----------------------------------- side : Pisco
「額に触れても宜しいでしょうか?」
〖構わないが……〗
ただ一人自分を視ることのできる新兵が、とある時から
発熱を伺われているような
〖……?〗
彼は思わず自身の額に手をやる。
そこに触れられているのは
ふふ、と新兵は笑った。
「ほら、ちゃんと繋がってます」
彼は少しぽかんとした。
……ああそうだ。
そこに寝ている自分は
彼はそれを忘れかけていた気がした。
「あなたはちゃんと生きてます。アイリッシュ准将はじめ、14支部の全員があなたを待っていますよ」
新兵は柔らかく笑ってそう言った。
〖こんな老いぼれをか〗
海賊に破れた情けない老兵を。
そう自嘲の苦笑を浮かべると、新兵はぷうっと子供のように膨れた。
……いや、十三ならば充分子供だった。
「……引退したいなら、起きてからにして下さい。老いぼれたいなら、のんびり平和に過ごす準備してからにして下さい。それに…… そう思うなら、ご自身の手でアイリッシュ准将に『支部長』を引き渡して下さい。でないとあの人、一生『支部長代理』を譲らないですよ」
怒涛のごとく詰め寄られて、ピスコ少将は気圧された。
そして一瞬ののち、二人して笑い出す。
〖手厳しい奴だ〗
「調子に乗っちゃいました。それにガープさんを見て下さい。ご老体とはああいうものでしょう?」
〖……君はもう少し、常識というものを学べ〗
新兵とのそんな和やか(?)な日々が続く中、アイリッシュ准将を始めとした『視えない』者たちは鎮痛な表情を浮かべながら訪れる。
その姿に胸を痛めると同時に、情けない顔をするなとも思い、そしてそんな顔をさせてすまないと申し訳なくもなる。
戻らねば。
しかしそうそう上手くはいかなかった。
そして新兵が新兵でなくなった頃。
「うーん。身体に飛び込んでいただけませんか?」
いつものように額に柔らかく手を当てていたルリが、まるで根性論のような発言をした。
〖……何だって?〗
自身が自身の身体にダイブする様を想像してしまい、彼は目を剥いた。何のギャグだろうか。
「いや、あの、それで戻れたって話を思い出しまして……誰もいないときにでも、試してみて下さい」
いたって真面目な顔で、少したじたじとしながら言われた。
奇妙な行動に見えることに思い至ったらしい。
〖そ、そうか……〗
「あ、あ、そうだ、もしそれで戻れたとしても、わたしが何かしたとか誰にも言わないで下さいね。アイリッシュ准将に怒られます」
ピスコはきょとりとした。ルリは目を泳がせた。
「何するか分からんから見舞いを許可しない、と言われています」
ピスコは吹き出した。
〖君は普段何をしてるんだ〗
「い、いえ……初対面で言われたので、じいちゃんのせいかと……」
まだ目が泳いでいる。ピスコは話半分に聞いておくことにした。
そしてふっと、懐かしさに苦笑する。
〖ムラサキほど活きのいい奴がいたら、基地も活気があるだろう〗
「……ほんとじいちゃん何したんです?」
〖色々とだ〗
「……」
ルリは口をひん曲げた。
くすくすとピスコは笑った。
彼女が帰って行ったあと、抵抗があるのを何とか押し殺すことに成功したピスコは、自身の身体に倒れ込んでみた。
彼はどこかくらりと目眩がしたような気がした。
とある日、病院からの知らせに基地は大騒ぎになった。
六年前のことを知らぬ若者たちはきょとんとし、それ以前から在籍する者は涙を流して喜んだ。
ルリは心が熱くなった。
あの人はこんなにも慕われているのだ。
六年も眠っていたとは思えない回復を見せた支部長は、やがて外出許可も出るようになり、車椅子で基地に現れた。
数日後、本腰を入れてアーロン一味打倒に動こうと、ピスコ少将とアイリッシュ准将を中心とした支部幹部たちの会議のもと、新しい辞令が下った。
アイリッシュ准将は支部長に。
ピスコ少将は支部参謀長に。
ルリ
彼女の聞き慣れない階級を聞いたピスコは、初め驚いた。
入隊からまだ二年と経たない上、制服を着ているだけだったために、将校だとは思っていなかった。
この『幕僚長』などという階級は、
ガープ中将曰く、
「本部に来るなら、普通に『中将』にしてやるぞ」
ということらしい。
これまでの様子からして、ルリは目立つことを嫌っている。
彼女は嵌められたと頭を抱えながらも、頑として
聞けば、休みが取れるようになってからは、最大限日数を使って両親とともに故郷に帰っているらしい。余程恋しいのだろう。
子供らしい所もあるのだなと多少安心を憶える。
こうした流れからはガープ中将の破天荒ぶりがひしひしと伝わってきた。ルリが憐れともガープ中将が性急であるとも思えるが、そこまでならば彼女には真実将校の実力があるはずだった。
「君、きちんとコートを着なさい」
本部に連れて行かれた時以外着ていないらしい。
「恐れ多いであります」
病室での態度が嘘のように、恐縮しきりの顔で敬礼する彼女に呆れを覚える。
「それでは示しがつかない。相応の精神を持ちなさい」
「……!」
どうやら琴線に触れたらしく、
「はっ!」
気合いを入れ直すように、彼女はしっかりと敬礼した。
その日から彼女は、しっかりコートを着るようになった。
支部内の役職についてはよく分からないので、この支部独自のものだと思ってあげて下さい。