海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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64.親玉

 ゾロは様子を覗うことにした。

 四年ぶりに再会した、刀を持たないケンジ。

 得体の知れないじんぺー。

 二人が実力者であることは薄々感じ取っていた。しかし何を思ってか、二人は一歩引いた所から一味を見守っているように見えた。

 そのため手の内が測れない。

 

 だからこその、お手並み拝見。

 

 珍しく自ら前に出ていった二人を、ゾロは少し引いて雑魚共*1を斬り飛ばしながら、気取られぬようにして探っていた。

 

「温まってんなあ、じんぺーちゃん?」

「あ?」

 

 ハート型サングラスなんていう、テンションの高いアイテムを掛けた男を、じんぺーは集中的に狙っていた。

 

「ウソップ差し置いて独りで特攻する、なんてさ」

 

 ウソップは怪我を負ってはいたが、これは彼の戦いだ。余所者が前のめりになるのは、色んな意味で危うい。

 

「イカしたグラサンに嫉妬でもした?」

 

 じんぺーにハートサングラスは似合いそうにない。

 じんぺーは小さく舌打ちした。

 

「バァーカ」

 

 じんぺーは横から襲い掛かってきた名も無き敵の、横っ面を殴り飛ばした。歯が飛び血が舞う。

 

「あいつに前衛は向いてねえ。適材適所だ」

「なるほど〜?」

 

 ケンジはちらりとだけウソップの方を伺う。彼の手にはパチンコが握られていた。

 心許ない気がしなくもなかったが、この世界のことである。侮れたものではない。

 

「おい、楽しくお喋りするな! ナメてんのか!?」

 

 ハートサングラスの男──1・2のジャンゴが怒鳴る。

 じんぺーは拳を交えながらニイッと笑った。

 

「ハッ、そんな腫れた顔で何言ってんだ。俺に一撃も入れられてねー癖によ」

「うるせェ! てかお前ッ、何でチャクラムと殴り合える!?」

 

 ジャンゴが仲間の只中まで押し戻された原因だった。

 

「グローブが特別製なんだよ」

 

 その実彼の黒い指貫きグローブは、見た目通りの量産品。

 

 ──違う、とゾロは思った。

 彼はあの頃、見えないものをルリに散々斬らされた。

 そのせいか目に見えずとも、じんぺーの拳の周囲に妙な力の流れを感じる。

 

「んな訳あるか! いや……薄いメリケンサックでも仕込んでんのか……!?」

「……まあ、似たようなもんか」

 

 彼は拳全体でなく、グローブに隠れた部分──ちょうどメリケンサックを装備しそうなあたり──にだけ、器用に武装色の覇気をまとっている。

 

「クソ! お前らみたいな呑気なお子様は、まだまだおねんねの時間だろうが!」

 

 日は、昇ったばかり。

 

「……ハァ?」

 

 今はこちらに圧倒されているような相手が、寝ろ(沈め)と言っている?

 じんぺーは何か手があるのだろうと、一応警戒しながらも、変わらず殴り続ける。

 

「くそ! やめろ、やーめろって、ストップ!」

「敵に止まれなんて言われて、聞くやつがどこに居る」

 

 そんな時である。

 

 ズドドドド!

 

 雑魚共が悲鳴を上げながら吹き飛んできた。

 すり抜けた者たちの全ては、ゾロが堰き止めていた訳だが──。

 

「ウソップこの野郎!!! 北ってどっちかちゃんと言っとけェ!!!」

 

 ルフィの到着だった。

 

「遅ェぞ船長」

 

 言いながらもゾロは隣で不敵に笑っている。

 

「すまん!」

 

 素直に謝るルフィだった。

 

「いや、ゾロも最初南西に突っ走っただろ?」

 

 クスクス笑うケンジ。

 ゾロは口をひん曲げた。

 

「さあて、我らが船長のお出ましだ。親玉は譲るぜ」

「なっ!?」

 

 じんぺーの言にジャンゴは青筋を浮かべる。

 

「おれはお前にムカついてんだ! 逃がすかよ!」

「へえ?」

 

 じんぺーはにやりと笑う。

 

「やたら目立つとは思ったが、やっぱ親玉はお前か」

 

 じんぺーは本当の首謀者が誰かを聞いている。

 そいつの周到っぷりから、この場の統率者が敵前に姿を現しているのか、一応怪しんでいた。しかしジャンゴのこの、思わずの発言は彼がそうである信憑性を上げる。

 

「さっさと潰さねえとな?」

 

 ニヤリと笑って、自身の拳と拳を打ち付ける。

 

 そのまま彼は一歩弾んで間合いを取ると、そこから助走代わりに宙へと跳んだ。

 ただし、相手は覇気を使っている様子のない人間たちだから、自身も覇気は使わない。

 

義強(トリッキー)──」

 

 降下しながら、勢いを乗せて、力強く、声を張る。

 

拳骨(インパクト)!!!

「ぎゃああああ!!?」

 

 ジャンゴを含め敵たちが、悲鳴を上げて吹き飛んでいく。

 

「ルフィのパンチはこんなもんじゃねえからな」

 

 薄く砂煙が舞う中、じんぺーはニヤリと笑う。

 

 それは嘘でも冗談でも謙遜でもなかった。

 覇気なしではルフィと彼らは拮抗する。五分五分だった。

 悪魔の実の能力の有無や、この時期の一歳差はかなり大きい、というのもありはするだろう。

 しかし前世生きた数十年分の経験等、という大きなアドバンテージが、ルフィの前ではしばしば薄れて感じられる。

 

 だから彼らのルフィへの信頼は、その身体能力にもきちんと向けられていた。

 

(……覇気を皆に伝えるかは──どうしても慎重になる)

 

 彼らは自分たちで覇気の存在に気付いてしまった。

 同時に、日常には過剰だとも感じた。

 加えて、これに頼ると素の身体能力を伸ばす邪魔になるとも。

 

(シャンクスやガープさんが子供たちに教えなかったのも、何か理由があるはずだ)

 

 更には、ルリが「東の海(イーストブルー)は最弱の海って言われてるから、無闇に使うと均衡が崩れるかも」と言っていたこと。

 つまり、人目に付けばじんぺーたちのように、自ら気付く者も出てくるかもしれない、ということだ。

 

 ──吹き飛んだ先で、巻き込まれなかった者たちが尻込みして硬直する中、ジャンゴが鈍く震えながら懸命に立ち上がる。

 

「クソッ! ナメやがって!!」

 

 彼は紐をつまんでチャクラムを垂らした。

 

「さァ、この輪をじっと見ろ……!!」

 

 ジャンゴは周囲の仲間に呼びかける。

 

ワン・ツー・ジャンゴでお前らは強くなる」

 

 そして──

 

うおああああ────っ!!!!

「お前も催眠にかかってんのかァ!!!!」

 

 そのゾロのツッコミは、敵味方問わずこの場の誰もが絶叫したいものだった。

*1
※ゾロたちにとっては







義強(トリッキー)
 なかなかイメージに合う漢字が見当たりません。
 もしいつの間にか変わってたら、ひっそり許してあげて下さい(コラ)。
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