海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

58 / 77
56.黒い影

 砲撃とめられる上、相手も撃ってくる、となるとそれで諦めてもよさそうなものだけど、如何せんこちらの砲撃も効いてる様子がない。

 更に、近付かれるに連れて向こうの射程範囲も広がってしまう訳で。

 

 網で捉え損ねた分は跳んで追い、それぞれ幾つかにぶった斬る。

 

朧水月!!! ──返し水月!!!

 

 ──抜刀を起点に加速していく(ストリンジェンド)

 ゼロたちと組んでドラム叩いてたんだ。リズムを取るのが板についてて、その感覚に乗るのが一番動きやすい。

 

 キンッ

 

 ──九連撃が、一つの音になる。

 砲弾は細切れになって失速し、バラバラと地面に落ちていく。

 

「速ェ……見えねェー……!」

 

 誰かの呆けた声がする。

 

「たるむな! アイリッシュ准将の見込み通り数人魚人がいる、海に引きずり込まれるなよ!!」

 

 叫ぶ。

 

「「ハッ!!」」

 

 頼もしい返事。

 

 そして──敵船が少し沖で停止した。

 

「銃士隊、行動開始!!」

「「ハッ!」」

「防護柵から無理に顔を出すなよ! まずは陸に上がらせることだ!」

「「ハッ!」」

 

 バラバラと敵船から人が飛び降りてくる。

 多分、小舟を出せば各個撃破されると判断してのことだろう。砲撃を防いでいた何者かは個人ってことだ。

 

 向こうも銃撃してきたから、斬れるだけ斬って避ける。大砲を弾き返すのも忘れない。

 

 ──何だあれ? 船上を、見聞色で、探る。

 

 ひょこりと顔を出したのは、

 

 ……ピンクの、うさぎ?

 

 それを、さっきの黒服が、弾丸から守って、る?

 

 あぁ、やっぱリあの黒服は──。

 本部には『可能性アリ』で連絡したものの、間違いになんなくてよかった。

 

 でもあのうさぎはドコの何なのか分からない。

 ミンク族? 悪魔の実? ……アクセ?

 

 黒服は雇われての乗船か? だから海賊旗を掲げてない、のか?

 

「私がいっぱい気絶させるから〜、みんなは早く探しものを見つけて来て〜」

 

 ピンクうさぎ、何をやる気だ……。

 

「何か来る!!!」

 

 警告しながら網を広げる。

 

「!?」

 

 ピンクのうさぎの、巨大な前足が飛ぶように伸びてきた。

 網で押さえたけど、こんなんで叩かれてたら『気絶』で済むのか分かったものじゃない。

 

「あ〜、防がれた〜……」

 

 足が引いていく。そしてしょぼくれた声がする。

 この場にそぐわぬ舌っ足らずな女の子の声。

 訳のわからない状況に目眩がしそうだけど、ぼんやりしてる場合じゃない。

 

「悪魔の実の能力者だ! あれもできるだけわたしがとめる! ──ロプロプの網漁(モウリョウ)!!!

 

 砲弾とうさぎの足両方とめるとなると心許ないから、網を張って左右は建物に巻きつけ、掌から切り離す。

 

 けど、歩兵に斬られるわなあ……。

 素でも普通の縄よりは丈夫になったけど、まだまだだ……。

 

 地を蹴って上に飛ぶ。

 ──ゾロが『一刀流』ってつけるのは刀三本あるからなのかなあ。

 ぼんやりと一瞬、シモツキ村で技名を叫び始めた時のことを思う。

 

「──夜白流抜刀術・月燈散華(げっとうさんげ)!!!

 

 上から突きの雨を降らせながら、敵の中に突っ込む。

 

 じいちゃんの剣術を、わたしは知らないけど。

 どっかで見てたら叩き直してくれないかな。

 

「幕僚長!?」

 

 ニールの焦った声がするけど、ちゃんと帰る目算立ててるからね。

 

「──乱れ水月!!!

 

 着地の瞬間自陣方向に地を蹴り、前方への突きを繰り返しながら帰る。

 

 べ、とニールに小さく舌を出すと、ピキッと青筋立てられた。

 ……心配ありがとうな。

 

 砲弾とウサギの足を察知したら網を張る。

 敵船が砲撃準備してる間に敵陣に切り込む。

 

 それを繰り返すけど、前線は押されていくし、少しずつ仲間も斃れていく。……くそっ。

 

 わたしのカバー範囲外に広がっちゃってた戦線に、うさぎの足が突っ込んだ。

 ……敵味方問わず倒れたんだけど!?

 

 けどほんとにただ気絶してるだけだ。誰も潰れてない。

 

 縄を伸ばして寝てる味方を絡めとって、自陣の奥に放り込む。着地が多少痛くても勘弁してね。

 

 あんな一気に無防備にされちゃたまらない。危なすぎる。

 いっそ船上に襲撃仕掛けるか……?

 

 いや、あの黒服がいる限りそんなん下策だ。多分あいつを刺激しちゃいけない。

 

「──月下微塵(げっかびじん)!!!

 

 複数の銃弾や斬撃、打撃を全部斬り払う。

 いくつかは相手の武器が壊れたようだった。

 

 縄が目立つのか、段々わたしに敵が集中してきた気がする。ウチの支部は日頃の鬼訓練の賜物で、支部にしちゃ珍しく正義コートいっぱいいるから、コートだけじゃ敵の目を引かない。

 

 これでいい、わたしは、妙な階級作られたくらいなんだ、一個部隊任されてるくらいなんだ、これくらい往なせなくて何だ!

 

 ヤケクソになりそうなのを抑えて、自分のリズムを忘れずに立ち回る。

 時にだんだん速く(アッチェレランド)、またはどんどん速く(ストリンジェンド)、そして、速く(アレグロ)速く(ヴィヴァーチェ)速く(プレスティッシモ)!!!

 

「ねえ、あの女の子すごくない? このままじゃ探し物できなそう……」

 

 船上の会話を捉える。

 さっきといい、探し物って何なんだ。

 

「……邪魔だな」

 

 嫌な予感がした。

 

「みんな退がって!!」

 

 思わず叫ぶ。

 跳んできたのはうさぎの足。網を広げて押し返す。

 

「も〜!」

 

 悔しそうな声がする。

 

 うさぎの足の影から──

 

 ブワッ

 

 と──

 

 切るような風圧。

 

うわあぁああ!!

 

 周りで、後ろで、悲鳴が上がる。次々にそれは広がる。

 赤い色とともに。

 

 黒い影が残像のように踊る。

 

 ……やめろ。

 

 赤い、もの。

 

 やめろ。

 

「──やめろおぉおおお!!!

 

 叫んだところでそいつは当然、とまらなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。