船が大きくなったお陰で伸び伸び筋トレできる、と、張り合うように鍛錬に励むゾロ、ケンジ、じんぺー。
ルフィも真似し始めたが、大振りしすぎて船を壊しそうになり、ナミの拳骨を食らう。
「ゴフゥッ!!? お、おれ、ゴムなのに……」
ルフィが珍しく慄いている。
(そーいやガープさん、弾性無視は『家族の愛ある拳じゃ!』って言ってた気がする。ナミちゃん、もうルフィのこと信頼してくれてんのかなあ)
ケンジはこっそり微笑んだ。
多少拗ねた様子に見えたルフィだったが、いつの間にか黒い布を甲板に広げていた。
何をしでかすのだろうと、皆はちらほらルフィの周りに集まる。
そして、ルフィ画伯のジョリー・ロジャーは、一同を地獄に導いた。
「これはこれで、圧があっていい、のか……?」
「馬鹿野郎、入れてくれる島がなくなるぞ……」
ケンジとじんぺーが引きつりながら呟いた。
結局キレイに描き上げたのはウソップだった。
ひゅうっとケンジが口笛を吹く。
「ウソップやるねぇ」
「うん! 上手いっ!」
ナミも手放しで褒める。
皆大絶賛だった。
「そーいやケンジ、なんでじんぺーとナミは『ちゃん』付けなんだ?」
己が名を呼ばれたためか、ウソップが小さく首を傾げる。
じんぺーとナミの共通点は想像できなかった。
「んー? んー。じんぺーちゃんは付き合い長いし、ナミちゃんは呼び捨てにする気が起きないしなあ」
「んん、じんぺーとおれは、あんま変わんねェよな?」
ルフィが会話に参加した。
「ルフィちゃんって呼ばれたい?」
「何でもいいぞ!」
「おー、そっか」
誰もに『ちゃん』を付けて呼ぶ彼がルフィに付けていなかったのは、記憶が戻る前、周りの子供たちと一緒にそう呼んでいたからだった。特に拘りがある訳ではない。
「あとゾロにはさ、ものすごい顔で睨まれたんだよね」
ケンジはシモツキ村での出会いを思って目を泳がせた。ゾロは小さくフンと鼻を鳴らす。
「おれは?」
ウソップはまた小さく首を傾げている。
「……ウソちゃんって呼ばれたい?」
「そこはウソップちゃんじゃねェのかよ」
ウソップはビシッと突っ込んだ。
「まあ、おれも別に何でもいいぞ?」
「そーなの? ちょい気になってたんだけど、ウソちゃんが気にならないならいっか」
「だからよ」
またウソップはズビシッと突っ込んだが、恐らく変わらないことだろう。
その後もウソップが諸々手腕を発揮し、ナミが知識を活かし、ヨサクとジョニーが一味に合流する。
そして一同は二人の提案で、海上レストラン・バラティエに向かうのだった。
----------------------------------- side : Fullbody
フルボディは目的の海上レストランを前に、思わず笑みを浮かべた。
(さて今日は何を食べようか)
きゅっとネクタイを少しだけ締め直し、背筋を伸ばす。
(サンジ君は元気だろうか)
頬がニコニコ緩みそうになるのを抑えて、自身の頬をぺちりと小さく張った。気が緩み過ぎである。
彼は転生者だ。
環境と自身の名前と外見に、まさかと慎重に生きてみれば、該当キャラに成り代わってしまったと判断するに至った。
前世の彼自身の晩年については曖昧で、そのためか物語の結末の記憶はない。
ただ、主人公陣営が好きで、敵対勢力に腹を立て、ただし相手を見直すこともあり、とカジュアルに楽しんでいた記憶はあった。
言わば、麦わらの一味箱推しである。
だからサンジに会えるとなるとテンションが上がるのだ。
(しかも、今日は多分……)
軍艦に備わっている檻の中に海賊が一人。
手続き上の理由もあり、彼が捕まえた時から既に三日。飲まず食わずでフルボディの軍艦に閉じ込められている。
(可哀想だが……〝
原作に引きずられているとしたら同情の気持ちの方だ。
何も知らなかったら、海兵による海賊の扱いなどこんなものだろう。
彼がこの世界に生を受けて二十数年。しかし日本人の平和寄りな精神は、どうにも抜けないようだった。
そのせいで部下たちに、ギンへのこの扱いはらしくない、と驚かれた始末。
(とはいえ麦わらの一味に関しては、物語通りの場面に居合わせてみたいからなぁ)
物語が始まる前だったため、ひょっとしたら転生者でも何でもなかったのかもしれない。誰かの身内である可能性ならありそうだ。
もしくは、調子に乗った成れの果て。彼は反面教師かもしれないと、胸に留めることにした。
つらつら考え事をしていると、独特な魚をあしらった巨船は、もうすぐそばだった。
前をゆく帆船にも追いつきそうである。
すると該当船の甲板が多少騒がしくなった。
(何だ?)
どうやらフルボディの軍艦に恐々としているらし──。
(うおっ!?)
彼の心臓が跳ねる。
(お、おおおお落ち着けおれ)
彼はできるだけ余裕そうに、フンと笑った。
「どうした海賊、随分怯えてるな」
「ば、馬鹿言え!」
ウソップが腕を組んて堂々としていると見せかけて、カタカタと脚は震えている。フルボディは内心で「ああこれだよこれ」なんてにまにまする。
「しかし、見ない海賊旗だな」
フルボディはさすがに展開の細かい部分まで覚えていないため、いっそ好きに話した。
いくつかのやり取りを経て。
「け、けど、本当にお前、おれたちを捕まえなくていいのか?」
相変わらずウソップは震えていた。
フルボディはまたフンと笑う。
「知らねェのか、このレストランじゃ海兵も海賊も関係ねェんだよ。
んでさっきも言ったが、おれは非番だ。何が悲しくて旨いメシを前に、わざわざ食えなくなりそうな真似をしなきゃならん」
「そ、そうか……」
ウソップは少しホッとしたようだった。
「ししし。おっさんいいヤツだな」
ルフィが機嫌良さそうに笑って、フルボディはまた内心でにまにまする、が。
「おいおい、おれはまだおっさんじゃねェ」
「そうかあ? 兄ちゃんって感じじゃねェぞ」
彼は少々ショックを受けたが、ルフィにとっての『兄ちゃん』はエースとサボ(の記憶)、つまり十代以下、と自分に言い聞かせた。
「じゃあせめて名前で覚えろ。おれは海軍本部大尉、フルボディだ」
「本部大尉ッ!?」
ヨサクとジョニーが慄いている。
悪い気はしない。彼自身できちんと努力した結果だからだ。
「な、何故そんな人が
「軍艦なら
「そういやじ、もごっ」
じんぺーとケンジがルフィの口を塞ぐ。
(ん、誰だっけあの二人)
フルボディは内心で首を傾げた。
事細かに覚えている訳ではないとはいえ、この時期のメリー号にしては人が多い気もした。
「軍艦ってすごいんですね」
髪が長い方がにこっと笑って言った。
(……え、この声、なんか……聞き覚えが)
少し考えて──。
(……あああ! ペドロそっくり!!!)
顔に出そうになるのを抑えて、小さく咳払いをした。
「ともかく。本来敵なんだから、お互いだらだらと時間の無駄だろう。ここのメシは美味い。さっさと行け」
「おう、そうか、余計楽しみになってきた!」
ルフィが満面の笑みを浮かべていて、フルボディは幸せな気分になった。
と。
「フルボディさん、何かありましたか?」
船室に繋がる廊下から、扉越しに軽やかな声がする。
「ああ、いや何、横に並んだ船と、一期一会の挨拶を交わしていただけですよ」
「まあ。素敵ですわね」
小さく柔らかく笑う声。
(サンジ君は喜んでくれるかな)
いささか失礼かもしれない動機でここにご一緒いただいた淑女に、フルボディは少し罪悪感を憶える。
原作の彼には噛ませ犬なイメージもあるが、外見も地位もそこそこ高く、気のイイ奴でもあるのだ。女性からのお誘いが絶えない。
バラティエに通うようになる前は只々少し困っていたが、どうしても邪険にできない相手の時は、せめてサンジの癒しになれればと考えるようになった。
彼は絶対に女性には無体なことはしないし、きっと大丈夫だろう。
(しかし、ほんとあの少年は誰だろう。声なんか、似てるだけなことだって、あるだろうが……)
そわそわと気になるフルボディだった。
✦フルボディ成り代わりさん
彼が成り代わりなのは、ハーメルンの好きなご作品の真似です。
さすがにどういう人なのかは似せてません。
声のお方を説明できる人が欲しかったりしました。
ただ、彼はコナンについてはよく知らないようです。
今後他にも成り代わりさんが出てくる可能性はあると思います。