ガープさんが見舞いって言ってた通り、ピスコ少将は入院してた。
点滴とか色んなものに繋がれて、今は眠ってるみたい。
病室には先客がいたんだけど、眠ってるピスコ少将と瓜ふたつ。
ベッドの傍らに立ってらっしゃるほうは、あの正義コートを羽織ってる。
双子なんかな?
──ってふうに、初めは区別がつかなかった。
アイリッシュ准将やガープさんの態度からすると、元気に立ってる方は──生き霊だ。二人には視えてない。
透けてない、色も輪郭も比較的はっきりしてる。……やらかした。
生き霊とヒトって、こうあんま見分けつかないから、気を付けてなきゃならなかった。けどばっちり生き霊少将と目が合ってしまった。
ただ、彼は少し寂しげに笑っただけだった。
……ガープさんとアイリッシュ准将の言動からして、ピスコ少将は植物状態っぽい。
でも生き霊元気そうだし、眼を凝らせばしっかり太く身体と繋がってるのが分かった。きっと大丈夫だよ。いつか、いつか回復するはず。
「……五年ほど前のことだ。コノミ諸島の中心部がとある海賊一味の手に落ちた」
アイリッシュ准将がぽつぽつと語る。
「ジンベエって魚人海賊団の
知ってる名前が出てきて心臓が跳ねる。
きっと、ナミの故郷のことなんだろう。
五年ほど前。わたしは八つ。
自分の手が届いた訳はないけど、やっぱり心が痛い。
「お前のことじゃから、魚人や王下七武海については、説明せんでも知っとるな?」
「うん。けど、そんなことがあったんだ……」
少なくとも新聞では見てない。触らぬ神だったんだろう。
「当時すぐさま派遣された軍艦は計五隻。この支部からは、支部長自ら率いた精鋭たちが向かった」
てことは多分、当時の支部長はピスコ少将で……。
「しかし五隻それぞれ全てが惨敗。尽く軍艦は沈められた。……ピスコ少将含め幾人かは、奇跡的に岸に流れ着いたが……少将は植物状態、他は重傷を負って、退役せざるを得なくなった」
「……植物状態」
明言されると更に胸に来る。しかも、五年間ってことか……。
生き霊少将はさっきと似た笑みを浮かべてた。
「このままアーロン一味の所業を見過ごしはしない。そのためにウチの支部は、戦力増強を図っている」
アイリッシュ准将がジロリとこちらを見た。
「お前に、魚人を相手取る覚悟はあるのか?」
少し目を伏せる。
人間の十倍の身体能力を持つ魚人。
その覚悟があるなんて軽く言うガキなんか、信用できるはずはない。
そもそもやれるって驕る気が起きない。
だけど、あの非情な支配圏を打破しようって動きを目の前に、乗らない気なんてあるはずもない。
あんなの少しだって短くなるに越したことはない。
もし三年以内に打ち破れたら、ナミとルフィの出会いに関しては、何とかお膳立てをしよう。
「……及ばずながら、小さくとも一助になれればと存じます」
ピシッと、まだ様にならない敬礼をする。
「掃除洗濯飯炊き等々、そうしたことも重要な支えですよね」
こちらを見るアイリッシュ准将の視線が、『ジロリ』じゃなく『無表情』にランクアップ(?)した気がした。
「おいルリ、まさか雑用から始めようとしとるのか?」
ガープさんがきょとんとしてた。はい?
こっちがきょとんとするよ?
「いや普通そうだよね?」
「何のために戦力貯め込んどる支部に連れてきたと思っとるんじゃ」
「えぇぇ、物には順序があるでしょ」
頬が引きつる。
「……じゃじゃ馬にしては、多少常識があるようだな」
アイリッシュ准将が無表情に言った。
そこは真人間だ、って認識改めてもろて。
しかしなんかガープさんがニヤリと笑った。
「そうのんびりさせる気はないぞ。
お前がこの
……は?
「え、えぇえ!?」
な、何それ、無茶振り???
……あぁ、でも。
海に出たからには、ゾロとくいなと、世界最強の剣豪取り合うんだもんね。
思わず顔が引き締まる。
「この海に留まりたいなら、全力で頑張ることじゃ」
ガープさんは「がっはっは」と大きく笑った。
全力は出すけどさ、ガープさんだって暴れ馬じゃんか。
アイリッシュ准将は微妙な表情で我々を眺め、そしてピスコ少将に目をやった。
……きっと大丈夫だよ。
なんて思ってると。
アイリッシュ准将はギロリとこっちを見た。
えっなんで。
「ガキが軽はずみな慰めを口にするな」
……えっ、えっ!?
無意識に口に出てた!?
がっはっはとガープさんの大笑いが聞こえて、反射的にばっと見遣る。
「アイリッシュ准将は
「……ぼんやりだがな」
ひっ!?
「しかし、同じだと?」
アイリッシュ准将の眉が、ますます跳ね上がってる。
「じゃから見た目で判断するなと言っとろう。見聞色、武装色だけでなく……鍛えれば六式も習得するじゃろう」
「……」
アイリッシュ准将がじいっと見てくるのを感じつつ、ぽかーんとガープさんを見る。
伝えたことない。
「……何でそう思うの?」
「どれだけ修行をつけたと思うとる。さすがに察するわい」
ひい。本部中将の目は誤魔化せないってこと……?
「あぁ、それとこいつは悪魔の実を食うとる。ロプロプの実じゃ。なかなか使いこなしとるようじゃぞ」
だから、どこ情報なの。
「悪魔の実……実在したのか」
アイリッシュ准将は半信半疑そうだった。
「論より証拠じゃ、出してみい」
はは。なんか恥ずかしいのは何でだ。
ひょろひょろと両手から縄を出す。
……ついでに悪戯心でガープさんをぐるぐる巻きにする。
「何するんじゃ!」
締めてないからいいでしょ!
「分かりやすいかと思って。縛る、締める、引っ張る、等々、捕まえるのが得意です。あと自分が出したんじゃない縄も触れればいじれます」
色んな縛り方結び方を、ゼロたちに教えてもらったこともある。
元警察官たちツヨイ。
「……」
アイリッシュ准将は、片手を額に当てて眉間にシワ寄せつつ、目ぇ閉じてる。
「……ひとまず、要注意だってのは少し理解した」
なんでよ!!
ガープさんはまた「がっはっは」と大笑いしてる。この野郎!