ボゴォン!!!!
フルボディが頭から床に沈んだ。
木材がめくれ上がる程の破壊力。彼はピクリとも動かなくなった。
犯人は──ルフィ、である。
「てめえこのクソ野郎何しやがる!!!!」
「あいつとおっさんが喧嘩するよりマシだろ。絶対殺すまで追い掛けるぞ、このおっさん」
「!」
甚だめちゃくちゃすぎるが、結果的には一時の穏便を得られた……のかもしれない。
「あとは……そうだ!」
ルフィはぽふんと掌に拳を落とす。
「おれたちも海賊だし、おっさんの様子からして、帰る時絶対面倒なことになるだろ」
「……」
この麦わらの男は、今思いついただけ、というのを隠す気があるのかないのか。
「……麦わらの人も、すまん」
小舟に揺られながらギンが俯いた。
そのうちゼフが現れ、フルボディの憐れな姿に激昂する。
本当は少し前から様子を伺っていて、サンジの固い信条とルフィの『
サンジは食器を海に捨てつつ、手を払う仕草でギンに出発を急がせ、フルボディの救助にかかる。その傍らで。
「ウチの大切な大口常連客に何してやがる!!! 魚の餌になるか海軍に突き出されるか選べ!!!」
「えー、嫌だ」
ゼフは(形式上)怒鳴り続け、ルフィはのらりくらりと回避を試みる。
ハアーとサンジは溜め息をついた。
「ジジイ、血圧上がるぞ。あと、そんなのよりフルボディさんの手当てだろ」
「……。おい小僧、せめて大尉を運べ」
「おう」
ルフィは素直に従った。
その後、雑用一年にまけてやると言われたルフィは、それでも「嫌だ」と言うばかりで、再びゼフの怒鳴り声が響くことになった。
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フルボディは歯噛みする。
麦わらの一味と共闘している状況への喜びがないとは言わないが、さすがにそれで舞い上がれはしなかった。
ギンを取り逃がし、〝
本調子でないのだから下がれと言われても、自分が敵の本体を呼び寄せたようなものなのだ。無理な相談である。
展開された“ヒレ”に上がってこようとする海賊共を、彼は拳で薙ぎ払う。
それと少し離れて。
「
じんぺーと呼ばれていたサングラスの少年も、拳を武器に海賊共を押し返していた。
「……ケンジの奴どこ行った」
じんぺーはふとそう言って周囲を見回したかと思えば、足元に現れた敵の頭を蹴り飛ばす。
(ケンジ……声がペドロに似てた少年か)
少し伸びた黒髪を後ろで一つに纏めた二枚目だった。このサングラスの少年も彼も無名キャラとは思えないが、
しかし今はそんなことを気にしている場合ではない。
ぼんやりした記憶にある通りゾロが大傷を負い、それを治療しながら、ウソップ、ヨサク、ジョニーは、小舟でナミを追って行った。
クリーク一味は船と日誌を寄越せとバカなことを言いながら、次から次に這い上がって、あるいは跳んでくる。
ルフィは、少し沖の方でクリークと対峙中。
(本来は……おれの仕事だろうに)
彼の勇姿は眩しいが、自分の失態が招いた戦闘なのだから、喜んでなどいられない。
「おいおっさん! 何考えてんのか知らねぇが、あんたウチの船長のせいで重傷食らったんだ。あいつに任せたってバチは当たらねぇよ」
読まれた。励まされた。……情けない。
「オラこの野郎、折角発破かけてんだ、余計凹んでんじゃねぇ、ここで押し留める気がねぇなら、ベッドで寝てな!」
「! すまない」
フルボディの拳に勢いが戻った。
戦局は流れて。
血に
「恩知らずが過ぎるってもんだろ、おっさん」
じんぺーの足元で、グシャリと音を立てて二口小銃が潰れた。
「二兎を追う者は、一兎も得ねぇぜ」
無表情にギンの胸倉を掴み、そのまま片腕で吊し上げている。
「おれは、別に……っ」
「見え見えなんだよ」
「……っ!!」
そしてサンジは。
「何のマネですかフルボディさん……! これはおれの戦いです」
「うるせェ、ボロ雑巾はすっこんでろ。それに」
ガチン、とフルボディは両の拳を突き合わせた。
「てめェの戦いだあ? この店を守りてェのはサンジ君だけじゃねェ」
「!」
「大体、おれだって譲れねェよ。そもそもギンはウチの檻に居たんだ」
もう散々抑えて雑魚の相手に徹していたのだ。
いい加減、ちっぽけなプライドが限界だった。
「それは……」
「黙って休憩してろ。おれが勝てるとは限らねェ」
「な」
それは弱気と言うよりは、サンジを退がらせるための方便。
そして。
「戦場じゃぁ、何が起きても可笑しかねェんだ」
フルボディはこの妙ちきりんな盾男を
「て訳で、選手交代だ、真ん丸仮装人間」
「アァ? 貴様、この鉄壁な美しさが分からんらしいな?」
相手──鉄壁のパールはどこか腹の立つ笑みを貼り付けながら、ガチンガチンと両手の盾(?)を忙しなくカチ合わせた。
他方、じんぺーは大人しくなったギンを地面に降ろし、腕を後ろに捻り上げる。
ギンは思わず呻いた。
サンジと同じく、ジャケット姿は細身だというのに、力は尋常ではないらしい。
「さぁて、お前はここで見学だ」
「……! クソ……」
ギンは色々言い返したかったが、どう足掻こうがびくともしない腕に、無駄を悟った。
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愉快な見た目ながら、フルボディの拳は盾で弾かれてばかりだった。
(
結果負けようが、サンジが再度舞台に立つ。彼なら勝つ。
たが、休憩時間稼ぎだけで終わる無責任さも、持ち合わせない。
間合いを取って、すぅ、とひとつ呼吸を整える。
「ハァーッハッハッハァ──!!! 弱い、弱いぞ優男〰〰〰〰〰!!!」
テンション高く笑うパールに、フルボディは眉根を寄せる。
「……てめェも一発入れれてねェだろうが」
「タテ男でダテ男のおれには! 優男程度のお前は! 勝てねェんだよ〰〰〰〰!!!」
「……」
フルボディの呟きは聞こえていないのか無視したのか、気が狂ったようにガチンガチンと両手の盾を叩き鳴らすパールに、フルボディは閉口した。
「慈悲だ! そろそろ終わらせてやるゥ!」
パールが構えて地を蹴った。
「……ああ、終わりだ」
フルボディは重心を落として迎え撃つ。
「鉄壁パーーール・プレ」
ドゴォン!!!!
砕け散ったのは、パールの胴を覆う巨大な円。
「確かに鉄壁だったかもしれねェが──」
白目を剥いて倒れていくパールとすれ違いながら、フルボディは呟く。
「無敵じゃあ、なかったな」
武装色を纏い殴った拳から余韻を払うように、フッと小さく吹く。
芝居がかったセリフも仕草も、威圧の内だ。
実際海賊共が息を飲んでいる。
ウオォォオ! とコックたち(と、恐らく避難し損ねた客)が沸いているが、フルボディが元凶だというのは忘れているのだろうか。
「縄かなんかねェか。……結局出番奪っちまったな」
サンジの元へ歩み寄ると、彼はふっと苦笑した。
「さすがは海軍本部大尉。お見事です」
ワインの時と似たようなことを言うサンジに、フルボディは苦笑いする。
「大尉、大尉、って、おれは
昨年壊滅的被害を受けたあの支部が、真っ先に頭に浮かぶ。
あそこの基地長はなんとか存命で、実質フルボディのひとつ上な地方支部准将だ。
「……サングラスの人」
「あ?」
ギンが俯きながらぽつりと呼び掛けていた。
フルボディとサンジは思わず目を遣る。
「恩人と……サンジさんと、戦わせてくれ」
「ハァ? お前、怪我人をボコりてぇってのか? 放す訳ねぇだろ」
「アンタも分かってんだろ!!!」
ギンが叫び、じんぺーは口を噤む。
「これは信念のぶつけ合いだ。できねぇくらいならおれは舌を、ゴファッ!!?」
じんぺーは空いていた方の拳を、躊躇なくギンの口に突っ込んだ。
「グラサン野郎!?」「じんぺー君!?」
サンジとフルボディがギョッとするが、じんぺーはニヤリと笑う。
「噛み切ってみろよ。できるもんならな」
彼は前世、無謀をとめるために、包丁を素手で掴む無謀を敢行したことがある。
だが今は、覇気や鉄塊のお陰でケンジにもルリにも無謀なんて──
じんぺーはふっと笑った。
(どっちもどこ行きやがった、ったく……)
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「一体どういうつもりだ? ナミちゃん」
後ろから首に突きつけられたのはマイナスドライバー。
ナミは息を飲んで固まった。
「……あんた、何でここにいるのよ」
後ろでくすっと笑う声がする。
「俺は昼寝してただけだぜ。何で気付かなかったんだ?」
ナミは黙り込んだ。
本当にそれだけだろうか。
必死だったし急いだし、しっかり確認した訳でもない。
しかし、呑気に寝ている人間がいたら、さすがに気配があったはずだ。
「まあ、手配書の束見てた時から様子おかしかったし、泣きながら気になること言ってるし……この際全部吐いてくれない? じゃないとふん縛ってレストランに戻るよ」
「っ!」
ナミはマイナスドライバーを打ち払い、ケンジと距離をとった。
腿に仕込んであった棒を展開し、今度は彼女がケンジに武器を突き付けた。
「ふっ、やっぱりね。あんたも……仲間だと思ってた奴には甘いのよ」
ケンジは取り落とすことのなかったドライバーを、ペンを回すようにした上で、ホルスターにあった小物入れにしまっていた。
そして彼も、ふっと似たように笑う。
「仲間だよ」
「っな、何を言って……!」
「君は好きでこんなことしてる訳じゃない。さっきの迂闊な独り言でバレバレだ」
「……!」
悔しさと恥ずかしさで、ナミは唇を噛む。
「あと……俺は問答無用で連れ帰るって決めたら、少々乱暴になろうが実行するくらいには、優しくないよ?」
彼はにこっと笑ってはいるが、ゾワリとする程目は冷たかった。
そのまましばし膠着。
そして。
はぁー、とナミは細長く溜め息をついて、その場にへたり込んだ。気圧されたなんてものじゃなかった。
「……なんて目をしてんのよ……分かった、あんたには敵わないわ……でも」
ふぅ、と彼女は今度は、小さく溜め息をついた。
「簡単に話せる気がしない……少し時間を頂戴……」
既に聞かれてまでいるのだ。負け確で連れ戻されるより、話して口止めするなりした方がマシな気がした。
「分かったよ」
にこっとケンジが普通に笑い、ナミは少しホッとした。
しかし逃さないと言わんばかりにずっとそのまま居られて、落ち着くことはできなかった。
✦本部大尉=地方大佐
フルボディさんはモーガンとかネズミ大佐とかと同じくらい、ということになるようです。
しかしこの彼は精神的年の功等々(「若い頃もっと〜」な思考を経験済とか)で、より力をつけている模様です。
✦戦局
細部が結構原作と違う…つもりです。
しかしカッコイイシーンは変わってほしくないため、描写省略部分で行われていると思ってあげて下さい(強欲)。
結局は原作沿いに落ち着いてってますが、それは彼らの性格や信念等が特に変わらないためでして、原作の修正力が働いている訳ではありません。
本文中で説明しきれず…orz
…原作と変わらない部分は省略、を心掛けている訳ですが、その分か否か、くどい文のダイエットには失敗しているような…。
精進、精進…。