海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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50.Piece of Spadille

----------------------------------- side : Isca

 

 イスカ少尉は、指示でガープ中将の部屋に書類を届けた。

 どうせ提出されないだろうにと溜め息をつく。

 彼にはきっと書類整理専門の事務官が必要だ。

 

 しかし部屋には先客が居た。

 いつものように開け放たれていたせいで、ノックも何もせず入ってしまった。

 

「し、失礼しまし──」

 

 慌てて敬礼しながら言っているとその人物は振り返った。イスカと同じく、背に正義の文字が刻まれている。

 手には──ポートガス・D・エースの手配書があった。

 ちくりと胸が痛む。

 

「た……」

「あ、待って下さい。自分は待機中なだけです。ご用があるならこちらが出……これに何か?」

 

 エースの手配書に目が吸い寄せられてしまったことに気付かれた。

 迂闊だ。複雑な思いで俯く。

 

 ふふっと、小さな息遣いのような笑いが聞こえた。

 

「あなたもこいつに振り回されましたか?」

「え……」

 

 彼女はエースを知っているのだろうか。

 

「あなたもエース関係の任務に就いたことが……?」

「いや……うーん……」

 

 彼女は眉間にしわを寄せて唸った。

 

「うん。あなたなら別にいいや、イスカ少尉(・・・・・)

「!? 私をご存知で……!?」

 

 イスカは恐々とするが、しかし相手は苦笑した。

 

「わたしは探し物名人(・・・・・)らしいです」

「……あ」

 

 定期的にガープ中将に引きずられてくる、東の海(イーストブルー)の怪物。それが彼女なのだろうか。

 その海兵の前では不思議と何も隠すことができない、という。

 海賊たちが口を割らずとも、あれもこれも見つけ出して(・・・・・・)しまうのだとか。

 

 噂は、誇張ではないのかもしれない。

 

「他言無用ですよ」

 

 言いながら、彼女は部屋の扉を閉めた。

 

「……幼馴染の話するのにコソコソしなきゃいけないなんて、嫌な世の中です」

「……え?」

 

 イスカは時が止まったような気がした。

 今この人は何と言った?

 

「ふふ、びっくりしますよね。去年スーパールーキーなんて言われた海賊と、こんなの着てる海兵が幼馴染なんて」

 

 彼女は羽織ったコートを、ふわっと軽く腕で払った。……邪魔そうな仕草だった。そんなことをしてもコートは床に落ちたりしなかったが。

 

「いえ、その……故郷は選べません、から……」

「…………ふふ。そうですよね」

 

 少しアンニュイに笑った彼女は、エースと同郷であることをどう思っているのだろう。

 

「あいつはわたしのことを、妹みたいなものって言ってくれました。……存在そのものを肯定するような言葉だと思いませんか?」

「!」

 

 アンニュイな雰囲気のまま、彼女は苦笑した。

 

「なのにエース自身は生き急ぐようなマネばかりする。……『おれは生きてていいのかな』なんて聞いてくるような……バカです」

「えっ!?」

「わたしはあの『兄ちゃん』に生きててほしいんですがね。……イスカ少尉、あなたはどうですか?」

「……わ、わた、しは……」

 

 その質問は、クリティカルに心に刺さった気がした。

 

「海軍にいるのは、ドロウ中将(・・・・・)みたいな奴ばかりじゃない。海賊にいるのはエースみたいな奴ばかりじゃない。……自分の信じる正義を遂行したいなら、立場なんて何でもいいんです」

 

 ふわりと笑う彼女には、どこまで筒抜けなのだろう。

 

「わたしはもう、あいつに『生きろ』って散々言いました。個人的にはあなたにそれを押し付けてしまいたい」

「っ!」

 

 さっきから、イスカは言葉に詰まってばかりだ。

 

「そんな顔をしてるくらいなら……海兵としてでも海賊としてでもいいから、これからも追いかけてあげてくれませんか」

「そん、な、顔……? ……何、故」

 

 やっとのことで、イスカは言葉を絞り出す。

 

「何故私に、そんなことを言うのですか……あなたが自」

 

 皆まで言う前に首を振られた。

 

「妹の言葉なんて聞きやしない」

 

 肩をすくめて彼女は言う。

 

「あとわたしは、東の海(イーストブルー)を離れたくないんです。だからほんとにワガママな押し付けですね」

 

 ふふ、と彼女は笑った。

 

「海兵にクソがいたから良い海兵を作らなきゃ、それは素晴らしいことでしょう。でも今のあなたは、とても窮屈そうに見えます。ほんの少し後悔も見える。まあ……何をしたって後悔は生じるものなんでしょうが」

 

 なぜこの人は、こんなにも言葉を尽くすのか。

 

「……わたしには、あなたが『良い海兵』にならねばと思い詰めているのは、素晴らしい大義というよリ……ドロウ中将の犠牲、に見えます」

「っ!」

 

 心を読まれたようなことを言われてしまった。

 

「……ま、さっきも言ったように、正直全部、エースを見ててやってほしいってワガママです」

 

 言葉に詰まる。

 

「あいつ、いい奴でしょう? その上危なっかしい。あなたもきっと、良く知ってますよね」

「……」

 

 イスカは、何も言えない。

 

「ああ……うん、勝手なワガママなんで、気にしないで下さい」

 

 少し慌てたように彼女が話を締めると、バァンとドアが開いてイスカは飛び上がった。

 

「ルリ! 試験の準備が……おお? イスカ少尉、どうしたんじゃ」

「あ、クザン大将から、書類を持って行くように頼まれました」

 

 敬礼をして書類を差し出す。

 

「あいつめ! 将校を小間使いにしおって!」

 

 人のこと言える? と二人は内心で思った。

 

「そのへんに置いといてくれい。ほれ、ルリ、行くぞ」

「……はぁい……」

 

 ルリはげっそりした様子でガープ中将の後に続く。

 イスカもその後を追うようにして部屋を出た。

 ……やはり書類はきっと、山と積まれたものの一部になり果てることだろう。

 

 その日から、イスカは考えに考えた。

 

 そして。

 

 とある海軍将校が一人、マリンフォードから姿を消した。

 探し物名人が珍しく匙を投げた。

 

 

 

 しばらくの後、ポートガス・D・エースのもとに、気の置けない仲間が一人増えた。







 つづりわかんなかったので、『仲間』って意味になったりするのかなあってほうにしました。
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