海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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57.αντίο κυανός Φεγγάρι

 仲間(みんな)を沈めていく黒服に斬りかかる。

 

 ギィインッ

 

 硬質な音がして拳骨で受け止められた。

 武装色だ。当然か。

 

「何であんたがこんな田舎(ところ)に居るんだ!!」

 

 絶叫しながら斬りかかる、そして受けられる。

 

「どこに居ようと人の勝手だろう」

 

 冷たい瞳で見下ろして、淡々と言ってくる。

 

 斬って、受けられながら、詰る。

 

「海賊旗も掲げずに航行して! プライドどこ行った!」

「ただ探しものをしに来ただけだからな。徒らに騒がせたくなかった」

 

 ……言い訳がこれなら、こいつはあの船の客人って訳でもなさそうだ。

 

「なのに、申請無しだの訳の分からないことを言って、勝手に撃ってきたのはそっちだからな」

 

 何て暴論を。

 

「それが海のルールだ!」

「政府が勝手に作った、だろう。こっちは方法も知らん」

 

 ……え。ほんとかそれ……?

 ま、まあ、海賊がわざわざ知ろうとすることもない、のか?

 って、

 

「だからこそ海賊旗掲げてろよ! こんな田舎(ところ)であんたらに殴りかかる奴なんか、いるもんか!」

 

 ばかなの!?

 

「島に上陸できんだろうが」

「交渉次第だよ! あんたらが沈めた偵察艦は、そのために居たのに!」

 

 みんな、無事で……いてくれない、かな……。

 

「……海軍が我々を受け入れる訳がない」

「だから! 交渉次第だったんだよ!」

 

 斬りかかる、受けられる。

 

「悪事を働かない約束して、武装解除して上陸するんだったら、構わなかったんだ!」

「それでは身を守れない」

四皇(あんたら)に殴りかかるバカは居ないってば! 第一、海兵(われわれ)がついて回る!」

 

 突く、避けられる。

 

「それでは探しものができない」

 

 何だよそれ。堂々巡りか。

 

「御禁制か何かか」

「……さあな」

「言えないような物かよ!!」

 

 和睦は望めないみたいだ。

 

「どーやら力尽くでお帰りいただくしかなさそうだな」

「……できるものならな」

 

 やんなきゃ『探しもの』とやらのせいで、島がひっくり返されるかもしんないんじゃん!

 

「ハァーッ!!!」

 

 技でも何でもない突きと斬撃のひとつひとつに、渾身の力を乗せる。

 だけど受けるか払われるか避けられる。

 

 敵はガープさんやルフィたちみたいな、拳骨使いらしい。

 その拳は、ずっと武装色で黒く硬化している。

 

 ……納刀のタイミングが掴めない。隙がない。

 必ずしも抜刀術にする必要はないけど、あれでリズムや流れを整えたい。やっぱり威力や速さ、次への繋ぎ方に関わる、と思う。

 だけど四の五の言ってられない。

 納刀できないってことは、わたしがまだまだだってことで、拘れる所じゃない。

 まだ足りない、んだ。

 

 地を蹴って踏み込む。

 

「──乱れ水月(すいげつ)ッ!!!

 

 連撃も捌かれるか避けられる。

 

「──ぐうっ」

 

 こちらはといえば、避け損ねて利き手側の肘の辺りを相手の拳が掠る。

 刀を握り直しつつ間合いを取る。

 

 肘が外れたりはしてない。掠り傷。

 すぐさま構えて、相手の乱打を迎え撃つ。

 

月下微塵(げっかびじん)!!!

 

 受けて、流して、

 

「っう……!」

 

 何発か食らって退がる。構える。踏み込まれる。何とか受ける──。

 

「その程度か」

「っ! まだまだァ!!」

 

 ──納刀!

 

朧水月(おぼろすいげつ)ッ!!!

 

 続いて二撃、三撃、四撃──受けられて、払われて、だけど、

 

 十一!

 

「──返し水月ッ!!!

 

 ぞわっとして退く。

 

「……フ」

 

 相手は何だかニヤリとしてて、追撃して来ない。

 

 でも、ほんの、少しだけ、手応えが──。

 

 相手の二の腕の外側に、ピッ、と、小さな傷口。

 急所には程遠い場所、だけど、ようやく。

 それでも、足りないどころじゃない。

 気を引き締めて納刀し、

 

 相手の姿が消え、て。

 

「──!!」

 

 声を上げることもできずに、自陣の脇に吹き飛んだ。

 

 多分、少し、意識がなかった。

 

 何なんだろう。こんなタイミングでこんな襲撃。

 まるでアーロンパークを攻めさせないよう、原作(正史)の修正力でも働いてるような──。

 

「ルリちゃん!!!」

 

 ジェナ、の声。

 

 ──!!

 

 げほっ

 

 よく見えない、身体が動かない、声が出ない。

 

 駄目だ離れろジェナ!!!

 

 ぼやけた視界の中で、ジェナの可愛くウェーブする金髪が風になびいて、

 

 消える。

 

 ──ッ!!!

 

「ルリ! ジェナッ!!!」

 

 ブラッドの、声。

 

「……だ、め」

 

 うまく声が出ない。

 ブラッドのサラサラな黒髪が、見えない。

 

 「ッ!!」

 

 ようやく詰まった呼吸を吐き出して、むせる。

 遅い!!! 立て! 立てよ!!!

 

 ふらふら、する。

 くそか!!!

 

「何してる幕僚長!!!」

 

 ニール、の声は、少し遠い。

 

「来るな!!!」

 

 だけど。

 

 どくん

 

 ──このままじゃ、黒服が、向こうに、行く。

 

やめろぉぉお!!!

 

 ──。

 

 ──あれ。

 

 ──全部、とまって、る?

 

 チガウ(・・・)

 

「ニール!!!」

 

 突き飛ばす。朱色のツンツンヘアが少し遠くなった。

 

「ってめェ! 何す……」

 

 どす

 

 横から鈍い衝撃。

 

 っは

 

 小さく呼吸する。

 固まってられない。

 剣を持つ相手の手を払って、蹴り飛ばす。

 

「あいつァやべェ!!! さっさと殺せ!!!」

「「オォ!」」

 

 幾つも襲い掛かってくるのを、全部避ける。

 

「何だこいつ!?」

 

 動揺が広がってるらしいのなんか、どうでもいい。

 

 一瞬先が、視える。

 見聞色の極致が、都合よく覚醒でもしたのか?

 ……なんでもいい。

 未来を変えろ、変えろ、変えろ!!

 

 ──そうだ。ここはこうやって未来を変えられる世界なんだ。

 だから原作の修正力なんてあるはずがない!

 わたしたちの頑張り次第だ!!!

 

 変えろ! 変えろ‼ 変えられるんだ!!!

 

 避けて、斬って、避けて、斬って突く、避ける、斬る、斬る、斬る!!

 

 速く(プレスティッシモ)! もっと速く(ストリンジェンド)!!!

 

「うわあぁぁぁ!!!」

 

 次々に敵の悲鳴があがる。

 ……加減できてないのは分かってる。

 斬り捨て御免。

 

 あれ。

 

 皆こんなに倒してたんだ。

 

 アイリッシュ准将の扱きに耐えてきたんだもん。

 みんな、強いんだから!

 

オオォオアア!!!

 

 雄叫びを上げて、刀を、振り抜く。

 何人か吹き飛んだ。

 

 黒服が来る!

 

「ニールゥウ!!! こいつら任せたァ!!!」

「ったりめえだろうがお前は退け!!!」

 

 そんなん聞けない。

 

 ギィイン!

 

 黒い拳を受け止める。

 

「余計な傷を負うな」

「ハッ、無茶言うな!」

 

 避ける、避ける、斬る、受けられる、避ける、突く、払われる──。

 

 わたしの突きには、ガープさん仕込みの拳骨パワーも乗ってるんだから!!

 

「──狂化水月(きょうかすいげつ)!!!

 

 ピッ、と黒服の肩に、浅い傷。

 くそ、ほんとに、まだまだだッ。

 でもまた何故かニヤリと笑われて、一瞬の間。

 

朧水月!!!

 

 あんまり、畳み掛けれないっ。

 ──四。

 

返し水月!!!!

 

 さっきと同じ場所に小さく入る。

 

 浅いなら、繰り返す!!!

 

「はは、小賢しいことをする」

「そりゃなんでもやるさ! ──狂化水月!!!

 

 くそ、完全に避けられ

 

 どくん

 

 ブラッドがジェナを支えて、退がろうとしてて、そこに、

 

 地を蹴って跳ぶ。

 

「やめろ!!」

「ルリ!?」

 

 ブラッドの死角から斬り掛かろうとしてた奴を叩き斬る。

 更にたかって来るのを打ち払う。

 

「早く逃げろ!」

「あ、あぁ!」

 

 ブラッドが歩調を速めた。

 見送る余裕はない。ただただ敵を捌く。

 

 ──あ。

 

 パァン!

 

 火薬の弾ける乾いた音のひとつが、妙に耳に響いた。

 

 ──視えてても避けきれない時はある。

 疲れか傷のせいか、振り抜いた隙がでかくなってた。

 そこに、流れ弾。

 ……そして。

 

 ドスッ

 

「……ぅぁ」

 

 撃たれた、刺された、硬直。

 

 隙を、

 

 狙われる。

 

 ドドド……

 

「幕僚長!!!」

「ッ来る゙な゙っ!!!」

 

 変な声が出た。

 

 全部が一気に引き抜かれる。

 盛大に赤が散る。

 

 げほっ

 

 口からも飛び散る。

 あぁかっこわるいなあ。

 

 仕留めたとの判断か警戒か、敵は少し引いて様子を伺っている。

 

「ルリ!!!」

 

 ニール、だから来るなってば。

 にーっと笑って見せると、彼は怯んだ。

 

「おいルリ!!! 何をやってる!!!」

 

 ああ!!

 アイリッシュ准将だ!

 

 仲間のみんなも次々に彼の名を呼ぶ。

 

 ああ、これでだいじょうぶ。

 

 アイリッシュ准将にもにーっと笑う。

 

 そして、前を向く。刀をすっと、上に掲げる。

 

我々はッ! 第14支部の信念はッ折れません!!!

 

 そうだよねルフィ。わたしたちは、海兵だけど。

 

 地を蹴る。

 

「てめえ何やってる!!! 戻れ!!!」

 

 えへへ、だって、見られたくないもん。

 

「幕僚長──!!!」

 

 ニール、来ないでね。

 

うぉおおおお!!!

 

 宙に舞い、上から突きの連撃()を──極めて強く(フォルテフォルティッシモ)!!!

 

月燈散華(げっとうさんげ)宇楽(うがく)疾風(かぜ)!!!

 

 着地点でぐるりと横薙ぎにして回転する。

 

 斬撃と剣圧で敵さんがいっぱい吹っ飛んで、そのまま突っ込んで、突きの連撃、回転、連撃、回転、連撃、回転、それから。

 

 ──覚えてない。

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