ルフィがいとも容易くもぎ取った
「うおおああああ──!!!」
「うぎゃああぁあ──!!!」
なんとも愛らしいクロネコの
「……ハハ。なんとか間に合ってよかったぜ……」
乾いた笑いを浮かべながら、じんぺーはぽつりと言った。
敵陣の奥に潜り込んでいたケンジとじんぺーは、ルフィの咆哮が聞こえた瞬間、一目散にウソップとナミの居る所まで走った。ゾロも無意識に退がっていた。
「催眠だか何だか知らねェが、アレがルフィのフルパワーってことか……?」
ゾロの頬が引きつっている。
「どうかなあ?」
ケンジは苦笑する。
「ルフィは例えば何か失敗したとして、気付いた時には克服してるから……ほら、『男子三日会わざれば刮目して見よ』って言うだろ。ルフィ程それにピッタリな奴はいねえと思うぜ」
つまりは
退避中に暴走するルフィとすれ違っている三人は、背筋が凍る思いだった。
「いや、ほら……あの催眠野郎、『強くなる』って、言ってただろ……?」
ウソップも引きつった顔をしている。
「あは、分かんねーんだってば」
「……ハ、ハハハ」
岸壁に叩きつけられ、あるいは遠くに飛ばされて、白目を剥く海賊たち。
結構な距離があるにも関わらず、五人がいる方向へも、被害者の身体が飛んでくる。
「きゃああ!!」
「おっと」
じんぺーとゾロは無慈悲に蹴り返し、ケンジはナミとウソップの前に星の砂で壁を作った。
「あ、ありがと!」
ナミの頬が引きつっているのは、伸びて飛んでくる海賊たちではなく、ルフィのせいである。
「ね、ねえ……あれってさ、海賊たちが全員伸びたら、わたしたちも危ないんじゃない……?」
「……逃げるか」
じんぺーが遠い目をしながらあっさり言った。
「お、おれは逃げねェ……村がアイツに襲われちまう……」
青くなって言うウソップの脚が、まるで高速で揺さぶられているかのように震えている。
最恐の脅威は味方だった。
ははっと、じんぺーは楽しげに笑った。
「いいねえ。逃げんのやーめた。さあて、どーやってあのハジけきったゴムをとっ捕まえる」
ぱしんと手のひらに拳を打つじんぺー。
「……あいつ、刀じゃあ斬れちまうんだよな?」
と言いつつ、しまっていた刀の柄に手を掛けるゾロ。
「あいつに弾は効かねェよな……」
ウソップは相変わらず震えている。
「わ、わたしは絶対近づけないわよ!! あんなの!!」
ナミはぶんぶんと首を振っている。
「んー。砂に埋めちゃう? いや、あの様子じゃすぐ破壊されるかもなあ」
ケンジは考え込んだ。
──その時。
「ワン」
「ツー」
「ジャンゴ!!!」
くかー。
「ぎゃあぁぁ──!!!」
憐れな海賊たちが散り散りに逃げ惑い、幾人かは下敷きになった。
片やゴム人間のルフィは、何の支障もなく気持ち良さそうに眠り込んでいる。
「……はは」
味方の(はずの)五人は、ただただ引きつっていた。
「敵の敵は……いや敵だわ」
肩をすくめたじんぺーは、そのまま拳を構える。
「さすがはリーダーってところか、倒れないねえ」
ジャンゴと、その周りで少数残った敵たちを、ケンジは見渡すようにして眺めた。
そして真の首謀者が現れ、幹部らしき数人も登場する。
しかし、色々とあったものの、制圧に然程時間はかからなかった。
「あー、何か暴れ足りねェ」
「充分暴れまわったでしょ!!!!」
ふんすと鼻を鳴らすルフィに、ナミが力の限り突っ込んでいた。
「でも腹は減ったな。肉食おうぜ肉」
「んだねえ。食堂もう空いてるかなあ」
ぐーっと伸びをするケンジ。
そして。
「おれは……」
「ウソップさん」
もう仲間だと言うルフィに、さっさと乗れと言うゾロに、しかし村を守らなければと言うウソップ。
カヤが、そんなウソップにしっかりと目を合わせ、真剣に言った。
「あなたに夢を諦めてまで守ってもらわなきゃいけないほど、私たちは弱くありません」
「カヤ……!」
にこっとカヤは笑った。
「クラハドールが、わざわざ使用人全員に休みを取らせたのは、皆いると村を襲えないからです」
「それは……」
面倒、なだけだったのでは、なんて言うのは、きっと驕りだ。
「だから、あなたも夢を叶えて下さい。私にも夢があるんです。一緒に頑張りましょう」
「……!!」
ここまで言われて、引き下がる男ではなかった。
「……おう!!!!」
そしてウソップ海賊団は解散し、荷物で家を壊したウソップは、ゴーイングメリー号に合流した。
「やったー! 毎日風呂入れるー!」
喜んで小躍りさえするケンジに、数日おきで充分な面々はこてりと首を傾げる。
「うふふ、ほんと、素敵な船をもらっちゃったわね」
嬉しそうに言うナミに、今度は全員が思いきり頷いた。
----------------------------------- in Marineford
時は一年ほど前に遡る。
ゼロとヒロが海軍本部に向かったのは、ルリが生死不明となってすぐのことだった。
そしてガープによって、真っ先にその実力を測られる。
何故か人払いをされた。その思惑は不明でも、二人は少し安心する。
今ばかりは二人とも、手の内を隠す気はなかったからだ。
結果、幼さ故にか『重さ』の欠如はあれど──。
ガープは、笑った口の端が引きつっているのを自覚する。
「お前が子供じゃなければ、ワシは死んでいたかもしれんのう……」
「ご冗談を。それに……僕が何だろうと、誰も殺す気なんてありません。殺意を演じるのは得意ですが」
ガープはゼロに腕を引かれながら立ち上がる。
手加減と、無意識の油断が大いにあったとはいえ、己が仕込んだ拳でこうも詰められるとは。
「その『演技』は、どこで覚えた。いくらあのゴミ山に通おうと、そんな『目』はできん」
ゼロは、ふっと目を細めて笑った。
あのお転婆の捜索にかかる時間は、短い方がいい。
大事な友人のためなら、形振りなど構わない。
「僕
特にとある組織の
完全な潰滅は実現しなかったものの、最終的にはほとんどの力を削ぐことができたのだから、任務は成功と言えただろう。
そしてその後も、内勤や作業班を勤めた時期もあれど、公安に留まり、いくつかの潜入任務をこなした。
「だから当時は、様々な闇に、どっぷり浸かっていたんです。……ただ」
陰鬱の影が差していたゼロの目に、光が戻る。
「どうも今のこの現実とは、色々と噛み合わない世界のようでした。尚更、妄想と言われて当然です。だから、この世界でもその経験が通用する、なんて胸を張るつもりはありません。ですが──」
ギラ、と、その光が剣呑なものに変わる。
「全く何も知らない子供、だとは、あまり思わないで下さい」
少しの間、ガープは真顔でゼロの目をじっと見つめる。
そしてやがて、彼はふ、と笑った。
「別の人間として生きた記憶、か……」
何かあるだろうと人払いをしたのは、ガープである。
どう扱われるかと、固唾を飲む二人。
「悪魔の実が転生するんじゃ。なら、人間がせんとは言い切れんじゃろう」
ガープはふと、ルリが夢で剣術を習ったと言っていたのを思い出した。
前世も夢も、証明のし様もないこと。
しかしこの世には、そうでもなければ出処が分からないことがあるらしい。それもこうして、複数の実例を目にしてまでいる。
鵜呑みにしないまでも、否定もできない。
二人は胸を撫で下ろしていた。ただ慎重の姿勢を完全には捨てず、ガープの様子を覗う。
「むしろ合点もいく。お前たちはちと、子供らしくなさすぎるからのう」
ゼロとヒロは思わず顔を見合わせた。
彼らはガープの常識を狂わせたと思っていたが、もしかしたらあれは、ルフィの特訓を始める言い訳に使われただけかもしれない。
「あの、ガープさん。悪魔の実が転生するって、どういうことですか?」
「ああ……まだ詳細が分かっとる訳ではないがのう」
ヒロの問いに、ガープは記憶を探るようにして視線を上に遣る。
彼の口から簡潔に語られたことは。
そして二人の頭に一瞬過ぎる不安。
──もし、新しくロプロプの実の能力者が現れたら──
しかし二人はすぐにその考えを振り払う。
「ともかくじゃ。お前たちが望むのは、結局、ルリの捜索じゃろう」
「……はい」
「でも、海兵としての仕事を、疎かにする気はありません」
引き締まった表情でヒロが言う。隣でゼロも同じ顔をしていた。
ふ、とガープは笑う。
「お前たちの生真面目さは、よく知っておる。……じゃがな」
ガープは目を伏せた。
「先を急ぎ過ぎれば、すぐに潰れかねん」
サカズキの言ったことは教訓として、しっかりガープの中に抱かれていた。
二人の実力は、消えてしまったルリを遥かに凌駕する。それはよく分かった。それでも世を甘く見てはならない。
しかし。
「……海兵というのは、入隊した時から命懸けでしょう」
「!」
ゼロの言に、ガープは目を丸くする。
「……はは」
小さく笑い始めて、そして。
「ぶわーっはっはっは! そりゃそうじゃ」
赤犬に言われたことは図星だ。忘れる気もない。
しかし尻込みだけしていれば──
「じゃが、お前たちの身体が子供なのは事実じゃ。それを埋められるとは思えん」
ぐ、と二人は唇を噛む。
それはよくよく自覚していた。
二人は既に前世の己の身長を超えている。しかしだからこそ、この世界には、上には上、どころではない領域が存在することを、ヒリヒリする程に感じていた。
この海軍本部でも、ガープ並どころかそれ以上の体格を持つ者を、嫌というほど目にする。
「……
もどかしさに表情を暗くしていた二人は、思わず顔を上げた。
「同じ相手に対して、既に持ち上がっている計画はある。ワシも、お前たちがそこに加われるよう、計らうくらいならできるじゃろう」
「!」
二人は目を丸くした。
ガープはふっと笑った。
「お前たちの気質を考えても、そこに居たほうが本来の力を発揮できるじゃろうからな」
ぐっと、二人の目に力が戻った。
「ありがとうございます!」
真剣な表情で敬礼する二人。
当然かもしれないが、それはルリのはじめの頃より凛々しく、既に様になっていた。
「じゃからそれまで、振り落とされんよう、一層気を引き締めて鍛えるんじゃ!」
「「はい!」」
『厳しい上官』の顔と声で叱咤するガープに、二人は再び力強い敬礼を返した。
✦ウソップとカヤのやりとり
第14支部の壊滅で無法者がはっちゃけてるせいです。