うんこみたいな魔法。   作:ひつまぶし太郎

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憧れたのは茶色か金か。


憧れる話。

 

 

都合8度。

その子どもは魔法に挑み敗れた。

 

「───お前はよくやった。レベル6だろう、お前。格下にここまで粘られたのは久しぶりだ」

 

「……………」

 

「だが、終わりだ。今日オラリオは敗北する。十三の子どもだてらにしてはよくやった。逃げることを私は許そう。無様に尻尾を巻いてこの場から去れ」

 

「………………」

 

「私たちは、英雄を創る。世界は『英雄』を欲している!だから、私は──っ!」

 

何度も何度も魔法に刀一本で挑み、ゴミクズのように吹き飛ばされてはまた挑む少年は、自分の頭から流れる血を手で拭う。

 

そして、死にかけの少年は自分の血をしばらく眺め、それからその英雄の絶叫を鼻で笑った。

 

「知らね。そういうの間に合ってるんでもういいですわ。大人たちで勝手にやってくれよそんな恥ずかしい話。ほんとどうでもいいよな、正義とか悪とか。絶対悪?ははっ、厨二病かよ」

 

「なに?」

 

自分の血を舐め、地面に突き刺した刀に寄りかかりながら。

少年は中指を立てて、嘲笑う。

 

「いいから、そういうのほんといいからさ。それより早く魔法くれよ…なぁ!早く!魔法だ!あと一枚なんだよなぁたぶん!壁が!」

 

「お前は…」

 

その瞳を見て、英雄は気付いた。

気づいてしまった。

目の前の少年は、正義感で立ち向かってきているのではないのだと。

都市を守る者として、力の限りを尽くしているわけではない。

 

その青ざめた月のような紺碧の瞳は、ただ爛々と輝いている。

水月。

水に映された虚ろな満月。

満たされない渇望は、英雄を前に大口を開ける。

 

瞳に浮かぶのはただの興味。

自分はどこまでいける?

自分の手はどこまで届く。

 

彼は、自分の可能性に魅入られた一人の剣士だ。

信念などない。

冒険者は未知に挑む。

そういう生き方しか知らない生粋の馬鹿。

故にあるのは欲求ただ一つ。

 

「お前の信念も、魔法も、人生も、何もかも全部経験値だ。俺が喰らってやるよ。ほら、なぁ!だから───!」

 

「【福音】────っ」

 

斬らせろ(冒険させろ)ッ!!!!!!」

 

超短文詠唱。

必殺ではないが最強の魔法の一角。

病と妹の才能を糧にした、と本人が自嘲するほど練り上げられたその魔法(願い)

 

何度も何度も少年を打ち据え吹き飛ばしたその魔法を放ったのは、本能だ。

思考を全て省略した、いわば暴発。

 

───『あの時、ああしていれば』。生涯の中でそう考える都度、人は老いていく。

 

───選択を悔やむということは、己の所業を呪うことと同義だ。私ですら心がもう何度老いたかわからん

 

───『過ち』は覆せない。『後悔』のために私達は今、ここにいる。

 

未来ある少年。

才能ある冒険者。

大器の片鱗すら見えたその子どもの命を、なんの信念もないただの反射で殺してしまう。

そんな未来に思わず自分を殺したくなり、直後。

 

アルフィアは目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

「───最悪の寝覚めだ」

 

ぐっ、と伸びをして水月はベッドから起き上がる。

午前四時。

いつもの水月なら二度寝をするところだが、あの高揚を思い出したせいで寝付けそうもない。

 

「あー、つまんな」

 

教会の上から街を一望して一言。

万感の思いを込めて、水月は呟いた。

 

「とりあえず二人の鼻にカレー突っ込むか」

 

「やめてくださいね!?」

 

「なんだ起きたのか」

 

「…師匠部屋出るとき僕のことおもいっきり踏んできましたよね…?」

 

「あ、まじ?めんご」

 

「謝罪が軽い!」

 

そんな水月の後ろから顔を出したベルの顔を、水月は死んだ目で見上げる。

 

「…なら始めるか今日も」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

最近、死にかけたのに恋をした(水月に言わせればただの吊り橋効果)ベルのやる気は凄まじい。

これまでもその生真面目さ故に鍛錬に手を抜いたことはなかったが、今はより貪欲になった。

 

あるいはもし、目の前に自分の弱さを自覚させてくる性格最悪なうんこのような師匠がいなければ、浮かれ気分のまま酒場に行って、ツンデレ弱者大好き狼の言葉によって現実を知って、泣きながらダンジョンに突入して『神様…強くなりたいです…』みたいな感動的な展開になっていただろう。

 

だが、このうんこのせいでベルは煽られながら毎日ボコボコにされており、調子に乗ってる余裕はなかった。

 

実際、ベルは駆け出しにしてはやれる方なのだ。

戦闘のセンスだけは間違いなく一級品の男から、基礎のみとは言え鍛錬を受けているのだから。

 

武器の振り方、武器に振り回されない体の作り方、回避防御間合いの取り方、体力がなくなってからの踏ん張り方、痛みへの慣れ等々、上層のモンスターと戦うよりも遥かに上質な経験値を与えるために、水月はかなり丁寧に訓練を行っていた。

そして鍛錬の場だけでなく、自分のレベルに合わせたものなため低品質だが、武器と防具をギルドの支給品に頼らなくていい財政状況にあるという恵まれた環境。

 

確実な成長。

だがそれは、所詮全て駆け出しの範疇だ。

『何もかもしなければ』、ベルは一人の少女の前に現れることさえ許されない。

あの金色を手にしたければ、兎は死ぬ気で跳ねるしかないのだ。

 

故に。

 

「はいそこでターンからの、ジャンプ!」

 

「師匠これほんとに(戦闘)訓練なんですよね!?」

 

「ああ、(アイドルにするための)訓練だ!」

 

「嘘だ!師匠は僕を騙そうとしている!」

 

水月の指示にはなんでも従っていた。

 

「やー俺だって師匠として色々考えたんだぜ?お前を強くするにはどうするかとか、最近妄想でニヤニヤしててキモいからお前の色恋をさっさと成就させるか失恋させるかさせて終わらせたいとか」

 

「に、にやにやしてない…ですよ!?」

 

「お前寝る前とかに妄想してるだろ。かっこよく助けるところとか。たまに効果音口から漏れてんぞ。知らねーの?」

 

ちなみに本当の話だった。

図星を突かれたベルの顔はあっという間に真っ赤に染まり、直後水月に気づかれているということはヘスティアにもバレているという事実に思い当たり顔を青ざめさせた。

実際のところ、ヘスティアは年相応で可愛いじゃないか!とウキウキしていたわけだが、そんなもの思春期男子の前では意味をなさない。

むしろより羞恥を高めるだけだ。

 

「うわああああああ!師匠のバカ!うんこ頭!死んだ魚の目をした変質者って呼ばれてるくせに!」

 

「…よーしいい度胸だ。お前の唯一の取り柄の顔ぐちゃぐちゃにしてやるよ!」

 

「僕のいいとこ見た目オンリー!?」

 

「そう、アイドルにして人気取って、あの女が自分から貢がせるようにすんだよ。アイドル名はジャガマール之助だ。屋台の売上も上げてくれな!」

 

「だっっっっさ」

 

「じゃあお前屋台のおばちゃんにも同じこと言ってみろよ」

 

「あ、水月さんが考えたわけじゃないんですね…」

 

「俺がやらせるならベル・クラネルとかにするわ」

 

「ド本名!身バレしちゃうじゃないですか!」

 

「顔で売り出すんだから身バレもクソもねーよ!乗り気か?ムカつくな」

 

「理不尽!」

 

「とりあえず休憩終わりだ終わり。ほら、打ち込んでこい。いつも通り俺は一歩も動かねえからどっからでも来い。一本入れれたらアイズと顔繋いでやるよ」

 

「休憩とは?」

 

「ダンジョンで緊張しながら休むのも、緊張せずに動きながら休むのも同じだろ。思うように休みたかったら、そのための力をつけろってことだよ知らんけど」

 

そうして、朝日が昇るまでベルは水月に扱かれるのだった。

 

「はぁ………はぁ………っ、きょぅ、も、ぁりがと…ございました…」

 

それは鍛錬を終わる合図。

水月は基本的に、自分から鍛錬を終わらせることはない。

鍛錬の終わりは自分で決めろ、という方針を掲げる水月はその言葉を受けて、木刀を肩に置く。

 

「うーし、帰るぞ。ほら自分の足で歩け。ダンジョン探索は帰るまでが探索なんだからな。死闘のあとに帰れませんじゃ話になんねーぞ」

 

「………はぃ…」

 

「…………おいおい。…ったく、手のかかる」

 

返事をしながら水月の方に倒れてきたベルを受け止め、しばらくどうするか考えた水月は、その白兎を背負うと、市壁から飛び降りる。

そもそも水月が朝早くから起こしたからだとか、体力限界までしごいたからだとか、色々言いたいことはあったが、ベルはその背中の安定感に負け、夢の世界へと落ちていった。

 

「…………ししょー、いつか…僕が…あなたのたいく…つ…を…はらし…………て…」

 

「…うるせーひよっこ。お前はお前のペースでいーんだよ」

 

【憧憬一途】

・早熟する。

・懸想が続く限り効果持続。

・懸想の丈により効果向上。

 

月影追想(ルナ・レプス)

・逆境時、心を奮い立たせ体力と精神力を僅かに回復する事ができる。

・諦めない限り何度でも発動可能。

 

 

───二人の眷族がそれぞれバイトと探索で居なくなり、教会で一人になったヘスティアは、出かける前に更新したベルのステータスが記された紙を読み返していた。

 

「…うんうん、子どもたち同士で仲良くていいじゃないか。…そう言えば、ベルくんの入団記念のプレゼント、まだだったなぁ…」

 

『ガネーシャ主催 神の宴』と書かれた、ある催しへの招待状をヘスティアはちらりと見る。

 

「水月くんのせいで行くたびに各方面から怒られるから嫌なんだけど…ヘファイストスも来るよね…?」

 

普段着以外にもいくつかドレスのあるタンスの中から、水月が誂えてくれた思い入れのあるドレスを取り出したヘスティアは、いそいそと準備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

「───ああ、こうか」

 

点をなぞる様に、軽い動きで刀が振るわれる。

 

たったそれだけ。

たったそれだけでアルフィアの魔法が消滅した。

 

「─────────ッ!」

 

世界の理が、彼の刀に平伏した音がした。

 

「あーよしよし、よーしコラ!やったぜおい!魔法斬り!ただの切断じゃねぇ!概念を斬ったぞ、俺は!!!ハハハハハハハハッ!ヒャーハッハッハッハ!」

 

それはそれとして、水月は限界だった。

子どもの身体にしては血を流しすぎていた。

もはやなんで魔法を斬ろうとしていたかを忘れるほどに限界だった。

ある魔法を否定したくて、自分の可能性の限界に挑戦していたことも忘れ、水月はやらかした。

 

「俺に!全部!寄越せ!」

 

正義と悪の決戦前夜。

絶対悪の世界への宣戦布告前。

アホっぽい顔で下ネタを叫ぶバカ剣士が、世界最強になった。

 

【うんこ】ぉぉぉぉぉおおおおおおお!

 

「は?」

 

「ははははははは!お前もう用済みなんだよバーカ!!ぶっ飛べクソババア!あばよ!いい夢を見ろよ!もう休め!働き者め!ついでにてめーの病を斬ってやるよ!恩恵ゼロになるけどな!」

 

誰もが認めたくないが、その称号を認めざるを得ないその男。

オラリオが敗北し、涙をのんだその日にうんこと叫びながら笑うその男は、当たり前の流れとして都市全員から嫌われた。

 

水月はその日、絶望を知る。

 

「はぁぁぁあああああー!?あんだけ頑張ってランクアップしたのにステータス低下措置とかふざけんなばーか!うんこたれ!死ね!世界このカスぅ!俺が滅ぼしてやろうか、ああん!?俺はもう二度と、絶対!うんこ魔法なんて使わねーからな!使えねーな静寂も!うんこスキル以外をよこせよ!あいつ明日からうんこババアだ!クソババア!」

 

─────スキル【詠唱諦鎖】。魔法を使わない期間が伸びるほどステータスを一定の割合低下させる。

 

彼は、どこまで行ってもうんこだった。

 

 




ひっそり更新してうんこ魔法wと作者が笑えたらいいなくらいの作品でしたが、ここまで評価をいただいた以上ちゃんとキリのいいところまではやろうと思います。
この小説についた最初の評価が星1だったことを思うと、ずいぶん高い評価をいただいているな…と震えています。
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