ナミが盗ってきてくれた檻の鍵を、犬が食った。
再びぷんぷんになったルフィが犬の首を締め上げ、慌ててじんぺーが引っぺがす。
気持ちは分かるがいじめるな、と彼が言おうとしたところで、別から諌める声が飛んできた。
声の主はブードルという町長で、犬の名がシュシュであることと、何故シュシュがずっとここで座っているのかを、教えてくれた。
ついでに怪我して寝ていたゾロを、彼の自宅のベッドに運んでくれた。
「ありがとうな、おじさん」
にこにこするケンジに、これくらい何でもないわいとブードルが言った時、
グオオオオ!!!
どでかい獣の咆哮が聞こえた。
ナミとブードルが一目散に逃げていった。
「あっはは、二人とも足速いねえ」
「何か怯えて叫んでたし、多分賢明だろ」
ケンジは二人が走り去った方向を、探して見渡すような仕草で眺め、じんぺーは肩をすくめている。
「あーあ何か来ちまったよ。鍵返せよお前ェ」
ルフィはため息をついたが、シュシュは素知らぬ顔だ。
「そう簡単に吐けやしねーよ。殴り壊すか? 檻」
じんぺーが拳をぎゅっと握って肩を回した。
「おっ。よろしくー」
ルフィはからっと笑ってじんぺーに片手を上げる。
「見つけたぜェ。まずは三人……おれは」
「待ってじんぺーちゃん、一応」
近くで何か言ってるのが居る気がしたが、ルフィの檻が最優先だ。
ケンジは星の砂を集めて、じんぺーの右手を籠手で包む。
檻はルフィが壊せないくらいの硬さだ。武装色を扱えるとはいえ、分解魔には大事な手である。用心にこしたことはない。
「サンキュ。ルフィちょい端に寄れ」
「おう」
言った瞬間じんぺーは地を蹴って、檻の上から拳骨をぶちかました。
「
バキィッ!!!
大きな音を立てて檻がひしゃげた。
「さんきゅーじんぺー!」
ルフィが元気に檻から飛び出した。
「おー」
じんぺーはひらひら手を振った。
ケンジの籠手で隠れて見えないが、彼の拳は武装色をまとって硬化し、黒くなっている。
何事か言葉を発していた部外者は、乗り
ナミとブードルも、一同からは見えないもののポカーンとしている。
「ルフィじゃなかったら、血だらけになってたな」
檻の残骸を足でつんつんしながら、苦笑してケンジが言う。
「ルフィだったから大丈夫なんじゃねえか」
「なあ、何か来た奴ってぶっとばしていいのか?」
ケロっと言うルフィに、二人はじゃれ合いを中断してルフィを見、そして珍客に気づいた。
「ん。さっきの騒音こいつかな?」
「多分? なあルフィ、コルボ山の猪と、どっちがでけえと思う?」
「猪だな。こいつ食えるのか?」
「さぁ? ライオンかこいつ? 試しに食ってみるか」
じんぺーとルフィの恐ろしい会話に、ライオンは青ざめて身を縮めた。
ライオンに乗っている者が、はっと正気を取り戻す。
「て、てめェらよくもリッチーを食材扱いしてくれたな!?」
「何だお前、へんな着ぐるみかぶって」
ルフィが悪気なく悪口を言う。
「何っ……!!! 失敬だぞ貴様ァ!! これはおれの髪の毛だ!!!」
「じゃあなおさら変だな」
「やかましいわァ!!!」
ケンジがケラケラ笑う。
「お前ら漫才で優勝できるぜ」
「組むかァ!!!」
「ツッコミの勢いは合格だな」
「お前が審査員かよ!?」
じんぺーが悪乗りすると、また相手は突っ込んだ。
「何だお前、漫才師だったのか。ぶっとばすとか言って悪かったな」
「違うわァ!!! 揃いも揃ってコケにしやがって……おれはバギー一味猛獣使いのモージだァッ!!!」
ルフィが追い打ちをかけると、モージはとうとう噴火した。
しかしケンジとじんぺーは、げんなりとジト目を向ける。
「猛獣、モージ……名前的にもやっぱ漫才師だろ」
「違うわァ!!! どうしてそうなる!!」
ケンジの言にモージは叫んだ。
「……自覚もねえのか……」
じんぺーは半笑いだ。
「だぁああガキども!!! いい加減にしろよ!! お前らはおれの怖さを知らんらしいなァ!!?」
モージの噴火は続く。
「……怖いか? アレ」
「どっちかってーと、可愛い系じゃね?」
「可愛いかあ? ケンジ趣味悪ィぞ」
「世の中には『ブサカワ』ってジャンルがあるんだぜ、ルフィ」
「何だそれ?」
コテンと首を傾げるルフィ。
「よぉしお前らそこに直れェ!!!」
「え、ヤだ」
「断る」
「じゃおれも」
「うがああああ!!!」
再び繰り広げられるコントに、遠くでナミとブードルは目を点にしていた。
「あいつら何やってんのよ……?」
しかし。
「クソガキどもがあぁあ!!! 思い知らせてやる!!! やれ!! リッチー!!!」
モージの一声でリッチーは三人に向かって地を蹴り、前足で薙ぎ払った。
ひょいっと避けるじんぺーとケンジ。しかしルフィはポケっと立ったまま。
グァオオオ!!!
ドゴオオオン!!!
ルフィは見事にぶっ飛ばされ、その先にあった民家に突っ込んだ。
哀れな民家に穴が開く。
「即死だ! おれに歯向かうからそうなる」
モージが満足そうに威張っている。
「んー。あれって掘り起こしてあげるべきかな?」
「さあ。一応見に行こうぜ」
などと呑気な声を上げるじんぺーとケンジに、モージはぽかんとする。
「お、お前ら薄情だな……本当に仲間か……?」
「あ? 何言って……」
「あー。じんぺーちゃん、早く行こ」
ケンジが遮ってきたので、じんぺーはモージを放置することにした。
二人はゴム人間のルフィの無事を確信しているが、わざわざ敵に教えてやることはない。
「ま、待て! お前ら、ロロノア・ゾロの居場所を言え」
「ハァ? 知らねえよ、どっかで寝てんだろ」
肩をすくめて振り返りもせず歩き去るじんぺーに、「やはりこいつらは仲間じゃないのか……?」と、モージは本気で悩み始めた。
そしてハッとした時には、二人の姿はもう見えなかった。
「クソが……あいつら命拾いしたな……リッチー、ロロノア・ゾロを探しに行くぞ。奴を殺して名を上げるんだ」
そしてモージは、ここがペットショップの前であることに気付いた。
──その後。
シュシュの『宝』を一つだけでも取り返して来たルフィに、ナミは少し警戒を溶かしたようだった。
そしてバギーに独り特攻しようとしたブードルを、じんぺーとケンジが慌てて引き止める。
「おじさん、ここはちょーっとだけ俺たちに任せてくれない?」
じんぺーに羽交い締めにされているブードルに、ケンジがにこっと笑いかける。
「町長だからてめえでなんとかしねえとって気持ちは、立派だぜ。だが……ウチの船長は、強ぇからよ」
後ろで不敵に笑うじんぺーを、ブードルは振り返る。
傍らではルフィが、「デカッ鼻ア!!!!」とバギーの逆鱗をぶん殴っていた。
「悪いけど、おじさんが突っ込んだら死ぬと思うぜ。そうなったら町の住民が……あとシュシュも、泣くよ?」
「!」
「だから任せてよ」
にーっと笑うケンジ。
「……何故お前たちは、無関係さながらの町にそこまでする」
暴れようと強張っていたブードルの身体から、力が抜けた。
彼は俯いている。
「んー。通りがかりの成り行きもあるけど、俺としては……シュシュが可愛かったから、かなあ」
ブードルは小さく口と目をを丸くする。
「俺はどいつもこいつもムカついたから、ぶん殴ってやりたくなった。って感じで、それぞれ何か思うとこがあんだろうよ」
「……そうか」
以降ブードルに飛び出す様子はみられなかったため、じんぺーは彼を開放した。
復活していたものの何故かバギーに吹っ飛ばされてきたモージは、反射的にケンジが飛ばした星の砂の塊が、頭に直撃して再び伸びた。
ブードルだけ避けそこねて巻き込まれ、彼もまた気絶した。
ケンジはナミとじんぺーにぶん殴られた。
そしてこの件が片付いた後、気絶した町長を見つけた町の住民が激おこに。
ルフィがぽろっとケンジの仕業と漏らしたせいで、一行は激怒した住民に追われ、逃走を余儀なくされる。
「ごっ、ごめええん! 悪気はなかったんだあああ!」
「殺気はあったな」
「じんぺーちゃんんん!? あったとしたら、あの白くまちゃんに対してだよ!?」
「名前覚えてやれよ」
青くなっているケンジを他所に、ルフィは機嫌良く笑った。
「いい町だな!」
「え?」
ナミがきょとんとする。
「町長のおっさん一人のために、みんながあんなに怒ってる! どんな言い訳してもあいつら怒るぜぇ!」
「うっううぅ……」
張本人のケンジがどん底に凹む中、シュシュの通せんぼのお陰で一行は逃げ切った。
次の無人島ではガイモンという珍獣森の番人に出会った。
そして一行がその次に辿り着くのは、ゲッコー諸島、シロップ村。
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どっちにするか迷いました。
インパクトで主に檻の天井を砕いたと思って上げてください。
多分かなり加減してるはず。