海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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7.仲間

 伊達と萩原と諸伏とうちの両親と、当たり障りない会話をしてると、ルフィが「ルリーーー!」と叫びながら突撃してきた。降谷と松田はやっぱりぶすーっとしてる。ほんと何でだよ。

 ルフィがすっごい必死な顔してて、申し訳無さで苦く笑う。

 

「こらこら、ルフィ、ここは病院だぞ、静かにな」

 

 お医者の先生が苦笑してる。

 

「はっ……! ごめんなさい」

 

 素直にペコリと頭を下げるルフィが可愛い。にこにこ笑う先生が「素直でよろしい」と頭を撫でてるのも微笑ましい。

 ……こういう感じに謝る挙動は、がっはっはと笑うガープさんに叩き込まれてたのを見たことある。スパルタっぷりを思い出して思わず遠い目をした。

 

「……大丈夫か?」

 

 心配そうな顔でベッドに手を付いて身を乗り出す様子が可愛くて、へにゃりと笑う。

 

「うん、心配ありがと」

「……! そっか」

 

 にこっとルフィは笑った。

 

「ほら、肉だ! 早く元気になれよ!」

 

 ぐっと、ルフィが食べてるのをよく見る、リブとかじゃない骨付きの──漫画肉っていうんだっけ? あれを突き出してくれた。思わず目を丸くする。

 

「えっ、もらっていいの? それルフィが大好きなやつじゃん?」

「おれはもういっぱい食ってきた!」

 

 けどね?

 ぐるぐるぐきゅーってルフィのお腹が鳴るんだよ。

 ふはっと吹き出してしまった。

 

「うわっ、くそぉ、鳴るなよっ」

 

 ぽか、と自分のお腹を殴るルフィ。

 

「ちょっ、やめろって、おえってなるから」

「オエッ」

「ほらあああ」

 

 あはは。

 

「ルフィ、その肉は自分で食べてくれ。んで、退院したらまた一緒にご飯食べようぜ」

「……! う、うん……!」

 

 素直にぱくりと肉にかぶりつくルフィ。

 ふふ、彼の食べっぷりって気持ちいいよね。ほっぺハムスターになるのも可愛い。

 

「……そうそう!」

 

 母さんがぽふりと手を打った。

 

「ルリにって、市の八百屋さんから梨をもらったのよ。珍しい品種で、怪我に効くんですって」

 

 目を丸くする。

 

「そんなのがあるんだ……八百屋のおじちゃんとおばちゃんにお礼言わないと」

「ね。いつも色々買って行ってくれるから、なんて言ってくれて……」

 

 ふふっと母さんが笑う。

 

「先生、ホンゴウさん、梨はルリにあげても大丈夫ですか?」

「ああ、何でも食わせて大丈夫だ」

「良かった。切って持ってきます」

 

 行ってらっしゃいと皆で見送る。

 

 ふふふ、地味に好物だから楽しみ。

 

 今の状態についてとか(骨はまだ完全にはくっついてないとかなんとか……)他愛ない雑談とかしてるんだけど、ずっと父は手を握って離してくれなくて、降谷と松田は相変わらずぶすっとしててしかも一言も喋らない。二人ほんとどうしたん……。はははと乾いた笑いを浮かべる。

 

 そのうち母さんがカットした梨を抱えて帰ってきた。

 

「ただいま。熟れたら冷蔵庫に入れてたから冷え冷えよ」

「わあ、冷えてるの好き。ありがと」

 

 わくわく。

 

 先生がオーバーテーブルを引いてくれて、母さんはそこにコトリと皿を置いてくれた。馴染み深い甘酸っぱい匂い。ほんといい感じに熟れてそう。

 添えてくれてたフォークを早速ぷすりと刺す。

 

「ふふふ、いただきまーす」

 

 はくりと一口噛み切って、モグゥ。

 

 ……。

 

 ……。

 

 ぴたりと、動けなくなる。

 

 ……アアアア。

 

 ……アァアアア。

 

 匂い普通に梨でしかなかったから油断しきってたアァアア!

 

 はい、そうです、気絶したいくらい不味い!!

 

 何これマジで悪魔の実なん? それとも怪我に効くっていう漢方ちっくな効能のせいなだけ!?!? 悪魔の実って食われるために擬態したりするわけ!? さすが悪魔!?!!?(錯乱)

 ……何で普通の八百屋さんが仕入れられてんのォオオ!

 

「……ルリ?」

 

 霞む視界の中母が心配そうな顔をしていた。

 ……!! 我が聖母を悲しませてなるものか!!

 あと多分八百屋夫婦も何も知らずに善意で譲ってくれただけだ!!

 無碍にしてはならぬ!! ならぬ!!

 

 頭の中で歌舞伎っぽい武士が何人か一斉に息ぴったりにそれっぽい挙動をして(手を何やかんや動かしてトットッてけんけんしてそうなあれ)並んでる(錯乱)。

 

「うわめちゃうま……っ! 思わず固まっちゃった……!」

 

 ばくばくと勢いで食いまくる。

 目が霞む。不味いってレベルじゃない。もう兵器だろこれ。

 匂いだけ紛れもなく大好物の梨なのが救い……いや尚悪い!

 いや負けん! 負けんぞおお! 絶対このせいで梨嫌いになんかならないからな! 悪魔なんかのせいであんな美味しいもの食べれなくなったりするものか!!!(錯乱)

 

 ……皮剥かれてたから外見どうだったか分からないけど、母さんも梨だって思い込んでたしこの不味さならきっとSMILEじゃあないだろう。

 だとしても他の皆が食べたらどうなるかなんて分かったものじゃないから、根性で一欠片も残さず一人で食い切る。

 

 ……目が回る。

 

「あれ。一人で全部食っちゃった。ごめん」

 

 しれっと、懸命に笑ってそう言うと、ふふふ、と母さんが笑った。

 

「珍しく食いしん坊になったわね」

「だって美味しかったんだもん……」

 

 はははと皆が笑ってる。

 

「ありがと、これできっとすぐ治るよ」

 

 にこにこ、にこにこ。

 

 ……アァしぬ。

 

「んー、何か眠くなってきた……ねーねー、久し振りにお前らと一緒に昼寝したい。ベッドでかいしいいでしょ?」

 

 久し振りどころか一回も一個の布団で一緒に昼寝とかしたことないから、皆何かあるって分かってくれるはず。

 

「えー、おれは眠くないからいいや」

 

 ルフィの正直さは今はありがたい。

 

 へろりとベッドに沈む。

 

「ふふふ。……あなた、今の内に、家のこと済ませちゃいましょ」

 

 父さんが、そうだなあと笑い、握っていた手を離した。

 

「先生、皆でお昼寝していい?」

「はは、しょうがないなあ。今日だけだよ」

「えへへ、ありがとうございます」

 

 話に乗ってくれたらしき皆が、じゃあ、なんて言ってごそごそとベッドに上がる。

 

 他の皆が微笑ましそうに笑いながら、そしてルフィが「じゃあなおやすみ〜!」なんて言いながら、部屋を去って行った。

 皆素直でありがたい。

 

「……なあ、お前たち」

 

 すっかり周りにこいつら以外の気配がなくなってから(それが感じ取れたってことは、見聞色に目覚めたっていうのもあながち間違いでもないかもと……ヒィ)、ぼんやりと小さな声で話しかける。

 

「……貰ったのはきっと百パーセントの善意だし、切ってきてくれた母さんも何一つ悪くないとだけ先に言う」

「……どうしたんだ……?」

 

 伊達の心配そうな声がした。

 

「……ゲロ不味かった」

「……っ!?」

 

 皆がびっくりしたりしてるのを感じる。

 

「……なあ」

 

 ああ、不味さのショックからはだいぶ回復してきた気がする……。

 

「お前たち、悪魔の実って、知ってるか……」

 

 ……。

 

 誰も、知らないのかな。

 

「……ゲロ不味な上に、食べたら一生泳げなくなる。水に……海に嫌われる。でも、その代わり……超常的な力が使えるようになる」

「……っ、それって……っ」

 

 萩原が声を上げた。何とかのろのろと上体を起こしてそちらを見る。

 何か知ってるんだろうか。

 

「……こういうのか?」

 

 左の掌を、受け皿に。

 萩原の、右の掌から、サラサラと──星の砂みたいなの……いや、星の砂そのものがこぼれて溜まっていく。

 

「……」

 

 思わずぽかんと見つめた。

 

「今の話を聞くに、誕生日にって両親が食わせてくれた星模様でゲロマズのステキ果物食って以来、だったんだろうな……水が苦手で、カナヅチだ」

「……! そうだったのか……」

「風呂でまで少しぼーっとするのは少し困ってる。前は泳ぐのも風呂も好きだったから尚更さあ……」

 

 萩原の苦笑は悲しげに見えた。

 

「ご愁傷さま。女のコ捕まえるには必要そうなのにな。海とかで遊んでそう」

「……なあ、なあぁあー? ルリちゃん俺のイメージヤバすぎない?」

「何か間違ってるか?」

「……くっ! でもそれが全てじゃねえからな?! ……ったく……!」

「これ系のネタでケンジ弄るの楽しいから諦めろ」

「何その理不尽!?」

「……だーから泳ぐの避けてたのかよ。隠しやがって……」

 

 すごく久し振りに松田の声を聞いた気がした。

 

「じんぺーちゃん……だって、こんなの化け物みたいじゃん」

「……たったこんだけでお前をイジメだすとでも思ったか?」

「そ、そういう訳じゃ……ただ、恥ずかしくて」

「ばーか」

「……っ」

 

 ふふふ、幼馴染の友情眩しいねえ。

 

「……けど、てことは、ルリちゃんも星の砂出すようになったの?」

 

 ああ……説明不足すぎたな。

 

「悪魔の実の能力は一つ一つそれぞれらしい。同時期に同じ能力は存在しないってさ。だからきっと違うんだが、今はまだ分からない……退院したら探ってみようと思う」

「そっかぁ」

 

 ……けどさ。

 三角座りで俯いて、ぎゅうと縮こまる。

 

「……はは、一生泳げないとかさ……どうすりゃいいんだ。……こんなのやだよ、父さん手伝えないじゃん……」

 

 ……お前たちの前では、弱音を吐いてもいいか、な……?

 

 丸まってたらきゅうと無言で抱きしめられて、褐色の腕が見えたからああ降谷だと思って、そのうちに回される腕が増えてった。

 

 まだ怪我人だから、前みたいに後ろにぶっ倒れるような抱きつきかたは、しないでくれたんだろう……。

 

----------------------------------- case : Hiromitsu.M.

 

 たすけて

 

 そんな平仮名四文字だけのメッセージにゾッとした。どうした、と送り返しても既読すらつかない。

 ひたすらその送り主の居所を探した。

 

 潜入なんてしてる身で旧友に会いに行くなんて愚行でしかない。

 だけど流理(ルリ)は大恩人なんだ。放っておくなんて選択肢はない。人目に付かないよう警戒しながら走る。

 今までこんな様子のメッセージなんて受け取ったことなかった。胸騒ぎがする。

 

 あの頃アイツが住んでたアパートの部屋には既に別の人間が住んでいた。

 じゃあ、と曖昧な記憶を掘り起こして実家の神社を探す。

 

 ようやく見つけて石段を駆け上がり──。

 

 ──あ。

 

 まずい、と思った。

 

 ぐるぐると周囲を何かが渦巻いている気がした。

 

 ──そうだ、こういうことに関してアイツにどうにもできないことなんて、オレがどうにかできる訳がないんだ。

 

 ……でも、なら何で、アイツはオレに「たすけて」なんて──。

 

 ふっと足が宙に浮いてしまった気がする。

 その、感覚は──途中で石段を踏み外してしまったということにほかならなかった。

 

 

 

 ペロペロと頬を舐められている気がした。

 犬? 猫?

 

 そう思ってはっとして、ガバリと身を起こして──。

 

「うわあぁあああァ!?」

 

 自分でもかなり情けなく感じる悲鳴が口からこぼれた。

 周りにはまあ犬猫も居たんだけど、他にも猪とか鹿とか色々わさわさ居て、それ以外にも普通じゃない姿をしたでかいナニカとか居て、とにかくみんな身体が白くて、そういうのが全部オレを覗き込んでたんだ、ビビるなってほうが無理だろう!? ……情けないけど、これまでの経験のせいでこういうのへの恐怖心が染み付いてる。

 

 じり、と後ずさろうにも背後にももちろん色々いたからヒッと、また情けない音が喉からこぼれて、もう硬直してるしかなかった。

 

 そんなところへ、くすくす、くすくす、と笑い声が聞こえてきて飛び上がる。

 いい大人がとか言う奴は、真っ暗な所で大勢の動物(?)たちにじっと見つめられる中、怪談で聞こえてきそうな不気味な笑い声とかしてきてみろよ!?

 

「不気味で悪かったなぁ」

 

 ──聞き覚えのある声がしてはっとそちらを見る。

 

 白いのがわさわさモコモコしてる中からすっと……探していた恩人が歩み出てきた。アイツの配信チャンネルにアップされてた奉納の剣舞の動画みたいな、丸っきり神職な装いをしている。

 ……これ以上なく安心してしまった。だけど。

 

「お前……流理……? 大丈夫、か……?」

 

 たすけて、って、この状況からどうやったらオレが君を助けられるって言うんだ……?

 

 流理はくすくすと笑った。さっきの笑い声の主はこいつだったと悟った。何が起きてる……?

 

「諸伏は律儀だなあ。実はさ、助けなきゃならないのはお前自身なんだ。普通に呼んでも来ないだろうと思って」

「……え?」

「ってことでしばらくここに監禁。ご飯はちゃんと持ってきてやるから安心しろ」

「っは!? オレにはすべきことがっ」

「ちなみに諸伏今腹減ってる? あ、減ってるな」

「え、いや、おい……それ君が自己解決することか……?」

「何言ってるんだ」

 

 にこっと笑う流理は「当たり前だろう」と顔で言ってる気がした。

 

「ちょっと待ってろな」

 

 ニコニコしたまま踵を返した流理は歩いて消えてしまった。

 ウゥ……この場に集まってるこの世のモノじゃなさそうな白い奴らの視線をひしひしと感じる。

 座り込んで身を縮める以外どうしようもなくて、どれくらい経ったのか分からないけど、「お待たせ」って流理の声が聞こえてはっと顔を上げた。腕に抱えた膳いっぱいに料理が載ってる。

 

 それをトンとオレの前に置くと、流理もその向かいに座って酒瓶からお猪口に酒を注いでいた。

 

「ひとまず食え。ひっでえ顔してる」

「……そ、そんなにか……?」

 

 今はそれだけしか声を返せなかった。

 

「今は、休め。……降谷が反応してくれるようなら連絡つけてやるから」

 

 ……ああ。やっぱこいつには隠し事なんてできないんだろう。

 

「……いただきます」

 

 大人しく手を合わせる。流理は目を細めて笑った。

 白米を口に入れる。……あったかい。里芋の煮付けに箸をつける。柔らかくて、絹さやと人参も醤油がいい具合に染みててでも優しい味がして、白米をかき込んで──。

 

 なんか……なんか。

 

 ぼろ、と涙が流れてきた。

 

「……まともな生活できてなかったんだろ?」

 

 そう言った流理の声音は、果てしなく優しかった。

 ぐ、と喉が詰まる。

 

「……それだけじゃなくて、色々渡した魔除けも、もう間に合ってないはずだ」

 

 ……。

 何でもかんでも、お見通しか。

 

 すくっと流理が立ち上がった。

 つられて見上げると、利き手に短刀を携えてすっと背すじを伸ばす姿があった。

 

 ああ、これはきっと。

 

 流理が、スッ、スッ、と、その短刀でオレの周りを幾度か斬り払う度に、何かが軽くなっていく。

 

 こうやって悪縁を断ち切るんだ、って言ってたっけ。

 

 最後に一歩下がってすっと横一線に刀を振ると、流理は短刀を収めて再び座った。

 

「……泣きたかったら泣け、そんで収まったらきっちり食え」

「……っ」

「今はなーんも、考えるな」

 

 張り詰めてたものが溶けていく。

 こんな弱さなんて捨てたはずだったのに、流理の声ひとつでうわべが全部ひっぺがされてしまう。

 

 べそべそと情けなく泣いていると、ふふっと優しい笑い声がした。

 

「諸伏に布団持ってきたげて。行灯も要る。ああ、中に潜むなよ、大事なお客さんだからな。脅かしたらお仕置きだ」

 

 わさわさと周りが動き始めたのが分かって、周りに色々いたのを思い出してびくりと震えてしまった。けど気づいたらみんな居なくなってた。

 流理が話し掛けてる感じ、もしかしたら流理が時々言ってた『仲間』って存在たちだったのかもしれない。

 そう思ったら一気に恐怖感が薄れて、我ながら自身の流理への信頼っぷりに苦笑いした。でも当然だ、ああいうの以上にヤバイ見た目の奴とかから色々助けてもらったんだから……。

 

「風呂とかも作ってあげられたりする? 壁で囲ってさ。……バカ、絶対覗いちゃ駄目だ」

 

 な、何の会話してるんだ……?

 

「……なあ、流理、ここ一体ど」

「聞くな」

「?!」

 

 鞘に収まってるとはいえさっきの短刀を口元にびっと突きつけられて、思わず仰け反った。

 そのままニコリと笑って流理はすぐに短刀を引っ込めた。

 

「……うん、そうそう、服も用意してあげてくれ。……はぁ? サイズ合わないんだよ見て分かるだろ、こいつどんだけ身体鍛えてると思ってんだ」

 

 オレには聞こえないけど、流理はさっきまでここに居たような奴らと話してるんだろうな。

 何故かすごく落ち着いてきて、オレはまた料理に箸を伸ばした。

 白米と、お揚げがじゅわっと旨い味噌汁と、ほくほくなポテトコロッケと、ピリッと香る生姜焼きと……。

 

「……ありがとう。めちゃくちゃ美味い。……生き返る……」

「ふふ。いっぱい食えよ。酒もいっとけ。氏子さんにもらったんだけど、秋水って言うんだって」

 

 差し出されたお猪口をありがとうと受け取って酒を注いでもらって、打ち鳴らさずに二人してくいっと上げるだけの乾杯をして口を付ける。

 

「……うまっ」

「ふふ。だよなあ」

 

 ……こんなふうにゆっくり飲むのなんて、いつぶりなんだろう。

 

 ……ゼロや皆とも気を張らなくていい環境でまたこうして……。

 

「……っ、流理っ!」

「お前は上層部の思惑に利用されて消される。だから、しばらくこうして外界全て絶って行方不明にでもなってた方が、降谷も周りも情報面も安全だ」

「……何だって!?」

 

 監禁なんてやめてくれと言おうとしたら淡々ととんでもないことを言われた。

 流理はニィッと笑った。

 

「……違ったこと、あったか?」

「……っ、ない、けど……」

 

 そうじゃなくて。オレは頭を抱えた。

 

「君を、こっち側に巻き込みたくなかった……」

 

 だけど流理はふっと笑った。

 

「諦めろ。と言っても深入りする気はないよ。(いとぐち)だけ拾ってあとは降谷に投げる。領分(エリア)じゃないからな」

 

 それでも、踏み込ませてしまったことに変わりはない。

 

「降谷に連絡つけるのには少し手こずるかもしれないけど、辛抱してくれよ。ああ、ここは電波届かないし、お前は命の保証ができるまで絶対出れないようにしてあるから、無駄に暴れないでくれよ。暇潰しになりそうな物は持ってきてやるしさ」

「…………」

 

 あの、さ。

 

「なんで、ここまでしてくれるんだよ……めちゃくちゃ危ないことくらい、分かってるんだろう……?」

「ばーか」

 

 流理は、ニッと笑った。

 

「友達だろーが」

「……!」

 

 暖かいと同時に、こっちこそ「ばーか」って言ってやりたいと思った。けど、喉が詰まって言えない。

 

「何度も言うぞ、お前は今はよく食ってよく休め。そんで生きて降谷の力になるんだ」

 

 何も、言葉が、出てきてくれない。なのに出なくていい涙はまたこぼれていった。

 

 

 

 ……しばらく経って。

 ここ(・・)は現実じゃない空間なんだろうかとファンタジーなことをどうしようもなく考え始めた頃、ゼロと連絡がついたと言われて。

 

 オレは、潜入先にスパイだとバレて抹殺対象になってるんだと知った。

 ここに閉じ込められて三日と経たない内のことだったらしい。

 

 それからまたしばらく日が経って、ゼロがものすごい勢いで突進して来た。

 

「……っ、ヒロ、ヒロ……っ! 生き、て、っ、生きてる……っ!」

 

 オレを呼びながらものすごい力で抱きついてくるゼロ。締め殺されるかと思った。

 後ろで流理がくすくすと笑っていた。

 

 特殊な場所だからそう頻繁に行き来はさせられないからな、と説明してた流理にもゼロは抱きついた。

 

夜白(やしろ)っ……! ありがとう……!」

「ぐぉえっ、やめろ離せ苦しい死ぬ!」

「っ!? わ、悪い……」

 

 ゼロがぱっと離れると流理は床にへたりこんでひいひい言ってた。

 

 ……ゼロが力加減できなくなるくらい取り乱すのなんて、見たことなかった。

 

「流理、匿ってくれて本当にありがとう。ゼロ……心配かけて、ごめんな」

 

 ゼロはジト、と眉根を寄せながらオレを軽く睨んだ。

 無言でそのまま歩み寄ってきて、ぽすんとオレの肩に小さく拳をぶつけてきた。

 

「……ヒロに落ち度なんかない。公安部(君の所)の膿は僕が潰す」

 

 オレは息が詰まった。

 

「……やっぱ、そうなのか」

 

 流理はぼかして言ってたけど。

 ……部署が部署だけに、オレを売ったのは顔も知らない誰かの可能性もあるけど、やっぱり……遣る瀬無い……。

 

「君がちゃんと復帰できるようにするから、そしたら……あいつら(・・・・)を潰せるまで、また一緒に歩いてくれよ……」

「それだけで済ませるのか? 二人だけに分かる暗号みたいなもんでも作ったら? 受け渡しくらいはいつでもしてやるぞ」

 

 しれっと復活してた流理がしれっと言って、オレとゼロはぽかんとした。

 

「『人間』の通り道開けたり閉じたり頻繁にしたら労力的にもセキュリティ的にもよくないけど、手紙だのデータだのならサクッと仲介してやれる。ネットには繋いでやれないけどパソコン持ってこようか?」

 

 ……流理……本当、君は……。

 

 

 

 オレは……オレたちは、君に助けられてばかりだった。

 オレたちが君に返せるものは、何か無いのか……?

オリ主の性別は?

  • 無性
  • 両性
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