海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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4.代償

 ガープさんによるスパルタ訓練などなどを熟しつつしばらく時が過ぎ、翌年五月五日、ルフィが六歳になった。マキノさんのバーでわいわい誕生日会をした。

 我々は市で買った肉料理をプレゼントした。

 バーに他所の料理持ち込むのもどうだろと思ったんだけど、皆色々持ってきてくれるから気にしないでってマキノさんに天使の微笑みされた。可愛い。

 村の他の子どもたちのプレゼントは可愛らしい手作りの諸々がほとんどだったけど、やっぱり食べ物が多いかもしれない。ルフィらしい誕生日な気がした。

 ルフィもめちゃめちゃ喜んでた。可愛い。

 マキノさんが作ってくれたケーキが美味すぎてしあわせだった。

 

 わいわいしてるとガープさん率いる海兵たちが現れて我々とルフィは七人で凍りついた。

 まさか「誕生日祝いの鍛錬じゃ!」とか謎なこと言い出さないよね?

 

 なんてのは失礼な杞憂だった。彼らはプレゼントだと言って大量に食料を持ち込んだ。航海大丈夫なんかな? いやまあ、帰りは村で補給してくか。

 

 がっはっはと笑いながらばしばしとルフィの背を叩き「強い海兵になるんじゃぞ」と言いつつ飲み始めるガープさんと海兵たち。

 集まった大人たちもつられたように酒盛りを始めた。

 

 あはは、ルフィ、愛されてるなあ、楽しいなあ。

 

 しかし翌日酒が抜けたガープさんたちにルフィともども我々は結局しごかれた。おおん。

 

 ガープさんたちが村から帰ってってしばらくして、左の眼窩に三本の傷が走るジョリー・ロジャーが村の港に翻った。

 赤髪海賊団が訪れたんだ。

 

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 最初は村の皆も警戒してたしルフィすらガルガルしてたんだけど、まずウタという幼い少女の存在が皆の毒気を抜いた。しかもめちゃ歌うまい訳で、自然と皆黙って耳を傾けることになる。

 その周りでウタを見守る赤髪海賊団の面々も村への害意なんてないし、そもそも楽しい奴らだしで、結構すんなり受け入れられてった。

 

 そしてやはりルフィは海賊になると言い始めた。はははガープさんキレるだろうな。

 

 でもどういう訳かガープさんは村に訪れなくなって、今の所鉢合わせてない。何か海軍で大規模作戦でもやってるのかな?

 

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「お前もジジイに鍛えられてんだろ」

 

 とある日、エースがそんなことを言ってきた。

 うーん……正直に答えたら面倒そう、だけど……。

 

「誰から聞いたんだ? ガープさん最近めっきり帰って来ないけど」

「……結構前にジジイが言ってた。村のガキに骨のある奴らがいる、負けてんなよとか言ってぼこぼこにしてきやがった」

「……ははは」

 

 エースにも飛び火してたのかハハハ。

 ……すまん。

 

「エースでもぼこぼこにされるんだな……」

「当たり前だろ……けど大人になりゃ勝つ。絶対勝つ」

 

 ふんすと意気込む彼は眩しいと思う。

 思わずふふと笑っていると何だか不機嫌そうにされた。

 

「……お前、海兵になるのか?」

 

 んー、エースももう海賊目指してるのかな。

 

「その予定はないなあ……天竜人嫌いだし。出世しなけりゃ良さそうではあるけど」

 

 ガープさんが中将に留まってたのはそのへんが理由だった気がする。

 

 エースは目を丸くした。

 

「……ハッキリ言うなお前……」

「だって今エースしかいないし。……お前が天竜人シンパだったらヤバイだろうけど」

「それはねェ」

 

 即座に否定するエース。まあ、彼ならそうだよなあ。

 

 少し、沈黙が続いた。

 

「……着いて来い」

「へ?」

 

 エースぶすっとしたままなんだけど何か気に触ってシメられる……?

 身構えたら小さく溜め息つかれた。

 

「何でビビるんだよ……別に取って食いやしねェ。会わせたい奴がいる」

「……ふうん?」

 

 誰だろ、ダダンかな、もしかしてサボかな?

 ちょっとわくわくする。

 今日の漁は午後の予定だし、ゼロたちと何かするにしてもまだ時間早いし、大丈夫だろ。

 

 すたすた歩き出したエースのあとをしばらく着いてく。

 森の中は、土が剥き出しな地面も多くてそう鬱蒼としてる訳じゃなかった。とはいえ明確な道がある訳でもない。そんな中を迷い無く歩く彼はかなり慣れてるんだろう。

 

 エースがぴたりと足を止めたためそれにならう。

 木の上に誰か居そうな気配がする。

 

「ようエース、誰だそいつ?」

 

 幼い声とともに子どもが降ってきた。

 わあ、ほんとにサボだ。ミーハーにもちょっと心が踊る。

 

「毎朝剣で踊ってる奴」

「へー、こいつがか。……思ったより小せェな」

 

 まじまじと眺められた。

 

「……何を話したんだよ……」

 

 思わず顔が引きつる。

 

「別に悪い話は聞いてねェぞ? き」

 

 ガッとエースがサボの口を押さえてた。

 ええ……碌なこと言ってないってことじゃね……?

 

「余計なこと言うな」

「フガ、アァヘ!」

 

 離せって言ってそう。ジタバタ振りほどいてエースにジト目を送るサボ。

 

「……ルリだ。お前は?」

 

 知らないふりは大変だからとっとと聞いておこう。

 

「ハァ、ふう……サボだ」

 

 口を塞がれてたせいか息を整えつつ彼は答えてくれた。

 

「今日はこいつを試す」

「……ハァ?」

 

 何言ってんだエース?

 

「お前が実戦やらねェとか嘘ついてるのが悪い」

 

 ええ……?!

 

「それ言ったの随分前だろ、あの頃はほんとにほとんど」

「うるせェ行くぞ」

「ええ……」

 

 理不尽か。

 サボが何だかくすくす笑ってる。どうして。

 

 そして時々彼らのメシの調達に連れてかれるようになった。戦果分けてもらえたから有り難いっちゃ有り難いんだけど、コルボ山に篭る時間が劇的に増えてしまった。

 シャンクスやウタとももっと話してみたいんだけどなあ。

 でも彼らともそこそこ話したり歌聞いたりはできてる気もする。前世までからすると夢みたいだよね。ほんとに夢かもな。

 

 しばらくそうしてる内に不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)にも連れてかれるようになった。多少認められたのかなあ。前世までからすると信じられないことばかりだ。

 

 じんぺーたちも呼ぶことを考えなくもなかったけど、エースの人間不信を思えば駄目な気がした。

 エースたちがいなくても大丈夫そうな感じしたら別で連れてってみよう。五歳児だけじゃさすがにまだ無理そう。

 

 そんな日々がしばらく続いた。

 

 そしてとある日。

 

 気が立った熊に遭遇した。顔つきからして怖い。

 

「……! でかすぎる、おれたちじゃまだ無理だ、逃げるぞ……! あいつから目を逸らすんじゃねェぞ……! 後ろ向きで少しずつ退がるんだ……!」

 

 サボが声をひそめて言う。多分正しい対処法なんだろうな。

 実は死んだふりしちゃ駄目だっていうのをむかーしに聞いた気がする。

 

 じりじりと退がる、んだけと。

 

「おい、エース! 何止まってんだ、動けねェのか!? ビビってんじゃねェぞ!」

 

 引き続き声を抑えてサボが言う。

 

「……そんなんじゃねェ」

 

 エースの声は、冷静だった。

 

「おれは、逃げねェ。退かねェ」

「は!? 無理だっつってるだろ!?」

 

 サボが焦った声を上げる。

 

「……お前らは、逃げろ」

「何言ってんだよ……!」

 

 思わず声を上げる。

 

「ルリみてェなチビはすぐ追いつかれる。おれが足止めする」

「ばか! それじゃお前が死ぬ、寝覚めが悪すぎる!」

 

 叫ぶけど、エースはへっと笑っただけだった。

 

「……あー! もう……」

 

 サボが頭を抱えつつエースのそばに戻った。二人して鉄パイプを構えて熊と対峙する──。

 

「何してんだよ二人とも、逃げるぞっ……逃げろよばか! 一緒に……っ」

「お前が逃げろ。足手まといだからな」

 

 サボが、そんなことを言う、けど。

 

「自分で無理って言っただろ!」

「……おれは言ってねェ」

 

 エースのばかやろう。

 

「お前がいたら、だ。二人なら何とかなる」

「……っ、嘘つき!」

 

 サボもばかやろう!

 

「いいからさっさと──」

 

 熊が、ぐぉ、と鳴いて走り出した。一息に距離を詰められる。

 

 こんなの無理だ。そんなこと自分にだって分かる。

 

 それでも二人は幾度か辛うじて熊の爪を避けた。

 

 だけど。

 

「……っ、エースううう!」

 

 バラけてたサボは間に合わない。

 

 必死すぎて何をどうしたか分からない。

 

 じんぺーとケンジが作ってくれた木刀が折れたような気がする。

 

 そのあとは赤と黒だった。

 

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「……ウチじゃ手に負えねェよ!」

 

 年嵩っぽい女性の声。

 

「うるせえなんとかしろ!」

「ばか言ってんじゃないよ!」

 

 エースが怒鳴ってる。喧嘩でもしてんのかな。

 

「村の医者んとこにでも連れて行きな!」

「っ、それは……!」

「ひねくれてる場合じゃねえだろ、てめえでなんとかしな! あたしゃ知らないよ!」

 

 ……なんか、苦しい、な。

 

 てことは医者必要なのは自分か。

 村とかエース行きたくないだろう。

 自分で、行かないと。

 

「……! ルリ、ルリ、気がついたのか!? 動くなよ!? お前、酷い怪我で……!」

 

 サボの焦った声がする。

 酷い、のか。何か動けないのはそのせいか。

 

「このままじゃ傷からばい菌が入るかもしれないニー! おれたちで連れて行くか?」

「バカ言ってんじゃないよドグラ! 山賊が村なんか行ってみろ、下手したら誘拐致傷扱いされる!」

「うぅ……」

 

 迷惑かけんのは、やだなあ……。

 

「おい、動くなって!」

「……ハァ……っ、ふ……」

 

 息が、苦しい。

 

「……自分で……か、帰る……から……」

「お前っ!? 何起きてんだ!? そんな状態でガキが根性出してんじゃないよ!?」

 

 ふっ、と、笑う。

 罵ってるのに実は心配してそうなこの感じ、山賊とか言ってたし、ダダンなのかな。

 ……あれ、何か、よく見えない。

 

「エー、ス、も……山賊、も……む、村にな、んか……行け、な、い……わ、分か、る、から……」

「お、おい! ルリっ! お前まだ血も止まってねえんだぞ!?」

 

 サボが、支えてくれてる気がする。

 

「……は、は……情け、ない、なあ……」

「何言ってんだよっ」

 

 血なんか出てるなら外傷あるんだろうけど、痛みは分からない。痛み止めとか打つか塗るかしてくれてるのかもしれない。

 

「……っ! おいエース! お前は村に入らなくてもいいから、運ぶの手伝えっ! このままじゃルリ、死んじまうぞ!」

 

 サボがずっと焦ってる。

 そんな酷いのか?

 

「やっぱおれたちも行くニー!」

「バカ、見ず知らずのガキのために死にに行く気かい!?」

「見つかんねぇとこまでならいいだろっ」

 

 ああ、騒がせて申し訳ない限り。

 

 何だかよく分からないうちに、どこかで寝てた。

 

「……起きた、のか……? まだ寝てろよ、酷い熱だ」

 

 懐かしい気がする声がした。

 低くて、安心する、声。

 ……諸伏(ヒロ)

 

 随分久しぶりに聞いた気がする。

 

 ああやっぱり、ワンピの世界に生まれ直したなんて、ただの夢だったんだな。

 

 うん、なんかだるいし、熱があるなら風邪でも引いたのかもしれない。諸伏に看病されてるらしきことは謎だけど。

 

 ワンピかあ。結構楽しかったな。

 もっかい寝たら、また見れるのかな。

 ああ、すごく、眠い。

 

----------------------------------- case : Jinpei.M.

 

 夜白(やしろ)流理(るり)はそれなりにファンがいたオカルト系配信者(テラー)だった。

 

 最初はそれを生業にはしてなかったと思う。確か根っからのお人好しのせいで、あれよあれよと言う間に霊能系で売ってかざるを得なくなったんだ。実家の神社を継ぐことを決めたのも同時期だったと思う。

 ……世の中霊の存在なんてそうそう信じられねえモノだから、他の『能力者』たち同様、眉唾扱いされることも多かったようだが。

 ただ、同ジャンルの配信者たちからは『本物』だと太鼓判を押されていたらしい。

 

 そんなあいつは俺と萩原にとっては高校の同期で、(ゼロ)と諸伏にとっては大学の同期で、班長にとっては英語講師をしている恋人が受け持った生徒だった。

 警察学校で見事に知り合いが大集合してると知った時のあいつの顔は見ものだった……と思う。どうも姿かたちまでは思い出せない。

 

 ……あの日。

 俺はゴンドラに仕掛けられていたその爆弾の解体を、完了させる気になれなかった。こっち(・・・)には、爆発の3秒前に他の爆弾のヒントがパネルに表示される、なんてフザケた仕掛けが組み込まれてるらしかったからだ。

 米花中央病院。萩原が爆弾を探し当て、既に解体を完了したそこは、犯人からの謎々(出題)にも矛盾しない在り処(こたえ)ではあった。

 だがあの予告文だけじゃ情報が足りなすぎて、ゴンドラ(ここ)にあるもの以外で仕掛けられた爆弾が、その一つだけだと判断するのは早計だと思った。

 だから、ヒントを得るチャンスをみすみす潰す訳にはいかなかった。

 

 在り処さえ分かりゃ、萩原、お前が解体して決着だろーが。

 

 他のフロアでは見つかってないからもう早く解体しろとがなる、米花中央病院以外にもう存在しないと何故か慢心してやがるらしい萩原に、電池がなくなると言い捨てて切った瞬間、間髪入れずコール音が鳴る。しつこいいい加減にしろいっそヒント出るまで電源切るか、と思ったんだが、発信元として表示されたのは萩原じゃなく夜白で、俺は首を傾げた。

 思わず出ちまった後でそういえばバッテリーが心配だったのを思い出して、仕事中だと切ろうとすれば一言、「解体しろ」ときた。

 

 色々と問い詰めたいことも聞きたいこともあった。しかしやはり電池残量に余裕がなかった。だからただ「何故だ」と聞いた。「下を見ろ」と返ってきた。

 

 下なんか見たところでかなりの高度だ。ゴマ粒みたいな人々が退避していく様子しか分からない……はずだったが、こちらを見上げて佇む二人に目が吸い寄せられた。

 

 電話相手の夜白が耳にスマホを寄せる隣に零が立っていた。キャップを深く被ってようが伊達眼鏡かけてようが、遠かろうが零だと分かった。

 

『四年前、犯人の一人が亡くなっただろう。彼によると相棒さんはプライドが高いらしい。「十二時と十四時に」と書いてあるからには、本物の爆弾は二つしか仕掛けてないだろうってさ。さっき萩原が解体したのは爆竹とか花火とかクラッカーとかそういうダミーじゃないんだろう?』

 

 なんでそんな詳細に知ってんだ。……犯人の死んだ片割れに聞いただけじゃそこまで分からねえだろ。

 犯人からのFAXの中身については公安所属と思しき隣のヤツから聞いててもおかしくはねえ気はする。

 萩原の現状については……まあ、病院だしな……色々(・・)居はするんだろうが……。

 

『それに……犯人の目的は警察への復讐だろ? お前が爆発するか非難されるかが見たいんだろうから、余計な要素は入れてこないと思う』

 

 3秒前に表示されるヒントと関係しない爆弾、あるいは3秒では外に伝えられそうもない分量のヒント、などを盛り込んでしまえば、どちらにしろ爆発しただろうとなってしまう。それじゃ警察には非難どころか同情が集まるだろう。

 だから……はは。

 

「……萩原(ハギ)はしっかり『こっちの爆弾(・・)は解体した』っつった。……夜白の言う通りだろうな。俺は見事に『焦りのトラップ』にかかってたらしい」

『いや、こっちは相棒さんから聞いた情報あってこそだ。お前が慎重になるのも無理はない。……やろうとしてたことには納得しかねるがな。おら、さっさと解体して下りてこい。んで夜いつものとこで一杯やるぞ。……お疲れさん』

 

 萩原、夜白、そして──零。

 お前らの存在に──姿に、安心しちまったなんてのは、口が裂けても言わねえからな。

 

 ──ああ、そうだ。俺は──俺たちは生きた。だが──。

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