海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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66.象徴

 船が大きくなったお陰で伸び伸び筋トレできる、と、張り合うように鍛錬に励むゾロ、ケンジ、じんぺー。

 ルフィも真似し始めたが、大振りしすぎて船を壊しそうになり、ナミの拳骨を食らう。

 

「ゴフゥッ!!? お、おれ、ゴムなのに……」

 

 ルフィが珍しく慄いている。

 

(そーいやガープさん、弾性無視は『家族の愛ある拳じゃ!』って言ってた気がする。ナミちゃん、もうルフィのこと信頼してくれてんのかなあ)

 

 ケンジはこっそり微笑んだ。

 

 多少拗ねた様子に見えたルフィだったが、いつの間にか黒い布を甲板に広げていた。

 何をしでかすのだろうと、皆はちらほらルフィの周りに集まる。

 

 そして、ルフィ画伯のジョリー・ロジャーは、一同を地獄に導いた。

 

「これはこれで、圧があっていい、のか……?」

「馬鹿野郎、入れてくれる島がなくなるぞ……」

 

 ケンジとじんぺーが引きつりながら呟いた。

 

 結局キレイに描き上げたのはウソップだった。

 ひゅうっとケンジが口笛を吹く。

 

「ウソップやるねぇ」

「うん! 上手いっ!」

 

 ナミも手放しで褒める。

 皆大絶賛だった。

 

「そーいやケンジ、なんでじんぺーとナミは『ちゃん』付けなんだ?」

 

 己が名を呼ばれたためか、ウソップが小さく首を傾げる。

 じんぺーとナミの共通点は想像できなかった。

 

「んー? んー。じんぺーちゃんは付き合い長いし、ナミちゃんは呼び捨てにする気が起きないしなあ」

「んん、じんぺーとおれは、あんま変わんねェよな?」

 

 ルフィが会話に参加した。

 

「ルフィちゃんって呼ばれたい?」

「何でもいいぞ!」

「おー、そっか」

 

 誰もに『ちゃん』を付けて呼ぶ彼がルフィに付けていなかったのは、記憶が戻る前、周りの子供たちと一緒にそう呼んでいたからだった。特に拘りがある訳ではない。

 

「あとゾロにはさ、ものすごい顔で睨まれたんだよね」

 

 ケンジはシモツキ村での出会いを思って目を泳がせた。ゾロは小さくフンと鼻を鳴らす。

 

「おれは?」

 

 ウソップはまた小さく首を傾げている。

 

「……ウソちゃんって呼ばれたい?」

「そこはウソップちゃんじゃねェのかよ」

 

 ウソップはビシッと突っ込んだ。

 

「まあ、おれも別に何でもいいぞ?」

「そーなの? ちょい気になってたんだけど、ウソちゃんが気にならないならいっか」

「だからよ」

 

 またウソップはズビシッと突っ込んだが、恐らく変わらないことだろう。

 

 その後もウソップが諸々手腕を発揮し、ナミが知識を活かし、ヨサクとジョニーが一味に合流する。

 

 そして一同は二人の提案で、海上レストラン・バラティエに向かうのだった。

 

----------------------------------- side : Fullbody

 

 フルボディは目的の海上レストランを前に、思わず笑みを浮かべた。

 

(さて今日は何を食べようか)

 

 きゅっとネクタイを少しだけ締め直し、背筋を伸ばす。

 

(サンジ君は元気だろうか)

 

 頬がニコニコ緩みそうになるのを抑えて、自身の頬をぺちりと小さく張った。気が緩み過ぎである。

 

 彼は転生者だ。

 環境と自身の名前と外見に、まさかと慎重に生きてみれば、該当キャラに成り代わってしまったと判断するに至った。

 

 前世の彼自身の晩年については曖昧で、そのためか物語の結末の記憶はない。

 ただ、主人公陣営が好きで、敵対勢力に腹を立て、ただし相手を見直すこともあり、とカジュアルに楽しんでいた記憶はあった。

 

 言わば、麦わらの一味箱推しである。

 だからサンジに会えるとなるとテンションが上がるのだ。

 

(しかも、今日は多分……)

 

 軍艦に備わっている檻の中に海賊が一人。

 手続き上の理由もあり、彼が捕まえた時から既に三日。飲まず食わずでフルボディの軍艦に閉じ込められている。

 

(可哀想だが……〝 おれ(フルボディ) 〞は海兵だからなあ)

 

 原作に引きずられているとしたら同情の気持ちの方だ。

 何も知らなかったら、海兵による海賊の扱いなどこんなものだろう。

 

 彼がこの世界に生を受けて二十数年。しかし日本人の平和寄りな精神は、どうにも抜けないようだった。

 そのせいで部下たちに、ギンへのこの扱いはらしくない、と驚かれた始末。

 

(とはいえ麦わらの一味に関しては、物語通りの場面に居合わせてみたいからなぁ)

 

 東の海(イーストブルー)に化け物のような海兵が現れた時は、「あいつも転生者で、物語を変えようとしているのか?」「おれは一味に会えるだろうか?」と肝を冷やしたが、昨年死んでしまったらしかった。

 物語が始まる前だったため、ひょっとしたら転生者でも何でもなかったのかもしれない。誰かの身内である可能性ならありそうだ。

 もしくは、調子に乗った成れの果て。彼は反面教師かもしれないと、胸に留めることにした。

 

 つらつら考え事をしていると、独特な魚をあしらった巨船は、もうすぐそばだった。

 前をゆく帆船にも追いつきそうである。

 

 すると該当船の甲板が多少騒がしくなった。

 

(何だ?)

 

 どうやらフルボディの軍艦に恐々としているらし──。

 

(うおっ!?)

 

 彼の心臓が跳ねる。

 

(お、おおおお落ち着けおれ)

 

 彼はできるだけ余裕そうに、フンと笑った。

 

「どうした海賊、随分怯えてるな」

「ば、馬鹿言え!」

 

 ウソップが腕を組んて堂々としていると見せかけて、カタカタと脚は震えている。フルボディは内心で「ああこれだよこれ」なんてにまにまする。

 

「しかし、見ない海賊旗だな」

 

 フルボディはさすがに展開の細かい部分まで覚えていないため、いっそ好きに話した。

 いくつかのやり取りを経て。

 

「け、けど、本当にお前、おれたちを捕まえなくていいのか?」

 

 相変わらずウソップは震えていた。

 フルボディはまたフンと笑う。

 

「知らねェのか、このレストランじゃ海兵も海賊も関係ねェんだよ。

 んでさっきも言ったが、おれは非番だ。何が悲しくて旨いメシを前に、わざわざ食えなくなりそうな真似をしなきゃならん」

「そ、そうか……」

 

 ウソップは少しホッとしたようだった。

 

「ししし。おっさんいいヤツだな」

 

 ルフィが機嫌良さそうに笑って、フルボディはまた内心でにまにまする、が。

 

「おいおい、おれはまだおっさんじゃねェ」

「そうかあ? 兄ちゃんって感じじゃねェぞ」

 

 彼は少々ショックを受けたが、ルフィにとっての『兄ちゃん』はエースとサボ(の記憶)、つまり十代以下、と自分に言い聞かせた。

 

「じゃあせめて名前で覚えろ。おれは海軍本部大尉、フルボディだ」

「本部大尉ッ!?」

 

 ヨサクとジョニーが慄いている。

 悪い気はしない。彼自身できちんと努力した結果だからだ。

 

「な、何故そんな人が東の海(ここ)に……」

「軍艦なら凪の海(カームベルト)を越えるのも苦じゃないからな。気に入りの店にくらい、ちょくちょく来るさ」

「そういやじ、もごっ」

 

 じんぺーとケンジがルフィの口を塞ぐ。

 

(ん、誰だっけあの二人)

 

 フルボディは内心で首を傾げた。

 事細かに覚えている訳ではないとはいえ、この時期のメリー号にしては人が多い気もした。

 

「軍艦ってすごいんですね」

 

 髪が長い方がにこっと笑って言った。

 

(……え、この声、なんか……聞き覚えが)

 

 少し考えて──。

 

(……あああ! ペドロそっくり!!!)

 

 顔に出そうになるのを抑えて、小さく咳払いをした。

 

「ともかく。本来敵なんだから、お互いだらだらと時間の無駄だろう。ここのメシは美味い。さっさと行け」

「おう、そうか、余計楽しみになってきた!」

 

 ルフィが満面の笑みを浮かべていて、フルボディは幸せな気分になった。

 

 と。

 

「フルボディさん、何かありましたか?」

 

 船室に繋がる廊下から、扉越しに軽やかな声がする。

 

「ああ、いや何、横に並んだ船と、一期一会の挨拶を交わしていただけですよ」

「まあ。素敵ですわね」

 

 小さく柔らかく笑う声。

 

(サンジ君は喜んでくれるかな)

 

 いささか失礼かもしれない動機でここにご一緒いただいた淑女に、フルボディは少し罪悪感を憶える。

 原作の彼には噛ませ犬なイメージもあるが、外見も地位もそこそこ高く、気のイイ奴でもあるのだ。女性からのお誘いが絶えない。

 

 バラティエに通うようになる前は只々少し困っていたが、どうしても邪険にできない相手の時は、せめてサンジの癒しになれればと考えるようになった。

 彼は絶対に女性には無体なことはしないし、きっと大丈夫だろう。

 

(しかし、ほんとあの少年は誰だろう。声なんか、似てるだけなことだって、あるだろうが……)

 

 そわそわと気になるフルボディだった。







✦フルボディ成り代わりさん
 彼が成り代わりなのは、ハーメルンの好きなご作品の真似です。
 さすがにどういう人なのかは似せてません。
 声のお方を説明できる人が欲しかったりしました。
 ただ、彼はコナンについてはよく知らないようです。
 松田さん(じんぺー)の神奈さんはワンピースにご出演されてないため、萩原さん(ケンジ)だけになってしまいました。

今後他にも成り代わりさんが出てくる可能性はあると思います。
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