----------------------------------- side : unknown
少しは骨があるように見えた人間を見失い、しばらくして彼は船に戻った。
元々小競り合いをしに来た訳ではない。
彼らとしては、存在するかも不確かな物を探すついでに、知らぬ海を眺めに来た程度の認識だった。ただし、見咎められ攻撃されては、黙っている訳にもいかない。
しかし興味を引かれた者がいなくなったことで、彼の中で驚くほど急激に熱が冷めていった。
「あの子の周りで皆倒れたのって、覇王色の覇気?」
「そうだ。しかも味方は倒さなかった」
やっぱりあの子やばいね、と、ピンク髪のうさぎは呟く。
彼女にとっても印象深かったらしい。
「あとね〜、あの子『幕僚長』って呼ばれてたよね」
「そうだな」
「じゃあ、あの子って『探しもの名人』なんだよね?」
うさぎは首を傾げながら言う。
「男の子じゃなかったんだ」
「……新聞には名と顔しか載っていなかった。仕方ないだろう」
「どっか行っちゃったね」
うさぎは眉根を寄せた。
「……退け」
叫んだふうでもないのに、男の声は響き渡った。
彼らの味方が、一斉に船に引き上げてくる。
「あ、あそこ……」
うさぎが指を指した先には、血
「──死んだか」
「えぇー……せっかくあんまり殺さないようにしてたのに! みんな血の気多すぎよ!」
「……そもそも、お前の足はほぼあいつに防がれていただろう」
「むうぅ〜」
ピンクのうさぎは、悔しそうに膨れた。
突然引いた敵に困惑しつつ、海兵たちは怪我人の回収に奔走した。
そして血に
その持ち主は、周囲を捜索しても、港の海底を浚っても、発見することはできなかった。
数日後の世経の一面には、
『
の文字が踊った。
----------------------------------- side : Garp
「何じゃと?!」
ガープは血相を変えた。
本部に帰ってみれば、とんでもない知らせを受けた。
「何故わしに伝えんかった!!!」
「本部にいらっしゃらなかったから、でしょうか……?」
ガープは、一般兵に聞いても埒が明かないのだと気づいた。
どすどすと足音も荒く、サカズキ大将の部屋を訪ねる。
「サカズキィ!!!」
「……何じゃ、騒がしい」
彼がノックをしないのはいつものこと。
「何故ルリ幕僚長の救援要請に応じなかった!!!」
「相手は四皇じゃと言うとった。全面戦争の火種など避けねばなるまい」
ただ淡々とサカズキ大将は答えた。
「四皇じゃと!? どいつじゃ!!」
「知らん。『四皇幹部の可能性あり』とだけじゃけぇな」
ガープは眉根を寄せた。
「たったそれだけの情報で腰が引けたか」
「それだけじゃったけぇこそ、
ガープはギリ、と奥歯を噛む。
「……お前と話していても、意味はないのう」
「そりゃそうじゃろう。すぐ潰れるような
「サカズキィ!!!」
ガープは思わず、サカズキの机に音を建てて掌を落とした。
「あいつはきちんと相応の実力を持っておった! 既に並の本部中将程度では太刀打ちできん! これからだって伸びていく奴じゃった!!」
「のぼせんさんなァ!!!」
今度はサカズキ大将が立ち上がって、自身の机をぶっ叩く。
「じゃったら、ゆっくり育てんかい!!! 何故生き急がした!!!」
「っ!!」
ガープは息を詰まらせた。
「……せめて、何故わしに連絡せんかった!」
「命令違反するのが分かっとるのに、する訳ないじゃろう」
ばっさり切られる。
サカズキ大将の言はある意味正しい。
それはガープも分かっている。
しかし情を取る人間からすれば、すんなり飲み込めない。
「頭を冷やせ、ガープ」
「……あぁ、そうじゃな」
彼はゆらりとサカズキ大将の部屋を出ながら、片手で額を覆った。
----------------------------------- side : Ace
ニュース・クーがやって来て、イスカはいつものように新聞を買う。
そして固まった。
「……え」
そのまま動けずにいると、エースの右腕であるデュースが、彼女の様子が妙なのに気付いた。
「どうした、イスカ」
彼女の手にあった新聞を覗き込む。
「なっ!」
彼はイスカの手から新聞を引ったくって、血相を変えながらエースのもとへ駆け寄る。
イスカはその場にへちゃりと座り込んだ。
「エース!!! これ!!!」
エースはいつものようにマルコとサッチとじゃれていたため、三人でデュースの突きつけた新聞を覗き込んだ。
「何だよい……こりゃァ!?」
「え、これ……幼馴染ちゃん……?」
不吉な文字がでかでかと走る下には、彼女の顔のドアップな写真。
中性的な顔つきに左目の傷のインパクトが相まって、世間の人々はたいてい彼女のことを男性だと勘違いしている。
「……は?」
エースは少し遅れて小さな声をこぼした。
周りは、どす黒いオーラが立ち上っているのを幻視する。
「…………ハッ、悪い冗談だ」
「エース……」
デュースは、獰猛で忌々しげな笑みを浮かべるエースに、気遣わしげな表情を向ける。
「世経はデマしか書かねェからな……書いた奴に会ったらぶっ飛ばしてやる」
パシっと、掌に拳を打ち付けるエース。
「あいつは強ェ。
ニィッと彼は笑う。──少し引きつっているのに気づいていないのは、本人だけだった。
----------------------------------- side : friends
全員が沈黙した。
マキノは目を見開いて、掌で口を覆っている。
コナンとカイトは、きょとりとそんな人々を見つめた。
「……なあルフィ」
「……何だ」
じんぺーの声が低い。
そしてルフィの声も珍しく低い。
麦わら帽子で隠れた目元が、暗い。
「遺体はねえんだとよ。まぁた世話してやらなきゃならねえらしい」
「あぁ、そうだな」
じんぺーとルフィはニィッと笑いながら視線を合わせる。
「だから来年、お前の船に乗せてくれよ」
「あぁ、いいぞ。一人目の仲間だな」
「……俺も行きたい。乗せてくれ」
ケンジが珍しく無表情だ。
「じゃあ、ケンジも合わせて三人だ。最初から頼もしいなあ」
そんな三人を、他の面々はじっと見つめる。
「お前らは来ないのか?」
ルフィはゼロたち他の幼馴染に問いかけた。
「僕たちは海兵になる。手分けして探そう。まったく、手が掛かるね、ルリは」
ゼロの笑みと声もまた珍しく、怖い。
「オレもそうするよ」
ヒロの雰囲気は珍しいどころじゃなく、恐ろしかった。
「あはは、海兵になったお前らには会いたくねェなあ」
「大丈夫、僕たちは、それとなく
「あはは、何だそれ、面白そうだなあ」
ゼロの言にはルフィは笑うが、雰囲気は怖いままだ。
「じゃあ俺は村で留守番、だな。伝えたい人もいるし、それに多分……親御さん、帰ってくるだろうから」
ワタルは、シャンクスに皆が道を見つけたと伝える役を取った。
そしてルリの両親には、絶対に何らかのケアが必要だ。
「なあ、皆ちょっと待っててくれ」
ヒロが言って、誰の返事も待たずバーから走って出て行った。
そしてすぐに帰ってくる。
「これから先、どこに行っても何があってもオレたちは、友達だ。ルリも含めて」
テーブルの上に積まれたのは、たくさんの巾着。
霊力が切れた物は彼女に捨てさせられるので、これらはまだ力のある物たちだ。
「お前、これ……」
固まるワタルに、にこっとヒロは笑う。
「ルフィたちとオレたちなんて、見かけ上敵同士になっちゃうしさ。それにこれ、あいつに引き寄せられてくれるかもしれないだろ?」
ルリの霊力が籠もっているのだから。
「でもヒロちゃんはこれがないと」
言いかけたケンジに、にーっとヒロは笑う。
「これさ、多分、何十年分もあるよ。ルリは心配性だからさ。……オレたちならそんなに掛からず見つけるだろ?」
「……そうだな」
皆も、ニイッと笑う。
「これだって思ったものを取ってくれ」
「ああ……ありがとう」
カイトとコナンもてちてちと寄ってくる。
「こら、あなたたちは違うわよ」
「いや、いいんです。二人もルリに会いたいもんな」
マキノにふわりとヒロは笑い、カイトとコナンの頭を撫でた。
「「うん! ありがと!」」
声を揃えて片手を上げ、そしてよじよじと椅子を上る姿に、一同は少し癒された。
「これ、中開けていいのか?」
「うん。持ちやすい形でいいって言われてるからね」
ルフィの問いにヒロは頷く。
各々が徐ろに中身を検める。
「ハッ、何だこれ、あいつめちゃくちゃ給料良いな」
じんぺーは、水色の大粒な宝石が揺れる片ピアス。
「そりゃ、本部中将相当だろ?」
ケンジは、紫色の大粒な宝石が嵌まるカフスボタン。
「でも中身が全部こういうのだと目眩がしそうだよ」
「最初は小石とかで心に優しかったんだけど、こういうのの方が『強い』んだって……」
(『前』は御神木の落ちた枝から作った何か、とかだったけど、こっちには無いんだろうね……)
ゼロは、淡い青色と茶色の宝石が散りばめられた、細めのチェーンアンクレット。
「うおー……何かこそばゆいなこれ……」
ワタルは、透明な宝石の嵌った銀の指環。
「黄金の中に白い点々がある! 何だこれ!」
ルフィは、金のプレートに真珠が嵌め込まれたトップのついたチョーカー。
「首に下げるアクセサリーだよ。不思議に邪魔にならないし壊れないから、気が向いたら着けるといいよ」
ヒロはふわりと笑ったが、「ほー! 不思議輪だな!」なんてキラキラしているルフィ以外は内心で、(マジでどんな能力だよ……気まぐれで取ったのに、なんかそれぞれに妙にマッチしてるとこあるし……)などと慄いていた。
悪戦苦闘するルフィに、ヒロがくすくすしながら着けてあげている。
「よし! 誰がルリちゃん見つけるか競争だな!」
びっ、とケンジが拳を突き出す。
にっ、とみんな笑って拳を合わせた。
「「おう!」」
──内心は大嵐でも、彼らは蹲りはしない。