幻想九尾の転移録《プロローグ》 ~聖女と歩む勇者の前日譚~   作:暦月

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逃走と闘争

 

 

 その瞬間――。湊が突然走り出したかと思えば、何もない空間に向けて手にした短剣を振るい、そこから大人の男が突然現れた…と、傍からはそう見えただろう。

 

 しかし実際には現れたのではなく“表れた”に過ぎない。

 

 何もない場所から一瞬で人が湧いて出るのと、元々隠れていたのが姿を表すのとでは話が異なる。

 どちらも戦場で使われたら厄介極まりないが、実体がある分やはり姿を消してただけの方が御しやすい。

 尤もそう思っているのは湊だけで、世間一般では後者も十分脅威とされるが。

 

 

「やっぱりな。どういう理屈かは知らないが、その道具で創り出す嘘よりも俺の眼の方が性能としては上らしい。素直に誇るべきか判断に迷うけどな」

 

 

 天宮湊は嘘を見抜くことが出来る。

 

 それが行動(ムーブ)であれ会話の内容だったとしても、彼の前で偽りを犯した者はその尽くを見破られてきた。古代級魔道具とて例外ではない。

 湊の眼に映る光景…それは嘘を吐いた者、または虚偽を図った部分が黒く染まり、まるで罪を背負った罪人が如くその愚かしさを湊に告げてくる。

 

 その代償としてなのか、嘘を証明する黒い靄を視ると頭の中を弄り回すような痛みと不快感に襲われてしまう。だからこの眼を使う事は極力控えているのだが、傷を付けられた借りを返すために制限を一部解除したのだ。

 

「何はともあれ、これで状況はイーブンだ。お前さえ狩れば後ろの雑魚の始末は容易だろうし、そうなれば全滅達成ってな」

 

 後ろを振り返り、自らに傷を与えた下手人を視界に収める。

 

「・・・へへっ、驚いたぜ。スキルを発動したようには見えなかった。魔力を使用した痕跡すら無え。それがステータスとは別の、勇者に与えられた特権ってやつか?」

「……」

「けっ、だんまりかよ。まあ良いさ。オレも面の良くてムカつく餓鬼と話してても面白くねえしなァ」

 

 魔力の痕跡も何も、湊はこの世界に召喚されてから未だ己の才能と身体能力に頼った戦いしかしていない。

そもそも魔法やスキルを行使するには先ず<ステータス>を開いて、それから自分にあった戦い方や保有属性を解析し、練習を重ねた後に実践に移す必要がある。

 

 しかし、それを今伝えたところで余計な混乱を生むだけだとアルシェは思っている。故にそのプロセスを彼女から訊かされてない湊では、先の発想に至ること自体この場では不可能なのだ。

 そもそも能力行使どころかステータスを開く暇さえ無かった為に喩え聞いてたとして行動に移せたかは怪しいが。

 

「その声…! お前スヴェンか」

「おうリドル。わりいな、あとちょっとだったんだが仕留め損ねちまった。次は上手くやるからもう一回協力してくれや」

「協力…? ふ、ふざけるな! てめえ俺を囮にしやがったな! もう少し遅かったら死んでたんだぞ!」

 

 (てい)よく使われたことを感じ取ったのか、声を荒げて言葉で詰め寄る。しかし怒りの矛先を向けられた男、スヴェンは面倒そうに顔を顰めただけだ。

 

「チッ、うっせえな。頭使う以外、てんで役に立たねえんだ。大人しく言う事聞いとけよッ、と!」

 

 ガンッ

 

「ガっ…! わ、分かった。分かったから殴るのは止めてくれ!」

「ハッ、それで良いんだよ」

「うっ…クソが」

 

 悪態を吐きつつも、力ではどうしたって勝てないと分かっているのかそれ以上の文句は出ない。敵とはいえあんまりな様子にアルシェが複雑な面持ちを浮かべるが、湊の方は特に思う事なく一部始終を見守っていた。

 

(知らない顔。つまり俺が最初に確認した時にはもう姿を消してたわけか。見た目のわりに用心深い奴だ)

 

 湊が神妙な面持ちで相手を観察するのとは対照的に、リドルから視線を移したスヴェンからは此方を値踏みするような視線が向けられる。それに違和感を覚えていると、含むものが異なる両者の視線がかち合った。

 

「…! お前、見えているのか」

「ハハハッ! なんだやっぱり手前(てめえ)も見えるのかよ。そうだと思ったぜ」

 

 でなきゃ灯りを消す意味も無えしな、と声高々に肯定する。

 

「そう! オレ様にはこの暗闇をも見通せる『夜目』がある! これが有る限り、さっきのような闇討ちが通じるなんてことはもう無え。残念だったな」

 

 まるでもう勝ったかの如く哄笑し、湊を見下ろす。

 得意げに誇るだけあり、『夜目』は気術系内的情報スキル――魔力を直接操作する能力と、自分を対象とした情報スキル――という職業選択から得られる能力の中でも希少な複合型スキルだ。

 その効果は通常の魔力探知に加え、視覚を強化し暗順応を引き起こす事で、周囲の状況を問わず戦闘を継続することが出来るというもの。これは湊が持つアドバンテージが一つ失われたのと同義である。

 

「ついでに言うとな、オレ様は既に覚醒(・・)を終えている…と言っても、てめェには分からねえか」

「そんなッ…、カナエ様!」

「ハッハァ! 流石にお姫様は理解が速いな!」

 

 アルシェの反応に気を良くしたスヴェンが、自身の優位性を確信し笑みを深める。

 そのにやけ面を尻目に、湊は視線を移した。そこには幾分かマシになった顔を再び蒼白にし、真っ直ぐに翳した手で今にも介入してきそうな聖女姫(アルシェ)の姿があった。

 

「アルシェ、手を下ろせ。予告した時間はまだ過ぎてないぞ」

「ですがカナエ様! 覚醒者を相手にそのような悠長な事はッ」

「もう一度だけ言う。手を下ろせ。ここは俺一人で充分だ。10分が過ぎるまでは黙って見てるか、必要なら魔法なりスキルの準備でもして待っていろと、最初に言っただろう」

 

 今の発言がどれだけ彼女の心を揺すぶったかは分からない…が、内容を変更していない内から命令を違えるのを赦す免罪符にはならない。

 それに何もするなと言っている訳じゃない。必要と判断した時に備えて待てと言っているのだ。

 適切なタイミングで聖女の力を発揮できるよう集中を乱すなと釘を打っとくと、静止の声に渋々といった様子ながら指示に従う。

 

 

「はっ、一国の王女をもう飼い慣らしたのか。テメェ、さっきまでの慇懃な態度は嘘でこっちが本性かよ!」

「失礼な奴だ。俺は何もしてない。まぁ態度が変わったのは否定しないが…」

 

(アルシェの反応を見るための演技だったんだが…そういえば忘れてたな)

 

 

 湊の言葉にスヴェンが不快そうな顔を浮かべる。しかしすぐに持ち直すと、何か思いついたのか突然卑しい笑みを張りつけてこんな提案をしてきた。

 

「なぁ、ここは無駄に争わず手打ちってことにしないか?」

「なに…?」

 

 思わぬ発言に構えは解かず首だけ傾げる。男の発言に“嘘”は含まれていない。

 

「どういうつもりだ?」

「いやぁ、なに。お互いの気持ちを汲んでみただけだ。お前じゃ俺には勝てねえ。ただ俺も楽に勝てるかって言われるとそうでもねえ。だから痛み分けってことにするんだ。俺も無駄に時間は食いたくねえしな」

 

 

 男の提案は(不本意ながら)湊も望むところだった。

 突然飛ばされた異世界の、それも未開の地で、こんな奴相手に体力を消耗したくないのが正直な所。多少の鬱憤こそあれど、わざわざムキになるほどの価値がこの男には無い。戦わずして済むならそれが一番手っ取り早い。

 しかしスヴェンの言葉を鵜呑みにはせず、目を細めて話の先を催促した。

 

「何が目的だ」

「おっ、乗ってみるか!」

「勘違いするな話を聞いてみてからだ。さっさと言え」

「ちっ、口の聞き方には気を付けろよな。けどまぁ良い、要求は一つだけだ」

 

 そう言って湊の後ろにいるアルシェを見て顔を歪ませる。

 

「その女を俺に寄越せ。なあに心配はいらない。満足するまでヤったらテメェに返すよ。姫さんを抱えて王国から逃げるなんざ御免だからな」

「…は?」

 

 その台詞に湊の動きが止まる。

 

「本当ならあのフード野郎に渡す手筈なんだが、俺からしたらどっちでもいい。それよりもそっちの姫さんの方が大事だ」

 

 男の言葉に湊の思考が停止し、話を向けられたアルシェはビクビクと打ち震える。

 

「テメェは知らねえから教えてやるが、そこにいる姫さんとその姉は人族の二大美姫と云われてんだぜ? その美しさは同じ人類種である長耳族(エルフ)すら霞むとされる。そんなの前にしたら是非とも犯したいと思うだろ男なら」

 

 一人で何か言っているが湊には雑音にしか聞こえない。しかし尚も男の独白は続く。

 

「俺は数年前までとある領の騎士として仕えてたんだが、そこで見る王族や他国から来る貴族なんかも確かに綺麗だった。けど今日会って確信した。その姫さんだけは別格だ。比べるのも烏滸がましく思うほどにな」

 

 湊はこの世界の王族貴族が皆アルシェのように浮世離れした容姿をしているのかと思っているが、実際は違う。ただ単に彼女が特別優れているだけだ。

 

妹姫(アルシェ)の方に関しては数年前から話題に上がってたんだが、噂に間違いは無かったようだな」

 

 上から下に嘗め回すような視線を向け、目は見えずとも本能的な忌避感が彼女の身を竦ませる。

 

「顔だけじゃねぇ。見ろよあの胸、最っ高に唆るだろ。G…いやもしくはそれ以上あるか? はっはぁ! こりゃあ堪らねえなぁ――と、うおぉっとァ!?」

 

「いいからもう黙れお前。殺すぞ」

 

 耳に入れるには酷く不快だったため顔面めがけて二本の刃を突き立てる。その攻撃を間一髪躱されてカウンターが飛んでくるが、手応えなく終わった。

 

「ちっ、交渉決裂か。馬鹿だなぁお前も。俺の後なら幾らでもヤれるってのによお」

 

 男の挑発には乗らず背後で震えているアルシェの近くまでいくと、スヴェンから隠すように着ていたカーディガンを頭から被せた。身長が違うため生地が余るが、そのお陰で男の下卑た視線からアルシェの軆を隠すことができる。

 

「カナエ様…」

 

 アルシェが顔を上げた時、湊は苦虫を潰したような苦い表情へと変えた。アルシェは湊が無事でいられるなら何だってする。そう〝何だってしてしまう〟のだ。彼女の決意は一瞬で見て取れた。ここで湊が行けと言ったら間違いなく従うだろう。

 

「必ず勝つ。だから安心しろ」

「っ”」

 

 湊はそんなアルシェを咎めるでもなく、軽く彼女の頭を自分の胸に押し付けた。不安になっている相手にはこうすれば良いと亡き母に教わった。

 そのやり方でどこまで救えたかは分からない。ただ顔を離した時に血の巡りが良くなっていたのを俺は見逃さなかった。むしろ朱に染まり過ぎていた気もするが、見間違いということにしておいてやる。

 

「必要とあらばお呼びください。それと、許しを得る前に回復魔法を使用した罰は甘んじて受け入れます」

「…! 成程、これが回復魔法か。随分と上手く隠したな」

 

 不意打ちで負わされた胸の傷が綺麗に塞がっている。注意を分散していたとはいえ、俺にバレずに治療を施した手腕は見事と謂わざるを得ない。

 しかも今説教を受けたばかりというのに、俺の為ならそれを反故にする頑固さまで持ち合わせている。この意志の強さは想定外。出会ったばかりの俺では把握し切れなかった。

 

「カナエ様、最後に一つだけ。御身が危険と感じたら先程の話を受けて下さい。(わたくし)ならどうなっても構いません。……カナエ様に女神セレェル様の祝福があらんことを」

 

 

“わたくしにできる事なら何でも致します! ですからどうか、***と我らが民にお慈悲を…”

 

 

「――ッ! ( 何だ…今のは。顔も朧げな誰か(・・・・・・・)とアルシェが重なって見えた。これは一体…)」

 

「…? カナエ様?」

 

 その瞬間、突如として身に覚えのない映像が脳内をフラッシュバックした。腕の中に納まっている少女と同じ声音、ぼんやり透けて見える輪郭と、女性の平均身長よりも低い背丈。

 頭の中を再び駆けるノイズが湊の思考を阻害し、このままでは拙いと悟ってか意識的にその光景を片隅へと追いやった。

 

「悪いがそれは聞けない提案だ。それに負けるつもりもない。お前が聖女だというなら、俺を信じて待ってるんだな」

 

 体の向きを戻し、戦う相手の姿を見据える。

 

「話は終わったかよ。にしても驚かされるぜ。仲間の中には『夜目』には劣るが探知系の能力を持っている奴もいたのに、魔力を一切漏らさないんじゃ形無しだ」

 

 その時には先程の現象も治まっていたが、あれが何だったのか思い返している余裕はない。大して期待もしてないが何か情報を漏らすのではと思い男の独白に耳を傾ける。しかしその必要は無いらしい。

 

「まさかここまで魔力操作に長けた奴が召喚されるとはな。まっ、それも女神様とやらの恩恵だろうがよ」

「ああ、やっぱり。お前らが云う魔力って氣力(オーラ)のことか。今のでハッキリした」

 

 お前が何の才能もないただの小物だって事もな。

 

「あ”ぁッ”!?」

 

 これは持論だが、凡人が才能ある人間を前にした時に抱く感情は大きく3つに分けられる。

 

 先ず一つ目が憧憬。感嘆に始まり、それからほどなく変移して憧れになる。3つの反応の中では大多数を占め、主に自分だけのヒーロー、アイドルを見つけた時の子供や、テレビをよく見る大人なんかに多い。

 これ等の人種はそこから更に細分化され、憧れるだけで自分がそこに至ろうとは考えず礼賛するだけの敗者になるか、もしくは分不相応に足掻くだけの愚者となるか。

 ただ、後者の中には稀に湊ですら予測が付かない方向に発展する者もいる。3つタイプの中で一番可能性を秘めているが、それと共に敗者を最も多く生むのがこのグループだ。

 

 

 二つ目は嫉妬。これは憧憬の愚者と形は似ているが、その本質はまるで異なる。

 

 愚者が自己研鑽を積んで後に価値ある者へと進化を遂げるのに対し、これ等の輩を一言で表すなら他者を害することに心血を注ぐような屑だ。

 直接的な暴力は勿論のこと、虚計や恐喝、その他あらゆる妨害を駆使して才ある者を追い詰める。正直その熱意と労力を自分を磨くことに使えと言いたいが、それが彼等の選んだ道なら文句は言わない。精々無駄な時間を愉しんだら良い。

 

 まあしかし、上二つは曲がりなりにも自分の才能としっかり向き合って、格上に挑む覚悟がある分まだ“マシな部類”だろう。

 

 三つ目の相手との器量差を知り、逃げに走るタイプよりはまだ可能性が感じられる。

 

 こいつ等に関しては上を目指す最低限の気概すらなく、そもそも自己研鑽する努力すら放棄した、要するに自分から牙を折ったタイプの負け犬だ。個としての伸びしろが無く、相対する身からしても一番興味を唆られない類である。目の前にいる男もこの気質だろう。

 

「お前、たかだか召喚されたばかりの勇者に随分な警戒様だな。仲間が始末すると思ってたのに、俺だけ戻って来たからビビッて姿を隠したんだろ」

「ッ――」

 

 そう、そうなのだ。奇襲前に湊の存在に気付き、そこから今の状況に繋げたのは賞賛に値する。

 しかし幾ら相手が湊とは言え、レベル一桁の彼にそこまで対策を講じる必要があるかと問われれば首を傾げざるを得ない。この世界の住民なら尚更だ。

 結果的には生き延びた。が、湊の実力を知るならいざ知らず、合流前の時点ではただの大言壮語を吐く生意気な小僧という認識でしかなかったのだから。

 

 

「俺がトドメを刺すまで待っていたのも、勝てるかどうか測るためだろう。ある程度手札を晒して安心したから最後は気付かれない内にってか。それが小者だって言ってんだよ」

 

「ガ…ガハハ。面白え妄想だがてめえの主観がちと入り過ぎだな。そういうのを何ていうか知ってるか? 自意識過剰、もしくは希望的観測って言うんだよ」

 

「舌滑りが悪いな。魔力切れでも起こしたか? 声ガッタガタに震えてんぞ。まあ、あれだけ高性能のステルス機能が付いてるんだ。馬鹿みたいな魔力消費の代償があるのも納得だな」

 

「――こッ、の…! そこまで分かって…!」

 

 

 外面を取り繕ったつもりが周囲を覆う男の魔力が如実に反応し、それを湊に拾われる。元の世界でも似たようなものを扱っていたため、魔力に関する事象への習得が早い。本人の素質が高いのもあるだろう。

 

 

「魔力消費が大きいリスクを負ってまで格下と侮る奴の隙をコソコソ伺う…これが勘違いで済むか? 違うだろ。お前は勇者という肩書きに恐れをなし、圧倒的優位でありながら道具に頼って魔力を浪費した。客観的にはそう見えるが何か間違いはあるか」

 

 

 恐らく、今目の前に立っている相手が俺ではなく格上なら逃げに徹していただろう。それをしないのは、業腹だが総合力的に俺の方が劣っているからだ。

 

 しかもコイツは(たち)の悪いことに、格下と分かれば多少リスクを負ってでも排除しようとする2番目(嫉妬)の性質も持ちあわせている。

 ムカつくから、後々邪魔になるから。そうした逃げの妨害というのも往々にして或るものだ。特にプライドが高いこの手の輩は成長する前に芽を摘んで下らない自尊心を保とうとするから救えない。

 

(それに、さっきからこの状況を成したのは女神のお陰だと都合よく解釈を捻じ曲げてる。何処の世界にもいるんだな、ああやって事実を認めようとしない阿呆が)

 

 逃走と闘争、という言葉がある。

 極限状態における動物の防衛反応を表した言葉で、ストレスを与えられ続けた猫が、その原因に対し爪で引っ掻いて応戦するか尻尾を振って逃げるという反応を取ったためそう名付けられた。

 

 後にこの実験は極めて作為的で限定的に過ぎるという理由から、人間に置き換えて考えるには不適切と批判を浴びるが、重要なのはそこではない。

 この逃走と闘争という言葉が、上に行く者と現状に留まる者達との違いを端的に表現していることだ。

 

 医療におけるストレスへの防衛機制は国によって諸説あるが、大きく10項目程度に分けられる。その中で逃走が占める割合がどれ程かと云うと、実はその殆どが逃走側に分類される純粋な闘争と呼べるのは「昇華」の一つだけであり、残りはどちらにも分類されないグレーゾーンだ。

 そしてこの男は無意識に自分と俺との才能の差に目を背け、外から特別な力を与えられたと思い込むことで心の平静を保とうとしている。そんな奴を小者と誹って何が悪い。

 

 

「俺の唯一と言っていい友人は、俺より才能が劣り、道具や能力(スキル)といったチートが無くたって俺を超えようとしていたぞ。それが成し遂げれず今は大言壮語に終わってるが、ステータスとか抜きにお前とどっちが優れているかと訊かれたら、俺は迷わずアイツを上げるな」

 

「ッ――、言うに事欠いててめえ、オレ様がステータスすら持たねえ雑魚より下だって謂うのかッ、ア”ァ!?」

 

「だからそう言ってるんだ。同じことを繰り返し言わせるな。時間の無駄だ」

 

 

 別に自分の力以外を使うのが間違っているとは言わない。ズルでもチートでも、そんなものに頼らなければ天宮湊(自分)というバグには到底及ばないのだから。

 だが頼りにはしても、それに『頼り過ぎ』るのは良くない。そういうのは何時か絶対にボロが出るし、何より相対するのがソイツである必要が無くなるからだ。

 

 

 

――はァ~~、最近は異世界モノも豊作になってきたなあ。アニメ化も続々決まってるし、これは湊君が嵌まるのも時間の問題かなあ~?

 

 はいはい。いつか来ると良いね。

 

 反応が淡泊ッ! しかも他人事ッ!?

 

 まあ、以前みたく頭ごなしに否定はしないよ。所詮素人の妄想ストーリーと切って捨てるには創り込みがしっかりしてるし、文章の構成や表現も目を見張るものがある。

 

 …ほうほうッ!

 

 でも根幹となる設定に納得がいかないのは今でも同じ。特にこれ、ステータスとかいうのが何であるのか理解に困るんだよ。

 

 ええ~、またそこ~? もういいじゃん、そういう舞台設定ってことでさ。

 

 よくない。百歩譲って主人公のレベルが上がりやすいってのは目を瞑るにしても、それでレベルが及ばない相手に無双ってのは話が飛躍しすぎだ。

主人公がここまでジャイアントキリングで成り上がって来たんだから、他の奴等にも同じことが起こらないとは限らない。なのに格下は問題無いとばかりに描写は流れるし、実際下に強い奴がいないのも問題だろ。

この主人公に才能は無いのに、どうしてレベルが下というだけで才有る奴が勝てないんだ。明らかな設定ミスだろう。

 

 いや、あのさ。そこまでムキにならなくても。それとも案外愉しんでたりだとか……

 

 それはないから。

 

 あ、ハイ。

 

 けどそうだな…。仮にこの設定が現実にも適応できると仮定して、蓮のレベルをある程度上げたとしよう。

 

 え、なんで俺。嬉しいっちゃ嬉しいけど。

 

 それでスキルはこの主人公のをそのままコピーして

 

 ほうほう、

 

 ついでに魔法も使えるようにしちゃいます。

 

 ほう!

 

 で、俺が完膚なきまでに叩き潰す。

 

 ええ…。

 

 それで勝った後に今度は同じ条件下でまた勝負して、そこでも圧勝して蓮を罵倒します。

 

 なんでやねん。

 

 ま、最後のは俺の趣味だけど。けど今の話聞いてどう思った? もし本当に異世界補正とやらで強化を受けたとして、それで俺に勝つビジョンが蓮に見える?

 

 いや……。お前の自信見てるとあんま想像できないっていうか。

 

 そう。幾らガワだけ見繕ったところで、根本が変わらないなら豚に真珠。猫に小判だ。上手い奴は何をしても巧く、強い奴は元から強い。

 俺を超えるつもりなら、何か一つでも良い。武器を磨いて勝つビジョンを明確に描けるようになれ。仮にスキルや魔法なんてものを得たとしても、それを成すための手段の一つでしかないんだからさ。

 

 …つまり、現実にファンタジーな力を求めなくても、それに代わる手札を持っていれば問題ないってことか。

 

 そういう事。ま、その手段が無いから俺に勝てないんだけどね。

 

 ハッ、言ってろよ。いつかその余裕を屈辱に染めてやる。

 

 出来ると良いね。……ところで今日は勉強教えて欲しいって話だったけど、未だ教科書が見えないってことは帰っても大丈夫ってことだよな。

 

 お願いします勉強教えて下さい。

 

 いやいや謝らなくて良いよ。俺の時間を無駄にした罰は来週のテストで支払われるだろうし。

 

 ふんぎゃッ!――

 

 

 

 自分と対峙し、才能の差に打ち(ひし)がれてきた者をこれまで散々見てきた。人は理解できない存在を目の当たりにした時、先ず否定から入る。

 そこから成長に繋げられるかは本人の気質に依るとしか言えず、しかし挫折や絶望を経て闘争状態に移行できる者はそう多くない。殆どの輩が目の前の事実から目を逸らし、まるで俺を居ない者として扱ってきた。

 

 だからそんな周囲の状況に流されることなく俺を超えようとする友のため。

 そして身を捧げる覚悟で助けようとしてくれた少女の為、ここでこんな奴に負ける訳には行かない。

 

「来いよ。お前が積み上げてきた努力も矜持も、全てを否定してやる」

 

 手をクイクイッと曲げて挑発し、相手の神経を刺激する。

 

 

「俺の才能がこの世界のシステムを打ち破る様を、その醜悪な心に刻んでから死ね」

 

 

 





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