74.此処から先へ
「こうなると四皇の動向も気になってくる訳だが……赤髪海賊団に動きはなし、百獣海賊団は不透明、白ひげ海賊団とビッグ・マム海賊団はそれぞれナワバリ稼業……。
必然、情報が入ってくるのは後者ふたつだが、ビッグ・マムのとこは随分派手にやってるみたいだな……」
じんぺーは新聞をめくりながら手配書を眺めていた。
ルフィたちが“四皇”といって、まず浮かべるのはシャンクス。
しかし赤髪海賊団は、十年前でさえ『得体が知れな』かった。
つまり『分からない』のである。
ただ、今まで相手にしてきた海賊たちとは、次元が違うことだけは分かる。
だから当然、今すぐに戦えるとは思わない。
しかし逐一情報を追っておくに越したことはないだろう。
「世界政府加盟国でのクーデターの方が紙面とってるし、非加盟国の情報が全部発信されてるとも思えねェ。それでもこうだもんなあ。
四将星一人でこれだけ騒がしいんだから、四人揃ったらどうなるんだろーな」
ケンジが肩をすくめて苦笑する。
どうも上納品が用意できていない島を、尽く仕置きして回っているようだった。
中継などで上陸された島々でも、売られた喧嘩を買っているようで、日々恐々としているのはナワバリの島々だけではないらしい。
むしろこちらの方が残る爪痕は大きい上、お菓子に関する特産品を持つ島などは、新たにナワバリに組み込まれることまであった。
「ていうか、ビッグ・マムの子供って四人どころか、四十人くらいいるんでしょ? 当然配下はそれだけじゃないし……。
……最終的にはそういうのを相手取る訳よね。……気が遠くなりそうだわ」
ナミは頭に手をやりながら天を仰いだ。
「お、オイオイ、気が早ェって……」
ウソップがカタカタしている。
「まずはそこまで行かねェとだろ」
サンジはそう言いながらもニィと笑っている。
「全部倒す! それだけだ!」
ルフィもニィと笑った。
ゾロは黙々と筋トレに励んでいる。
ケンジがじんぺーから新聞等を受け取ると、じんぺーも筋トレを始めた。
ルフィと同日手配、もしくは更新ということで、他の手配書にも何となく興味を引かれる。
その大半がいかついおじさん、である。
そんな中でルフィのようなあどけない少年はとても目立った。
そして、幼い顔の賞金首はもう一人。
この世界の不思議を思えば、本当に子供かは分かったものではないが、一見ルフィと同年代に見えた。
しかし気になったのは、それ以外にも──。
「……四将星配下、ルビー・D……なあ、ルフィちゃんの名前にもD入ってるけど、これって何なんだ?」
エースもだったなあ、なんて思いながら問うケンジ。
しかし。
「んあ、Dか……そーいやサボにも聞かれたなぁ……」
「……っ」
ルフィがぽつりと呟いて一瞬だけ俯いたため、ケンジは言葉に詰まった。
「ご」
「けど知らねェんだ。要るか? D」
「……えっ!? 何、Dって渡すもんなの?」
「さあ? 知らねェんだって。なんだって好きにすればいいさ」
にしし、とルフィは笑う。
ルフィのこの自由さが好きなんだよな、と、ケンジは連られたように笑った。
(……しかしこの、目……)
同心円状に影が写り込む目。
アケサトのそれで思い出す者が二名。
ゾロをボッコボコにした“鷹の目の男”も、その異名通り猛禽のような鋭い目をしており、同様の影を持っていた。
そして、彼らが探しているルリ。
鷹の目のような鋭さは、アケサトやルリにはない。
アケサトのような禍々しさは、鷹の目やルリにはない。
ルリは、只々眠たげで……穏やかだった。しかし全て見透かされそうな目だった。
(見通す力……皆見聞色強かったりして)
そんな推測が役に立つとはあまり思えなかったが、ケンジは一応心に留めておいた。
「ほら、改めて、ローグタウンが見えてきたわ!
第14支部のあった町でも多少買い物はしたが、ローグタウンに行くことは確定していたため、あまり本腰は入れなかった。
海賊王縁の島であり
「楽しみだな〜!」
にししと笑うルフィにつられるように、一同心躍らせた。
-----------------------------------
ナミの言った通りに勢いを増していく風雨が、仲間たちに降り注ぐ。
ケンジはメリー号に飛び込んだ勢いのまま、受け身を取るようにして縁に背を預け天を仰ぎ、自身を落ち着かせるようにはあぁぁ、と溜め息をついた。
「……いや、もー、ルフィちゃんもゾロもさぁ……」
そんなことを言いながら、舵に「よ〜いしょ」と歩み寄る。
ルフィは「ん?」と首を傾げていたが、ゾロは睨んだ。
「……何だ」
「何だじゃねーよ」
はははっとケンジは心底楽しそうに笑った。
「っあーもー……マジ、お前ら……最っ高──!!!」
ケンジは舵を握りながらもまた天を仰ぎ、今度は盛大に笑い出した。
「……何だお前、イカレたのか?」
ゾロがドン引きしている。
「……あんたも何かやらかした訳?」
ナミが冷たい目でゾロを睨む。
「あ? おれは別に」
「聞いてよナミちゃん」
武器屋での出来事を上機嫌に話し始めるケンジを、ゾロは不味いものでも口にしたような顔で睨んだ。
ケンジは
他方、じんぺーはウソップと共に道具屋等を回った後にサンジと合流。
ナミとルフィはそれぞれ単独行動。
そして現在の慌ただしい出港と相成った。
「……ハァアア? っとに、理解に苦しむわ……」
ナミは頭を抱えたが、他は正反対だった。
「かっけーなゾロ!! おれも見たかった!!」
中でもルフィは目をキラキラさせて大興奮である。
「いちいち言うなよ、ケンジ……」
溜め息をついて頭を抱えるゾロに、ケンジは「てへ☆」と言わんばかりに小さく舌を出して笑ったのみ。
そして空も波も荒れる中の進水式、それぞれが目標を口にしていく。
「俺は、材料かき集めてかっけえクルマ作る!」
言いながらケンジは樽に足を乗せた。
ここでルリの捜索を旅のメインに据えるのは、きっと違うのだと思った。
「俺は世界中の機械を全部分解して再構築してやる」
そう言って同じく足を樽に乗せたじんぺーに、ケンジ以外は皆内心ハテナを飛ばしたが、このような場で突っ込むのは野暮だろうと抑えた。
良い音を立て、改めて七人での船出を祝し、一同気を引き締める。
いざ行かん、最高峰の海。
リバースマウンテンを越えるまでの道程は、非常に過酷なものとなって一味──特に舵取りのケンジに襲いかかった。
皆のサポートもあってケンジはほうほうの態でなんとかメリー号と仲間たちを無傷で守りきったが、この先それ以上に何が起きるか分からないということで青褪めるのであった。
そしてルフィによる地獄の再来に戦慄するなどした後──。
-----------------------------------
次々に変わる天候への対応で大わらわだったせいで、腹を空かせてしまったのかもしれない。
ポコポコといい音がした。
発生源はルフィとウソップと、拳を握りしめるナミ。
「つまみ食い禁止っつってんでしょ!! ってか、度を超えてるのよ! 一時の欲望で次の島まで飢えるのは、あんたたちも同じなんだから!! いい加減にしなさいよね!!!」
ポコポコポコ。
「ご、ごべんばばい」
「本当に分かってるの!?」
ポコポコポコ。
ルフィとウソップの顔面は腫れ上がり、いくつものたんこぶが重なっていく。
つまみ食い被害者四名+二名は彼女を止める気にはならなかったが、憐れだとは思った。
「んー、ルフィちゃん用おやつ入れでも買う? モチロン中身は自分で買ってくること」
「そんなの入れる前になくなるに決まってるでしょ! 無駄よ!」
ケンジの提案に即反論するナミ。
ケンジは「う、うん、そうかもね……」とタジタジだ。
一時の居候な二人は、ナミに怯えてか身を寄せ合って震えている。
「あ、あのぅ……た、多分、島に着けばそれなりに食料は、ある……かも、しれないから……ね、ねえ?
「そそそそそうさ、ミス・ウェンズデー。我々の島にはきっとある!」
あまりにも怖かったのか、居候の二人が震えながら言った。
「……ラブーンを食糧にしようとしてたわよね? そんなことしなきゃいけないくらい、実は飢えてるんじゃない?」
ナミの眼光に、二人は「ヒイイ」とますます震えあがる、が。
「あああ、あれは、クジラ肉が美味しいから、獲りに行っただけよ!!! クジラ肉が人気なのは知ってるでしょう!」
目までぐるぐるさせながら、水色の髪の女性は言った。
「……まあ、そうだけど……はあ、どうせあんたたちの島には行くんだから、今更ね」
肩をすくめたナミが、再びつまみ食い二人衆に向かっていったので、今度はそちらの二人が震え上がった。
----------------------------------- side : RUBY
「なあ、これ、外せよ」
アケサトはカタクリに背を向けた。
後ろ手にされた拘束衣。随分念入りだ。
「必要ねェ」
「あれの方が無駄だろ」
アケサトは眼下に広がる乱闘を顎で指す。
「逃げるだろう」
「今まで逃げたことないだろ。お前は振り切れない。重々分かってる」
カタクリはフンと鼻を鳴らした。
「……そこまで言うなら、一瞬でカタをつけろ」
「ハイハイ……」
カタクリは雑に拘束を解いていった。
アケサトは抗議するが、彼はどこ吹く風である。
「はあ……ひっさびさに軽いわ」
心底だるそうに言いながら、アケサトは両手首に巻かれていた海楼石張りの革ベルトを外し、脚にもあったそれも外した。
「あー開放感」
アケサトは当てつけのつもりのようだが、カタクリはやはり意に介していない。
二、三伸びをして、アケサトは屋上の縁までステップするように跳んで、くるりと回ると背中から落ちた。
「きゃはははははは⁺˚✩☽」
耳に突き刺さるような哄笑を上げながら、後ろの腰のあたりで輪にまとめられていた、真っ黒な鞭を引き抜く。
するとそれは一瞬で長く長く伸び、何重もの円を描く。そして。
「───
乱闘していた者たちのすべてを締めあげた。
「おごっ」
「げぇ」
多くが濁った声を上げへたり込む。全員連られてヘタるしかない。
泡を吹いて気絶している者も少なくない。
アケサトはくるりと宙で後転し、足から地に降りると、「よっ、と」などと言いながら勢いを溜めると地を蹴り、屋上に戻った。
そして自ら海楼石が内に貼られた革ベルトをつけ直し始める。
「どーよ。はあ、力抜ける……」
心底嫌そうに四つつけ終わると、アケサトはカタクリに背を向けた。
「ん」
後ろ手に回した腕をひょこりと動かす。
カタクリは溜め息をついてアケサトに近づくと、先程と同様に雑に拘束衣を締めた。
「もー、ただでさえうっとーしーんだから、せめて優しくしろよ」
「知らねェ」
そっけないカタクリに、アケサトは頬を膨らませた。
「それで、あれはどうするつもりだ」
「ほっときゃ海軍とかがしょっぴいてくれるんじゃね」
「……」
カタクリは眉根を寄せた。
「いくら雑兵とはいえ、棄てる気はねェ」
「えー、めんど」
敵味方問わず全てが捕らえられている円を、アケサトはげんなりと眺めた。
「一瞬で終わってねェじゃねェか」
「そんなん知らないよ。あとはカタクリがどーにかしろ」
「やはりもう外さねェ」
「えー、勘弁。運動不足でぷっぷくぷーになるじゃん。それに身体ばっきばきで辛いんだけど」
「知らねェ。お前の役目は戦うことじゃねェ。懸賞金まで懸けられやがって」
「別にいーだろ。どうせウチはどいつもこいつも賞金首じゃん」
「顔が割れると面倒なのは、お前だろうが」
「……チッ」
舌打ちすると、アケサトは黙った。
カタクリは、幾度目かも分からない溜め息をつく。
カタクリはアケサトの足首に、大きな鉄球付きの鎖を装着すると、屋上から飛び降りていった。
「……だから、酷い目に合うの分かってて逃げないっての」
アケサトは口を尖らせてむくれた。
✦ルリの目
絵だとちょくちょく同心円のあれを意識してはいたのですが、文ではかいてませんでした。不親切。ごべんばばい…。
✦メリー号
加えて
✦
彼は車の運転技術異常なのでこのポジションです。
ただジンベエのように波に乗れたりはしないと思います。
操舵手が二人いても交代できていいかも、とも思いました。
✦アケサト
どんな格好なのか描いときたかったんですけど、気力が(だめにんげん)。