海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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77.小さな大冒険

〝こんな船じゃ、悩む気も失せる。〟

 

 ビビはナミの言葉でいくらか落ち着いたようだった。

 

 他方、Mr.(ミスター)(ナイン)は立ち姿もどこかぎこちなく、ミス・マンデーは明後日の方向をぼーっと見ている。

 

 ナミは苦笑しながら小さく溜め息をついた。そして(なじ)るような調子で言い放つ。

 

「あんたたち、変な空気出してないで普通にしてなさいよ。うちの船長がいいって言ったんだから、今はほんっとに、あんたたちも、きっちり正式な客なのよ」

「……」

 

 しかし二人はたじろいだ様子を見せる。

 ナミは老婆心で、更に発破がけを試みる。

 

「あんたたちがあんたたちの『友達(ツレ)』を、しっかり守ってくれさえすればいいだけなの! そこだけはしっかりね!」

 

 当の『友達(ビビ)』は、穏やかに微笑みながら、わいわいと盛り上がる一味の様子を眺めていた。

 その姿にはむしろ、切なさを刺激されなくもなく。

 

「……ねえ……あんたたち、もう(・・)無茶すんじゃないわよ。あの子にこれ以上きっついことなんか、見せたくないでしょ」

 

 Mr.(ミスター)(ナイン)の脳裏にMr.8(イガラム)の姿が過る。彼は、神妙な顔でただ俯いた。

 

 そんな時、サンジがキッキンから出てきた。

 

「んナ~ミさーん! ビ~ビちゅゎーん! ミス・マンデーちゃぁ〜ん! お〜飲み物をお持ちしましたぁ!♡♡♡」

 

 トレイにあるのは涼やかに炭酸の弾ける飲み物が三つ。フルーツ等で飾られており、見た目にも楽しい。

 

「お、サンジー! うまほーだな!」

 

 目ざとく気付いたルフィが気色満面の笑顔を浮かべる。

 しかし当のサンジは一瞬で口を曲げた。でれでれに伸びていた鼻の下はどこへやら。

 

「心優しいおれは、お前らの分もちゃーんと用意してんだ。少しは待ってろって」

 

 サンジはぱっと上機嫌な顔に戻ると優雅な仕草で、女性陣一人一人に丁寧にサーブしていく。

 

「……何故私にまで」

 

 ミス・マンデーが困惑の声をこぼす。

 

「レディのために腕を振るうのが、おれの使命ですから」

 

 引き続き優雅な仕草で、丁寧にお辞儀するサンジ。ぽかんと口をあけるミス・マンデー。

 彼女は少しの間迷う様子を見せたが、やがて根負けしたようにおずおずと飲み物を受け取った。

 

「……ありがとう」

「おう!」

 

 にぱっとサンジは笑い、再びキッチンに入って行った。

 

「あはは。サンジちゃんおもしろ」

 

 本当に楽しそうにケンジが笑う。しかし隣でじんぺーは肩をすくめた。

 

「分かりやすい奴……」

 

 やがてサンジはジュースの乗ったトレイを、皆が集まってワイワイしている中にぽんと置く。

 女性陣へのデザートと違い、こちらはフルーツ等のトッピングもなく、コップも一般的な円筒形のもの。

 

「おら」

「いつもながら、扱いの差がすげぇな」

「いや、サンジちゃんからああ(・・)されたりしたら、俺たちも戸惑うしかねーだろ。正常正常」

 

 ケンジが笑ってサンジが「ああん?」と顔をしかめる。

 そんな少しのじゃれ合いを経て、一同、口元を緩めながらコップを手に取る。

 

「「いただきます!!!」」

 

 そしてルフィは一気にかぽっと飲み終える。

 

「あー! うめェ!!!」

 

 バンザイしながらご機嫌のルフィに、ジト目でありながらも苦笑しつつサンジは呟く。

 

「おめェは、ほんとに……味分かってんだか」

 

 そんな詰りは、口ではそう言いつつも、というやつでしかないのだろう。

 

 そして彼は、未だ隅っこで縮こまっていたMr.(ミスター)(ナイン)の目の前にもコップを置いた。

 

「おら、折角作ったんだからありがたく飲めよ? 残したら許さねェからな」

 

 ケンジは少しだけギンのことを思い出した。

 

「……! かたじけない……!」

「おいおい堅苦しいな」

 

 言いながらサンジは、紙巻きを取り出してシュポッと火をつけた。

 

「……そういや、お前らその秘密会社だかは裏切った訳だろ? もうコードネームなんぞで呼べねェよ。名前は……いや、面倒だな。おいルフィ! 本名必要か?」

「あー、別にどうでもいい。好きにすればいいさ!」

 

 にししとルフィは笑う。

 突き放しているようでいて、きっと思い遣りも含まれている。

 

「だそうだ」

 

 肩をすくめるようにしてサンジが言うと、Mr.(ミスター)(ナイン)とミス・マンデーは少し顔を見合わせ、考え込む。

 

 やがてMr.(ミスター)(ナイン)はすっくと立ちあがり、皆が座っている方向へ少し歩み出た。

 その少し後ろにミス・マンデーが続く。

 

「おれは、トランだ。よろしく!」

 

 Mr.(ミスター)(ナイン)改めトランは、腕をすっと貴族的な仕草で胸に当て、ペコリとお辞儀をした。

 

「私は、ルーナエ……よろしく頼む」

 

 ミス・マンデーはピシッとした動きで丁寧にお辞儀をした。

 

「おう、よろしくな! ……ったく、いつまでそんなカチカチしてんだ」

 

 言いつつ、ルフィはにししと明るく笑うのだった。

 ……その後、彼が二人の名前をきちんと呼べたかどうかは、また別の話である。

 

-----------------------------------

 

「狩り勝負楽しそーだけど、邪魔したら悪ぃよなあ」

 

 睨み合い駆け去ったゾロとサンジを、ケンジは柔らかく笑いながら見送った。

 

「俺たちもやるか?」

「んー、あの二人のことだからすげーでかいの狩って来るだろ? 獲りすぎは腐らせちまう」

「いやルフィがいるだろ」

「あー。肉大好きだもんなぁ」

 

 ケンジはぽふんと掌に拳を落とす。

 が。

 

「でも、俺は植物系探してみようと思う。毒味の方法も知ってるし」

「あー。それもいいかもな。ルフィはともかく、俺たちは肉だけじゃ物足りねぇかもしれん」

「そ。じんぺーちゃんもそーする?」

「付き合ってやる。この島の植生は面白そうだしな」

 

 じんぺーちゃんもそこに好奇心湧いたんだなぁ、とケンジは笑った。

 

 

 

 のんびりと非戦闘活動を楽しむ気だった二人だが、結局は戦闘になだれ込むことになる。

 小さな庭という名のこの島で、一味は大きな陰謀の一端と衝突した。

 

 じんぺーはゾロの無茶とウソップの活躍とに並走し、ケンジはサンジと共に暗躍した。







Mr.(ミスター)(ナイン)とミス・マンデー
 本来彼らはこの先二人組で一緒に賞金稼ぎをしているようですが、一味に着いて来てもらいました。
 二人の名前は不明なので偽名のつもりでして、私の勝手でこうなりました。
 ・Mr.(ミスター)(ナイン)トラン
  :声優さんのお名前の内一文字から「tranquil」
 ・ミス・マンデー ⇒ ルーナエ
  :Mondayの由来「dies Lunae(月の曜日)」から
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