声が聞こえる。近いような遠いような。……多分、たくさん。
うるさいなあ、ほっとけよ。……なんか、だるいんだ。
でも、何だか皆心配そう……? それに……イライラしてそうな人も、少しいる気がした。
……歌が、聞こえる。
綺麗で、力強くて、でも今はどこか優しい。あとやっぱり、心配そう……?
……ウタ。
そうだ、これはウタの声だ。
パソコンで流しっぱなしにしてたか? REDは確か……CD、よく聞いて……。
あれ。ぼんやりと赤と白で半分この可愛らしい頭が見える、気がする。
ぬいぐるみとか持ってたっけ……ウタ好きだし、部屋にあってもおかしくはない。
……あぁ、駄目だ、だるいし身体全然動かない。眠い。
-----------------------------------
ぼんやりホンゴウさんとウタの顔が見えた。あと点滴っぽいのとかが色々垂れてる。
……どういう状況……?
「あ、起きた!」
ニコっとウタが笑った。可愛い。
……あれ……現実? また夢の中に来れたのかな。
「……ウ、タ?」
「うん。……大丈夫? 痛い?」
彼女はニコっと頷いたそばから心配そうな顔になった。そんな顔させてるのは当然自分だろう。心が痛い。
「……わ、かんな、い……でも、なんか、動かないな……」
「今は包帯ぐるぐるだからな……でも、治ったらちゃんと動けるようになるぞ」
ホンゴウさんが微笑んでいる。
……んあ……?
……ああ……そうか……ホンゴウさんと『前』の『
……これが現実だったら……それで認識が混乱した、のかな。
「ここ、は?」
「シャンクスの船だよー!」
「……へ」
さらっと笑顔で答えるウタに思考が停止する。
そうそう赤の他人を乗せたりしないものだろうに。
「村の設備じゃ足りなくてな。ウタの友だちだから、特別だぞ」
ふわりと頭を撫でられた。
「……航海の、スケジュール、邪魔、してない……?」
ウタとホンゴウさんがきょとりと顔を見合わせて、そして二人して笑い始めた。
「もっと自分のこと考えろよ、それにもともと今回はゆっくりさせてもらう予定だったんだ」
「……そ、う……」
ぼんやりと瞬きをする。身体がだるい。
「……迷惑かけて、ごめん」
二人がきょとりとする。
そしてホンゴウさんは小さく口を曲げて頭に手をやり、ウタはにこっと笑った。
「……ね、聞いて!」
ウタの声に彼女を見遣る。
目を伏せてすぅっと息を吸い込んで、それで拍を作って彼女は歌い始めた。
ウタはこの年頃でもう既にあの力強い歌声の片鱗を見せているけど、今は只ひたすら柔らかくて優しかった。
そもそも歌詞で、回復を願ってくれているのだと分かる。
じわじわと胸の奥が暖かくなっていく。
綺麗な、どこまでも通る声。
ふわりと笑いながら伸びやかに身体全体で歌う姿が尊くて、目を細める。
目が合って、にこっと笑われて。
昨日ホシが流れても
今日に
またヒカリは溢れるから
どうか どうか どうか 消えないで
LaLa,LaLa...
口を、開いて。
息を、吸い込んで。
LaLa,LaLa...
キミに未来を
ボクの願いを
ウタが生み出すリズムに乗りたいのに、身体がうまく動いてくれないのが、もどかしかった。
「……ウタ……ありがと」
ほんっと、眩しい子だなあ……。
……でも、あれ、なんか二人がポカンとしてる。
首を傾げる。ん、頭、動いた、けど……なんか、顔の左っかわに違和感……。
「……あ。あんま無理に動くなよ。多分まだきちんと塞がってねえ」
「塞がる……?」
ホンゴウさんの言葉にまた首を傾げて、そして左側の色んな所が少しだけピリッとした。思わず目を細める。
ホンゴウさんが、真顔になった。
「……状態、聞きたいか? おっと、頭動かすなよ」
気になった左側を寝た姿勢のまま見下ろそうとしてたのを牽制される。
こう言われては頷く訳にもいかず、ホンゴウさんと目を合わせる。
「うん」
「お前、自分が何したか……覚えてるか?」
「……え、と」
……コルボ山で。
……ああ。
「山に住んでる友達と、ご飯採りに行ってたら……熊が出てきて。あとは必死で……気づいたら多分そいつの家で、その次はここ、だった」
「く、熊っ!? めっちゃでかい奴でしょ!?」
ウタが焦った声を上げた。
「……無意識だった、のか……?」
ホンゴウさんが少し顔をしかめて首をひねっている。
「ルリを村に運んで来た奴の話じゃさ」
ウタが歌ってた間に何だか作業を始めてた手を止めて、ホンゴウさんは長い棒を構えて見せた。
左の脇を締めて頭の左上あたりで、順手ながら棒の先の方を下に向けている。上段に構えていたものを咄嗟に左側の防御に移行させたような──。
「この状態で熊と友達の間に割り込んだ。お前が持ってた木刀と左の一の腕と二の腕と肋六本が折れてる。そのまま友達と二人してぶっ飛ばされたらしいが、その子は軽症だった。お前……肺にまで少し傷ができててかなり危なかったんだぞ。首の傷ももう少し深かったらどうなってたか……左側は額から肋の辺りまで、跡が消えなそうな傷がいくつもある」
……え……うええっ……!?
「どこもバラバラになってないのは奇跡だ」
「……すみませんでした……」
本当に死んでたとこじゃんこれ……。さっき村の設備じゃ足りなかったって言ってたよな……?
ふっ、と、ホンゴウさんの苦笑が聞こえた。
「……まだ五つなんだよな? 色んな意味で物分かり良すぎてこれ以上叱れねーじゃねえか」
……ああ……子供っぽくしてる余裕なんてなかったや……。
「お前の友達連中、毎日毎日会わせろってうるせえんだ。ご両親もつらそうだぞ。しっかり休んで早く良くなれ」
「……っ、はい……! ありがとうございます……」
うう……。父さん……母さん……みんな……。
「ね、ねえねえルリ! さっき何で一緒に歌えたの!? 誰にも教えてないのに!」
「……え?」
どういうこと?
「しかも、楽器みたいに綺麗に重なって……何あれ! 超よかった!」
ウタがキラキラして身を乗り出してる。
「おいおいウタ、落ち着け……綺麗じゃあったが声掠れてたし弱ってんの丸分かり……ほら、とにかく水だ」
水差しの飲み口を差し向けられて大人しく口を開く。作業はこの中身のためだったみたいだ。
ふわりと甘くて爽やかで、急激に喉の乾きを自覚した。
思わずくぴくぴとがっつく。
「お前も落ち着け、水は逃げやしねえ」
引き離されて物欲しくなったけど、顔に出すぎてるのかホンゴウさんは「くっ」と笑った。
「美味かったか? 薬入りだから味の調整頑張ったぞ」
「そうなんだ……ほんとありがとうございます……」
涎がじわり。うう、空腹まで感じる。
余程悲壮な顔になってたのかホンゴウさんはまたくくくと笑って、すいっと水差しを口元に持ってきてくれた。遠慮なく口を開ける。またくぴくぴと遠慮なく享受する。ホンゴウさんが笑う。
ふは……かなり楽に、なった気がする……けど。
ぐう……とお腹が鳴った。
「……」
目を丸くする二人と、赤面する自分と。
「……あっはっは! 良い調子だ! お前、もう五日寝てたんだぜ? ルウに粥でも作ってもらってくる」
ホンゴウさんがくすくす笑いながら部屋を去って行く。
「……五日も……」
「あんたすっごい怪我だったんだから! 早いくらいなんじゃない? ホンゴウが頑張ったおかげなんだよ?」
ウタが胸を張る。
ふふ、ほんと赤髪海賊団の皆が大好きなんだから。
「そっか……すごいね、ホンゴウさん。……ウタも、色々歌ってくれてただろ? ありがとう」
「……えっ」
何だかウタがポワポワしてる気がした。
「き、聞こえてたの……!?」
「そう言われると……うーん、よくわかんない。けど、ウタの声をたくさん聞けてた気がする」
「……っっ!」
ピシリとウタが硬直してしまった。何かやなこと言っちゃったかな。
「ごめんな、ありがとう」
「──! ……っ、でもだよ! さっきのは完成したばっかりで、きちんと歌ったの始めてなんだ、何で一緒に歌えたの?」
「……一緒に、歌ってた?」
さっきも言ってたけど、んなことした?
初めて聞いた歌だったのは本当な気がする。前々世のCD含めても。
「え、自分で気づいてなかったの……!? そんなことってある!?」
んん……?! 本当、何がなんだか……。
「うーん、ウタの曲ノれるから、思わずハミングしたのかな……?」
「それだけじゃないって、歌詞ちゃんと合ってたし!」
「へっ?」
本当、何が、何だか!?
「しかもね、えと、そう、和音! コードみたいな! コーラス? ハモリ? 綺麗だったよ!」
「……え、えぇ……」
祝詞とか、お謡とか、神事や趣味の関係で喉は鍛えられてたから、発声方法はまあ悪くないらしい、んだけど……。
一生懸命訴えるウタの隣でしきりに困惑していると、部屋の扉が勢いよく開いた。
「ルリー! 起きたんだな!」
「シャンクス」
ウタと二人で目を丸くする。
「ちょっとシャンクス、ルリは大怪我してるんだから、静かにしててよね!」
ウタの目が少し吊り上がってた。それでも可愛い。
「いやすまんすまん、しかし五日も寝てたからなあ、心配したんだぞ」
へちゃりと笑う。
「……すみません」
「ハッハッハ、でも友達を助けたんだろう? 傷跡は残るらしいが、男の勲章だ、カッコイイぞ!」
にかっと笑うシャンクス。
「えっ」
「いや真っ先に退場したから助けられたかなんて……ん?」
ウタと二人して首を傾げる。
「……ルリ、男だったの?」
頭の中を色んな思考が駆け巡る。
「……皆に性別言ったことないよな? 今さ、男か女か分からねェっつった不届者五人組に、性徴するまでに判断つけられなかったら一生言うこと聞かせるってゲームしてるんだ。だから教えられない。想像に任せる。……着替えとか世話してくれてた人がいたらバレてるだろうけど……」
今着てるの自分の服じゃないし、五日も替えてないにしては清潔感しかないし。
きょとりとする二人。
やがて。
「だっはっは! 一生か! そりゃ水差せねェ。男か女かなんてまあどうでもいいしなあ」
シャンクスが爆笑した。それを見てウタもくすっと笑う。
そこにホンゴウさんが帰ってきた。
お盆にほかほかなお粥が載ってる。
シャンクスを見て彼はうげって顔した。
「おいお頭、ルリはまだ……」
「何だよ、面会謝絶とはいえおれはここの船長だぞ? 娘の友達が心配だし」
「……騒ぐなよ」
「おう、もちろんだ」
にししと笑うシャンクスだけどホンゴウさんはジト目のままだ。そこに関しては信用がないらしい。
するりと足元からオーバーテーブルが引かれて、ホンゴウさんはその上にコトリとお盆を置くと、じっとこちらを見て、うむ、と小さく首を傾げた。そしてちらちらりとシャンクスとウタを見る。
彼はふう、とひと息ついた。
「少し耐えろよ、ルリ」
肩の下にそっと腕を回された。
左の側のあちこちがヒリつく。
そのままゆっくりと上体を起こしてもらった。細く息を吐く。
ホンゴウさんはお粥をスプーンですくって口元に持ってきてくれた。
「食えそうか?」
「はい、ありがとうございます。いただきます」
無事らしい右手にも何だか力が入らなくて、大人しく口を開ける。そっと流し込んでくれたお粥は出汁と卵と野菜の風味も柔らかくて、ますますお腹が空いてきた。
「……おいしい。ありがとう」
「へへっ、だろ? ルウに会ったら言ってやってくれ」
「うん」
ゆっくりもぐもぐ噛みしめる。
ああ、涎いっぱい出るのかほっぺがもにょもにょする。ほっぺ落ちそうってこういう感覚なのかもしれないね。
「随分沢山噛むなあ」
シャンクスが横からしみじみ言った。そんなじっと見られると恥ずかしい気がするんだけど、ウタともども興味深そうにしてる。何故。
「いいことだろ。全然噛まないのは消化に
「にしても一口三十回とかだろ、ルリの一口五十超えたぞ」
思わず吹き出しかけてゴクリと飲み込んだ。
「な、な、わざわざ数えてたのか……?」
けほっと少し咽た。
「面白ェなって」
「お頭、怪我人の食事の邪魔するな」
「はは、すまんすまん」
「……そのうち追い出すからな」
やめてくれよーと笑うシャンクスとジト目のホンゴウさん。
シャンクスはまた数えるのかなと多少怯えつつ、口に運んでくれたお粥を自分のペースで咀嚼する。
相変わらずじーっと見つめているウタとシャンクス。
少し居心地が悪いながらも今度はゆっくりと飲み込む。
「喉が細いからか?」
「……お頭」
「えと」
奇妙な状況とは思えど追い出してほしいとはあまり思えない好きな人物だから、言葉を紡ぐ。
「おいしいのがなくなるまでずっと噛んじゃうだけだよ」
だいたいなくならないんだけどさ。単にじっくり味わいたいんだ。
「ほほー! 何か微笑ましいなあ! うちのコックの飯は旨いもんな!」
「でも、そんなゆっくりしてたらルフィに全部食べられちゃうよ?」
ウタが心配そうに言ってくる。
「別にいいんだよ。食べる量は人それぞれだし、おいしい時間はどうかしたら自分のが長いし」
「へー」
ウタは目をぱちくりした。
もぐもぐ、もぐもぐ。
ああ、ほんとおいしい、ありがたいなあ。
そういえば今何時くらいなんだろう。
「皆は、ご飯は?」
「皆さっき昼飯食ったばっかだ」
シャンクスが答えてくれた。
「そうなんだ。てことは今お昼か」
「粥まだあったから、食堂行ったらもらえると思うぞ」
ホンゴウさんがお粥を口に運んでくれながら言う。
「ははは食ったばっかだっつーの。追い出そうって
シャンクスはニィと不敵に笑った、けど。
「まあ、いい匂いだし少し貰って来よう」
くるりと踵を返した。匂いに負けたようだ。
「……腹いっぱい食わせてやりたかったら、後ろに座って支えてやれ。その方が疲れない」
去り際にニッと笑ってそう言うと、シャンクスは扉を閉めた。
ホンゴウさんがふっと笑った。
「お前が嫌じゃなければ」
「……お願いします」
世話になるしかない何もできない子供が、無駄に遠慮すべきではないんだろうなあ……。少し躊躇するも素直に頼る。
ホンゴウさんはまたふっと笑って、ベッドに上がって抱き込むようにして背中に回ってくれた。
「ありがとうございます」
「痛みはないか?」
「大丈夫です」
「そうか」
粥を掬って、また口元に運んでくれるホンゴウさん。ゆっくりそれを噛みしめる。
もぐもぐ。
こくり。
「あの……右側も、動かないのは……」
「ああ、心配するな、擦り傷とかはあるが無事だ。痛み止めのせいだろうな」
「なるほど……」
左側はヤバイ怪我っぽいし強い薬を使ってるのかもしれないね。やっぱり大人しく食べさせてもらうしかないみたいだ。
もぐもぐ、もぐもぐ。
「しかし本当、ルリは素直だし大人しいなあ」
「なんで私見て言うんだよ」
布団に肘をついて可愛くこちらを眺めていたウタが膨れた。
こくり、とお粥を飲み込む。
「……大人しかったらこんな怪我してないと思う」
後ろでブフッとホンゴウさんが吹き出した。
「そうだよ! 舐めてたらホンゴウだってルリにぶっ飛ばされるんだから!」
「いくらなんでもそれは無理」
どうしてそうなった。過大評価がすぎる。
「だって熊の一撃受け止めたんでしょ?」
「受けとめられなかったから死にかけてるんだよ」
どうしてそうなった第二弾。
「でも生きてるじゃん」
「それは周りの皆のおかげ。友達と、ホンゴウさんと、ウタと……船に上げてくれたシャンクスも」
「シャンクスは何もしてないよ」
「……皆がこの村にまた来てくれてなかったら、絶対死んでた」
それに……シャンクスは「傷跡は残るらしい」って言ってた。容態把握してるってことは気にかけてくれてた訳で。
きゅっとウタが口を引き結んだ。ちょみ、と右手に触れられて、掴まれる。
「……死なないでよ」
今度はこちらが目をぱちばちすることになった。
……思わず、ふわっと笑う。
「ありがと。努力する」
ウタは何故かぷうと膨れた。
「それなんか信じられなそうな答え方っ」
ふふっと笑う。
「死なないために努力して身体鍛えてるんだ」
ウタの丸くなったほっぺがしぼんでくれない。
……けど、こんな状態じゃ身体しばらく動かせない訳で……どんだけ
剣舞もしばらくできないだろうし……あっちの方向に祈りだけは向けておこう……。
「ほらウタ、お前も粥もらって来いよ」
「私お腹いっぱいだってば! あ、でも……ねえホンゴウ、ルリってもうジュースとか飲んでいいの?」
「ああ……ルウにルリ用って言えば出してくれるんじゃねえかな」
「そっか。ホンゴウはなんか要る?」
「そうだなあ、ウタと同じ奴くれ。お前も優しいな」
「もう! 今更褒めても何も出ないぞっ!」
ウタはぱたぱたと走って行った。ふふ、可愛い。
もぐもぐしているとまた勢い良く扉が開いた。手に一人サイズの土鍋を抱えたシャンクスだった。
「ただいま」
「お頭……」
げんなりしてそうな声をあげるホンゴウさん。あはは、じゃれ合いが微笑ましい。
シャンクスはすとんと椅子に収まった。その机には色々と医療関係の品々が並んでる。
……ここって病室なのかな、医務室なのかな、ホンゴウさんの部屋てきな……ベッド占拠申し訳ない。
「あー、うめェ〜」
「だよな」
もぐもぐ。こくん。
「ルリ、この器で子供一人分のはずだけど、少ないとか多いとかは遠慮なく言えよ」
「はい。ありがとうございます」
ああ、もう、誰も彼も優しすぎる。
「ホンゴウは食わねえのか?」
そう言ってシャンクスは粥をたっぷり掬ったスプーンをぱくりと口に入れた。
「腹いっぱいだよ……味見したし」
「そうか」
もぐもぐ、もぐもぐ。
そのうちキィと扉があいて、よいしょよいしょとウタが飲み物をお盆に三つも載せてきた。うわ、大変だったろうに。
彼女はコトリとお盆をオーバーテーブルに載せた。
「ふう」
「ありがとうな、ウタ」
「どういたしまして!」
「ウタ、おれのは?」
「シャンクスまた来てたの? 自分で持って来なよ」
「えー、おれの娘が冷たい……」
しゅんとするシャンクスはなんだか可愛い。
ウタはふんっなんて言ってベッドの縁に腰掛けて、彼女の髪の色にそっくりで綺麗な赤色をしたジュースを手に取りこちらを向いて、ストローの先ををはくりと口に含む。ちうーと飲む姿が可愛い。
それから少ししてお粥を完食すると、ホンゴウさんがよしよししてくれた。ワアイ。
そのままホンゴウさんはウタと同じ色のジュースを手に取った。ストロベリーの甘い香りが鼻をくすぐる。
「ルウが普通ので大丈夫って言ってたから、ルリのは梨だよ! 前好きって言ってたでしょ」
「うん。覚えててくれたんだ、ありがと」
こそばゆい。正直嬉しい。
ウタはにこっと笑った。
ホンゴウさんがまだ後ろにいてくれてるのは飲み物のためだ。
正直強がってられないのでもう背中を預けてる。頼もしい胸板……いや、高さ届いてなそうだし腹筋か。
「ねえねえルリ、また一緒に歌おうよ! ……元気になったらでいいからさ」
「う、うん……」
ウタがキラキラしてるけど、何かの偶然でできてるふうに聞こえただけとかない……?
「へえ、ルリも歌、好きなのか?」
シャンクスが興味深そうに聞いてくる。
「好きは好きだけど……上手くはないよ」
「そんなことないよ!」
「嘘つきだな」
「エッ」
ウタとホンゴウさんに次々に言われて息をつまらせる。
「ただ、やっと起きたばっかりだし、飲み食いしたばっかりだし、今は無理させちゃ駄目だぞ」
「はあーい」
ウタが口を尖らせてるのが可愛い。
「……ウタの歌は、聞きたい」
流れをちょっと利用して願望を口にすると、ウタの目がぱあっと光った。
「えへへ、じゃあいっぱい歌ってあげる!」
ぽんっと彼女はベッドの縁から降りてくるりとこちらを向いた。ああ幸せ。役得(?)。
そしてすうっと深く息を吸い込むと、ふわっと拍を作って声を奏で始める。早速聞かせてくれちゃうのがほんと尊いありがたみ。
……しかも『風のゆくえ』じゃんころしにきてるこの子。
身体をゆったり揺らしたり、目を伏せたり手を伸ばしたりと、全身で歌を表現していく彼女。
思わず一緒に首か身体を揺らしたくなるけど、少し左側がピリッとしてはっとする。後ろのホンゴウさんが気付いたのか、ぽふりと右肩に手が置かれて、拍に合わせて柔らかくぽふりと動かしてくれる。
椅子に反対向きに座って椅子の背に抱きつくようにもたれているシャンクスが、眩しそうに目を細めてウタを見つめている姿は、こちらを向いている彼女に見える範囲じゃない。見せてあげたい顔してるのに。
暖かいものを胸に抱えながら、ふわりと目を閉じる。
ああ、ずっと聞いていたい。
けれど歌にはいつか終わりが来る訳で──。
いっぱいって言ってたし、次は、何を歌ってくれるのかな。
「……ほらねっ」
その声にぱちりと目を開けると、ウタが得意そうに胸を張っていた。
視界の端でシャンクスが目を少し丸くしている気がする。
「……たいしたもんだ」
んえ、シャンクス『風のゆくえ』聞くの初めてじゃないよな?
「なあ、ルリもしかして無意識なのか? ……無意識にやれるもんなのか? いや、何かの能力か?」
ホンゴウさん、何言ってるんだ?
「ルリは泳ぐのすっごい上手だよ!」
「え、何、いきなり……」
「じゃあ
ぼそっとホンゴウさんが言った。
……泳ぐ……食った……悪魔の実?
「ねえルリ、自分で分かってないの? すっごいいい所でコーラスとかハモリとか入れてくてれるんだけど」
ウタの目がキラキラしてる。
「……え」
え、無自覚にンなことやってたのか自分? 恥ず。しかも世界一の歌姫の歌声に添えるなんて無粋を。
「ご、ごめん」
「何言ってんだ、綺麗だったぞ」
ホンゴウさんがぽふりと肩の手を動かす。
「ルリね、さっき、初めて聞かせた歌でもやってくれたんだよ」
シャンクスの目がもっと丸くなった。
「ルリが聞いたことなかった歌ってことか?」
「うん、お昼食べる前に完成した奴だし」
「……それは……歌詞も合ってたってことか?」
「そだよ」
ええ……何そのトンデモ能力……。
じっとシャンクスに見つめられる。
「歌自体は、もとから好きなのか?」
「うん。友達とよく歌う」
前世でも皆でよくカラオケに行った。
前の世界の歌は、他に転生者がいたら面倒だからって口酸っぱく言っても、しばしば歌うのが警察学校組の彼らだ……。まあ、周囲の気配探るのとか朝飯前だろうし、降谷がいたら霊体も寄って来ないしな……。
「……知らない曲のハモリを、か……」
ニッ、とシャンクスが笑った。ひえ……?
「もしかしたら……見聞色の覇気で未来を見てるのかもしれないな」
……へ?
「けんぶん……?」
ウタがこてんと首を傾げているのにしれっと便乗する。
内心ではバクバクだ。
うっそだろ。
でも……『風のゆくえ』はともかく、もう一個はほんとに知らない曲だった訳で……。
「かなりの大怪我したような状況だ。開花しててもおかしくはないだろう……だが」
シャンクスはカタリと椅子から立って歩み寄ってきて、目線を合わせてにかっと笑ってくれた。
「難しいこたぁ、治ってからだ。今はきっちり休んでろ。ウタも楽しいだろうが、ルリに無理をさせるなよ」
「分かってるよ!」
ぷくっと膨れるウタが可愛い。
けど……。
まだそうと確定した訳じゃないけど、ええ……見聞色?
うっそだろ……?
✦見聞色
オリ主は生まれつき霊感持ってたものだから、他の見聞色系も感覚が似てて、扱いの把握が有利で飛びぬけてるという設定です。
ただし付喪神系との交流については生物じゃないので、多分見聞色の範囲外です。前世までの経験+舞で自然を感じる感覚が鍛えられていったことからくるもの。