----------------------------------- side : Isca
イスカ少尉は、指示でガープ中将の部屋に書類を届けた。
どうせ提出されないだろうにと溜め息をつく。
彼にはきっと書類整理専門の事務官が必要だ。
しかし部屋には先客が居た。
いつものように開け放たれていたせいで、ノックも何もせず入ってしまった。
「し、失礼しまし──」
慌てて敬礼しながら言っているとその人物は振り返った。イスカと同じく、背に正義の文字が刻まれている。
手には──ポートガス・D・エースの手配書があった。
ちくりと胸が痛む。
「た……」
「あ、待って下さい。自分は待機中なだけです。ご用があるならこちらが出……これに何か?」
エースの手配書に目が吸い寄せられてしまったことに気付かれた。
迂闊だ。複雑な思いで俯く。
ふふっと、小さな息遣いのような笑いが聞こえた。
「あなたもこいつに振り回されましたか?」
「え……」
彼女はエースを知っているのだろうか。
「あなたもエース関係の任務に就いたことが……?」
「いや……うーん……」
彼女は眉間にしわを寄せて唸った。
「うん。あなたなら別にいいや、
「!? 私をご存知で……!?」
イスカは恐々とするが、しかし相手は苦笑した。
「わたしは
「……あ」
定期的にガープ中将に引きずられてくる、
その海兵の前では不思議と何も隠すことができない、という。
海賊たちが口を割らずとも、あれもこれも
噂は、誇張ではないのかもしれない。
「他言無用ですよ」
言いながら、彼女は部屋の扉を閉めた。
「……幼馴染の話するのにコソコソしなきゃいけないなんて、嫌な世の中です」
「……え?」
イスカは時が止まったような気がした。
今この人は何と言った?
「ふふ、びっくりしますよね。去年スーパールーキーなんて言われた海賊と、こんなの着てる海兵が幼馴染なんて」
彼女は羽織ったコートを、ふわっと軽く腕で払った。……邪魔そうな仕草だった。そんなことをしてもコートは床に落ちたりしなかったが。
「いえ、その……故郷は選べません、から……」
「…………ふふ。そうですよね」
少しアンニュイに笑った彼女は、エースと同郷であることをどう思っているのだろう。
「あいつはわたしのことを、妹みたいなものって言ってくれました。……存在そのものを肯定するような言葉だと思いませんか?」
「!」
アンニュイな雰囲気のまま、彼女は苦笑した。
「なのにエース自身は生き急ぐようなマネばかりする。……『おれは生きてていいのかな』なんて聞いてくるような……バカです」
「えっ!?」
「わたしはあの『兄ちゃん』に生きててほしいんですがね。……イスカ少尉、あなたはどうですか?」
「……わ、わた、しは……」
その質問は、クリティカルに心に刺さった気がした。
「海軍にいるのは、
ふわりと笑う彼女には、どこまで筒抜けなのだろう。
「わたしはもう、あいつに『生きろ』って散々言いました。個人的にはあなたにそれを押し付けてしまいたい」
「っ!」
さっきから、イスカは言葉に詰まってばかりだ。
「そんな顔をしてるくらいなら……海兵としてでも海賊としてでもいいから、これからも追いかけてあげてくれませんか」
「そん、な、顔……? ……何、故」
やっとのことで、イスカは言葉を絞り出す。
「何故私に、そんなことを言うのですか……あなたが自」
皆まで言う前に首を振られた。
「妹の言葉なんて聞きやしない」
肩をすくめて彼女は言う。
「あとわたしは、
ふふ、と彼女は笑った。
「海兵にクソがいたから良い海兵を作らなきゃ、それは素晴らしいことでしょう。でも今のあなたは、とても窮屈そうに見えます。ほんの少し後悔も見える。まあ……何をしたって後悔は生じるものなんでしょうが」
なぜこの人は、こんなにも言葉を尽くすのか。
「……わたしには、あなたが『良い海兵』にならねばと思い詰めているのは、素晴らしい大義というよリ……ドロウ中将の犠牲、に見えます」
「っ!」
心を読まれたようなことを言われてしまった。
「……ま、さっきも言ったように、正直全部、エースを見ててやってほしいってワガママです」
言葉に詰まる。
「あいつ、いい奴でしょう? その上危なっかしい。あなたもきっと、良く知ってますよね」
「……」
イスカは、何も言えない。
「ああ……うん、勝手なワガママなんで、気にしないで下さい」
少し慌てたように彼女が話を締めると、バァンとドアが開いてイスカは飛び上がった。
「ルリ! 試験の準備が……おお? イスカ少尉、どうしたんじゃ」
「あ、クザン大将から、書類を持って行くように頼まれました」
敬礼をして書類を差し出す。
「あいつめ! 将校を小間使いにしおって!」
人のこと言える? と二人は内心で思った。
「そのへんに置いといてくれい。ほれ、ルリ、行くぞ」
「……はぁい……」
ルリはげっそりした様子でガープ中将の後に続く。
イスカもその後を追うようにして部屋を出た。
……やはり書類はきっと、山と積まれたものの一部になり果てることだろう。
その日から、イスカは考えに考えた。
そして。
とある海軍将校が一人、マリンフォードから姿を消した。
探し物名人が珍しく匙を投げた。
しばらくの後、ポートガス・D・エースのもとに、気の置けない仲間が一人増えた。
つづりわかんなかったので、『仲間』って意味になったりするのかなあってほうにしました。