海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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62.ペット

 ナミが盗ってきてくれた檻の鍵を、犬が食った。

 再びぷんぷんになったルフィが犬の首を締め上げ、慌ててじんぺーが引っぺがす。

 気持ちは分かるがいじめるな、と彼が言おうとしたところで、別から諌める声が飛んできた。

 

 声の主はブードルという町長で、犬の名がシュシュであることと、何故シュシュがずっとここで座っているのかを、教えてくれた。

 ついでに怪我して寝ていたゾロを、彼の自宅のベッドに運んでくれた。

 

「ありがとうな、おじさん」

 

 にこにこするケンジに、これくらい何でもないわいとブードルが言った時、

 

 グオオオオ!!!

 

 どでかい獣の咆哮が聞こえた。

 ナミとブードルが一目散に逃げていった。

 

「あっはは、二人とも足速いねえ」

「何か怯えて叫んでたし、多分賢明だろ」

 

 ケンジは二人が走り去った方向を、探して見渡すような仕草で眺め、じんぺーは肩をすくめている。

 

「あーあ何か来ちまったよ。鍵返せよお前ェ」

 

 ルフィはため息をついたが、シュシュは素知らぬ顔だ。

 

「そう簡単に吐けやしねーよ。殴り壊すか? 檻」

 

 じんぺーが拳をぎゅっと握って肩を回した。

 

「おっ。よろしくー」

 

 ルフィはからっと笑ってじんぺーに片手を上げる。

 

「見つけたぜェ。まずは三人……おれは」

「待ってじんぺーちゃん、一応」

 

 近くで何か言ってるのが居る気がしたが、ルフィの檻が最優先だ。

 ケンジは星の砂を集めて、じんぺーの右手を籠手で包む。

 檻はルフィが壊せないくらいの硬さだ。武装色を扱えるとはいえ、分解魔には大事な手である。用心にこしたことはない。

 

「サンキュ。ルフィちょい端に寄れ」

「おう」

 

 言った瞬間じんぺーは地を蹴って、檻の上から拳骨をぶちかました。

 

義強拳骨(トリッキーインパクト)!!!

 

 バキィッ!!!

 

 大きな音を立てて檻がひしゃげた。

 

「さんきゅーじんぺー!」

 

 ルフィが元気に檻から飛び出した。

 

「おー」

 

 じんぺーはひらひら手を振った。

 ケンジの籠手で隠れて見えないが、彼の拳は武装色をまとって硬化し、黒くなっている。

 

 何事か言葉を発していた部外者は、乗り()と二人してがぼーんと口を開けて固まっていた。

 ナミとブードルも、一同からは見えないもののポカーンとしている。

 

「ルフィじゃなかったら、血だらけになってたな」

 

 檻の残骸を足でつんつんしながら、苦笑してケンジが言う。

 

「ルフィだったから大丈夫なんじゃねえか」

「なあ、何か来た奴ってぶっとばしていいのか?」

 

 ケロっと言うルフィに、二人はじゃれ合いを中断してルフィを見、そして珍客に気づいた。

 

「ん。さっきの騒音こいつかな?」

「多分? なあルフィ、コルボ山の猪と、どっちがでけえと思う?」

「猪だな。こいつ食えるのか?」

「さぁ? ライオンかこいつ? 試しに食ってみるか」

 

 じんぺーとルフィの恐ろしい会話に、ライオンは青ざめて身を縮めた。

 ライオンに乗っている者が、はっと正気を取り戻す。

 

「て、てめェらよくもリッチーを食材扱いしてくれたな!?」

「何だお前、へんな着ぐるみかぶって」

 

 ルフィが悪気なく悪口を言う。

 

「何っ……!!! 失敬だぞ貴様ァ!! これはおれの髪の毛だ!!!」

「じゃあなおさら変だな」

「やかましいわァ!!!」

 

 ケンジがケラケラ笑う。

 

「お前ら漫才で優勝できるぜ」

「組むかァ!!!」

「ツッコミの勢いは合格だな」

「お前が審査員かよ!?」

 

 じんぺーが悪乗りすると、また相手は突っ込んだ。

 

「何だお前、漫才師だったのか。ぶっとばすとか言って悪かったな」

「違うわァ!!! 揃いも揃ってコケにしやがって……おれはバギー一味猛獣使いのモージだァッ!!!」

 

 ルフィが追い打ちをかけると、モージはとうとう噴火した。

 

 しかしケンジとじんぺーは、げんなりとジト目を向ける。

 

「猛獣、モージ……名前的にもやっぱ漫才師だろ」

「違うわァ!!! どうしてそうなる!!」

 

 ケンジの言にモージは叫んだ。

 

「……自覚もねえのか……」

 

 じんぺーは半笑いだ。

 

「だぁああガキども!!! いい加減にしろよ!! お前らはおれの怖さを知らんらしいなァ!!?」

 

 モージの噴火は続く。

 

「……怖いか? アレ」

「どっちかってーと、可愛い系じゃね?」

「可愛いかあ? ケンジ趣味悪ィぞ」

「世の中には『ブサカワ』ってジャンルがあるんだぜ、ルフィ」

「何だそれ?」

 

 コテンと首を傾げるルフィ。

 

「よぉしお前らそこに直れェ!!!」

「え、ヤだ」

「断る」

「じゃおれも」

「うがああああ!!!」

 

 再び繰り広げられるコントに、遠くでナミとブードルは目を点にしていた。

 

「あいつら何やってんのよ……?」

 

 しかし。

 

「クソガキどもがあぁあ!!! 思い知らせてやる!!! やれ!! リッチー!!!」

 

 モージの一声でリッチーは三人に向かって地を蹴り、前足で薙ぎ払った。

 ひょいっと避けるじんぺーとケンジ。しかしルフィはポケっと立ったまま。

 

 グァオオオ!!!

 

 ドゴオオオン!!!

 

 ルフィは見事にぶっ飛ばされ、その先にあった民家に突っ込んだ。

 哀れな民家に穴が開く。

 

「即死だ! おれに歯向かうからそうなる」

 

 モージが満足そうに威張っている。

 

「んー。あれって掘り起こしてあげるべきかな?」

「さあ。一応見に行こうぜ」

 

 などと呑気な声を上げるじんぺーとケンジに、モージはぽかんとする。

 

「お、お前ら薄情だな……本当に仲間か……?」

「あ? 何言って……」

「あー。じんぺーちゃん、早く行こ」

 

 ケンジが遮ってきたので、じんぺーはモージを放置することにした。

 二人はゴム人間のルフィの無事を確信しているが、わざわざ敵に教えてやることはない。

 

「ま、待て! お前ら、ロロノア・ゾロの居場所を言え」

「ハァ? 知らねえよ、どっかで寝てんだろ」

 

 肩をすくめて振り返りもせず歩き去るじんぺーに、「やはりこいつらは仲間じゃないのか……?」と、モージは本気で悩み始めた。

 そしてハッとした時には、二人の姿はもう見えなかった。

 

「クソが……あいつら命拾いしたな……リッチー、ロロノア・ゾロを探しに行くぞ。奴を殺して名を上げるんだ」

 

 そしてモージは、ここがペットショップの前であることに気付いた。

 

 ──その後。

 

 シュシュの『宝』を一つだけでも取り返して来たルフィに、ナミは少し警戒を溶かしたようだった。

 そしてバギーに独り特攻しようとしたブードルを、じんぺーとケンジが慌てて引き止める。

 

「おじさん、ここはちょーっとだけ俺たちに任せてくれない?」

 

 じんぺーに羽交い締めにされているブードルに、ケンジがにこっと笑いかける。

 

「町長だからてめえでなんとかしねえとって気持ちは、立派だぜ。だが……ウチの船長は、強ぇからよ」

 

 後ろで不敵に笑うじんぺーを、ブードルは振り返る。

 傍らではルフィが、「デカッ鼻ア!!!!」とバギーの逆鱗をぶん殴っていた。

 

「悪いけど、おじさんが突っ込んだら死ぬと思うぜ。そうなったら町の住民が……あとシュシュも、泣くよ?」

「!」

「だから任せてよ」

 

 にーっと笑うケンジ。

 

「……何故お前たちは、無関係さながらの町にそこまでする」

 

 暴れようと強張っていたブードルの身体から、力が抜けた。

 彼は俯いている。

 

「んー。通りがかりの成り行きもあるけど、俺としては……シュシュが可愛かったから、かなあ」

 

 ブードルは小さく口と目をを丸くする。

 

「俺はどいつもこいつもムカついたから、ぶん殴ってやりたくなった。って感じで、それぞれ何か思うとこがあんだろうよ」

「……そうか」

 

 以降ブードルに飛び出す様子はみられなかったため、じんぺーは彼を開放した。

 

 復活していたものの何故かバギーに吹っ飛ばされてきたモージは、反射的にケンジが飛ばした星の砂の塊が、頭に直撃して再び伸びた。

 ブードルだけ避けそこねて巻き込まれ、彼もまた気絶した。

 ケンジはナミとじんぺーにぶん殴られた。

 

 そしてこの件が片付いた後、気絶した町長を見つけた町の住民が激おこに。

 ルフィがぽろっとケンジの仕業と漏らしたせいで、一行は激怒した住民に追われ、逃走を余儀なくされる。

 

「ごっ、ごめええん! 悪気はなかったんだあああ!」

「殺気はあったな」

「じんぺーちゃんんん!? あったとしたら、あの白くまちゃんに対してだよ!?」

「名前覚えてやれよ」

 

 青くなっているケンジを他所に、ルフィは機嫌良く笑った。

 

「いい町だな!」

「え?」

 

 ナミがきょとんとする。

 

「町長のおっさん一人のために、みんながあんなに怒ってる! どんな言い訳してもあいつら怒るぜぇ!」

「うっううぅ……」

 

 張本人のケンジがどん底に凹む中、シュシュの通せんぼのお陰で一行は逃げ切った。

 

 次の無人島ではガイモンという珍獣森の番人に出会った。

 

 そして一行がその次に辿り着くのは、ゲッコー諸島、シロップ村。







拳骨(衝突)(インパクト)唐竹割(ディバイド)
 どっちにするか迷いました。
 インパクトで主に檻の天井を砕いたと思って上げてください。
 多分かなり加減してるはず。



 萩原さん(ケンジ)はシュシュの『大事なもの』をぶっ壊したモージが大嫌いになりました。にしてもやらかし。
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