海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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55.暗雲

「不審船は北西の方向から島に上陸するルートを航行中。最初に接触した艦との連絡が途絶えた。最悪、報告の暇なく一瞬で沈められたって可能性もある」

「な……」

 

 アイリッシュ准将の言葉に、我々は絶句した。

 幽霊船どころの話じゃなかった。

 

「まあ、問題ねえって判断して、別で見つけた何かの対応中かもしれんが……その報告がねえのはな」

「おかしい、ですね」

 

 眉をひそめる。

 途中途中声をかけ、強襲部隊の皆を北西側の集合エリアに集めていく。既に他の隊のひともちらほら集まってる。

 我々ニール班はアイリッシュ准将に着いてって櫓の上に登り、望遠鏡を覗き込んだ。

 

 かなり遠いのに見えるってことは、ガレオン船にしてもでかいなアレ……。

 

「確認のためにもう一隻向かわせた。そのやり取り次第だ」

「ああ、だから『一応』だったんですね」

 

 アイリッシュ准将にしては、曖昧な言だったもんなあ。

 

 もしあの規模の船が敵性勢力だった場合、確実にこちらはいつも以上に消耗する。甘いと言われようが仲間が傷付くのは嫌だ。

 それに、アーロンを討つって目標もあるのに……。

 いや、その前に自分たちの島すら守れなきゃ、話にならない。

 

 偵察艦が心配だ。

 

 望遠鏡の向こうを、固唾を飲んで見守る。

 

 ──偵察艦が突然消えた。

 

「!?」

「何だ今のは……!?」

 

 硬直する我々。思わず声を上げるニール。

 

「あんな一瞬で沈めるのは砲台にゃ無理だ。悪魔の実か、海の中から魚人並の何かが引きずり込んだかだ……!」

 

 アイリッシュ准将が悔しげに言う。懸念はあった。それでも送り出すしかなかった。それは、分かる。

 今望遠鏡の向こうに見えるのは、海原と大きな不審船のみ。

 ……乗ってた皆はどうなった……?

 

「これより該当船の脅威判定をイエローとする! 海上で迎え撃つのは危険だ、陸に引きつけろ!」

 

 魚人を相手にするなら海で戦ってはならない。

 それはピスコ少将が口を酸っぱくして、会議で言ってくれてることだ。

 敵を陸に上げるんなら、市民を

 

 ……え。

 

「あれは……!?」

 

 望遠鏡の向こうにちらりと視えた(・・・)ものに、心臓が跳ねる。

 黒服に、特徴的な刺青。手配書で見たことがある奴、だ。

 

「どうした」

「……よん、こう……幹部?」

 

 視たものが信じられなくて固まる。

 

「……は? ここから見えたのか?」

 

 ニールがぽかんとしている。

 

「いや、気のせいかもしれない、けど……」

 

 こんな田舎にいる意味がわからない。

 

「アイリッシュ准将! 全市民の避難誘導をお願いします! 始めは我々の隊が中心になって迎え撃ちます!」

「何言ってやがる! てめえみたいなヒヨッ子にあんなデカブツ任せられるか!」

「ヒヨッ子だからですよ! わたしでは避難経路の把握も、救援の伝手も薄すぎます!」

 

 この二年でこの街にも随分馴染んだ。それでも全市民の避難となるとスムーズな誘導は難しい。隊の皆は街に詳しくても、そのまとめ役がわたしじゃ支障が出る。

 どうかすると街だけじゃなく、島全体になるから尚更だ。

 

「ことは一刻を争うんです! 戦闘なら任せて下さい! 何のための強襲部隊ですか!」

 

 自信持てって、皆言うじゃないか。

 こんな時ばっか前に出るななんて、ナシだろ。

 

「わたし一人で迎え撃とうって言ってんじゃないんです、住民の避難終わったらちゃんと尻拭いに来て下さい!!」

「…………ははっ。尻拭い、か」

 

 アイリッシュ准将は苦々しげに笑う。

 

「本部への状況説明と救援要請は一回やります。その後はお願いします」

 

 電伝虫を一匹借りた。

 

 ……ガープさんに繋げられたらまだマシだけど、海軍はそうそう四皇相手にケンカしたくないらしいから、支部なんて切られる可能性もある、よな……。

 

「こちら東の海(イーストブルー)幕僚長、ヤシロ・ルリであります。第14支部管内──」

 

 言うだけ言って櫓を飛び降りる。

 

「頼みましたよ支部長!!」

 

 後ろは、見ない。

 

「出番だ強襲部隊!! 港を固める! 砲台・防護柵準備!」

「「ハッ!」」

 

 走る、走る。

 

「敵船襲来の可能性あり! 非戦闘員はただちに内陸に避難して下さい!」

 

 港の人々に叫ぶ。ニールたちも同じように叫びながら散って行く。広いもんね。

 

 街に、サイレンと緊急避難放送が鳴り響いた。

 ああ、後ろは安心して任せられる。

 

 砲台と防護柵を手早く設置していく。

 我々はアーロンパークを攻撃する想定で鍛えてきたから、防衛についてはそう得意でもないんだろう。

 

 だからこそ入念に。

 しっかり固めて、様子を伺う。

 

 こちらから手を出すことはしない。

 少しずつ少しずつ、正体不明の超大型帆船が近づいてくる。

 

 ──何かが、来る──。

 

 地を蹴った。

 

「ルリ幕僚長!」

「対象の敵性確定! 撃ってくるぞ!!」

 

 ドドドドンッ!!!

 

 一気に炸裂音が鳴り響くと同時。

 

ロプロプの(ダイ)網漁(モウリョウ)!!!

 

 大きく張り巡らせた縄の網に武装色を纏わせて受け止め、全てはたき落とした。

 

「砲撃はわたしが止める!! 焦らず引き付けろ!! 砲撃で牽制しつつ、上陸させて叩くんだ!!」

「「ハッ!!」」

 

 頼もしい返事をもらって、自身の緊張を押さえ付ける。

 

 敵船を睨みながら電伝虫を鳴かすと、アイリッシュ准将はすぐに出てくれた。

 

「アイリッシュ准将!! 聞こえましたか!」

『何だ』

 

 砲撃音が届いてないなら、避難は順調ってことなんだろう。

 

「撃って来ました! 確定です!!」

『……分かった。保たせろよ』

「承知!!」

 

 ……本当にあの手配書の人物なら、海賊旗も掲げず仕掛けてくるなんて、一体何がしたいってんだ……?

 

 次の砲撃を察知して、わたしはまた網を広げた。

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