海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

54 / 77
52.友だち

----------------------------------- side : friends

 

「やっほー!」

 

 毎度毎度テンションMAXで軍艦から飛び出してくるルリに、『らしくない』と皆は驚く。

 ただし、そう『らしくなさ』を見せる程皆に会うのを嬉しがっているのだと思うと、悪い気はしない。

 

 ──しないのだが。

 

「ゼロー! ヒロー!」

 

 毎回突進して抱きついてくるのには目眩がした。

 

「……こら! やめろ……! 当たる(・・・)から、当たってるから!!」

 

 ゼロとヒロが並んでいる所に飛び込んできた彼女に、ヒロが頬を染めて小声で抗議した。

 しかし彼女はぎゅうっとしがみついて、二人の肩のあたりに顔を埋めて離れようとしない。どころかすり、と小さく顔を押し付けてくるものだから、ますます始末が悪かった。

 

 ……そんな体勢なせいで、腕が挟まれるような形に──。

 

「……君は恥じらいを覚えろっ」

 

 べり、とゼロが首根っこを掴んで引き剥がす。

 

「ええ……だって久し振りじゃん……」

 

 しゅん、と眉尻を下げられて少し良心にくる、が。

 

「そういう問題じゃ──」

「あっ、ケンジー!」

 

 ゼロの抗議はみなまで聞かれず、今度はケンジが標的になった。

 

「げっ……え、ええと……よしよし……?」

 

 抱きつかれて胸の辺りに額をすり、とされたケンジは、身体を硬直させながらもルリの頭を撫でてやる。

 そうすると彼女は「えへへー」なんて嬉しそうにしながら、ますますくっついて来た。対してケンジはますます固まる。

 

 それを剥がしたのは今度はじんぺーだった。

 

「お前バカだろ」

 

 ──が。

 

「じんぺー!」

 

 当然次は彼が餌食になった。

 

「……」

 

 ぎゅうっと肩に抱きつかれて、その肩のあたりにぐりぐりと繰り返し顔をこすり付けられて、じんぺーも固まる。

 

「いいなー」

「ルリちゃん可愛くなったよなあ」

「ちょっと前まで男の子かと思ってたくらいなのに」

 

 なんて声が村のみんなから上がって、じんぺーは口角をひくひくさせながらジト目を送った。ニヤニヤが返ってきただけだった。

 

「おー、ルリ、お帰りー!」

「ルフィー!!」

 

 ルリはルフィの方に飛んで行き、開放されたじんぺーは胸を撫で下ろした。

 

 ルフィはルリより少し身長が低く、顔面がもろに埋められてしまった。

 しかしルフィはものともしなかった。

 

「なんかお前柔らかくなったな〜、ちゃんと鍛えてるか? けど身長は越されちまったなあ」

 

 ケロっとしている彼に、五人は慄いた。

 その胆力を見習いた……いや、できる気がしない。

 

「鍛えてるよ!? あとで勝負しよ!! てかこの柔いのさあ、邪魔で困ってる」

「あはは、そうなのか? 女って大変だな」

「ルフィすげえな……」

 

 ワタルの声がしてがばっとルリは顔を上げた。

 そして彼の方に駆け寄っていく。

 

「ワタルー! 着々と男前になってんなあ!」

 

 彼女はワタルの手を両方握ってぶんぶんと振り回した。

 

「……何で班長だけ扱いがまともなんだよ!!」

 

 ケンジがまるで悲鳴のように叫んだ。

 

「えっ、だってワタルはリア充じゃん。会えて嬉しくてもくっついたらだめだろ」

 

 全員頭を抱えた。

 

 八年前の不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)の件で、端町(はしまち)に住んでいたとある一家は、その所業の裏にある貴族たちの薄暗い思惑を、薄っすら察してしまった。

 それに嫌気が差した彼らは、ひっそりとフーシャ村に越してきた。

 その娘の一人はクルマ・ナタリーという。前世ワタルの恋人だった人物だった。

 彼女が思い出すことはなかったし、ワタルも無理に近づこうとはしなかったが、自然と再び付き合いだしたのだった。

 

「アオイさん! デリックさん! 見てないでこいつとめて下さいよ!!」

「うふふ、みんな反応が可愛いんだもの。でも、みんなはうちの娘が嫌い……?」

 

 ケンジの訴えにしょんぼりとそう聞き返されて、全員固まった。

 

「そ、そういう訳じゃないです、けど……」

「そこじゃねえ……そうじゃねえ……」

 

 ヒロがたじたじし、じんぺーがげっそりする。

 

「良かったわ。これからも仲良くしてあげてね」

「そ、それはもちろんなんですけど……」

 

 ゼロは苦笑いした。

 

「あ、そうだヒロ、これ」

 

 ヒロはルリから小さな巾着を渡された。

 

「あ……いつもありがとう……!」

 

 毎回ヒロだけ何かを渡されているものだから、ルリは彼に想いを寄せているのではという噂が流れていた。

 人前で渡すんじゃないと彼らが伝えたこともあるのだが、彼女はきょとりと「早く渡すにこしたことないんだからな?」と言うばかり。

 

 ふふふ、と笑って眺める彼女の両親も、恐らく勘違いしていることだろう。

 

「あ、みなさん、悪いことしない限り好きにのんびりしてていいですからね……?」

「「はっ!」」

 

 海兵たちがびしっと敬礼するのに気圧される。

 

 いつからか、彼女の帰郷には彼女の隊の軍艦が遣わされるようになった。

 彼女は少し居心地悪そうにしているものの、きちんと部下扱いするようには努めているようだった。

 

「ハッ。これ(・・)で海軍のお偉いさんっつうんだから、世も末だな」

 

 じんぺーがげっそりした様子で言う。

 

「な、何だよ……全部ガープさんの陰謀だからな……」

 

 今度はルリもげっそりとした。

 

「ばか。たびたび新聞を騒がせる『東の海(イーストブルー)幕僚長』が、ガープさんに責任を押し付けるな」

 

 ゼロが呆れたように言った。

 しかし彼女は、少し俯いた。

 

「頭では、わ、分かっては……いるつもりなんだ……ちゃんと自覚してなきゃ、まともに務まらなかったり、問題が起きたりしかねない……でもまだ、早すぎて実感が追い付かないんだよ」

 

 ふっ、と、ゼロは苦笑する。

 

「君の性格を思えば分からなくもない。……『前』だって働きに見合った自信を持ってくれなかったしな」

 

 だけど、と彼は表情を引き締めた。

 

「今の立場じゃそれは命取りになりかねない。そんな様子なら君(独り)にこの海を任せられないから、僕は海兵になるよ。自分の意志でね」

「!」

 

 ルリは瞠目した。

 そして俯く。

 

「……言っただろ、腹くくって決めたことなら、文句なんか言わない。それに……今だってお前たちにはだいたい負けるんだ。そんな奴が偉そうに、お前たちの将来に口を出せる訳がない」

 

 シモツキ村では彼女に遅れを取って見えたヒロとケンジも、今はそうでもない。刀だけを使っている訳ではないのもあるのかもしれない。

 

 ふっとゼロは苦く笑う。

 ぽん、と彼女の頭に掌を載せる。

 

「……君が心配で言ってくれてるのは、分かってるつもりだよ」

 

 ふわふわと撫でると、彼女はえへへ、と気分を持ち直したようだった。

 

 彼女が頭を撫でられるのが好きなのは、彼らには随分前からバレている。

 

 ぺかーっとした笑顔で彼女は顔をあげた。

 

「ねえ、あとで皆でどっか行こ。市で食べ歩きでも、歌うのでも、鍛錬でも、部品拾いでも、なんでもいいからさ……一緒に遊ぼ!」

 

 そんな様子に、ふふふと、彼らだけでなく、村人たちも微笑んだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。