海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

44 / 77
第14支部
42.行き先


 憂鬱な気分で軍艦に乗ったわたしは、船室の一つに通されてポカーンとするはめになった。

 

「おとうさん……おかあさん……」

 

 二人はにこりと微笑んだ。

 床におろしてくれたガープさんを振り返る。

 だけど彼は無表情・無言。

 むむ。

 

 もう何でもいい。なんだかバクバクと速くなってる鼓動のまま、両親に駆け寄って飛び付いた。

 ……また会えなくなると思ってた。

 

「おかあさぁん……おとうさあぁん……」

 

 母にしがみついてると、涙まで浮かんできてしまった。

 ……だってさ。親って子にとっては一生偉大じゃん。しかも二人ともすごくいい人なんだもん。

 だから、外身は中一でも中身成人のわたしがここでヒンヒン泣こうが、きっと普通だ、普通だ!

 

 母が頭を撫でてくれた。

 撫でられるの好き。

 ……おかあさんとおとうさんのは、いっとう好き。

 

 ぎゅーっと母に抱きついたままいる内に、ガープさんが部下の人に艦内説明だかなんだかをさせ始めてたけど、ほとんど耳に入らなかった。両親が相槌してるからきっと平気だ。

 

「ふふ。あなたには甘えられたことがないから、不思議な気分ね」

「……へ?」

 

 ずび、と鼻をすする。

 

「赤ちゃんの時から、何も手がかからなかったのよ。夜泣きしないし。ただ、お腹空いた時とおしめの時が分からないのには、随分困ったわ」

「ええっ、何それ、生きる気合い足りなすぎ……」

 

 なんて迷惑な。すんませんっした……。

 しかし父も母もふふっと笑う。

 何ですかこの菩薩たちは……。

 

「おじいちゃんが大暴れした反動かしらって、逆に心配だったものだけど……ちゃんとおじいちゃんの孫だったわね」

 

 むにゅうと頬を掌で挟まれた。

 

「むえぇ……ごめんなさい」

 

 ほんとすんません……。

 

 ……じいちゃん。

 

 刀貰ったのを引き合いに、じいちゃん今どこにいるのって手紙で聞いたことがある。

 珍しく遅くなった返事の、最後の方に、「お仕事中に戦死しちゃったの」とあって、予想してたのに聞いたことが申し訳なくなった。

 でも、何でかもっと知ってなきゃいけない気がして、その後ガープさんにも聞いた。

 

 

「……戦死じゃ」

「……本当に? ガープさんの記憶にあるような同僚が、この(最弱)の海で『戦死』したの?」

「……お前はわしを何じゃと思っとる……」

「修行大好き人間。……根性ある奴にしか興味なさそう」

 

 ふっとガープさんは笑った。

 そして結構な間が空いた。

 

「……戦死ではない。天竜人(ゴミクズ)から、市民を庇ったそうじゃ」

「……はは」

 

 それはきっと。

 

 あれが相手だったのなら。

 

 まだましな死因だったんだろう。

 

「……お前は聞かん方がいいと思っとった。アオイから怒られるわい」

「おかあさんはこんなんで怒らないよ」

「果たしてそうかの……」

「……そうだね」

 

 

 今まで散々他人事に罵ってたのに、身内がそんな目に遭ってたって聞いたら……ただの虚無だった。

 元々許せないゴミクズって認識だったから、もうこれ以上、『最低最悪』のラインは更新されないのか……わたしが、薄情なのか。

 

 

 ふるふると首を振る。

 

「……たくさん荷物あるけど、おとうさんとおかあさんも、海軍支部(・・)あるとこに住むの?」

 

 本部に行く気ないからな!

 

「そうねえ。あなたから目を離したくないもの」

「あはは……ガープさんもう準備ばっちりだったんだね……」

 

 引きつりながら見遣ると、ガープさんは肩をすくめた。

 

「……あくまで本部には行かん気じゃな」

「だって本部なんかに行ったら、フーシャ村に帰る機会なくなりそうじゃん……」

 

 ガープさんは考え込む様子を見せ、やがて小さく溜め息をついた。

 

「……ちょうど人手をかき集めておる所を、知っとるが……」

 

 はあ、とガープさんはもうひとつ溜め息をついた。

 

「わしの目が届く所に置いとかんと、お前は何するか分からんというのに……」

 

 信用がない。

 日頃の行いが祟っている。

 

「頑張って大人しくするから……でないと本部行きだし……」

「本部を監獄扱いするな。頑張らんと大人しくできんのがまず問題じゃろうが……まあ、要注意じゃじゃ馬と伝えて厳しく監視させれば良いか……」

「聞き捨てならないんだけど」

 

 両親の前で酷いことを言いますね。

 

「でも東の海(イーストブルー)に留めてもらえるってこと?」

「……まあ、良かろう……」

「ありがと」

 

 にぱっと笑う。

 この点は譲れなかったから、本当にありがたい。

 

 針路変更じゃな、と呟いて溜め息をつきつつガープさんは部屋を出た。

 ……マジ問答無用に本部に連れてこうとされてたァ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。