くぞ」
言って歩き出すガープさん。
はは。皆ごめん。
……せめて父さんと母さんに、挨拶したかったなぁ。
これも自業自得か。
「……ねえガープさん」
彼の歩幅は広いから、ずんずん軍艦が近づいてくる。
「せめて
本部なんて行きたくない。
「……」
ガープさんは少し沈黙して、
「……考えておく」
淡々と言った。
そこは承諾してくれよお……。