「不審船は北西の方向から島に上陸するルートを航行中。最初に接触した艦との連絡が途絶えた。最悪、報告の暇なく一瞬で沈められたって可能性もある」
「な……」
アイリッシュ准将の言葉に、我々は絶句した。
幽霊船どころの話じゃなかった。
「まあ、問題ねえって判断して、別で見つけた何かの対応中かもしれんが……その報告がねえのはな」
「おかしい、ですね」
眉をひそめる。
途中途中声をかけ、強襲部隊の皆を北西側の集合エリアに集めていく。既に他の隊のひともちらほら集まってる。
我々ニール班はアイリッシュ准将に着いてって櫓の上に登り、望遠鏡を覗き込んだ。
かなり遠いのに見えるってことは、ガレオン船にしてもでかいなアレ……。
「確認のためにもう一隻向かわせた。そのやり取り次第だ」
「ああ、だから『一応』だったんですね」
アイリッシュ准将にしては、曖昧な言だったもんなあ。
もしあの規模の船が敵性勢力だった場合、確実にこちらはいつも以上に消耗する。甘いと言われようが仲間が傷付くのは嫌だ。
それに、アーロンを討つって目標もあるのに……。
いや、その前に自分たちの島すら守れなきゃ、話にならない。
偵察艦が心配だ。
望遠鏡の向こうを、固唾を飲んで見守る。
──偵察艦が突然消えた。
「!?」
「何だ今のは……!?」
硬直する我々。思わず声を上げるニール。
「あんな一瞬で沈めるのは砲台にゃ無理だ。悪魔の実か、海の中から魚人並の何かが引きずり込んだかだ……!」
アイリッシュ准将が悔しげに言う。懸念はあった。それでも送り出すしかなかった。それは、分かる。
今望遠鏡の向こうに見えるのは、海原と大きな不審船のみ。
……乗ってた皆はどうなった……?
「これより該当船の脅威判定をイエローとする! 海上で迎え撃つのは危険だ、陸に引きつけろ!」
魚人を相手にするなら海で戦ってはならない。
それはピスコ少将が口を酸っぱくして、会議で言ってくれてることだ。
敵を陸に上げるんなら、市民を
……え。
「あれは……!?」
望遠鏡の向こうにちらりと
黒服に、特徴的な刺青。手配書で見たことがある奴、だ。
「どうした」
「……よん、こう……幹部?」
視たものが信じられなくて固まる。
「……は? ここから見えたのか?」
ニールがぽかんとしている。
「いや、気のせいかもしれない、けど……」
こんな田舎にいる意味がわからない。
「アイリッシュ准将! 全市民の避難誘導をお願いします! 始めは我々の隊が中心になって迎え撃ちます!」
「何言ってやがる! てめえみたいなヒヨッ子にあんなデカブツ任せられるか!」
「ヒヨッ子だからですよ! わたしでは避難経路の把握も、救援の伝手も薄すぎます!」
この二年でこの街にも随分馴染んだ。それでも全市民の避難となるとスムーズな誘導は難しい。隊の皆は街に詳しくても、そのまとめ役がわたしじゃ支障が出る。
どうかすると街だけじゃなく、島全体になるから尚更だ。
「ことは一刻を争うんです! 戦闘なら任せて下さい! 何のための強襲部隊ですか!」
自信持てって、皆言うじゃないか。
こんな時ばっか前に出るななんて、ナシだろ。
「わたし一人で迎え撃とうって言ってんじゃないんです、住民の避難終わったらちゃんと尻拭いに来て下さい!!」
「…………ははっ。尻拭い、か」
アイリッシュ准将は苦々しげに笑う。
「本部への状況説明と救援要請は一回やります。その後はお願いします」
電伝虫を一匹借りた。
……ガープさんに繋げられたらまだマシだけど、海軍はそうそう四皇相手にケンカしたくないらしいから、支部なんて切られる可能性もある、よな……。
「こちら
言うだけ言って櫓を飛び降りる。
「頼みましたよ支部長!!」
後ろは、見ない。
「出番だ強襲部隊!! 港を固める! 砲台・防護柵準備!」
「「ハッ!」」
走る、走る。
「敵船襲来の可能性あり! 非戦闘員はただちに内陸に避難して下さい!」
港の人々に叫ぶ。ニールたちも同じように叫びながら散って行く。広いもんね。
街に、サイレンと緊急避難放送が鳴り響いた。
ああ、後ろは安心して任せられる。
砲台と防護柵を手早く設置していく。
我々はアーロンパークを攻撃する想定で鍛えてきたから、防衛についてはそう得意でもないんだろう。
だからこそ入念に。
しっかり固めて、様子を伺う。
こちらから手を出すことはしない。
少しずつ少しずつ、正体不明の超大型帆船が近づいてくる。
──何かが、来る──。
地を蹴った。
「ルリ幕僚長!」
「対象の敵性確定! 撃ってくるぞ!!」
ドドドドンッ!!!
一気に炸裂音が鳴り響くと同時。
「ロプロプの
大きく張り巡らせた縄の網に武装色を纏わせて受け止め、全てはたき落とした。
「砲撃はわたしが止める!! 焦らず引き付けろ!! 砲撃で牽制しつつ、上陸させて叩くんだ!!」
「「ハッ!!」」
頼もしい返事をもらって、自身の緊張を押さえ付ける。
敵船を睨みながら電伝虫を鳴かすと、アイリッシュ准将はすぐに出てくれた。
「アイリッシュ准将!! 聞こえましたか!」
『何だ』
砲撃音が届いてないなら、避難は順調ってことなんだろう。
「撃って来ました! 確定です!!」
『……分かった。保たせろよ』
「承知!!」
……本当にあの手配書の人物なら、海賊旗も掲げず仕掛けてくるなんて、一体何がしたいってんだ……?
次の砲撃を察知して、わたしはまた網を広げた。