42.行き先
憂鬱な気分で軍艦に乗ったわたしは、船室の一つに通されてポカーンとするはめになった。
「おとうさん……おかあさん……」
二人はにこりと微笑んだ。
床におろしてくれたガープさんを振り返る。
だけど彼は無表情・無言。
むむ。
もう何でもいい。なんだかバクバクと速くなってる鼓動のまま、両親に駆け寄って飛び付いた。
……また会えなくなると思ってた。
「おかあさぁん……おとうさあぁん……」
母にしがみついてると、涙まで浮かんできてしまった。
……だってさ。親って子にとっては一生偉大じゃん。しかも二人ともすごくいい人なんだもん。
だから、外身は中一でも中身成人のわたしがここでヒンヒン泣こうが、きっと普通だ、普通だ!
母が頭を撫でてくれた。
撫でられるの好き。
……おかあさんとおとうさんのは、いっとう好き。
ぎゅーっと母に抱きついたままいる内に、ガープさんが部下の人に艦内説明だかなんだかをさせ始めてたけど、ほとんど耳に入らなかった。両親が相槌してるからきっと平気だ。
「ふふ。あなたには甘えられたことがないから、不思議な気分ね」
「……へ?」
ずび、と鼻をすする。
「赤ちゃんの時から、何も手がかからなかったのよ。夜泣きしないし。ただ、お腹空いた時とおしめの時が分からないのには、随分困ったわ」
「ええっ、何それ、生きる気合い足りなすぎ……」
なんて迷惑な。すんませんっした……。
しかし父も母もふふっと笑う。
何ですかこの菩薩たちは……。
「おじいちゃんが大暴れした反動かしらって、逆に心配だったものだけど……ちゃんとおじいちゃんの孫だったわね」
むにゅうと頬を掌で挟まれた。
「むえぇ……ごめんなさい」
ほんとすんません……。
……じいちゃん。
刀貰ったのを引き合いに、じいちゃん今どこにいるのって手紙で聞いたことがある。
珍しく遅くなった返事の、最後の方に、「お仕事中に戦死しちゃったの」とあって、予想してたのに聞いたことが申し訳なくなった。
でも、何でかもっと知ってなきゃいけない気がして、その後ガープさんにも聞いた。
「……戦死じゃ」
「……本当に? ガープさんの記憶にあるような同僚が、この
「……お前はわしを何じゃと思っとる……」
「修行大好き人間。……根性ある奴にしか興味なさそう」
ふっとガープさんは笑った。
そして結構な間が空いた。
「……戦死ではない。
「……はは」
それはきっと。
あれが相手だったのなら。
まだましな死因だったんだろう。
「……お前は聞かん方がいいと思っとった。アオイから怒られるわい」
「おかあさんはこんなんで怒らないよ」
「果たしてそうかの……」
「……そうだね」
今まで散々他人事に罵ってたのに、身内がそんな目に遭ってたって聞いたら……ただの虚無だった。
元々許せないゴミクズって認識だったから、もうこれ以上、『最低最悪』のラインは更新されないのか……わたしが、薄情なのか。
ふるふると首を振る。
「……たくさん荷物あるけど、おとうさんとおかあさんも、海軍
本部に行く気ないからな!
「そうねえ。あなたから目を離したくないもの」
「あはは……ガープさんもう準備ばっちりだったんだね……」
引きつりながら見遣ると、ガープさんは肩をすくめた。
「……あくまで本部には行かん気じゃな」
「だって本部なんかに行ったら、フーシャ村に帰る機会なくなりそうじゃん……」
ガープさんは考え込む様子を見せ、やがて小さく溜め息をついた。
「……ちょうど人手をかき集めておる所を、知っとるが……」
はあ、とガープさんはもうひとつ溜め息をついた。
「わしの目が届く所に置いとかんと、お前は何するか分からんというのに……」
信用がない。
日頃の行いが祟っている。
「頑張って大人しくするから……でないと本部行きだし……」
「本部を監獄扱いするな。頑張らんと大人しくできんのがまず問題じゃろうが……まあ、要注意じゃじゃ馬と伝えて厳しく監視させれば良いか……」
「聞き捨てならないんだけど」
両親の前で酷いことを言いますね。
「でも
「……まあ、良かろう……」
「ありがと」
にぱっと笑う。
この点は譲れなかったから、本当にありがたい。
針路変更じゃな、と呟いて溜め息をつきつつガープさんは部屋を出た。
……マジ問答無用に本部に連れてこうとされてたァ。