午後十一時、この街の夜は静寂が支配する。
行き交う通行人の影はまばら。雑踏も話し声も――昼間にあった日常の名残は欠片さえ、暗闇に紛れ見つからない。
時折、流れていく車両のランプと排気音だけが唯一、この世界が写真に切り取られた風景でないと思い出させてくれる。
道へ沿って等間隔に埋まる街灯は、しかし行先を照らすには、いかにも心もとない。
ビル街の並ぶ大通りから逸れて、住宅地へと繋がる脇道へ。より深く、より暗い場所へと進む。――いいや、落ちている。ちょうど、縦穴をまっすぐ降るように。
大口を開けた闇の中へと、自ら踏み入れていく。
かつ、かつ、かつ……。普段は意識に上ることすらない、自分の足音がいやに響く。
かつ、かつ、かつ……。それこそ地底に繋がる洞穴のような外見をした、高架下の通路に潜る。
正確に刻まれるテンポが、狭いトンネル内に何度も繰り返される。
この高架下を抜ければ、目的地である公園まで、すぐだった。一度、角を曲がって後は道なり。迷う余地など一片も無い経路。ほとんど無意識にだって、辿り着ける。
ゆえに引き返すなら、このトンネルを抜けるまでだと――勝手にそう思った。
そういった機会はここまでに至る道程でいくつもあったものの、確かにここは、彼女にとっての最後の分岐点だった。
かつ、かつ、かつ……。思って――思っただけだった。
いわば、それは可能性の剪定に過ぎなかった。
機械的に、己の選びうる選択肢を羅列し、同じくシステマティックに篩に掛ける。
無数に存在する選択肢の中にある、『このまま何もせず、事態を静観する』という手――それを考慮し、たちまちの内に捨てた。それだけのこと。
ここで足を止めるという事は、そのくらい彼女にとって――代行者シエルにとって、有り得ざるべき選択だった。
終始、衰えぬ等速でもって、彼女は高架下を抜ける。
宵闇の包む街は何も変わらない。風景も音も、状況も。公園はもう、目と鼻の先である。
歩みを邪魔する者は結局、誰もいなかった。
その事実は、ほんの僅かにだけ、シエルの思考に揺らぎをもたらした。
もう帰還不能点は通り越した後だというのに、立ち止まって、『彼』の安否を確認したくなる。――そういった選択肢が、また生まれている。
だがそれは不可、だ。
自分の脳が考え出した案を、その十倍を上回る根拠で、滅多打ちにする。
彼に連絡を寄越せば、必ず何らかのリアクションを起こす。その結果、彼がこの場に――公園に来る危険性は十分に高い。
どういった理由で、彼が深夜の出歩きを、今日に限って取りやめたか――それはシエルの知るところでは無いにせよ、今夜ばかりはその幸運を有難く享受すべきだ。
藪をつついて蛇を出す愚を犯すべきでない。当然である。
彼という変数は、ただその場にいるだけで、予期できない結果をもたらす。
とりわけ、あの真祖に関して言及するなら、なおさら。本人の意思がどうあっても、これ以上、近づけないに越したことはない。
かつ、かつ、かつ……。
そのためにも。――今日、ここで決着をつける。
広々とした草地と、そのうちに建っている特徴的な外観をした休憩スペース。
そして中心部には、こんこんと湧き上がる噴水。周囲を円状に取り囲むライトが、飛沫の一滴すらも輝かせる。
おあつらえ向きに、すぐ隣にはベンチが一脚、設置してあった。
平時に、例えば恋人と訪れたならば、さぞや甘酸っぱい雰囲気が堪能できたことだろう。
しかしながら非常に残念なことに、今宵の公園に待ち受けているのは――。
「はあ。……呆れた。言葉も出ない」
ぽつんと一人。
噴水の前で、立ち尽くしていた女が、言った。
「ずっと待って、待ち続けて……。やっと来たと思ったら、よりにもよって……ねぇ? 私、こんなにイライラしたのは、生み出されてこの方、初めてかもしれない」
「それは賞賛として受け取っておきましょう。どういった形であれ、あなた達に苦しみを与えることは、代行者の理念に叶う行いですから」
シエルは真っ向から言い返した。いっそう、女の神経を苛立たせることを承知の上で。
もとより気の利いた対話などするつもりは無い。ご機嫌伺いなど、この女には無用の長物だ。
女――アルクェイド・ブリュンスタッド。地球上に唯一残った真祖にして、自他ともに認める最強の吸血鬼。
星の内海より生じた、もはや自然現象の一種と評すべき、霊長の上位存在。
無数に存在する二つ名は、ひっきょう、ある一つの概念に結びつく。
要するに、この女は全てを持った者だ。人間ごときが今更、彼女に何を与えられるというのか。
――であったにも関わらず。
「今は、たった一人の少年に、ずいぶんとご執心のようですが」
かつ、かつ……。道を行くのと変わらないペースで、シエルは真祖へと迫っていく。
間合いにして、五メートルほどの辺りで、ようやく足を止めた。
たったそれだけの行動だが、一般的な代行者なら、この時点で十では利かない回数、無残に死んだことだろう。
例えば斧槍を得物とする同僚のあの女なら、這いつくばって逃げ出して――その背中を踏み砕かれて、呆気なく終わる。交戦時間はきっと一秒にも満たない。
「言ったわね、シエル。……あなたを切り裂く動機がまた一つ増えたわ。……今日はどんな死に方が試したい? 注文があれば、ヴァリエーションを増やしてあげてもいいわよ?」
「その言葉、そっくりそのままお返しします。聖書に好みのページがあれば、特別に本国から一ダース取り寄せましょうか。最近、解読の済んだ新約天使記など、おすすめですよ」
平然と、売り言葉に買い言葉を投げる。
――つまり、シエルは一般的な代行者の範疇に収まる人物でない。
悲しいかな、遠野志貴はまだ二人の代行者しか知らないために、彼女がどれほど別格の人物であるか、正確な理解が及んでいない。
彼女の実力の、その一端でも目の当たりにしているならば、同じ室内で茶を楽しむなど、とてもとても。
「っ!」
開戦の瞬間は無音だった。
両者ともに、あまりにも早く動いたために、鈍重な音速ではそれを到底、表現しきれなかったためだ。
二回、三回。不可視の斬撃と、投擲がたっぷり行き交ってから、ようやく。
常人でも簡単に認識できる、戦闘の様子――具体的かつ破壊的な爆風が、公園中を埋め尽くした。
「分かりませんね」
とんぼ返りで、三メートル後方の瓦礫の上に着地する。ほんの数秒前にできたばかりの、元は休憩スペースだった建物の残骸だ。
代行者としての名誉のために付け加えておくと、アルクェイドの爪が崩落の主な要因である。……シエルが一旦、身を隠す盾代わりにしたという副次的な理由もあったが。
奇跡的なバランスで成り立つ砂城にて、爪先立ち。それでいて一切の隙無く、黒鍵計六本を構えるシエルは、相対者に問うた。
「なぜ私をまだ、ただの一度も殺せていないんですか? あなたらしくもない。……いよいよ本格的に、吸血衝動が抑えきれなくなりましたか」
「殺し合いの最中にお喋り? いいご身分ね」
答える代わりに、アルクェイドは致死性の真空波を飛ばした。
地上にあって、荒れ狂う乱気流。直撃すれば、人体など容易に細切れにする自然のミキサーが、弾丸の数倍の速度で殺到する。
しかし、それが発生した時点で、既にシエルの姿は消えている。いかに弾速が優れていようとも、狙いが出鱈目では豆鉄砲ほどの価値も無い。
「ええい、ちょこまかと!」
大地も砕ける勢いで繰り出されるステップが、シエルの座標を次々に変える。
コンマ一秒前には右方にいたはずが、今は背後に。代行者の移動はもはや線ではなく、点だった。
「なら――!」
狙撃が無理なら、面による制圧がある。
一点狙いの真空波から、円状に広がる衝撃波へと出力を切り替え。直後、二人の戦う公園を中心に、最大震度3を記録する局地的な地震が巻き起こった。
全方位に吐き出された破壊の嵐。これは二次元的な軌道では避けようが無い。必然、シエルは飛び立った。頭上、白色の月が支配する空へと。
「そこよ!」
それが一番の狙いだった。シエルが卓越した技能を持った代行者であることは、アルクェイドも不承不承ながら認めている。だが、しょせんは人間。
地上では死徒顔負けの高速移動ができたとしても、こと空中では為す術も無い。連中には翼もなければ、ジェット噴射を繰り出す機構も有るはずないのだから。
アルクェイドの続く砲撃は、標的のいるべき空間を、照準通りに貫いた。威力も速度も、これまでの小手先の攻撃とは比べ物にならない。正真正銘、本命の一撃。
代行者シエルは、彼女の辿ったその数奇な運命により、死徒とはまた別種の不死能力を持っている。肉や骨を削ぐような、生半可な手傷では止まらない。仕留めるならば、半身を抉り飛ばすくらいの殺傷力が必要だ。
そのため、アルクェイドはここまでの戦闘で(彼女の人となりを知る人からすると、極めて信じがたいことに)、若干の手加減を心がけていた。
全ての弾に、シエルを消し炭にするだけの威力を込めていると、比喩ではなく街がいくつあっても足らなくなる。彼が住み、命を懸けて守ろうとしたこの街を、廃墟の森と化すことは、なぜだかどうして躊躇われた。
しかし、それもここまで。
空に向けてなら、周囲を巻き込む心配もない。かくしてアルクェイドは、渾身の力を込めた、必殺必中の一発を見舞った――つもりだったが。
「やはり、不思議です」
声がしたのは、予想したよりもずっと上。遥か上空のある地点。
自らの投げた数本の黒鍵を、空中における簡易的な足場とし、一時的に滞空。地上よりの対空砲火を難なく躱してみせた。
およそ人間技とは思えない暴挙――その果てに。代行者シエルは、直下におわす不甲斐ない真祖に目線をくれた。
「この程度、ですか。アルクェイド。伝え聞いたあなたの姿は、もっと恐ろしく、力強く、圧倒的なものでしたが」
「……ふっ」
思わず、笑みがこぼれる。
上位存在への不遜を隠そうともしない、傲岸な物言い。しかし、今宵のアルクェイドにとって、それは不覚にも好ましいようにも感じられた。
ここ数百年間、実力の伯仲する単一個体とは、ついぞ巡り合えなかった。多数を前提にするなら、何度か例もあったが、元人間――それも代行者の身で、よもやここまでとは。
なるほど確かに、この真祖に自ら戦闘を仕掛けてくるだけはある。並みの死徒なら無論の事、二十七祖のいずれかであっても、この代行者相手には一歩も二歩も、譲らざるを得ないはず。
あるいは既に、何人かは手中に収めているのかもしれない。この余裕ぶった態度も、
もし、あれらの効果を十全に発揮できるなら、それはアルクェイドにとっても脅威だ。直撃を貰えば、存在維持にかなりの悪影響を及ぼす。
ましてや、今の自分は通常時と比べて、非常に調子が悪い。少なくとも、この街からは手を引く羽目になるだろう。
――それは、厭だ。
ほんの刹那の間の逡巡だった。そこまで考えたところで、アルクェイドは構えていた右手から、ふっと力を抜いた。
「ねぇ。一つ聞いていい?」
出し抜けに聞こえた言葉に、シエルは驚きこそしたものの、すぐさま反応した。
「ええ。あなたにまだ会話するつもりがあるのなら」
答えながら、十数メートルの高みより、平然とした顔で着地する。
とはいえそれも束の間、降りた先の地面が、先ほどのアルクェイドの衝撃波によって粉々となっていることに、思わず渋面になる。
休憩スペースは元から無かったことにすれば済むが、公共の道路や敷地となるとそうもいかない。帰ったらまた顛末書だ。
その表情をどう勘違いしたか、「何よ、その不満げな顔」とアルクェイドがボヤいた。
「こっちから譲歩してやってるって言うのに。私的には、別にこのまま公園も街も住人たちも、残らず全部合わさってぐっちゃぐちゃの塊になるまで、あなたとやり合ったって問題無いんだから」
「それはどうも。最低限の自制心はあったようで、何よりです」
言葉とは裏腹に、シエルは油断なく態勢を構え直した。いつ、この気まぐれな真祖が態度を翻すか、知れたものではないからだ。
一方、ほっと安堵の息を吐く自分がいるのも事実だった。――穏便な話し合いなど望むべくも無いと、可能性こそ考慮していなかったものの、相手から持ち出してくれるなら、それは願っても無い幸運である。
全能力、全武装を発揮したうえでなら、決してアルクェイドに後れを取らない自負はある。だが、それにはこれまでせっせと貯蓄してきた切り札を、軒並み消費するという条件が伴う。
シエルにとっての本来の目標――ロアがまだ生存している現状で、それはあまりにも重たいリスクだった。
……そのリスクを承知のうえで、今夜アルクェイドに戦いを挑んだのは、ひとえにある一人の少年の今後を懸念してのことなのだが。
それはまぁ別に、目の前のこいつには関係の無い話だ。
「ま、志貴がもしこの街にいなかったら、問答無用でぶっ潰してたけどね」
ちょうど、考えていた人と全く同じ名前を出され、反射的に「あなたも遠野君が?」という疑問が口をつく。
それを聞いたアルクェイドも、代行者の態度に何か察するものがあったのか、思い切りしかめっ面を作った。
「ふん……まぁいいわ。訊きたいことってのは、その志貴のことよ。あいつ、とっくに約束の時間になってるっていうのに、全然やってくる気配が無いの。
何か知ってるのなら教えなさい。答えによっては、見逃してあげなくもないわ」
「約束、ですか。それはやはり、毎晩ここで集合し、二人で吸血鬼を探すという?」
アルクェイドの不機嫌を示すように、瞳がいっそう細まった。
「なに……? そんなことまで志貴、喋ったの? 二人だけの秘密なのに」
「いえ、違います。本人が明かしたわけではありません。状況からみて、私が推測しただけのことです」
とっさにそう取り繕った。
あまり正直に話すと、台風の目のように奇跡的なこの時間が、あっという間に終了してしまう。
アルクェイドはとりあえずそれで納得したらしく、「ふぅん」といわく言いたげな声の後、先を続けた。
「それで、よ。私はてっきり、志貴はシエルと一緒にいるかと思ってたの。あいつ、最近はよくあなたのことを話題に出してたし。
信じられる!? 昨日なんて、あなたと協力して、吸血鬼を殺して回って欲しいなんて言ったのよ!?
ほんっと、可愛い。何も知らないから、あんなトンデモないこと言えるのね。天地がひっくり返ったって、そんなこと有り得るはずが無いのに、ね?」
これ見よがしに、アルクェイドは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
ただ、表現はともかくとして、発言内容にはシエルも同感だった。遠野志貴は実直で素直で、心優しい少年だが、どうにもこの業界における基本的な知識が足りていない。真祖が人間と徒党を組むなど、夢物語にも程がある。
もし仮に、そんな異常事態を想定するとしたなら、それはきっと人類史全てが焼却されるとかいう、霊長滅亡の瀬戸際くらいだろう。
「でも、実際に会ってみたらこの有様。シエルも一人でぶらついているだけじゃない。いったいどういうことかしら? どこに行ったか、知らない?」
「遠野君の行先なら、私も詳しくは知りません。……お忘れかもしれませんが、人間は夜、眠るものです。普通に考えるなら今頃、お屋敷でゆっくりしてるんじゃないですか」
「そう。……筋肉の鍛錬ばかりで、脳みその容量足らなくなっちゃった? 要警戒対象の所在くらい、常に追っておくものじゃないの?」
口調こそ軽い返答だったが、聞き捨てならないものがあった。
努めて冷静に、焦りを気取られないように――訊き返す。
「要、警戒対象……と言いましたか。あなたには似つかわしくない表現ですね。多少、武闘の心得があるにしろ、彼はただの一般人です」
「ふふふっ」
すると、目の前の真祖はお腹を抱えて笑った。心底愉快そうに、これ以上おかしなことは無いとでも言いたげに、笑い転げた。
「……なんですか。何が言いたい」
しぜん、口調がきつくなる。この女を相手に、挑発行為と取られる危険性もあったが、それでも問わずにはいられない。
そのシエルの必死さは、如実に伝わってしまったようで、アルクェイドはさらに哄笑の度合を高めた。
「あっははは、おっかしいの! まさか、まだ気づいてない? 志貴はもうとっくに、なっちゃってるのよ? つい昨日……いや、二日前からだったかしら? あんまり正確に憶えてないけど、私が今代のロアを片付けたから。……正確には、その転生先となった肉体を、ね。
同一体? 並行体? なんて表現すればいいか知らないけど、興味深い概念よね。あんな風に、ロアの魂がスライドするなんて、私でも初めて見るものだから」
「今代のロアが、死んでいる……?」
にわかに飛び込んできた様々な情報に、シエルの脳内は沸騰寸前まで沸き立った。
遠野志貴が転生先として選ばれる可能性は、これまでも十分、考慮に入れて活動してきた。いざそうなった時も、どう対処するかは幾度もシミュレートしてきた。
だが『既にロアが死んでいる』という状況は想定していなかった。つまり、別に転生先となる肉体が存在したということだ。
かつ、その見知らぬ誰かさんは、アルクェイドによってとっくの昔に殺されていた。
挙句に――本来なら数十年先へと再度転生する予定の魂が、そのまま遠野志貴へ、移行した、だと?
状況のあまりの理不尽さに、固まるしかないシエル。
これまである種、事務的に武力を振るってきた代行者の、困惑する様がさぞ痛快らしく、アルクェイドはまたも呵々大笑した。
「嘘だと思うなら、自分の目でみて確かめてごらんなさい? 今夜のシエルは可愛いから、特別に教えてあげる。志貴の通ってる学校の下、そこの地下道があいつの棺の在処だった。もっとも私が全部壊しちゃったから、もうなんにも残ってないだろうけど。
……あの無様な死骸以外わね!」
ぴょん、と軽やかな音がして、月までウサギが飛び上がった。夜空に踊る、白い真祖。
目にも止まらぬ速さの彼女が、瓦礫、電柱、次々跳んで、民家の屋根伝いから、ビルの谷間を昇り詰める
言いたい事だけ言って、アルクェイドは姿を消した。
後に残ったのは、公園だった瓦礫に囲われれる、代行者一人。
しばらく呆然と、シエルはそこに立っていた。
ややあってから、彼女は身を包む修道服の懐より、近代的な電子端末を取り出す。少し悩む素振りを見せた後、ある番号をタップした。
時刻は深夜。彼が特に何事も無かったなら、非常識にも程のある連絡だ。もしかしたら電話に出た瞬間、相手はその点について、しこたま怒りをぶつけてくるかもしれない。
『――何時だと思ってるんですか。え? 何してるか気になったから、電話した? 寝てるに決まってるじゃないですか! 先輩がそんな迷惑な人だったなんて、俺は失望しましたよ』
そんな風に、当たり前のように怒ってくれたなら。
どんなに幸せだろうと思いながら、信じて待った。
一コール、二コール。まだ出ない。そりゃあそうだ。寝てるんだから。
三コール、四コール。大丈夫、まだまだ待てる。
遠野君が起きるまで、何コールだって待ってみよう。これでも、忍耐力には自信がある先輩なのだ。
――けれど。
待っている間、ちょっと暇だから。
学校に寄ってみるのも、いいかもしれない。