月姫R ノエル先生ルート分岐妄想   作:激辛党

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3……カラオケにて

「もしもし……。あっ、翡翠? ええ、俺です、志貴です。

 その……申し訳ないんだけど……ちょっと今日は色々あってさ。

 だいぶ帰りが遅くなりそうなんだ。晩ご飯、用意しなくていいって、琥珀さんに伝えておいてもらえないか。

あー、もちろん、秋葉にも。門限破って悪い……って。

 

……いや、そのほんと色々あるんだ。そう行事! 学校の行事が、さ。立て込んでて。

先生たちも、生徒会連中も大わらわ、あの有彦ですら駆り出されてる。

来る文化祭で使う舞台セットの手配と、配役決めと、台本の手配と、弁当の発注とか、全部に一気にやっちまおうって、責任感だけは一丁前にあるバカな奴が言い出しやがったせいで。

 仮にも人の上に立つ者ならば、まずは計画性を身に着けて欲しいもんだ。あと……年長者としての余裕とか?

 

 痛っ! ちょ、やめ……。あっ違う、いや今のはなんでもなくってだな。あれだ、ライトに釣られて虫が飛び込んできただけ。

 

え? 隣に誰か……? あ、ああ、当然いるけど? 何がおかしいんだよ。

言ったろ? 文化祭の準備なんだ。女子も男子も、大勢学校に詰めてるんだ。こうしてる今だって、こっち側じゃ床と天井がひっくり返るくらいの大騒ぎしてる。

ほんっと、そろそろ静かにして欲しい。付き合わされる俺もたまったもんじゃない。ったく……。

 

――っ! 

 

ごっごめん、翡翠、何でも無い、えーっと、あれだ、ケータイ落としそうになって、傍ににいるセン……先輩の女子が驚いただけ。本当に何にも無いから、そんなに心配しなくていい。

 

ともかく、秋葉と琥珀さんによろしく伝えておいてくれ。

帰りは……あー、深夜になるかもだから、門の鍵はいつも通りで頼む。

いや、夜食の用意とかはいいよ。それくらい自分で何とかするし。

 

じゃあ、そういうことで……え? 泊まり?

 

嘘だろ? さすがにそんな準備は……。いえ、分かってます分かってますって、だからちょっと落ち着いて……。

 

悪い翡翠、また予定が変わった。今日は帰れないかもしれない。いいや、帰らない。

朝の……朝七時までには屋敷に戻るから。朝食は――できれば用意しておいてもらえると助かります。

 

そんなこと言ったって、仕方ないだろ。急にセン……パイが言い出したんだ。

『今夜は帰さないー!』だって、何歳の子供だよ……。

 

違う、今のは言葉の綾だ。歳上なのは本当。嘘じゃない、信じてくれ。

だからホントだって! どうしたんだ、翡翠。いつもはもっと素直に話を――。

 

あ、秋葉!? 今の秋葉の声だよな!? すぐ横にいるのか!? 道理で!

ごめん、後でもっかい掛け直す! じゃあこれで――」

 

ぷつ、と空しい電子音がして、それっきり。

 

 受話器を握ったままのメイド服の少女は、恐る恐る隣を見やった。

 美しい黒髪をした歳若い女当主は、ただじぃっと、黙秘を決め込んだ固定電話を睨んでいる。

 腕組みをして、直立不動。体の重心は一切崩さず、十年来の仇と相対するかのような――激した視線を注ぎ続ける。ひたすらに。

 

 言葉は無く、動作も無い。

 

 しかしそれがなおのこと、メイド服の少女には恐ろしく思えるのだった。

 

 

------------

 

 

「きぃみぃと、一緒がぁ一番! 好きよってぇもっとぎゅうっとね――」

 

 地獄だ。

 

「どーしたの、志貴クン、ノリ悪いよぉ~? さっきから私ばっかり歌ってるじゃない。早く予約入れてなんでもいいんだから!

 苦手なら、先生一緒に歌ってあげるから! あ、これなんかどう!? デュエット曲なんだけど、ずっと歌ってみたいのがあったのよぅ」

 

 この世の地獄が、顕現した。

 

「あーん、ポテトもう無くなっちゃった。お代わり頼むね。ドリンクはどうする?」

 

「……ドリンクバーがあるじゃないですか。取ってきますよ自分で」

 

「なに言ってんのよぅ志貴クン。ソフトじゃなくて、アルコールの方よ、あ、る、こ、お、る。

 先生はぁ、サワーにしよっかな! 志貴クンも同じのでいい?」

 

「いい加減にしろバカ!」

 

 己の耐久性能の極限に挑戦を続けてきた堪忍袋の緒が、ついに白旗を揚げた。

 俺はソファから立ち上がり、隣に座っていた担任の女教員――あらため、教会より訪れし代行者――またまたあらため、今は飲んだくれのダメ女に人差し指を突き付けた。

 

「どこの世界に教え子を堂々、深夜帯のカラオケに連れ込んだ挙句、思い切り未成年飲酒させようとする教師がいるんだ、恥を知れ恥を!」

 

「え~今更そういうこと言っちゃう? 志貴クンったらお堅いの~」

 

 都合、四杯目のジョッキで完全に出来上がっている、当本人の大馬鹿――ノエル先生は、お決まりのように管を巻いてくる。

 

 背の低いソファで両脚を組む。タイトスカートの内より伸びる、薄いストッキングが見事な脚線美を描いている。

ボタンを三つも外して、しどけなく開いた胸元。たわむれにマイクを左右へ振るたびに、決して小さくは無い――むしろ平均を優に越す胸部が、ゆさゆさとそれはもう見事に揺れた。

 

 いかにも目に毒この上無いが、なおタチが悪いのは、彼女が確信犯であることだ。

 この先生、わざわざ俺に見せるためだけに、シスター服から着替えてきやがったのだから。

 

「せっかくの夜なんだから、楽しまなきゃ損よ? 高くはないけど、お金だって払ってるんだし? あ、でもお会計は先生がもちろん全部払うから、なんでも気にせず頼んでね」

 

「そういうとこだけ大人ぶるのは止めてください。いやしくも教師であるならば、『良い子は下校時刻を守って、寄り道せずに帰りなさい』くらい言えないんですか」

 

 努めて真面目な突っ込みを入れると、ノエル先生は聞いた瞬間、爆笑した。

 

「はあ~? お姉さんおかしくってお腹痛いわ? いつ志貴クンが良い子になったって? こーんなカワユい先生に、刃物片手に襲い掛かってくるような、絵に描いた不良美少年が?」

 

「う」

 過剰な修飾句はさておき、内容そのものは的を射ている。正直、耳が痛い。

 

 俺が黙り込んだのをいいことに、先生は目にも止まらぬ早業で、ドリンクと軽食の追加注文を手元のタブレットに打ち込んだ。

 

「あ、ちょっと! だから俺、酒は飲めませんって」

 

「やぁね、冗談に決まってるじゃない。いくら私でも、越えちゃいけないラインくらいは弁えてるわよ。この国の警察は優秀だから面倒ごとは避けろって、アイツに口酸っぱく言われたし」

 

 言われて確認してみれば、なるほど、中身はサワーと普通のジンジャーエールだった。ほっと胸を撫でおろしかけるも、ぎりぎりで踏みとどまる。

冷静になれ俺、もっと他にも指摘すべきところがあるだろ。

 

「……なら、この状況そのものはセーフ判定だと? カラオケ、六時間も取っちゃって。

本気で俺を家に帰さないつもりですか」

 

 するとノエル先生は、にへっ、とだらしのない笑みを浮かべた。……もっと悪く表現して良いなら、淫蕩そのものの顔をした。

 

「そうよ。悪い?」

 

「はいそうです。だからもっと悪びれてください。そんな堂々とされたら、俺の方が付き合い悪い奴みたいじゃないですか」

 

「あはー、志貴クン面白―い。現文のテスト、プラス10点!」

 

「勝手に他教科の成績を操作するな!」

 

「いいじゃん別に。……てか、ぶっちゃけて言うならさ?

 君がそういう真面目ぶったこと言うのは卑怯でしょう。私はあくまでちゃんとした先生演じてたっていうのに、白昼堂々、誘惑してくるんだから。

 

 先に斬りかかってきたのはそっち。私は哀れな被害者ってわけ。

 さいばんちょー、被告には更生の余地なしとみて、厳罰を求めますー、ぱんぱん! よろしい、では被告を六時間の禁固に処する!」

 

 わざわざ裁判長の使うガベルの声真似までして、ノエル先生は俺を糾弾する。こんなスピード裁判が許されていいのか? 弁護士を呼べ。

 

 だが、いかんせん。都心部のカラオケとはいえども、現在時刻は深夜十時を回ったところ。弁護士は無論のこと、級友の一人だって、俺を助けに来てくれるはずも無い。

 

 唯一、可能性のありそうなシエル先輩についても、昼間に絶交して、それきりだ。あれから一度も連絡を取れていない始末である。

 

 要するに手詰まりだった。

 飲み放題六時間コースで借りたカラオケの個室という名の地獄から、俺を救い出せるものは何もない。

 

 いっそヤケを起こし、飲んで騒いで、バカになりきれば、まだ身の置きようもあるのだが……。

 

「何よう、まただんまりぃ? 先生、寂しくなっちゃうな~。工場跡地では、あんなに情熱的なプロポーズ……じゃなかったアプローチしてくれたのに~」

 

「わざと言い間違えたでしょ、今の! 何度も言いますけど、別にそういうのじゃないですから。俺はノエル先生のことが――」

 

「好き、なんでしょ?」

 

「……途中でセリフを取らないでください」

 

「じゃあ違うの?」 

 

「違わないですけど」

 

 苦々しくも、そう答えると。

 ノエル先生はさっきみたく、にへっ、と顔を緩める。

教室でも、地下墓所でも……吸血鬼を虐殺している時でも、ついぞ見せなかった表情をする。

 

アルコールのために紅潮した肌を、カラオケ特有の指向性の強いライトが照らす。

 色濃く浮き上がる陰影、身体の凹凸、指で押さえれば、そのままずぶりと沈み込みそうな、生々しい肉の触感……。誘蛾灯のように、視線は否応なしに引き付けられる。

 

 そうはいっても、俺だって男だ。

 ……そしてノエル先生も女だと。

 

「ねぇ」

 

 湿り気に満ちた彼女の声は、粘液よろしく絡みつく。

 いきり立っていたはずの両脚は、いつの間に毒気を抜かれて折れ曲がり、気づけば俺はソファに沈み込んでいた。

 

「いいでしょ?」

 

 近い。

 

 もう、耳元だった。

 

「地下に埋められた時も、学校の自転車置き場でも。

君とはいっつも、冗談半分で済ませてきたけどさ。

……私、ね。結構、本気の時も、あったのよ?」

 

「なら今は……どっちなんです?」

 

 なるべく、そちらを見ずに、考えずに、ただ喋る。

 時間稼ぎにもならない答えだと、自分でも思う。

彼女も同感だったらしく、「もう」とこれ見よがしに口を尖らせた。

 

「君ってどこまで奥手なの? 見たまんまの草食系じゃない。最近の子は、一見そういうの装いつつ、裏では喰いまくりが大流行って聞いてたのに」

 

「どの業界から情報収集しているんですか、あなたは。発想が爛れてますよ」

 

「そりゃあ、某SNSに決まってるじゃない。ウチの勤め先も、年々巧妙化の一途を辿る吸血鬼犯罪に対処するために、捜査の多角化を迫られてるんだから。その一環よ」

 

 あまりの胡散臭さに、嘘つけ、と返しそうになったが、あながち否定できないかと思い直す。

街のデパートに蔓延っていた連中は、都市伝説という媒体を利用して、被害を拡大させていた。その流通経路において、ネットサービスが一役買ったことは素人目に見ても明らかだ。

 

「にしても便利な時代になったのものよねぇ。ちょーっと甘い餌を撒くだけで、頭の悪いカスどもが、わんさか引っかかってくれるんだもの。こんなに楽で愉快な仕事ないわよ?

 現場第一、自分の脚で稼ぐんじゃーって、バカの一つ覚えみたいに汗塗れになってる連中の気が知れないし」

 

「もしかして、あの廃工場にいた二人も、それでおびき寄せたんですか?」

 

「せーかい。潜伏用のアジトがそこに隠してあるって、まことしやかに流したら、ほんの一時間程度でホイホイ集まっちゃうんだもの。習性も脳みそもクソムシ並だなんて、哀れ過ぎて笑うしかないでしょ」

 

「……ノエル先生」

 

 先に乱したのは俺の方だが、会話の流れがあまり良くない。

 あちらも遅れて察したようで、「あは、ごめんごめん」と小さく舌を出した。

 

「せっかくのカラオケなのに、仕事の話するなんてマナー違反もいいとこね。

……じゃあさぁ、もののついでに聞いておきたいんだけど、志貴クンって、いま、彼女いる?」

 

「何のついでですか!?」

 

 口に含んだドリンクを吹き出すなんて、ベタなことをやりかけた。

 訊いた当の本人は、ニマニマと実に厭な笑顔を湛えている。

 

「そりゃあ、ここへ一緒に来たついで、よ。もう私たちって、浅からぬ関係なわけでしょ? 絶賛、志貴クンのパートナー候補としては、当然それくらいの情報は入手する権利があるってなわけで」

 

「ぐ……。いません。いたこともありません」

 

 隠し立てせずに、正直に打ち明けた。下手に誤魔化していざ露見したら、それを出汁に百倍は弄られそうだからだ。

 

「本当にぃ? 志貴クン、絶対モテると思うんだけど」

 

「妙な買い被りは止めてください。病弱で学校は休みがち、成績も普通。部活動にも行ってないから、そもそも絡み自体少ないですし。俺の連絡先知ってる女子なんて、数えるほどもいませんよ」

 

「へぇ~そっかそっか」

 

 いったいこんな話を聞いて何が面白いのやら、ノエル先生はさっきからずっと楽しそうだ。

 彼女は目線を少し上にやり、いかにもあざとく、顎に人差し指を添わせる、あのポーズを取った。

 

「なら、シエルさんは? 最近、知り合ったばかりだと思うけど、あの人とはかなり仲良さそうにしてたよね?」

 

 いったい何を言い出すかと思いきや……勘違いも甚だしい。

 ここは一つ、断固とした態度を示すべきだろう。

 

「あのですね、シエル先輩とは何も無いです。先輩はあくまで吸血鬼退治の専門家として、俺のことを心配してくれてるだけなんですから。

そりゃたまに相談に乗って貰ったり、ヴローヴの時には共闘みたいなこともしましたけど……それだけです。

そもそも、先輩はあなたと違って職務に忠実な人なんですから、俺みたいな一般人と深い付き合いになるわけがないでしょう」

 

「えぇ~? ホントかしら?」

 

 これだけきっぱり言い切ったにも関わらず、ノエル先生はやけに食い下がってくる。

 人差し指をそっと折り曲げ、俺の胸へと軽く向けた。

 

「何とも思ってない人と、何度も一緒にランチしたり、放課後に付き添ったりする? それも二人っきりで。先生、怪しいと思いまーす」

 

「ですから、それは色々と情報交換の必要があったからです! 素人の俺が事件に首を突っ込んじゃったもんだから、先輩は義務感から――」「――なら証明して」

 

 突如、視界に火花が瞬いた。

 

 長時間に及ぶ休憩で完全に油断しきっていた神経に、スパークが流れる。具体的な痛みを覚えるほどの、危険信号が頭蓋に鳴り響く。

 

 ようやく我に返った時には、俺はソファの上で彼女に圧し掛かられる体勢になっていた。両肩と両脚に、鈍い痛み。……腐っても代行者ということか、的確に動きの起点を抑え込まれている。

 

そして眼前には彼女の二つのまなこ。照明の生み出す逆光の中で、その双眸は深い暗色を湛えた洞として映った。

どこまでもどこまでも下に、闇の世界に、地の果てまでも続くような色。

 

「急に何を――」「あの女と何も無いのなら、できるわよね?」

 

 喋らせてもらえない。

 行動以外を、許可するつもりが無い。

 

「シて。今ここで。

 ……大丈夫、誰にも気づかれない。気づかれたってどうにかする。君は私のことだけ考えていればいい」

 

 両肩に加わる力が、いっそう強まる。骨にまで浸透するような激痛に、反射的に苦悶を上げてしまう。

 それが耳に届いたからか、どうなのか。「――ああ」ノエル先生は、これ以上ないくらい、愉しそうな吐息を漏らした。

 

「いい、いいわ志貴クン。最高よ。こんなに気持ちいい事があるなんて、知らなかった。もっと早く試せば良かった! それなら君の言うように、あんな雑魚虐めに精を出さなくて済んだかもしれないわね。

 ううん……やっぱり『これ』は君だけ。君だから、たぶんこんなになってるんだもの。君以外じゃ全然ダメ。他のカスどもでこんな風になるわけないもの」

 

 何事か早口に捲し立てながら、彼女はいそいそと己の着ているブラウスに手をかけ始めた。

 つられて、自然と湧き上がりそうになる衝動を――抑え込むことに全力を注ぐ。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいって。俺はそんなつもりで、ここへ来たんじゃ――」

 

「どういうつもりであっても、男と女が一緒の部屋にいたらやるべき事なんて一つでしょ。今更カマトトぶってんじゃないわよ。……それともなぁに? 最初はもっと雰囲気のあるヤツに憧れてた? 

 それは素直にごめんなさい、でも先生ね、悪いけどもう我慢できそうにない」

 

「ぐっ!?」

 

 マジかこの先生。本当になりふり構わず、大人の余裕も年上としての威厳も振り捨てて、力尽くでことを納めに来やがった――!

 

 ぽーん、と山なりの軌道を描いて部屋の片隅へ飛んでいく、彼女がほんのついさっきまで身に着けていた上衣と、その内側に備わる補正下着。

目を焼く肌色が露わになる――寸前で、幸か不幸か。

 

頭を直接、釘で打たれたような激しい痛みが、俺を襲った。ここ数日、不意に発生するようになった、不可解な群発頭痛だ。

 

原因は全くもって不明。しばらく安静にしていれば収まることから、おそらく普段からの貧血気味に起因するものと思われる。

ただ、酷い時には数十分経ってもなかなか落ち着かず、時には意識を失うほどのショック症状を伴うことがあった。つい先日、保健室送りになったのもその一例だ。

 

ところで、一般的に頭痛とは、精神の興奮によって惹起される場合が多いとされる。過度な緊張が続くと、神経が張り詰め、それによって脳内の血管が圧迫され、結果、炎症を起こす。これがすなわち、頭痛の原因となるわけだ。

 

ひるがえって、しかし俺の発症する群発頭痛と、興奮による神経圧迫はこれまでのところ相関が無い。睡眠前などの、身体が十分にリラックスしている際などでも、ところ構わず発生することから、それが裏付けられる。

 

だが、かといってその二つが、まるで関わり合いの無い、別次元の現象かと言えばそうではなく――同じ一つの頭の中で起きているものなのだから、当然、それによる負担は、全て俺の身体に掛かる。

 同時に発生すれば、無論、同時に。

 

 要するに、その瞬間、俺の身に何が起こったかというと。

 

 生来の頭痛と興奮による頭痛とが合わさった痛みは、脳内ビックバンもかくやの激烈なインパクトを発し、宿主の意識を即座に刈り取った。

 

 スイッチが無造作に押されたように、視界にはたちどころに暗幕が下ろされる。

 唯一、記憶のカメラに収めることが叶ったのは、透き通るような真っ白の肌と、そのミルクの大海に囲われた可愛らしいおへその孤島だけ。

 

「ふざ――っ! この――ポやろー!」

 

 その後に室内を埋め尽くしただろう、罵詈雑言の雨あられを聞く事ができなかったのは、むしろ最大の幸運と言って差し支えない。

 

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