うんこみたいな魔法。   作:ひつまぶし太郎

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悪意とか因果とか正義とか。


巡る話。

 

 

五条、と呼ばれる一族がある。

極東を統べる『朝廷』、その暗部に据わる『五条』の家。

斬獲はもとより暗殺、謀殺、房中術、全ての闇を一手に引き受ける彼等彼女等は、神時代の早い段階で自分達の『血』の特性を把握した。

すなわち、特定の『魔法』と『スキル』の相伝。

 

───その奥義の名は【五光】。

 

壮烈な『居合の技』に『魔法』を組み合わせた『魔と刀』の複合抜刀術。

彼らは千年の時をもってより極められた必殺と奥義を駆使する。

居合の太刀、最後の太刀。

 

並用される『魔法』の名は奥義と同じ【ゴコウ】。

任意の位置に『魔力の斬撃』を同時に五つ生み出すだけの『魔法』は、極められた『技』を組み合わせることで、その全てを必殺の『居合』へと変貌させる。

つまり──絶殺である。

 

画一化の極致。

より濃い血の継承を求め、血の純度こそが尊ばれるそんな一族。

 

だが、何事にも例外はある。

五条の一族には格式高さゆえに分家が多く存在したが、その中でも一際異彩を放つとある血筋。

 

それは海を隔てた大陸からやってきた驢人との混血。

名を日下部。

五条を日輪と定め、その下であるというひどく貶めるその名前と【朔】という名の鈍ら刀を賜った彼らは、特に風聞を気にすることなく元気にやっていた。

 

そもそも彼ら彼女らの仕事は朝廷ではなく、とある貴族の守護者。

故に派閥争いなど興味もなく、権力争いにも血の濃さにも無頓着な、ただの良家という形で生存していた。

 

とはいえ、その身に流れる血の運命(さだめ)とは無関係ではいられない。

 

御前試合。

少しでも血の繋がりのある一族が一同に介する、切磋琢磨して互いの研鑽をするという名目のもと行われる五条本家当主による力の誇示。

本家相伝の奥義【五光】による蹂躙が毎度行われる出来レース。

 

そこに、クサカベ代表として8つの年の子どもが参加した。

彼の他に子どもはいない。

恩恵が刻まれるのが十歳以上なことを除いても、そもそもが本家当主による殺害の未来が確定した場に子供を出すほうがどうかしている。

だが、クサカベ一族的には、順当に一番強い剣士を出しただけであり、間違っても当主に殺される捨て駒として選んだわけではない。

この子どもなら当主を殺せると確信していた。

 

「くくっ、鈍ら刀を振り回す一族がどんな間抜け面をしているかと思えば、期待以上よな」

 

「見よ。あの黒き刀。あれこそが天下の名匠に打たせた世界一の鈍らよ」

 

「まぁ、何かしらあの長耳。不細工で気味が悪いわ」

 

「ほっほっほ、まるで兎のようだ。軟弱な侍なことは明白ではないかね」

 

「うるせー死ね」

 

少年は、そう嘲る観客に見せつけるように対戦相手全てを殺した。

一太刀一殺。

いくら五条本家に殺される前提の捨て駒たちとは言え、間違いなく一級品の剣士たちは、総て黒刀の餌食になった。

 

「五光ねぇ。ようはあれだろ?あんたらは、必死こいて5回も刀振らなきゃ一人も殺せねーわけだ」

 

「馬鹿な…!」

 

それは、本家の当主すらも。

そもそも5回刀を振ってるのではなく、必殺の居合を同時に五条発生させているという理屈は、その必殺よりも素早い神速の居合に斬り捨てられたことで無意味になる。

 

「遅えよ。欠伸が出るわ。神の御力授かってねえガキの普通の居合にやられる時点で欠陥奥義だな。レベル2なんだっけ?千年の徒労ご苦労さん…って聞こえてねえか。首だけになってるもんなぁ」

 

漆黒の鈍ら刀。

隕鉄を鍛えたというただ丈夫なだけの棒切。

その棒切れは、神の力を借りない無力なはずの少年が振るうことで、8つの屍を御前に並べ上げた名刀となった。

 

居合による勝負。

生物としての格に圧倒的な優劣のある二人。

だが、生物としての格を競う決闘ではなく、剣の速さ比べ。

その土俵で勝っただけとはいえ、彼はまさに天に愛された剣士だった。

返り血を浴びながらも青瞳を爛々と輝かせ獰猛に笑う驢馬(ろば)を心底恐れ、だが同時に、なぜか魅入られていた少女がいた。

 

名をゴジョウノ輝夜。

当時12の年であり、レベルは2。

アマテラス・ファミリアという名の膨れ上がった乱世の世で、政戦やら下卑た大人の欲に巻き込まれるようになっていた少女。

レベル2になったばかりの彼女は、自分の宿業を振り払うようにオラリオへ向かい、正義の女神と出会う。

 

一方、少年は一族から盛大に祝福され惜しまれながら出奔する。

クサカベ一族。

またの名を人生エンジョイ勢。

彼らは良家であり、しきたりに厳しかったが、ゴジョウの血筋については何も縛られていなかった。

 

半年後。

水月はうんこの女神と出会い、うんこの魔法を授かる。

こうして天に愛された剣士は、うんこに愛された剣士になったとう話はもちろん、水月とヘスティアしか知らない話だ。

 

ちなみに、この御前試合の話を聞いた恩神タケミカヅチは頭を抱えたと言う。

 

「お前の教え子イカれてて草」

 

「アマテラス様、そのようなお言葉遣いはおやめください!?」

 

そんな話を、輝夜は思い返していた。

 

「───ははっ、今際の際に思い出すのがこんなくだらない思い出とはな…」

 

輝夜が憧れたあの黒。

一刀で全てを超えていくあの神速。

泥のように血と欲望が足を取るあの地獄に見た蜘蛛の糸。

 

輝夜の中で恐怖で絶対の象徴だった五条の当主の首が宙を舞ったあの日は、まるで絵の具をぶちまけたかのような青い空だった。

絶対の敗北。

五光を掻き消す一筋の月光。

 

アレのおかげで、家を捨てる決心がついたのだから感謝するべきなのだろう。

 

──────輝夜の前には絶望があった。

 

静まらない震動。

遠くから残響してくる瓦礫の音。

哭いたダンジョン。

生まれた厄災。

瞬きの間に死んでいった仲間たち。

 

だが、せめてと思う。

せめてどうか、リューだけは助けなくては。

 

正義は巡る。

 

その言葉を信じるなら、彼女の理想がいいとそう思ったから。

 

「私の小太刀……くれてやる。形見のように大切にしてくれるなよ、存分に使え。──どうか強く在らんことを。私の初めての好敵手。いざとなれば、クサカベ水月を頼れ」

 

片目を失ったライラ。

片腕を失った自分。

生き長らえているだけで死にかけの団長。

3人で並び、絶望と相対する。

 

そして。

 

 

 

 

蹂躙が始まった。

 

この日、アストレア・ファミリアは壊滅する。

 

 

 

 

 

 

怪物祭り。

とある酒場のアホ猫いわく「ぶっちゃけサーカスみたいなもんニャ」。

ようは観衆の前でモンスターをテイムする催し。

普段モンスターなんぞ見たことない市民はその催しに熱狂し、冒険者たちはコロシアム周りに集まる出店とその雰囲気にはしゃぐ、そんな祭り。

 

わいわいと、今にも踊り出しそうな声々が大通りには溢れていた。

そんな通りの直前で、声を荒げる男がいた。

 

「つーかよ、なんで俺がおたくらの店員の財布届けなきゃいけないわけ?」

 

「輝夜が言っていました。困ったらクサカベ水月を頼れと」

 

「パシリじゃねーんだけど」

 

「お前パシリニャ!なぜならお前はこの店の店員になりたいんだからニャ!」

 

「や、もうバイト先見つかったし。なんならもうすぐダンジョン出禁解除になるからちまちまバイトする必要なくなんだわ」

 

「ニャニュ!?」

 

「そんなわけで、俺は今から遊ぶんだよ。バカ猫と馬鹿エルフに構ってるヒマねーの!じゃーな!」

 

「あ、あの…師匠。別にお財布届けるくらいいいんじゃないですか?ついでですし…」

 

「そうだよ水月くん!こういうとこで人助けしとかないと君、好感度回復できないぜ?」

 

あくまで拒否する水月と、それをなだめる少年と女神。

 

「援護射撃ありがとうございます…えっと、名前は?」

 

「あ、あの、僕の名前はベル・クラネルです!?」

 

「良い目をしている」

 

「へ、目?」

 

「この男の側にいながら死んでいない」

 

「お前俺のことばい菌扱いしてんのか?お?ん?やんのかこら!」

 

「こら水月くん!やめないか!」

 

水月が凄むも、直後低い場所から平手が水月のお尻へと振るわれる。

下手人を睨みつけるように振り向いた水月は、叫んだ。

 

「……だいたいなんで俺が一人で祭りに行こうとしてんのについてきてんだよお前らは!帰れよ!」

 

「だって神様が、師匠はお祭りに行くといっつも喧嘩して帰ってくるって」

 

「は?」

 

「事実だろう?僕が毎度どれだけ迷惑してると思ってるんだ!監視だよ監視!」

 

「勝ってるからよくないか?」 

 

「君のその蛮族みたいな思考どうにかならないの?」

 

「ならない」

 

そんなわけで。

なんやかんや悪態をつくことはあっても困ってる人間を見過ごせない水月は、結局その財布を引き受け、祭りに繰り出すことになった。

 

「ね?案外いい子だろ?」

 

「そうですね」

 

「素直になればいいのに、と思います。エルフでもここまで拗らせた者はそういない」

 

「ツンデレニャ」

 

祭りは続く。

 

「見て見て2人共!金魚すくいだ金魚すくい!」

 

「なんで夏祭りみたいなことしてんだよ」

 

「見てください2人共!わー!すごい!ヘファイストス・ファミリアの武器ですよ!」

 

「…俺よりはしゃぐのやめてくんないかな」

 

「あ、おじさーん、そのクレープ三つくださーい。ほら水月くん財布財布!」

 

「お、なるほど。この店員の財布を空にするわけだな。頭いい〜」

 

「違うからね!?」

 

だが、楽しい時間はそう長く続かない。

とある女神のイタズラが、街に解き放たれた。

 

「モ、モンスターだぁああああああああああああっ!?」

 

凍り付いたかのように、平和な喧騒に満ちていた大通りは一瞬言葉を無くす。

絶望の足音がした。

 

石畳を激しく蹴る音を従わせながら、純白の毛並みを持つ一匹のモンスターが、荒々しく突き進んでくる。

ソードスタッグに、トロール。

その他中層のモンスター総数9匹が市街を駆け巡る。

 

ギルド職員が慌てふためき、ガネーシャファミリアが事態の収拾に取り掛かるよりも早く、動いた影があった。

 

「私が一番乗りですか。…クラネルさん。とりあえず下がりなさい。あなたではまだ早い」

 

「リュー…さん?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。リュー・リオン。事態の鎮圧にあたります」

 

そして、それに続くように正義が降り立つ。

 

「リュー!お待たせ!」

 

()()()()

 

「ったく、誰だよこんな祭りの日に!こういう日に盛大にやらかすのってあのバカ侍くらいだと思ってたのに!」

 

()()()

 

「ふん、どうせ陽動でしょう。手早く片付けましょうかね」

 

()()

 

「あ、あなたたちはまさか…」

 

「あら、自己紹介が必要? それなら正々堂々たっぷりしてあげるわ!」

 

おっかなびっくり。

まるでヒーローショーに来た少年のように目を輝かせるベルに向かって、赤髪の少女は一片の曇りもない笑みを浮かべた。

 

恐れず、怯まず、『悪』に立ち向かう強き意志を乗せて。

そして、怯える街の人を安心させる太陽のような笑みを浮かべて。

 

「弱きを助け、強きを挫く! たまにどっちもこらしめる! 差別も区別もしない自由平等、全ては正なる天秤が示すまま!」

 

眼帯のパルゥム。

片腕の女剣士。

木刀を構えるエルフ。

赤髪の片手剣使い。

 

現在たった四人の零細ファミリア。

街に貢献するためにたまにバイトとして街に溶け込んでいる彼女たち。

 

「願うは秩序、想うは笑顔! その背に宿すは正義の剣と正義の翼!」

 

風と太陽に煽られ、彼女達が身に着ける『誇り』が輝く。

翼、そして天秤を模した剣のエンブレムが。

女神の名を示す『正義』の象徴が人々に勇気を与える。

 

「秩序の砦、清廉の王冠、破邪の灯火! 友を守り、希望を繫げ、願いを託せ! 正義は巡る!」

 

彼女は、高らかにその名を謳い上げた。

 

「私達が【アストレア・ファミリア】よ!!」

 

「えい」

 

「「「「え」」」」

 

そんな彼女たちの見せ場を無視したうんこの放った斬撃によって、7匹のモンスターは消し飛んだ。

 

「なぁこれどう思う?ギルドに恩売れっかな?」

 

「たぶん君、いろんな人に謝ったほうがいいよ」

 

「ひ、ひどすぎる…」

 

「や、お話が長いなって」

 

「私たちの決め台詞が!見せ場が!ちょっと!?何してくれてんの!」

 

「正義と悪とかじゃなくて街の人の笑顔が大事なのよフフーン!」

 

「似てないモノマネほど腹立つものはないわね…!」

 

「知るかバーカ!おせぇのが悪い!」

 

掴みかかってくるアリーゼの手をするりと躱し、世界最強のうんこはヘスティアに異様な執着を見せるシルバー・バックの首根っこを掴むと市壁まで投げ飛ばす。

 

「じゃあな。追いつけたらまた遊んでやるよ!まぁお前らじゃ一生無理だろうがな!ギャハハハ!」

 

「師匠、それ悪役しか言わないセリフですけど大丈夫ですか!?」

 

「水月くん、彼女たちのファンだから…」

 

「ファンだから…?ファンなのに…?」

 

「めんどくさい男なんだよ彼は」

 

そして、自分の後ろでぶつくさ言うベルとヘスティアを引っ掴むと水月は空を飛んだ。

 

「待ちなさい!!!」

 

「団長、もう無理だ。諦めろ」

 

「輝夜!アリーゼはまだ負けてない!」

 

「レベル6の私たちですらもう見えないのにか?」

 

「レベル5になってよりわかるあいつの異常さよ」

 

英雄の街は、今日も平和だった。

なんかロキ・ファミリアの向かった方では新種のモンスターが出たらしいが、とにかく平和だった。

 

「ほら、たかが高速飛行で何気絶してんだ起きろ」

 

「うっ、ここは…?」

 

「そうだ、ベルくん!これ入団記念のプレゼント!お値段たったの二億ヴァリスさ!」

 

「にっ!?」

 

「ちなみにうちの貯金の半分だからそれ」

 

「僕は後悔はしてないぜ!」

 

「とりあえずほら、あいつ倒せ」

 

「無理ですよ!?」

 

「いけるいける」

 

「僕だけ平和じゃないんですがそれは!」

 

「平和だろ」

 

 

 

 

 

 

 

蹂躙が始まった。

 

 

ダンジョン探索中にフェルズからの要請を受け駆けつけた水月による蹂躙が。

 

「…最速で殺す」

 

がりがりと、まるで馬が走る直前のような動作で水月の足が地面を掻く。

そして一度、間に合わなかった彼女たちを見つめ、何かを押し込めるように目を瞑る。

 

「【うんこ】【うんこ】【うんこ】【うんこ】【うんこ】【うんこ】【うんこ】【うんこ】【うんこ】【うんこ】【うんこ】【うんこ】【うんこ】」

 

───スキル【累積詠唱】成立。倍率強化。

 

───スキル【明鏡止水】成立。倍率強化。

 

───スキル【詠唱諦鎖】。魔法の使用を確認。ステータス低下を解除。

 

「死ね」

 

アホ顔から放たれる殺気。

それにジャガーノートが反応し、大きく跳ぶ。

巨体に許されない高速機動。

 

数秒で死を積み上げたその速度を、驢馬の疾走は上回る。

 

輝夜は見た。

あの日と変わらぬ漆黒の鈍らが、絶望を切り裂く瞬間を。

憧れの月光は、めっちゃでかい声でうんこ連呼してるけど。

 

厄災の脚が外れる。

全てを破壊する爪が逆に細切れになる。

首が撥ねられる。

ジャガーノートが最後に見たのは、三枚に下ろされた自分の体だった。

 

そうして。

 

「───【うんこ(キメ顔)】」

 

「あなた、真面目な時に下ネタ言うのやめたほうがいいわよ?」

 

「魔法なんだから仕方ねーだろ!回復してやってんだから文句言うな!ムカつくな!」

 

「まさか嫌われ者の真実がこんなものだったとは…不謹慎で下品で下劣な男だと思っていました。すみません」

 

「謝罪の意図が感じられねーんだけど?」

 

「あはははっ、うんこ!うんこて!ひーっはらいてぇー!」

 

「お前見た目も相まってただのガキだなクソが!あと腹がいてーのは裂けてるからだよ動くんじゃねえ!」

 

「…お前、私のことを覚えているか?」

 

「…誰?」

 

「いや、いいんだ。…助かった。私の名前はゴジョウノ輝夜。よろしく頼む」

 

「うわゴジョウかよ。よろしくしたくね〜!」

 

アストレア・ファミリアは壊滅した。

だが、残るものはあった。

少なくとも、4つの命は失われなかった。

 

正義は巡る。

 

後日、闇派閥は完全に壊滅する。

仲間の想いを背負い、決意を新たにした正義の使者たちによって、正面から正々堂々と。

 

 

 

 

 

 

「オッタル痛いわ。私の顔に空から飛んできた何かが突き刺さってものすごく痛いのだけど」

 

「これは…財布?…手紙もありますね『次ちょっかいかけたらオッタルのちんこ切り落とすから』!?」

 

「…帰りましょうか、オッタル」

 

「はい…」

 

 

 

平和だった。

 

 

 

 




実は2話時点で彼女たちの生存は記されていました。
>や、覚えてるよ?だってあのときアストレアの連中助けたの俺だし
連中と書いていたことに気づいてた人がいるかはわかりませんが。
とりあえずキリのいい一巻の最後まで行けてよかったです。
ありがとうございました。
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