海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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53.のんびり

「ったく、海兵になったはずが犬みたいになりやがって」

 

 じんぺーが不機嫌そうに言う。

 駄菓子屋で色々と懐かしい物買って、悦に浸ってたらこれだ。

 

「犬ってなんだよ」

「確かに。毎回飛びつかれる時、ラスキンさんとこのワンちゃんが、頭の中で強めにじゃれてくるんだよな」

 

 ケンジがなんか言ってる。

 そういやあそこのお家、でかい犬飼ってるな。

 

「なんだよ、ちっちゃい頃五人してよく飛びついて来やがったくせに」

「あれは君が無茶ばかりするから……」

「ルリが性別隠してたせいで、遠慮なんて頭になかったからね」

「……お前たち分かってて黙ってただろ」

 

 ゼロとヒロはそういう所あると思う。

 

「そんな訳ないだろう」

 

 ゼロが肩をすくめてそう言うけど、ミリも慌ててないのが余計怪しい。

 

 もぐ、とよく分かんないどぎつい色した餅みたいなのにかじりつく。あまあま。

 餅と水飴混ぜてんのかなあこれ。結構好き。

 梨味って銘打ってるのがあるのも最高。それっぽい匂いがちゃんとするし、ほんとに果汁も入ってるかもなあ。

 

「しかし、お前猫みたいだったしよ、人に抱きついたりするとは思ってなかったぜ。どういう風の吹き回しだ?」

 

 ワタルの質問に、自分でも少し考え込む。

 

「……猫、ねえ……うちのシロは別に、ツンツンした猫じゃなかっただろ」

「あの子は確かにそうだと思うけど……」

 

 ケンジが納得いかなそうな顔してる。

 けどシモツキ村の氷吉(ひよし)神社でのことがあるから、ますますよく分かってるはずだろ。

 けど、シロかあ……。

 

「いやえっと、多分そのシロに飛びつかれまくったのもあると思う」

 

 シモツキ村でのあいつの話は、他のみんなにもしてある。

 

「あと、ええと……えーとさ……最初に軍艦に乗った時にさ、また会えなくなると思ってた両親がいたから……思わず飛びついてた」

「へえ」

 

 意外そうな顔しつつも何か少し、嬉しそう……いや、楽しそう?な様子のゼロ。

 今後これをネタにからかってきたりしたら、胸に沈めてやるからな。

 

「そしたらその……ちゃんと(・・・・)甘えたことに、安心されてさ。味を占めた。正直調子に乗ってると思う」

 

 甘えたら喜んでもらえた、そして自分もほわほわする。一石二鳥では? っていう……。

 

 何だか皆吹き出しやがった。

 

「猫が犬になったのは、そういう訳だったのか」

 

 くすくす笑ってるヒロ。

 

「かぁーわいー」

 

 声音も表情も煽りでしかないケンジの腕に、ジト目でぎゅうっと絡みついてやる。

 

「ちょっお前、それはやめろって!」

「煽ってきたお前が悪い」

「タチが悪い……」

「何でこいつ女なんだよ……」

 

 ワタルとじんぺーがジト目だけど、ケンジ酷かったろ今の!?

 

「君、女の子の自覚あるか?」

 

 ゼロの苦笑ががひきつってる。

 

「あるよ! てか男の感覚忘れた! でもお前たちにイタズラするのが楽しい!」

「マジでタチ悪ぃ〜〜〜!!!」

 

 ケンジが叫んだので腕を離してやる。

 

「あと『前』、胸か尻か腿か談義みたいなので盛り上がっただろ? 尻と腿は流石にアタックするのおかしいから、胸でいってるだけだよ」

「胸もやめろ!」

「往来でする話じゃねえぇええ!!!」

 

 あははおもしろ。

 

「あ、そーだ、マキノさんとこの双子ちゃん見に行きたい」

「自由すぎる!!」

「往来嫌なんだろ?」

「小さい子のいるとこで卑猥な話する気か!?」

「んな訳ないじゃ〜ん」

「あぁ……もう……」

 

 なんてバカ話をしながら、マキノさんのバーへ。

 

「ほら、カイト、コナン、ルリお姉ちゃんよ〜」

 

 わー! 見た目もコナン君と黒羽君そっくりだ!

 ちょっと後ろ髪がハネてる方が黒羽君だな。前世ではセットしてこれなんかなと思ってたけど。

 けど名前、『新一』君じゃなくて『コナン』君の方なんだ。

 ……『カイト』君の片割れとしては『コナン』君のほうがそれっぽい、のか……?

 もし記憶があるようなら、工藤君は不貞腐れそうだな。

 

 今の所彼らは普通の二歳児でしかないから、ただだだ可愛い。

 

「ぼくコナン。おねえちゃんだれ?」

「ルリだよ。この村に住んでるんだけど、普段はお仕事で帰ってこれないんだ」

 

 ちゃんと実家は残してあるし、島に帰ったらそこで生活してる。

 断じて『引っ越した』んじゃないから! この村に住んでるから!

 

「なんのおしごとしてるの?」

「うーん。海兵だよ」

 

 帰ったらさっさと着替えたから、今は海兵スタイルじゃないんだよなあ。

 

「かいへい?」

「海賊にメッするお仕事」

「かいぞく?」

「うーん。海で好き勝手してる奴ら?」

 

 コナン君とカイト君から質問攻めにあった。

 こ、これはかの、なぜなに期というやつ……!?

 可愛いなあぁ。

 

 あっはっは、とルフィが笑った。

 

「コナンもカイトも、マキノにルリの記事読んでもらってるくせに、全然覚えてねェのな〜」

 

 ぷくうと膨れて二人はルフィを睨む。

 睨んでてもただただ可愛い。

 

「お姉ちゃん本人に聞きたいのよね〜?」

 

 マキノさんがにこにこ言うと、「うん!」と二人はこくこく頷いた。

 はあ可愛い。

 

「どっちがお兄ちゃんなんだ?」

 

 イタズラ心で聞いてみる。

 

「おれ!」「ぼく!」

 

 全く同時に返答が来てウフフと笑う。

 やっぱ譲らないよなあ。ぷうっと二人は睨み合ってるんだけど、それも可愛い。

 

「火種を撒くな」

「あでっ。だって可愛いじゃん」

 

 ぺしっとゼロに頭はたかれた。

 質問じゃなくイタズラだって、やっぱ気づかれてたらしい。

 

 親のマキノさんはただただふふふと笑ってる。心が広い。

 

 そのうちルフィによる『海賊王ごっこ』なるものが開催され、コナン君とカイト君はその手下役となり(どこか不満そうだけど)、わたしはそれを追う海兵役となった。

 ケンジたち五人はライバル海賊団にされていた。

 彼らもどこか不満そうにしてたけど、『海賊王のライバル』って、考えたらすげー奴らなんだけど。

 

 でもその内、双子ちゃん除くみんなして本気な鬼ごっこになった。

 いつの間にかギャラリーまで集まって、それぞれを応援してくれてる。

 人数的にわたしとルフィ不利だろ。

 

 でも、あはは、やっぱ、楽しいなあ。

 ほんとフーシャ村大好き。

 

----------------------------------- side : Zoro

 

「もう! なんで島の反対側で子どもたちと鬼ごっこしてるの!」

「反対だあ……? あの尖った岩が目印だろ」

「えっ……ちょっと、あんな岩、どこにでもいっぱいあるわよ!?」

 

 くいなが頭を抱えている。ゾロは首を傾げた。

 

「姉ちゃん! 鬼ごっこじゃねェようぅ! こいつおれたちを殺す気だ!」

「あぁん? お前らがおれの刀盗もうとしたから、取り返しただけだろうが」

「へえー……?」

 

 くいなにまで冷たい目で見られて、子どもたちは身をすくめる。

 

「刀は剣士の命よ。それを──」

 

 ポカン、とゾロが頭のてっぺんを叩かれた。

 

「なにをみすみす、子どもに(たましい)盗られそうになってるのよ」

「ああ? お前が来ねえから昼寝してたんだ、仕方ねえだろ」

「来るわけないでしょ! あと物盗られるような寝方……ねえ」

 

 こっそり逃げようとしていた子どもたちの前に、一瞬でくいなが現れた。

 

「ひっ」

「キミたちも悪いことしたの分かってる?」

「だ、だって……こんな所で寝てたのが悪いだろ!」

「寝てる人から物を盗るなんて、恥ずかしいわ」

「な、なんだと!」

「だって相手に勝てないから、動かない人を狙うんでしょう?」

「うっ……だ、だって相手は大人だぞ!」

「わたしもゾロも……わたしたちの友だちも、大人に負けたりしなかったわ」

「う、うそだ!」

「本当よ」

 

 くいなは刀に触れることなく、重心だけ落としてみせる。

 

「キミたちにその頃を見せることなんかできないけど──そうやって鍛えてきた技をお見舞いされたくなかったら、二度と剣士の刀を狙うんじゃないわ。寝てても気付くわよ。ゾロみたいにね」

「うぅ……」

 

 何も分からない子どもたちにも、その気迫が伝わってきた。

 体勢から、『本当にそれができる』だろう雰囲気も読み取る。

 だから。

 

「うわあぁああ!」

 

 子どもたちは逃げ出した。

 

「……まったく、ああいう子たちは面倒なのよ? ウソの通報とか平気でやるんだから」

「……じゃ」

 

 ゾロはぐーっと伸びをした。

 

「補給も済んだし、賞金首の情報も拾ったし……とっとと次の島行くか」

「……もう迷子にならないでよ?」

「なってねェよ」

 

 くいなは肩をすくめた。

 

「さて、今度はゾロも仕留められるかしら?」

「あぁン? 全部おれがとっ捕まえてやる」

「その内ルリのとこに連行したいね」

「ああ。あいつが捌ききれないくらい大勢突き出してやる」

東の海(イーストブルー)から賞金首いなくなっちゃうね」

「その頃にゃ、鷹の目探して偉大なる航路(グランドライン)だろ」

「あはは、そうだね。のんびりしてたらルリに狩られちゃう」

「あいつは海兵だからな。七武海に手は出せねェ。ざまあねェな」

「ふふっ。わたしたちが鷹の目に対峙するってなったら、ルリもどうするかわからないよ」

「まあ、そうかもな」

 

 ──駆け出しの賞金稼ぎ二人の、快進撃は続く。

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