海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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44.要注意じゃじゃ馬

 ガープさんが見舞いって言ってた通り、ピスコ少将は入院してた。

 点滴とか色んなものに繋がれて、今は眠ってるみたい。

 

 病室には先客がいたんだけど、眠ってるピスコ少将と瓜ふたつ。

 ベッドの傍らに立ってらっしゃるほうは、あの正義コートを羽織ってる。

 双子なんかな?

 

 ──ってふうに、初めは区別がつかなかった。

 

 アイリッシュ准将やガープさんの態度からすると、元気に立ってる方は──生き霊だ。二人には視えてない。

 

 透けてない、色も輪郭も比較的はっきりしてる。……やらかした。

 生き霊とヒトって、こうあんま見分けつかないから、気を付けてなきゃならなかった。けどばっちり生き霊少将と目が合ってしまった。

 ただ、彼は少し寂しげに笑っただけだった。

 

 ……ガープさんとアイリッシュ准将の言動からして、ピスコ少将は植物状態っぽい。

 でも生き霊元気そうだし、眼を凝らせばしっかり太く身体と繋がってるのが分かった。きっと大丈夫だよ。いつか、いつか回復するはず。

 

「……五年ほど前のことだ。コノミ諸島の中心部がとある海賊一味の手に落ちた」

 

 アイリッシュ准将がぽつぽつと語る。

 

「ジンベエって魚人海賊団の(カシラ)が王下七武海になった恩赦で、囚人だった手下、アーロンがこの東の海(イーストブルー)に放たれた。そいつ率いる魚人どもの仕業だ」

 

 知ってる名前が出てきて心臓が跳ねる。

 きっと、ナミの故郷のことなんだろう。

 五年ほど前。わたしは八つ。

 自分の手が届いた訳はないけど、やっぱり心が痛い。

 

「お前のことじゃから、魚人や王下七武海については、説明せんでも知っとるな?」

「うん。けど、そんなことがあったんだ……」

 

 少なくとも新聞では見てない。触らぬ神だったんだろう。

 

「当時すぐさま派遣された軍艦は計五隻。この支部からは、支部長自ら率いた精鋭たちが向かった」

 

 てことは多分、当時の支部長はピスコ少将で……。

 

「しかし五隻それぞれ全てが惨敗。尽く軍艦は沈められた。……ピスコ少将含め幾人かは、奇跡的に岸に流れ着いたが……少将は植物状態、他は重傷を負って、退役せざるを得なくなった」

「……植物状態」

 

 明言されると更に胸に来る。しかも、五年間ってことか……。

 生き霊少将はさっきと似た笑みを浮かべてた。

 

「このままアーロン一味の所業を見過ごしはしない。そのためにウチの支部は、戦力増強を図っている」

 

 アイリッシュ准将がジロリとこちらを見た。

 

「お前に、魚人を相手取る覚悟はあるのか?」

 

 少し目を伏せる。

 

 人間の十倍の身体能力を持つ魚人。

 その覚悟があるなんて軽く言うガキなんか、信用できるはずはない。

 そもそもやれるって驕る気が起きない。

 だけど、あの非情な支配圏を打破しようって動きを目の前に、乗らない気なんてあるはずもない。

 あんなの少しだって短くなるに越したことはない。

 

 もし三年以内に打ち破れたら、ナミとルフィの出会いに関しては、何とかお膳立てをしよう。

 

「……及ばずながら、小さくとも一助になれればと存じます」

 

 ピシッと、まだ様にならない敬礼をする。

 

「掃除洗濯飯炊き等々、そうしたことも重要な支えですよね」

 

 こちらを見るアイリッシュ准将の視線が、『ジロリ』じゃなく『無表情』にランクアップ(?)した気がした。

 

「おいルリ、まさか雑用から始めようとしとるのか?」

 

 ガープさんがきょとんとしてた。はい?

 こっちがきょとんとするよ?

 

「いや普通そうだよね?」

「何のために戦力貯め込んどる支部に連れてきたと思っとるんじゃ」

「えぇぇ、物には順序があるでしょ」

 

 頬が引きつる。

 

「……じゃじゃ馬にしては、多少常識があるようだな」

 

 アイリッシュ准将が無表情に言った。

 そこは真人間だ、って認識改めてもろて。

 しかしなんかガープさんがニヤリと笑った。

 

「そうのんびりさせる気はないぞ。

 お前がこの東の海(イーストブルー)における換えの効かない重要戦力とならんようなら、本部でわしの直属の部下にする。根性鍛え直してやる。覚悟しておけ」

 

 ……は?

 

「え、えぇえ!?」

 

 な、何それ、無茶振り???

 

 ……あぁ、でも。

 海に出たからには、ゾロとくいなと、世界最強の剣豪取り合うんだもんね。

 思わず顔が引き締まる。

 

「この海に留まりたいなら、全力で頑張ることじゃ」

 

 ガープさんは「がっはっは」と大きく笑った。

 全力は出すけどさ、ガープさんだって暴れ馬じゃんか。

 

 アイリッシュ准将は微妙な表情で我々を眺め、そしてピスコ少将に目をやった。

 

 ……きっと大丈夫だよ。

 

 なんて思ってると。

 

 アイリッシュ准将はギロリとこっちを見た。

 えっなんで。

 

「ガキが軽はずみな慰めを口にするな」

 

 ……えっ、えっ!?

 無意識に口に出てた!?

 

 がっはっはとガープさんの大笑いが聞こえて、反射的にばっと見遣る。

 

「アイリッシュ准将はお前と同じ(・・・・・)覇気使いじゃ。思うとることは筒抜けじゃと思え」

「……ぼんやりだがな」

 

 ひっ!?

 

「しかし、同じだと?」

 

 アイリッシュ准将の眉が、ますます跳ね上がってる。

 

「じゃから見た目で判断するなと言っとろう。見聞色、武装色だけでなく……鍛えれば六式も習得するじゃろう」

「……」

 

 アイリッシュ准将がじいっと見てくるのを感じつつ、ぽかーんとガープさんを見る。

 伝えたことない。

 

「……何でそう思うの?」

「どれだけ修行をつけたと思うとる。さすがに察するわい」

 

 ひい。本部中将の目は誤魔化せないってこと……?

 

「あぁ、それとこいつは悪魔の実を食うとる。ロプロプの実じゃ。なかなか使いこなしとるようじゃぞ」

 

 だから、どこ情報なの。

 

「悪魔の実……実在したのか」

 

 アイリッシュ准将は半信半疑そうだった。

 

「論より証拠じゃ、出してみい」

 

 はは。なんか恥ずかしいのは何でだ。

 

 ひょろひょろと両手から縄を出す。

 

 ……ついでに悪戯心でガープさんをぐるぐる巻きにする。

 

「何するんじゃ!」

 

 締めてないからいいでしょ!

 

「分かりやすいかと思って。縛る、締める、引っ張る、等々、捕まえるのが得意です。あと自分が出したんじゃない縄も触れればいじれます」

 

 色んな縛り方結び方を、ゼロたちに教えてもらったこともある。

 元警察官たちツヨイ。

 

「……」

 

 アイリッシュ准将は、片手を額に当てて眉間にシワ寄せつつ、目ぇ閉じてる。

 

「……ひとまず、要注意だってのは少し理解した」

 

 なんでよ!!

 

 ガープさんはまた「がっはっは」と大笑いしてる。この野郎!

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