幻想九尾の転移録《プロローグ》 ~聖女と歩む勇者の前日譚~   作:暦月

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ステータス ≠ 合計値(挿絵あり)

 

 

「塩蔵品、干し肉、香辛料……おっ、燻製もあるのか」

「乾物や干物ばかりだと飽きてしまいますからね」

 

 お腹を満たした後は備品チェックだ。やはり食べ物が多いが大半は日持ちが良かったり保存食だったりで新鮮なものが少ない。氷塊にある肉や魚ももう残りわずかだ。

 

「…! これは米か。しかも精米までされている」

「それは訪問先のイザナ藩で戴いた物です」

「イザナ藩?」

 

 アルシェの国であるフィリアムとは違い、何処と無く近世の日本を連想させる響きだ。食材のラインナップを見て薄々感じたが食文化だけでなく、どうやら色々と似通っているようだ。

 

「お母様がその国の出身だったのです。お陰で交流もできてミロス地方で唯一の極東公易国になったんですよ?」

 

 ミロス地方の人間はイザナ藩含めた東側を極東、逆に東の住民達はミロス地方のことを中央と呼んでいる。この言葉が広く浸透したのも二十年以上前であり、その中心にいたのがアルシェの両親だ。

 

「とは言えもう少し肉が欲しい。やっぱり狩ってくるか」

 

 思い立ったが即行動。付いて来ようとしたアルシェに荷物の整理を押し付けてその場を離れた。少々強引かとも思ったが本当(・・)()用事(・・)を済ませるうえで一人の方が都合がいいのも事実。今からやることをアルシェに見せるつもりは無い。

 

 

 

 

「お前かずっと俺達を狙ってたのは。想像してたよりずっと珍妙な姿してんな」

 

“クカッカー!!”

 

「鶏……で良いんだよな。食えるのかこんなの」

 

 そいつは一見鶏のような見た目をしているがサイズも威圧感も普通のとは比較にならなかった。身体から生えている羽も何だか鶏のとは違うし、何より尻尾が蛇であることから初めて見る湊でもこれが魔物だと分かった。

 

「まぁいい。取り合えず狩るか」

 

“コケッコー!”

 

 湊の反応が無いのを怯んだと思ったのか、身体を目一杯反らし頭突きを繰り出してきた。それを余裕を持って躱し、木の上に避難したところで注意深く観察する。

 

「この森には弱い魔物しかいないって聞いたんだがな。崖下に落とした(スヴェン)よりずっと強いぞこいつ」

 

 衝撃と共に轟音が辺り一帯を震わせ、砂埃が晴れると湊の立っていた場所が深く陥没していた。あのまま食らっていたら致命傷は免れなかっただろう。当たればの話だが。

 眼下では首を回して消えた湊をキョロキョロと探している。だが本体が見付けるよりも早く尻尾の蛇が湊の居場所を特定した。確か蛇って舌で獲物の温度を感知するんだったか。

 

「鶏肉……唐揚げ……探せばレモンもあるかな」

 

 明確に無視されプライドが傷付いたのか、咆哮(ハウル)に魔法を上乗せし衝撃波を浴びせてきた。拡散された破壊の波は周囲を伝い、回避不可能なほど広範囲に撒かれた技は殆どの生物を死に至らしめる。

 

「五月蠅い」

 

“グワッ!?”

 

 しかし返ってきたのは苦悶の声ではなく攻撃。それも適当に放ったのではなく(トサカ)にピンポイントで命中した。虚を突かれる形となったコカトリスは後退りし、反射的に攻撃の出所を探る。

 

「あ~あ今ので完全にアルシェにバレただろ駄鶏が。帰ったらまた心配で泣いてんだろうな」

 

 そこには平然と佇む湊の姿が。今の衝撃で周囲の地形が変わったのに何故か湊と彼が乗る大木は無傷のままだった。恐らく当たる直前に同質の力で相殺し、その上から反撃の一手をぶち込んだのだろう。

 

「ん…?」

 

 その時彼は見た。生成した氷や道具が魔物に触れた部分から病に犯されるかの如く変質し、最後は砕けて石ころになる瞬間を。

 

「今の感じ通常能力(ノーマル)じゃないな。という事はこいつ特殊能力(ユニーク)持ちか」

 

 どうしてそんな奴と最初に出会(でくわ)したのとか、色々疑問に思うところはあるが先ずは目の前の食材を片付けてから考えよう。

 

 

「能力を使うには目に霊力を集めて、と――【真偽の瞳】」

 

 

 妖狐となって得た新たな固有能力。全部を把握したわけではないが必要な力を思い浮かべて行使すると徐々に効果が表れる。

 その効果とは本来秘匿されている筈の情報――相手のステータスを自由に閲覧できるという正真正銘のチート。湊はその機能をお試しがてら早速行使した。

 

 

 


 

種族:鶏蛇合獣種(コカトリス)  Lv36

称号:「準特殊保持者」

状態:〈擬似覚醒〉

 

力:4050

体力:4215

俊敏:4080

精神:4130

魔力:3970

 

【特殊能力】

《被虐妄想》(「石化」)

 

【通常能力】

《嵐属性 Lv7》 《毒属性 Lv5》

《狂声術 Lv6》 《体力回復(中) Lv7》

《被状態異常効果(+)持続 Lv5》

《状態異常攻撃(-)促進 Lv8》

《鋼爪 Lv8》 《魔纏 Lv7》 

《威嚇 Lv9》 《気配察知 Lv7》

《火炎耐性 Lv7》 《毒耐性 Lv7》

《嵐耐性 Lv6》 《氷耐性 Lv4》

《麻痺耐性 Lv5》 《経験値上昇 Lv5》

 


 

 

 

「へえ…こう見えるのか」

 

 上手くいったことに満足しつつ、得られた情報を一瞬で咀嚼した。一番低い魔力値ですら湊のアビリティを大きく上回っている。だが目の前の鳥が脅威かと問われたら断じて否だ。この矛盾(ギャップ)をどう解消しよう。

 

「そうか、ステータスとは合計値(・・・)ではなく(・・・・)加算(・・)()なんだ。道理で数値のわりに弱いと思った」

 

 この間0.5秒。他者のステータスを見れるという絶対的なアドバンテージが有るとはいえ、世界でも限られた一部の人間しか知り得ない〝事実〟をあっさり見破ってしまった。

 これが鬼才、天宮湊。元の世界で同格どころか足元に及ぶ存在すらいなかった真性のバグが、初めて格上と戦ったことで眠っていた才能を再び開花させようとしていた。

 

「妄想……被虐……石化…」

 

 ブツブツと呟きながら見下ろす。その間にも怒りのボルテージが最大まで上がったコカトリスが尻尾の蛇を伸ばして湊に襲い掛かった。

 

「……」

 

 隣の木をチラリと見やる。魔法で辺り一帯の大地に干渉すると、空中に避けたタイミングでそれを魔物に向けて倒す。

 

“ーーッ!!”

“シャッ!?”

 

 轟音を伴いながら迫る大木に為す術なく下敷きにされる。しかし血は流すものの支え立つ力強さは全く衰えていない。その間にもまた倒木が石となり砕け散った。

 

「あれが石化。俺には影響無し」

 

 それでも指を振って間髪入れず攻撃を繰り出す。今度は湊がいる方とは反対の、コカトリスの背後から攻撃が飛んでくる。最初の一撃を躱して木の上へ逃げる前に、滞空型の攻撃魔法を放ち温存しておいたのだ。それを相手の意識が此方へ集中した瞬間に解いたのだ。

 

“ガ、ガッ、グエェーー!”

 

 だがそう何度も食らってくれるほど相手も弱くない。高密度の集合体である魔法は元々、暗殺などの隠密には向かないからだ。勿論攻撃が仕掛けられているのなんてお見通しだったし、警戒さえ怠らなければ恐れる物でもない。背後から迫った風の弾を素早く回避する。

 

 攻撃が避けられたのを眼で追う湊と、その態度に苛立ちを募らす魔物。このままでは埒が明かないと思ったのか、今度は自らも接近してきた。

 

 

「よし大体分かった」

 

 

 突進して木から落そうとしたところを急に降下してきた湊に首根っこを押さえられる。

 

“ガ、グエッ!?”

 

「調子に乗るなよ駄鶏。お前程度、素のフィジカルで圧倒出来んだよ」

 

 まさか自分から下りてくるとは思わないし、細い腕のどこにそんな力があるのか片手の拘束すら抜け出せない。幹を垂直に駆け下り、重力の力を借りたまま獲物へと飛び掛かったのだ。そのままがら空きの首を万力絞めで落とそうとする。

 

 

「屠殺の経験は無いがこれで良いだろう。肉が傷付かなければそれで」

 

 

特殊能力【被虐妄想】

攻撃のイメージを受けるか或いは実際に受けた時、特性「石化」により自分に仇を為した存在を石に変える能力。湊はそう分析した。

 

魔法だけでなく、能力を発動するにしても魔力は必要だ。それを知っている湊はコカトリスの魔力循環を滞らせて相手の抵抗を封じた。

呪術や幻術のような状態異常を起こす技は、繊細であるが故に酷く脆い。それこそ力押しで突破されるように出来ている為、複雑な物ほど術者の理解と力量が問われる。

 

 

「この力は複数の敵と相対した時に最大の効果を発揮し、イメージさえあれば群れに襲われたとしても有利に事を運べる。逆に奇襲や一撃で決めるタイプとは相性が悪いから視野を広げる必要がある。それで()後ろ()で二つの顔を持つようになった……違うか?」

 

 

 アルシェの能力に比べたら驚くほど平易だ。この程度の能力に頭を悩ませるようでは四つある固有能力の解析など出来やしない。

 

“シャアァーーっ!”

 

 本体の危機を察し、尻尾の蛇が湊に噛み付こうとした。コカトリスの毒は頭部と尻尾で扱いが異なり、頭だと吐いた吐息に毒が、尻尾の蛇には牙に仕込まれている。

 

“シッ、シャア?!”

 

「どうしたよく噛めよ。生存競争を生き抜くための牙が貧弱でどうする。魔力の巡りも悪い。そんなだから能力の干渉を受けるんだ」

 

 だがそれは本体部分ではなく直前で割り込まれた彼の尾に突き立てられた。噛み千切るつもりで放った牙は、しかし毛を何本か抜くだけで筋繊維の一つ、表皮の一枚だって剥けはしない。

 初撃が毒ではなく物理だったこと、それに能力使用時に起こる魔力の揺らぎが確認出来なかったことから相手の意図にも気付いていた。気付いた上で噛ませた。

 

「触れた感触はあるけど痛みは無い。毒も通さない。本来の使い方以外に近距離での攻防に使えるかもなッと、」

 

 雑に尻尾を振って蛇から離すと、ビキビキッという力を込める音が尾から発せられる。

 

「蛇肉も食べられるとは聞いたが臭そうだし今回はパスだな。胴体だけで十分だわ」

 

 限界まで研ぎ澄まされたソレを胴と尾の付け根部分に振り込むと、まるで鞭のように(しな)り両者を分断した。

 

“ギギ、ガガ”

“シュ~~るるゥ…”

 

 完全に生体活動が止まってから切断した面を見ると、若干線は粗いが確かに寸断した跡が成されていた。

 だが斬ったというより叩き潰したが表現としては近く、これなら【黎明の神器】で処理した方が早く綺麗に捌ける。なので使うとしたら盾にするか、死角から叩くのが効果的だろう。

 

「首を刎ねるのはどうしようか。アルシェに見せるのは気が引けるし、道具も持ってきたからここで済ませよう」

 

 早速とばかりに道具を出し、死後硬直しない内に血を抜いていく。頭を落とし、バリバリと皮を剥ぐ手は止まらない。

 

 

「ふ、ふふ……。クスクスッ」

 

 

 自然と笑みが零れる。そのまま作業を続けて肉を取り出すと、ふらふらと立ち上がり来た道を戻っていった。

 

 

 その後拠点に戻ったら案の定心配していたアルシェに抱き着かれて離れられなくなる湊であった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

同日(どうじつ)――北の大国フィリアム。

 

王城の横にある離れでは日課の稽古を終えた少女が休息を取っていた。

この稽古場は亡くなった元王妃が所望して建てたものであり、極東の地で『巫女』をしていた王妃が変わらず豊穣の舞を踊り続けた場所としても知られる。

王妃が死没してからは彼女の娘――第一王女が『巫女』の称号と共に引き継いで変わらず研鑽を積んでいるという経緯を持つ。

 

普段であれば王女とお付き以外で滅多に訪れることがないその場所に、封書を携えた文官が足を踏み入れる。

 

 

「お休みのところ申し訳ありません。セレェル教の使者がお伝えしたいことがあると城門前でお待ちです」

「……居ないと追い返してください」

「は…? いやしかし」

「またジジイ共の小言でしょう。あの子(アルシェ)が不在の時まで付き合う義理はありません」

 

【挿絵表示】

 

「ですが書状は教皇聖下からのようです」

「聖下が? どういったご用件かしら」

 

 

受け取った封書を開くことなく一度は脇に置いた。

この手の面倒事は知らぬ存ぜぬが彼女のモットーである。

 

だが想像していた送り主とは違っていた。

 

女神宗派の表向き(・・・)トップからの信書に然しもの彼女も無視できず、一度は退けたそれを再度手に取ると隅々まで目を通す。

 

 

「……早急に返事を返さねばなりませんね」

「では馬車をご用意致します」

「使者にはそういう事だからと伝えておいて」

「よほど緊急のご用件だったのでしょうか」

「そうね。貴方になら話してもいいかしら…」

 

 

 聖龍様からのお呼び出しだったわ

 

 

 

 





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