幻想九尾の転移録《プロローグ》 ~聖女と歩む勇者の前日譚~   作:暦月

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変異

 

 

「え? この世界で一番強いのは誰かですって?」

 

 

 場所は変わり帝国のとある一室で、宰相アンドレーフが勇者たちの質問に答えていた。

 ダリミルに召喚されてから数週間、そこで自分達が為すべき使命や、それに向けた準備……自らの職業(クラス)を確立させ、基礎能力の向上や足りない知識を伸ばしてきた。

 最近では兵士との模擬戦や魔物討伐にて実践的な訓練が始まり、今の自分達がどの程度の強さなのかも朧気ながらに把握した。

 

 ならば気になるだろう、目指すべき頂点(ゴール)が何処なのか。

 

 彼我の戦力差はどれ程か。

 過去の勇者たちはそこに至れたのか。

 はたまた前任者が最強に君臨していて、それでも使命を果たせなかったか――etc.(など)

 

 気になりだしたら夜しか眠れない。

 

「難しい質問ですね…。最初に挙げるとしたらやはり神獣の誰かでしょうか。或いは魔王、いや700年間達成できなかった未討伐クエストのモンスターという可能性も」

 

 ここで勇者たちが呆れながら条件を提示する。

 流石にスケールが大きすぎて実感が湧かないため人類に限定して再度質問してみた。

 

「ふむ、それならある程度絞られますね」

 

 

 

心源流開祖にして唯一の000(トリプルゼロクラス)冒険者、〖鬼神〗

 

海底の未到達領域〝最深層〟を一人で踏破した〖海淵姫〗

 

既に故人だが、勇者であれば迷宮の最下の楽園(アンダーリゾート)を発見した〖昼唄〗も度々この手の議論に上がる。

 

 

 

「誰も彼もが一騎当千、いえ争いそのものを終わらせる力を持った超越者です。そしてもう一人、未覚醒(・・・)ながら近い将来ここに並ぶと目されている人物がいます」

 

 その名を告げた時、勇者たちは目を丸くした。

 既に聞き及んではいたが、立場故に戦うイメージをまるで持てなかったのだ。

 

 

「なのでくれぐれも粗相のないようにお願いしますね」

 

 

 そう言い、本人基準で快活に笑った。

 実際は無表情で不気味だったと、後でたまたま通りがかった皇帝に指摘された際にはキックで反論した。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 地下牢に突如現れた黒翼の正体、それは直前まで尋問を受けていたエファイトだった。

 このままで終われないという心の叫びに呼応したのか、自分でも信じられない程のエネルギーが湧き上がり、その力で四肢の枷と檻も破壊……歪んだ執着を向けるエリナへと突貫した。

 

「……馬鹿、な……!」

 

 しかし血を流したのはエファイトの方だった。

 伸ばした腕、変形した両脚、そして新たに生えた両翼。

 それが一瞬のうちに斬り落とされ、半ば呆然とし無防備になった胸を刀が貫いた。

 

“縛”

 

 更には闇魔法が込められたお札――呪符(・・)がいつの間にか全身に貼り付けられており、まるで鉄の縄に巻かれたかの如く抵抗を封じられる。しかもまだ終わりではない。

 

 

「極東に伝わる秘術か!?」

 

「すごく流暢に喋りますね。異形化すると大抵変になるんですけど」

 

 

 何もない地下牢にエリナを中心とした、八つの門が出現する。

 自分達を取り囲むように配置された扉の一つに手を向け、何かを回すような仕草を見せたかと思うと頑丈で重そうなソレが音を立てて開き、中から耳を劈くような雷鳴が轟いた。

 

 

「外郭封建

 風疾を抜き去りし韋駄天、【黄穿門】解錠」

 

 

 目を覆いたくなるようなスパークが向かう先は当然エファイト…ではなく顕現させたエリナの脚に纏わりつき、光が収束すると草履からロングブーツに履き変わっていた。

 

 

 

「宝具『雷光の靴(ライトニング・ブーツ)』――発動」

 

 

 

「場所を変えましょう。ここでは戦えない」

 

「ゴッ!!! ――ガァッ!??」

 

 

 その脚で満足に動けない推定エファイトを蹴鞠さながらに蹴飛ば(シュート)し、星空に彩られた夜天へと戦場(フィールド)を移した。

 突然の轟音に城内が慌ただしくなるのを遠くに感じながら、兵士はその場でへたり込んでしまった。

 

 

「聖下に伝言を。この件は私が処理するので王都の護りをお願いします、と」

 

「あ、はい……」

 

 

 そんな状態だろうがエリナは待ってくれない。

 彼に掛けられたのは労いではなく、教皇への伝達役という重過ぎる命令だった。

 偶々居合わせてしまったばかりに一兵士の領分を超えた大役を任せられてしまったが、実際はその裏にいる聖龍に向けられたものであり責任の重大さが更に増した。

 しかし幸か不幸かエリナが撃退した段階で既に許容量(キャパ)を超えており、脳がフリーズしているせいで本人はその事に気付いてない。

 遅かれ早かれ顔を真っ青にする姿が想像できるが、一々構ってられないのだろう。

 

 

「では行って参ります」

 

 

 霹靂一閃。予備動作もなく瞬きの間に姿が消え、遅れてパリッと乾いた音が響いてようやくエリナが移動したのだと気付いた。

 一方、上空に打ち上げられた異形の男エファイトは斬られた手足と翼を再生しようとしていたが、完治まであと少しという所で横合いから強烈な追撃をかまされ、強引かつ直角に進路変更を余儀なくされるとそのまま数百キロ吹っ飛んだところで漸く止まった。

 

 

「おのれェ…! 海の上まで飛ばされるとは」

 

「やっぱり飛べるんですねあの翼。さしずめ半人半鳥(ハーピィ)突然変異種(シンギュラリティ)といった所でしょうか」

 

 

 それを睥睨しながら冷静に分析するエリナ。

 

 彼女が履いている宝具(ライトニング・ブーツ)は湊がオルガ戦で編み出した雷纏(カムイ)と似たような効果をしているが、彼方(あちら)が雷の力をその身に宿すのに対し、エリナの《雷光の靴》は雷そのものとなるため、速さや威力が桁違いなのは勿論のこと決定的な違いは制空権の存在だろう。

 直線的な動きしか出来ないのを持ち前の才能と周囲の環境を活かして幻惑した湊と、立体的な動きも展開できるエリナでは機動力に大きな差がある。それはまるで陸のチーターと空の鷲ぐらいかけ離れていた。

 

「だが見ただろう、朕の力を! 四肢の欠損もダメージにはならない! 大人しく降伏しろ!!」

 

 エリナに下卑た笑みを向けて勝ち誇る。

 しかし帰ってきたのは冷ややかな視線だけだった。

 

 

「『無限回復』を会得した程度で何を今更。あの様子では固有(・・)属性(・・)も持たされて無さそうですね」

 

聞いてた情報(・・・・・・)にあんな眷属を生み出す者はいなかった。となれば新種だ、油断はするなよ』

 

 

 城の地下で変異した時は焦ったが、周囲に何もない海上へ移動できたことでエリナにも余裕が生まれた。魔力が1でも残っていたら無限に回復できるのは脅威だが、本当にそれだけ。根本的な実力では大きく上回っており、脅威に感じるのも単に殺しにくいだけであって、エリナに死を覚悟させるほどの力は()()ところ(・・・)ない。

 

 

「えぇ勿論です。それに…物差しになれそうな相手も来てくれたみたいですし」

 

 

 ソレ(・・)は大きな風切り音と共に現れた。

 闇夜と同化する濡れ羽色の、ともすれば城ほどの大きさを誇る両翼を羽ばたかせ対峙する二人の上を陣取った。

 金色の瞳にありありと敵意を滲ませて。

 

「コイツは…まさかっ、黒屍(くろかばね)か!? 空の支配者がなんでこんな所にいやがる……ハッ!」

 

 ばッと勢いよくエリナの方を振り返る。

 ご名答、他ならぬ彼女がこの場に呼び寄せたのだ。

 

「貴様ァ、雲の上を跳び越えてきたな! そこが〝禁域〟と知りながら!」

 

 この世界には決して触れてはならない化物が、恐ろしいことに少なからず存在する。

 ウラネスを初めとした神獣、互いに啀み合う竜王、そして各々の地で覇道を征く支配者達と枚挙にすれば暇がなく、皆一様に自分の〝縄張り(テリトリー)〟を持っている。

 

 それが禁域――誰も踏み入れてはならない、それこそ同じレベル帯の怪物たちですら侵入を躊躇う禁足地に土足で上がり込み、しかも自分に挑むかと思えば変な()を追いかけて去っていく始末。プライドを傷付けられた、と思っても仕方ない。

 

 

“ギエ゛エ゛ェェェーーー!!”

 

 


 

個体名:〖黒屍(くろかばね)

脅威度*1:2(禁域種)

棲息地:ガーナム海上空

 


 

 

 

 この空に君臨して五十余年…いい加減ご退去願ってもいいだろうとエファイトの相手に宛がった。

 どちらも王国にとって害を齎す存在、特にエファイトの方は詳細な能力が分からず手を出しにくいため、互いに消耗しあってくれたらと切に願う。

 

 故に両方から矛先を向けられるエリナは一旦、身を引く。

 

 

「外郭封建

 災禍防ぎし闇の衣、【黒飾門】解錠」

 

「外郭封建

 風化を清めし珠玉、【青麗門】解錠」

 

 

 再び出現した八つの門。エリナは最初にエファイトを斬った灼刀を手放し、空いた両手でその内2つの門に手を翳すと、重力に従って落ちていった刀は海上へ到達する前に朱門へと吸い込まれ、代わって黒門、青門からそれぞれ魔力の奔流とともに宝具が顕現する。

 

 

「宝具『退魔の黒染羽織』」

「宝具『聖霊の秘宝(デイ・ラピスラズリ)』」

 

 

 新たに二つの法具を身に付けたエリナに黒屍が突貫し、遅れてエファイトも追従する。

 両者ともに翼を有しているため空中の機動性は折り紙付きだが、それでも雷そのものと謂っていいエリナのスピードには敵わない。

 乾いた音と一筋の残光だけを残し姿を消してしまった。

 

「ッ、奴がいない、何処に消えた…!?」

 

 周囲を見回すが人の影どころか魔力の痕跡すらない。

 それもその筈、エリナがいるのは〝高度18,000kmの上空〟と対流圏どころか成層圏の遥か上から両者を見下ろしていた。

 

 

「エファイトはともかく黒屍は私の居場所に気付いてるみたいですが此処までは来ないでしょう。これより上にはアイツ(・・・)がいる」

 

 

 魑魅魍魎が跋扈するダリミルで永く覇を唱えるために必要なもの、それは自分のテリトリーを維持し続けられる圧倒的な力と、一早く危険を察知し身を護る危機管理だ。

 人類からすれば天災の如き化け物が、一度(ひとたび)外に出ればより強い怪物に蹂躙されるなんてザラにある。

 自然界で覇を謳うなら格上のいない地で、というのがこの世界の常識だ。

 

 標的を追えなくなった黒き大鳥が憎々し気に睨む…が、やがて諦めるともう一人の下手人であるエファイトを排除しにかかる。

 

「クソッ、今度は此方狙いか!?」

 

 異形となった嘗ての王弟も迎撃に出るが、幾らステータスを盛って飛行能力を得たといっても元々の地力が違い過ぎるのに加え、数多の戦闘に勝利してきた禁域種とただの元王族では結果は見えている。

 新たに習得した『無限再生』は魔力が1でも残っている限り再生し続けるという破格の性能を有しているが、逆に言えば魔力残量が尽きてしまうと効果が発揮できなくなる欠点も存在する。

 最初の衝突から既に形勢は傾いており、破壊されては治し、喰われて直すを繰り返しては打開策も見出せず、黒屍からしてみれば無限に再生する餌を啄むだけの食事であり……もう既に戦闘だと思ってもいなかった。

 

 これを覆せるとしたら、アレ(・・)の飼い主である上位存在から新たな能力を貰うほかない。魔法と違ってスキルを使用するだけなら特別な練習を必要としないからだ。

 

 

「能力を使わないと勝負にもなりませんが、どうします」

 

 

 そして遥か上空から見下していたエリナは目撃した。

 捕食されている最中(さなか)、不自然に抜け落ちた羽の一枚一枚が変形し、ヒトの姿を形作っていくのを。

 

 羽から形成された者達もエファイト同様、大人の身長ほどある大翼を備えているが本体が黒屍さながらの漆黒で染まっているのに対し、生み出されたそれ等は灰で煤けたような色をしている。

 それが次々と現れては空の戦場(フィールド)中を埋め尽くし、眼下に見える海を覆い隠してしまった。

 

 餌と見做していた相手の危険性を察知し、ここで初めて敵と認識した黒屍は一度大きく羽ばたき包囲網を抉じ開けようとする。

 しかし舞い上がる直前、何もない空間が突如爆発したかと思えば…間髪入れずに電撃、凍結、突風、そしてまた爆発と確認できるだけでもこれだけの現象が黒屍に降りかかったのだ。

 

 遂に能力を使った。

 

 だが目を凝らしても何が起きているのか皆目見当もつかず、辛うじて魔力を通じ攻撃を仕掛けているのは分かったが遠目からだとエファイトもその周りもただ突っ立っているだけで何かしている様には見えない。本当に気付いたら現象が発生しているのだ。

 

 

『なるほどだ。あの攻撃は空気振動に乗っかった魔力が現象を引き起こしている』

 

「音、ですか…?」

 

『見ろ、奴等の羽が小刻みに震えている。同心円状に放たれた波同士が接触した瞬間、魔力が反応しあれらを誘発しているのだ』

 

 

 内なる声に従って魔力を感知すると確かに音を媒介した魔力によって引き起こされていると判った。

 

 これによりもう一つ判明したのが、音の性質上あの攻撃は同心円状にしか展開できず、狙った所に現象を起こせない…つまりは指向性を持たないものであることだ。

 先程から見当違いのところで誘爆しているのがその証左。だからこそ数を集めて包囲網を敷いているのだろう…その方が魔力同士が接触しやすく攻撃を当てやすいから。

 

 

「《音属性》とは厄介な。無差別かつ被害が広がりそう」

 

 

 そうしている間にも戦いは激化の一途を辿っていた。

 四方八方を囲まれた黒屍が途切れることのない音の襲撃を受け続け、遂に肉体がボロボロになって海へと落ちた。

 これで決着…そう勝利を確信したエファイトの顔が次の瞬間には驚愕に染まる。

 

 攻撃に参加していた分身体の最前列、つまりは黒屍から近い位置にいた個体の何人かが苦しみ始め、何処からともなく現れた黒い藹が全身を覆ったかと思えば何とそれが黒屍へと変貌したのだ…!

 

 混乱はこれに留まらず、最初の一体が置き変わってから時間を置かないで更に二体三体と増殖し、先程の再現…そのお返しとばかりに十体(・・)の黒屍が鳥籠のごとく敷かれた包囲網を中から蹂躙していった。

 

 ガーナム海の上空を統べる黒屍は世にも珍しき後天的な混成獣の突然変異種(シンギュラリティ)だ。嘗てこの地で猛威を振るっていた不老不死の王(イモータル・キング)が当時は鳥獣類王の一体でしかなかった黒屍の住処の霊峰へと侵攻し――2ヵ月にも及ぶ死闘を勝利した黒屍が敗者の肉を喰らって()ったのが始まりと記されている。

 

 不老不死の王から受け継いだ〝簒奪〟の力を使い、自分を殺めたモノに呪いを掛けてより強い肉体に乗り換えるという最悪な習性から付けられた二つ名が【黒屍】

 己のみならず他者すらも死体に変えてしまう黒い凶鳥。

 その存在を危険視した統一冒険者協会が討伐依頼を出してから半世紀が経過したが、その間幾人もの冒険者を葬っては空の支配者に君臨してきた怪物を簡単にどうにか出来ると思った時点で間違いだ。

 

 

「十体ですか。想定していたよりも少ない」

 

 

 本体から切り離された個体にも『無限再生』が備わっているようで喰われた端から即死でなければ再生と、共鳴で実現できる現象には回復も含まれており必死に羽を鳴らして数を保ちながらしっかり反撃も行っている。

 だがそれでも黒屍の優勢は覆らないだろう。

 不死攻略どころか解呪方法さえ知らないのでは勝利条件がそもそも存在せず、(いたずら)に殺して数を増やしては蹂躙されるを繰り返すばかり。これでは害鳥駆除も頼めない。

 

 

『待て、陣形を変えてるようだぞ』

 

「あれは…」

 

 

 再び劣勢に追い込まれた傀儡の群れがそれまで標的を包囲する形から広範囲に散開し、各々一定の距離を保った状態で鈴の音を響かせ始めた。

 

 

「纏まって撃破されるのを防ぐためでしょうか」

 

 

 確かにあれで時間稼ぎしてる間に乗っ取られた数をまた増やせば継戦できると思うが、囲んで効率的に被弾させていた先程と比べたら攻撃力は著しく落ちるだろう。

 かと言って増えた黒屍を全部カバーできるほどの余力は存在せず、何より分身を生み出せるのが本体だけな時点で大分厳しいだろう、と……どちらにせよ受けに回った方が圧倒的不利になるかに思われた。

 

 

『いや違う、来るぞッ!!』

 

 

 その声の直前、奇妙なことに本体であるエファイトが分身の供給を止めていたのだ。

 そして生え変わった翼で一際大きな音を奏でた瞬間、耳を劈くような大爆発が発生した。

 先程までとは比較にならない規模の熱波と衝撃は遥か上空にいたエリナのもとにも届き、その身体を押し上げて危うくオゾン層を突き抜けるところだった。

 

 

「くっ、分身とここまで差があるとは…!」

 

 

 爆破の衝撃は凄まじく、今ので上空を支配していた黒屍は全て焼失…更には己の手駒まで跡形もなく消し飛ばして最後に残ったのはエファイトただ一人となった。

 最後の一撃はエリナをして脅威と断じるほどだったが、勢い余って音を共鳴する相手まで失ったのは悪手だ。

 あの攻撃を再度繰り出すにはまた一から分身を生み出す必要があるのに、それを為している間は完全に無防備となるため仕留められる好機が必ず訪れる。

 

 生成と攻撃、どちらも起点となるのはあの黒翼だろう。であれば行動を起こす前にそこを潰すのが妥当な判断だ。

 しかし、ここでもまた想定外の事態に見舞われる。

 

 

『巨大な魔力反応が此方に向かってるぞ!』

 

「今度はなんですかッ、」

 

 

 エリナが仕掛けるより早く海中からナニカ(・・・)が勢いよく飛び出すと、空中にいたエファイトを真っ二つにして尚も高々と突き上がり、その全貌を晒さぬまま圧倒的存在感を振りまいた。

 

 あれは、山…? 

 いや違う。普通の山は突然飛び出たりしないし先端もあんなに鋭くない。

 あれは生物の尻尾(・・・・・)だ。という事はまさかッ――

 

 

海蛇がなぜ今ここに!?」

 

 

 水深3万mの禁域――海中宮殿(アクアパレス)に棲まう超々(・・)大型蛇モンスター。

 全長がこのドーヴァ大陸に匹敵するとまで噂される〝深層〟の主であり、あまりに巨大すぎるため移動するだけで海中の地形や生態系を破壊し、新たな秩序を生むことでも知られている。

 身動ぎ一つで街に津波を呼び寄せ、水面に追いやられた水棲モンスターたちで暴走(スタンピード)が引き起こされる正に災害の中の災害。

 

 初めてその存在が確認されてから数百年が経っても未だに討伐が叶わないことから、黒屍より更に上のランク1に指定されている。

 

 


 

個体名:〖海蛇〗

脅威度:1(災禍種)

棲息地:海中宮殿(アクアパレス)

 


 

 

 

 動くだけで陸海に甚大な被害をもたらす故に、滅多なことでは覚醒(おき)ない大物が来訪した理由(ワケ)を瞬時に導く。

 

 アレは死海竜王(リヴァイアサン)の眷属だ。

 となると私の魔力を感知して来たか、それとも海が荒れて奴の逆鱗に触れてしまう前に戦闘を収めようとしているのかもしれない。

 後者はともかく、数年前に聖龍様と組んで(・・・・・・・)近郊の海(・・・・)から(・・)追い出した(・・・・・)ことを根に持ってるんだとしたら凄く面倒だ。その場合、国に被害が出る前に討伐しなければ。

 

 

「やはり龍関連でしょうか」

 

『尾をよく見てみろ。決着はまだついてない』

 

 

 示された先……剣状に尖った尻尾がドス黒く染まっているが、その部分だけまるで別の生物が乗り移ったかの如く縦横無尽に暴れ回っている。

 

 いや実際にそうなのだろう。

 その光景には見覚えがあった。

 

 どうやら先程の爆発で落下した骸が、今度は海中にいる生物たちに呪いを振りまき再び復活したのだろう。

 その証拠に身体を乗っ取って復帰した個体は三十にも及んでいるが当然、能力にも制約や限界があり今回直接の死因になった本体(エファイト)や、同格以上である海蛇への乗っ取りは上手くいかなかった。

 それでも状況を悪化させた黒屍にエリナが歯噛みする。

 

 

「私が(おび)き寄せたとは言え、なんて傍迷惑な」

 

『だが早急に対処せねば。幸い様子見に徹してるようだが、いつ頭部(・・)が向かって来るかもしれんしな』

 

 

 目測で観た限りだと黒く染まっている――黒屍に乗っ取られているのは海面から突き出た()先のみ、すなわち4,000mほどだろう。

 あくまで予測だが、人間に置き換えると第4~5足趾ぐらいの侵食だと思われるため、形振り構わず排除しに来る段階ではないだろうが確実なことは分からない。

 

 海蛇が動けば少なからず死海竜王(リヴァイアサン)の目にも留まる。

 二体同時か、或いはもっと引き連れて襲撃しに来るかは分からないが…どちらにせよ国に甚大な被害がでるのは間違いない。

 であれば極力刺激しないように黒屍の支配から解く必要があるが、とはいえ割り込んだら完全に戦闘モードに入っている両者から集中砲火されるのは想像に難くない。

 

 静観か、参戦か。

 

 焦らず慎重に思案を重ねて出したエリナの決断は――

 

 

彗雷(ケイラ)

 

 

 高度40,000mからの不意打ち。

 反応する間もなく垂直落下(ファーストアタック)を叩き込む。

 

 隕石をも上回る速度で放たれた蹴りは落下線上にいた黒屍を何体か巻き込んで、その黒屍に支配された尾の先端をあろう事かぺしゃんこ(・・・・・)()潰して(・・・)しまった(・・・・)…!

 

 

『な、なっ…!』

 

「私、考えている途中ふと思ったんです。どうしてこんなに頭を悩ませる必要があるのか、と」

 

『何しとんじゃこのバカ娘…!』

 

 

 

 

 才色兼備の完璧王女

 それが世間一般で語られる巫女姫(エリナ)の評価だ。

 

 だが昔、妹姫が生まれる前の彼女を父王レイモンドはこう評したことがある。

 

 曰く、〝脳筋王女〟と

 

 

 

 

「蛇も鳥も裏切り者も、全てぶっ飛ばせば問題無いのでは?」

 

 

 

 

*1
統一冒険者協会が定めた魔物の強さカテゴリー







姉∶脳筋王女

妹∶お転婆王女

弟∶甘えん坊皇太子?


責任って人を変えるんスね
忌憚のない意見ってヤツっす


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