うんこみたいな魔法。   作:ひつまぶし太郎

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悪ふざけみたいなタイトルですみません。
でもまぁ読みたい人だけ読んでもらえたらそれでいいかなと思います。
暇つぶしにご利用ください。


終わっている話。

 

 

 

男は最強だった。

最強故に孤独だった。

 

その男は雲を切り、時を断つ。

彼の剣技を前にして生き残る道は、慈悲をかけられたときのみ。

慈悲を向けられなかった敵は、万象一切塵となる。

 

彼は、全てを諦めたような顔で刀を振る。

並び立つものは誰もいない。

 

神と人は、彼を希望と畏怖を込めてこう呼んだ。

 

───迷宮喰らい、と。

 

 

 

 

 

 

なーにが迷宮喰らいだ舐めとんのか。

ダンジョンなんて喰ったら腹壊すわ。

 

けっ、と男は吐き捨てるように黒い刀をふるった。

たったそれだけで数多の壁がぶち抜かれ、100のモンスターの命が散る。

魔石すら残らない圧倒的な斬撃。

いくら男の強さに見合わない上層とはいえ数年前まで最強とされていたレベル7ですらなし得ない剣の冴え。

 

だが、その男の表情は優れない。

 

男の容姿は凡庸だ。

中肉中背の背丈に雑に後ろで括られた茶髪。

ざんばら頭の下にある顔は整っていたが、死んだ魚のような目が全てが台無しにしていた。

そして、驢人(アシヌス)の証でもある長いロバの耳。

 

男の頭の上にあるにはいささか可愛らしさのすぎるその長耳を時折引くつかせながら、男は冴えない顔のまま歩みを進める。

 

端的に言えば、だ。

男は最強だった。

だから何だと男は嗤った。

 

迷宮都市オラリオ。

ダンジョンがあって神がいて、冒険者がいる。

細かい説明など必要ないほど長い歴史のあるその世界の中心に男はいた。

 

ある人は言った。

彼は孤高故に常に手加減をしている。それでもなお最強なのだ、と。

 

ある神は言った。

これは俺が独自に仕入れた確かな情報なんだがね、彼にはまだ魔法があるんだ!つまり彼の奥の手は誰もみたことがないのサ!と。

 

ある最強になるはずだった男は言った。

いつか超えてみせる、その奥の手をひきだしてみせる、と。

 

ある少女は問うた。

あなたのようになるにはどうしたらいいのか、と。

 

その全ての期待に、男は煩わしそうに答えた。

切れば死ぬ。

この世の理に、それ以上なにを求める?

 

全員が思った。

何いってんだこいつ。質問の答えになってねーよ、と。

 

男は黙った。

なぜなら誤魔化すために適当にほざいた自覚があったからだ。

 

「■■■■■■■■■ッ!」

 

「うるせー死ね」

 

ダンジョンそのものを大きく破壊したことで、修復よりも排除を優先するために生まれた厄災。

そんな存在をみじん切りにしながら、男はつまらなそうに鼻を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

「ただまぁー」

 

気の抜けた声が教会に響く。

ボロい教会だ。

昔ならばともかく、今の男の実力を考えればもっといい場所に住めるし、豪華絢爛に装飾し直すことだってできた。

 

だが、男はこのボロボロ具合を気に入っていた。

そして、扉を開けて地下にある普段使いをしている部屋に足を踏み入れた男は、よっこらせと、見た目に反しておっさん臭い掛け声とともにソファーへと身を投げた。

 

「あ、おかえり水月くん!ご飯できてるよ!」

 

そんな男…水月を素敵な笑顔で迎え入れてくれるのは、一柱の女神だ。

大昔から信仰され、尊ばれ、人々が頭を垂れてきた超越存在。

そんな存在に夕飯の準備をさせ、なんなら掃除に洗濯すらさせている水月は、ソファーに沈み込んだまま片手を上げた。

 

「ういー」

 

「いやういーじゃなくてさ…。相変わらずおっさんくさいなぁ君。まだ二十歳だろ?」

 

「人は生まれたときからみんな心におっさんを飼ってんだよ。たぶん。知らんけど」

 

「はぁ…僕はたまに君が本当に巷で噂の都市最強なのか分からなくなるよ」

 

都市最強。

水月からすれば聞き飽きた言葉だ。

耳にタコ。

いや、クラーケンだ。

そんな痛々しい称号を欲しかったわけではない。

 

水月は自分自身を否定したくてここまで来ただけだ。

 

「なっちゃったもんはしょーがないだろ。誰が悪いかで言えば絶対世界が悪い。世界は俺に謝罪すべきだそーすべき」

 

「それはそうなんだけどさ、世界に恨み言をはいたってしょうがないじゃないか」

 

「ならそもそもこんな魔法引き出したお前が悪い。責任取れ責任」

 

「うっ、別に僕だって好き好んでこんな眷族生み出したんじゃないやい!」

 

じとっとした水月の視線に対して、一瞬怯むもむぎゃー!と地団駄を踏む幼女。

おっぱいはぶるんぶるん揺れてるし、言動も子どもっぽいがこれでも神なのだ。

炉の女神とか、3大処女神とか。

いろいろ肩書があるらしいが、水月からすればこの神ヘスティアは引きこもりニートであり属性てんこ盛りのくそあざとい萌えキャラでしかなかった。

そんなヘスティアをなんの感情も宿らない目でしばらく眺めた水月は、はぁ…と重苦しいため息をついた。

 

魔法。

炎の地獄を生み出し、神速の雷で居抜き、命と時を凍らせる。

その種類は千差万別で、ぶっちゃけなんでもあり。

益をもたらすものから害をなすものまで、数多の冒険者の切り札として魔法という存在は広く認知されている。

 

だが、なんでもありっていうのはやりたい放題やっていいって意味じゃねえぞクソが、と水月は毒づいた。

その毒気は、口からこぼれる。

 

「やるだけやって認知しねークソビッチ神め」

 

「こら!お母さんになんてこというんだ!」

 

「ノリノリか?殺すぞ。で、今日の夕飯なにヘスティアかーちゃん」

 

「君もノリノリじゃないか!物騒な殺気飛ばさないでおくれよ!」

 

主神と眷族というにはあまりにも砕けた気安い関係は、もちろん主神であるヘスティアの懐の深さ器の大きさによるものが大きいが、付き合いの長さも関係していた。

 

「まったく昔はあんなにヘスティア様ヘスティア様って僕の後ろをついて回ってて可愛かったのになぁ」

 

「やつは死んだ。もういない。いるのはおっさんだけだ残念だったな!」

 

「ほんとに残念だよ!」

 

喧嘩をしながらも手際よく食器を並べ、熟年夫婦並みに手慣れた動作で盛付けを行っていく二人は、疲れたようにため息を付いた。

 

───水月とヘスティアの付き合いは、かれこれ十年以上も前に遡る。

 

当時水月は8つの頃に極東の実家をとある事情から半ば勘当される形で出奔し、実家からかっぱらってきた刀一つで旅をしていた。

仕事はもっぱら用心棒。

ただ敵を斬るだけ。

二束三文の安値で仕事を受け、その分食事と雨風をしのげる場所を提供して貰う。

神が授けるという恩恵はなかったが、昔能力を封じられてるくせに妙に強い男神から術理を叩き込まれていたおかげで、護衛の依頼を失敗したことはなかった。

 

旅に出てはや半年。

海を越え砂漠を越えて、森を突破し、ようやくたどり着いた別の大陸の山の頂上で少年水月は野糞をしていた。

 

『うわぁぁぁぁ!ごめんよ、着地任せた!』

 

『は?』

 

そんな水月の頭を踏んだのが、女神ヘスティアだった。

水月は自分の糞を踏んだ。

改めて思い返してみても、クソみたいな出会いである。

クソだけに。

 

「あの日から君との波乱万丈な毎日が始まったんだよね…」

 

「当たり前のように人の思考に相槌をうつな」

 

「君はわかりやすいからなぁ。十二年も一緒だと多少はね」

 

十二年。

人間に比べれば長命とはいえ、所詮寿命という限度のある水月からすれば長い時間だ。

なにせ人生の半分以上なのだ。

 

そんな途方もない時間を無駄にしたと思うと、水月は無性に泣きたくなる。

 

「遠くまで来たもんだな、お互い」

 

「やー、ほんと勘弁って感じなんだけどね」

 

「誰が夢の引きこもり生活を実現してやってると思ってんだ」

 

「愛してるぜ水月くん!でも僕は平穏をもっと愛してるんだなこれが」

 

「俺もだよ」

 

苦節十二年。

冒険者人生一歩目から失敗した水月の物語は、ぶっちゃけ初手で詰んでいる。

 

それを否定したくてここまで来たが、もはやどうにもならないらしい。

 

水月は、自分の魔法が嫌いだ。

大嫌いだ。

世界最強になれてしまうくらい嫌いだった。

 

【うんこ】

詠唱【(アホっぽい顔で魔法名を謳う)】。身体強化魔法。

詠唱【(キメ顔で魔法名を謳う)】。回復魔法。傷と呪詛を治す。

詠唱【(切なげに魔法名を謳う)】。風魔法。大量の風を魔力で練り上げ放出する。

 

 

初見時、ヘスティアは小学生が考えた?と呟いた。

低俗すぎるし、効果が無法すぎる。

一つの魔法で3つの効果。

なんだ切なげって。

いちいち表情の指定かあるのが鬱陶しい。

いろんな意味であり得ていい魔法ではなかった。

こんな最低な恩恵ある?というヘスティアの評価は、そこからさらに覆されることになる。

無論、悪い意味で。

 

自分の恩恵を写した紙を見て、正確にはその魔法の記述を見て柄にもなくワクワクしていた表情を曇らせた少年水月は、その魔法を頑として使わなかった。

その落ち込みようは凄まじく、ヘスティアは三日三晩頭を撫で励まし続けた、という余談は置いておこう。

 

ただ、水月には原因について心当たりがあった。

彼は、それなりに良家の出身だった。

正確には、わざわざ海を越えて移り住んできて、極東の島国の狐の一族に仕え守護を任されてきた一族だった。

だから当然それ相応の振る舞いを求められ、それ相応の教養をつけるための教師もつけられた。

その教師が言った。

 

『下ネタは恥ずべき低俗な言葉です。使ってはなりませんよ』

 

水月は、なるほどと思った。

うんこ・うんち。

そんな言葉を影で並べてゲラゲラ笑っていた使用人の子どもたちは確かに下卑た笑みを浮かべていた。

確かに下ネタは恥ずべき言葉なのだろう。

 

だが、待て。

と、少年水月は思った。

思ってしまった。

 

───楽しいならいいのでは?

 

これが全ての間違いの始まりだった、と今さら後悔したところで過去は変えられない。

少年水月は隠れて呟いた。

 

『うんこ』

 

心が軽くなった。

ずっと家のしきたりに縛られ、クソつまらない儀式に出され、世界一受けたくない授業を毎日垂れ流されてきた少年にとって、下ネタは魔法の言葉だった。

うんこ。

その言葉は自由への切符だった。

 

水月はその日以来、定期的に呟くようになった。

それはささやかな親への反抗であり、同時に子どもとしては至極真っ当な反応だったとも言えた。

子どもはうんこが好き。

それは古今東西ありとあらゆる世界で共通であり、古事記にも書いてある。

偉大な神ゼウスも言っていたらしい。

知らんけど。

 

『でも魔法になるのは違うじゃん』

 

『そうだね、僕もそう思うよ…』

 

『死にたくなってきたな…』

 

『い、いやいや!ほら!使わなきゃいいから!ね?頼むよぉ、着地地点もタイミングもミスってここがどこか分からないんだよぉ〜!僕を甘やかしてくれそうなヘファイストスもオラリオだしさぁ〜!僕には君しかいないんだぁ!』

 

『神の護衛かぁ…最期の仕事には相応しいかぁ…』

 

『絶望しすぎだって!』

 

水月はとにかく魔法を使うのを拒否した。

まぁ当然だろう。

誰だって使いたくはない。

切なげに、キメ顔で、アホっぽい顔でうんこなんて言って戦いたくない。

ヘスティアも効果は嬉しいけど、これを自分の眷族が使うのはちょっと…という気持ちだったため許した。

 

それに少年は魔法を使わなくても普通に強かった。

隕鉄を鍛えたというその漆黒の刀一つで道中の危機は全て退けられた。

モンスターに山賊に海賊に盗賊。

着々と経験値を積み重ね、水月はその実力をめきめきと上げていっていた。

 

『おー!やるじゃないか君!ぶっちゃけまとも枠は次の子に期待しようかと思ってたけど、うんうん。これなら魔法がなくても十分なんとかなるよ!』

 

『今俺にこんな業を背負わせといてはずれ扱いしてたって言ったか?』

 

『嘘嘘、嘘だって!君のことは気に入ってるよ!それはほんとさ!君が1人目でよかったって思ってる!でもさ、ほら、ね?わかるだろ?』

 

『クソが……!』

 

『まぁ安心してよ。次はこんなヘマしないからさ。君のまともな可能性を引き出してみせるよ!なんなら魔法を否定するスキルとかね!』

 

だが、世界がそれを許さなかった。

魔法を使わずにレベル2にランクアップした少年に、新しいスキルが生えた。

 

スキル【追加魔法】。魔法の効果と詠唱を一つ増やす。詠唱【きんたまたま】効果は防御魔法。球体の膜を生み出し攻撃を代わりに受けさせる。

 

『『…………』』

 

『おい俺のまともな可能性どこだよ』

 

『発現させないという選択肢すら与えてもらえなかったよ!恩恵って僕たち神が下界の子供たちの魂に触れてそこから可能性を引き出すってプロセスなのに、触った瞬間に発現確定してたよ!ワンクリック詐欺みたいなもんさこれは!僕は悪くないね!』

 

『おい意味わかんねー逆ギレすんじゃねーよふざけんな!悪化してんじゃねえか!』

 

しばらくみっともなく喧嘩をして、とてつもない虚無感に襲われ無言になった二人は、丁寧にその紙を燃やして埋めた。

見なかったことにしたのだ。

 

次のランクアップで、またスキルが生えた。 

 

スキル【累積詠唱】。詞を重ねることで魔法の効果が増加する。

 

燃やして、無視。

 

スキル【破顔詠唱】。詠唱時笑顔のとき、消費魔力の低下。

 

燃やす。

 

スキル【連続使用】。短時間に繰り返し使うことで魔法の効果を高める。

 

燃やす。

 

スキル【詠唱拡大】。詠唱を詠うとき、術者の声は拡声される。

 

燃やす。

 

スキル【明鏡止水】。激昂時、強化魔法の倍率強化。魔法使用した日以外性欲がゼロになる。魅了無効。精神汚染無効。

 

燃やす。

 

スキル【詠唱諦鎖】。魔法を使わない期間が伸びるほどステータスを一定の割合低下させる。

 

燃やす。

 

スキル【統率者】。詠唱を連結すると、階位上昇効果を得る。

 

燃やす。

 

───気付けば世界最強の誕生だ。

 

奥の手を使わない?

使いたくないから強くなったのに、使っていたら話にならない。

 

手加減している?

味方してくれるはずのスキルのせいでステータスにデバフがかかってるだけだ。

 

諦観している?

しているとも。

こんなスキルと魔法を自分に与えまくる世界の理不尽さに。

 

自分のようになる?

バカかやめとけ。

女の子がうんこうんこ言うつもりか。

 

奥の手を引き出す?

でてくるのはうんこだ。

 

端的に言えば、だ。

男は最強だった。

だから何だ俺はうんこだと男は嗤った。

 

これは、語るべき物語の存在しない英雄譚。

うんこの魔法。

それを否定したくてその男はレベル8になった。

その魔法以外の可能性を引き出したくて女神は本気で自分の眷族の恩恵と向き合ってきた。

だが、ヘスティアも水月も結局魔法を使う以外の選択肢を恩恵から引き出すことはできなかった。

 

だからこの話はここで終わりなのだ。

 

「はぁー、魔法ってクソだわ」

 

「だからってただの技術で魔法を切れるようになるのは違うと思うよ」

 

「うるせー!俺は絶対この魔法使わないからな!」

 

「いいから食べなよ。今日はシチューさ!たんとお食べ」

 

「言うか言うまいか迷ってたんだけど俺カレーの気分なんだよな」

 

「よーしうんこ魔法の強化頑張っちゃうぞー。あと水月はご飯抜き!」

 

「あ、うそうそ。ごめん、いやごめんなさい!神様、仏様、ヘスティア様!どうか普通のステータスと美味しいシチューを俺にください!」

 

とりあえず、オラリオは今日も平和だった。

 

 





ご愛読ありがとうございました!
これにて完結です! 
くぅ~疲れました!
それではさようなら。
続きはありません。
アルコール&深夜テンションで「うんこ・ちんちん・しっこで終わる冒険」というタイトルで一度世に放出され、慌てて消してマイルドにし直したクソ小説の供養です。


ちなみにヘスティアとロバは繋がりがあるらしいです知らんけど。
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