The world beloved Fool   作:へっこむす

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へっこむすです。
サイバーパンク新作アニメおめでとうございやす。
そんなわけで続きです。


ENCOUNTER / 邂逅

 

 

「じょ、にー……?」

 

 そこにいたのはジョニー・シルヴァーハンドに見えた。

 見間違いではない。Vは確たる自信を持って断言できる。

 気障ったらしいサングラスも。憎たらしい顔立ちも。ロッカーの魂だとかいう一張羅も。無駄にいい声も。

 陽光に照らされた外見は完璧にジョニーだった。

 しかしVはこうも断言できる。

 それはジョニーではない。絶対に。

 

「だ、れよ、あんた」

 

 Vは偽物に鋭い眼光と威圧的な声を飛ばす。

 彼は悪友で、相棒で、認めたくはないが恩人である。それを騙るのであれば、誰であろうと許すつもりはない。それ相応の報いを受けてもらう。

 身体の倦怠感は凄まじいし、ウイルスによる吐き気などは残っている。だがその状態でも今のⅤなら思考を巡らせることは可能だ。

 ゆらりとその場で立ち上がり、目だけで部屋を見回し武器になりそうなものを探す。この時期愛用していたはずのユニティはおそらく脱ぎ捨てた服の中。取りに行ってもいいが隙が大きくなりすぎる。ベッド脇の棚に置いてある本では少々威力に欠ける。やつの後ろにはテーブルとカウチ。そこに散らばる雑多な物たちは位置的に手に取るのが難しい。

 ならばとVは身を低く構える。

 最短距離で接近し顎を叩ければ意識は刈り取れる。気絶させ、万全の状態を整えてからもう一度話し合いに臨む。殺すのはそれからでも遅くない。

 二秒足らずで行動を定めたVは、実行に移すべく足に力を込める。

 

『まあそう怖い顔をしないでくれたまえよ。プレゼントが気に入らなかったのかな?』

 

 Vの決定を知ってか知らずか、ジョニーの皮を被った何者かは怖い怖いと一歩後ずさってから肩をすくめる。更に小首を傾げるものだから、寒気を覚え肌が粟立つのを感じた。しかしそのおかげもあってか、排除のみに支配された思考に奴の言葉の意味を考える隙間が生まれる。

 

「さっ、きの」

『その通り。私が渡したのは世界の記憶。君のファンである私からのつまらない贈り物さ』

 

 世界の記憶。Ⅴは口の中で復唱する。

 冷静になり、もう一度、今度は視野を広げたうえで周りを見回してみる。

 すると今自分が置かれている状況に気づく。

 ジャッキーの声。流れるラジオ。道を歩く人々。走る車。空を飛ぶAV。人を運ぶメトロ。広告塔。光を返すナイトシティ。

 その全てが停止している。

 自分と目の前の偽物以外の全てが。

 目を疑う光景でありながらしかし、Ⅴはこれが現実であることも、この偽物が真実を語っていることも理解できてしまう。

 サイバー空間やrelic内で過ごした過去。オルトも言っていたようにその経験は、現実とそうでない場所との感覚を曖昧にするどころか細かな差異まではっきりと感じ取れるようにさせてくれた。

 加え先ほどの痛みを経て、異常を訴えている状態にも関わらず神経は信じられないほどに研ぎ澄まされている。

 確証など何処にもなく、されどVの中には確信だけがあった。

 

「説明、しなさい」

『さすがだねヴァレリー。もう少しかかると思っていたんだが』

「早く」

 

 Vはベッドから降りつつ今度は真正面からはっきりとその人物を睥睨する。

 やはり違う。改めてそう思った。

 ジョニーならば、こんな怖気の走るような歪んだ笑みを浮かべたりはしない。

 値踏みするように、舐め回すように眺めることはあるだろうが。

 

『仕方がないね、では自己紹介から。私はワールド。この世界の意思だ』

「……自己紹介の時点で意味不明なんだけど」

 

 手を胸に当て大仰に頭を下げる様はまるで紳士さながらだが、ジョニーの姿ではわざとらしさが凄まじい。

 超常的な何かだとは思っていた。神と言われても驚きはしなかっただろう。

 しかし世界の意思とは、予想からだいぶ外れている。

 Vの困惑を気に留める様子もなく、その世界の意思とやらは説明を続ける。自身が要求したため、Vはとりあえず最後まで聞くことにした。

 

『私は長い間君を見ていた。死して尚、生へ執着する無様な姿を。愛しさすら覚えるほどに愚かな歩みを』

「あんた、あたしのファンだって言わなかった……?」

 

 流れるように貶されてつい口が開いてしまった。

 

『ファンさ。だからこそチャンスを与えたんだよ。全てをやり直すチャンスを』

「……」

 

 動かすまいとしていた表情が僅かに歪む。

 敵か味方かもわからず、怪しさ満点の存在の言葉を鵜呑みにはしない。だがVにとってその言葉がとてつもなく甘美に聞こえるのも事実だ。

 ここは現実。疑う余地はない。

 ジャッキーは生きている。

 そしてこの状況を作り出したであろう存在がやり直せると嘯いた。

 どうやって期待するなというのか。

 彼を死なせない道を選べるのではないか。自身も死なずに済むのではないか。救えなかった人達を救えるのではないか。

 幾度も望み、叶わなかった希望が今、手の届くところにあるのではないか。

 Vは手のひらに痛みを覚えて漸く、無意識のうちに手を強く握りしめていたのだと気づいた。

 

『それだけじゃあない。君の辿った五つの道、悪魔、節制、星、太陽、塔。それら全てを統合した。この意味がわかるかい?』

 

 五つの道。一拍の間を置いてVはその意味を悟る。

 終わりへ続く五つの記憶。過去の自分の選択によって分たれた最後。

 簡潔に言えば、誰に頼ったかという話である。

 ローグ。パナム。ハナコ。ソミ。リード。

 誰にも頼らない自分もいた。

 そうした過去のVが全て一つになっている。とあるAIのように新たな人格が形成された訳でも、人格も別れてはいないらしい。

 

『君は数多の経験から獲得した技術、知識、能力を合わせ持つ。サイバーウェア抜きでもまず間違いなく街一番だろうね。安い表現を使うならそう、最強だよ。無敵ではないがね』

 

 街一番に最強。

 先ほどから、何とも耳心地のいい言葉が続く。

 Vは心中で苦笑を浮かべた。撃たれる前の自分であったなら絶対に食いついていると思ってしまったのだ。

 だが今は違う。

 経験を引き継いでいるからこそ、その裏にあるものを最大限警戒する。

 

「話はわかった。それで、一応聞くけどその対価は?あんたの望むものは?まさかただで全部やり直させてくれるわけないわよね」

 

 これだけのことをしでかしておいて不利益は何も生じません、なんてあり得るはずもないし信じられるはずもない。物事にはリスクがつきまとうものだ。何かを成そうとするなら、何かを犠牲にしなければならない。それが事実、それが真理。Vは五つの道からそれを痛いほど学んでいる。

 

『君らしい言葉だね。タダほど怖いものはないというところかな?』

「世界は利益不利益で回ってるってだけの話よ。無償の施し、無償の愛。そんなものはまやかしに過ぎないわ」

『おやおや実に嘆かわしい。泡沫を追う青い君も好きだったんだけどね』

「……そんなヤツは忘れたわ」

 

 自分でも驚くほどに冷たい声が出ていた。

 別に何かを理解したつもりはない。また一番の傭兵になる。ナイトシティに名前を残す。夢や理想という儚くも尊いものを追い求めることを悪いことだとは思わない。V自身もつい最近までそっち側の人間だったし、実際に夢を叶えた自分だっていた。

 でもだからこそ何となく気がついてしまった。

 夢や理想を叶えても、どれだけの名声を手に入れても、満たされない自分がいることに。

 

『ふむ、まあさておき安心して欲しい。君がそう言うと思って条件は用意しておいた』

「それはどうも」

 

 Vの適当な返しを半ば無視して、ワールドは顔の横で右手の人差し指を立てる。

 

『一つ目。殺せる人間に制限をかける』

「……詳細を」

 

 ワールドは常に浮かべている気味の悪い笑顔を更に不気味に歪める。

 

『君が殺していいのは悪人だけ。たとえ不慮の事故でもそれ以外の人間を殺した瞬間、君も死ぬ。君が親しく思う人々諸共ね』

「…………」

 

 Vは顎に手をやって熟考する。

 悪人以外の人間。やけに定義が曖昧ではある。裏に意味が隠れているのか、それとも単純に無実の人間を殺すなということなのか。

 後者であれば難しい条件ではない。このナイトシティで傭兵に回ってくるのはほぼほぼ汚れ仕事。相手になるのは犯罪者、つまり悪人が大多数を占めるので、仕事に支障をきたす心配はないだろう。

 しかしワールドが求めるのはおそらく前者だと、Vの勘が訴えていた。

 

『紺碧からの逃走。ヴードゥーとの取引。ドッグタウンでの騒動。ギャングとの小競り合いなどなど。君は何かにつけて悪人以外の人間を傷つけてきた。自覚はあるかね?』

 

 問われ、Vは過去に意識を向けるがしかし、すぐには該当する記憶が見つからなかった。

 Vは基本的に無益な争いは好まない。やられそうになれば当然やり返すが、余程のことがない限り無抵抗の相手を殴ったりしない。だからVが手にかけるのは基本悪人で、それ以外を殺した記憶は見当たらない。

 

『その様子だとなさそうだね。では教えてあげよう、私は親切なのでね』

 

 不気味な笑みを腹の立つそれへと変化させ、ワールドは続ける。

 

『紺碧から逃げる時、君はアラサカ警備隊を何人殺した?ヴードゥーのメンバーを何人殺した?大統領救出のため、スタジアム脱出のためにバーゲストを何人殺した?ギャングを何人殺した?』

「……あぁ、そういうこと」

 

 Vはワールドが口にした言葉の意味を理解し、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべるしかなかった。

 

『警備隊のメンバーにも、ヴードゥーのメンバーにも、バーゲストのメンバーにも、ギャングにも。きっと大切なこと、大切な人があっただろう。君と同じようにね。そして当然、全員が漏れなく悪人であるはずもない』

 

 そう。

 ジョニーがアラサカタワーを吹き飛ばした時と一緒だ。

 死亡した人の中には同じ想い、同じ信念を抱える人が大勢いた。

 何かを変えたいから。誰かを守りたいから。痛いのはいやだから。死にたくないから。生きていたいから。また会いたいから。助けて欲しいから。

 同じ想いを抱えながら、敵として出会ってしまったがために殺し合うしかなかった。

 あまつさえ、敵ですらなかった誰かを殺してしまった。

 

「つまり今回は」

『御名答。君はそういった人達も殺せなくなったわけだね。たとえ命を狙われていたとしても』

「なるほど、ね」

 

 自らの命を狙う敵を殺せないとなると、途端に自衛が困難になる。殺すだけでいいのであれば最悪闇雲に攻撃すればいいが、生かさなければいけないとなると動き一つ一つに神経を使う。生かすことばかりに気を取られれば致命的な傷を受ける恐れもある。

 他にも多く不利が生まれる厄介な縛りである。

 ただ、Vが最も重視しているのはそこではない。

 

(これ以上誰かを死なせるわけにはいかない)

 

 悪人以外を一人でも殺してしまったら、大切な人みんなを巻き込んでしまう。それだけは絶対に許容できない。

 死には何度も立ち会った。

 敵は元より、仲間や幾度か協力した誰かのものも含めて。

 ただ生き延びることに必死で、自らのことで精一杯で、いつの間にか他人を想う心を忘れてしまった。

 ここは、ナイトシティはそういう場所だ。底のない沼の如く、足掻けば足掻くほど踠けば踠くほど、深い闇に呑まれてしまう。この場所で育って来たのだから、嫌というほどにVは理解している。

 だからこそ認められない。

 もう誰かの傷つく姿は見たくない。誰かを裏切る真似はしたくない。

 生にしがみつく理由はもうない。だったらその分今度の自分は他人のために力を振るうことが出来る。

 究極的には自己満足であり、利己的な想いに違いない。その在り方はきっと愚かで傲慢だ。しかしこの世に尊いものがあるとするなら。護るべきものがあるとするなら。きっとそういうことなのだと、そのはずだとVは信じたかった。

 詰まるところ、目の前のムカつくジョニー擬きに対する返答は一つ。

 

「望むところよ」

『ほう……』

 

 何が嬉しいのか、ワールドは薄気味悪い笑みをさらに深めた。

 

「それで次は?まさかそれだけじゃないんでしょ?」

『そうだね、では二つ目といこう』

 

 二つ目として提示された条件に、Vは僅かに眉を顰める。

 

『君は週に三人、人を殺さなければならない。できなければ』

 

 ボン、とワールドは音と一緒に握った右手を開く。

 意味は考えるまでもない。

 

「……正義の味方にでもなれって?」

『まさか。私は寧ろ悪の親玉と化した姿を見たいね』

「はあ?」

 

 善人を殺すな。しかし人を殺せ。要するに悪人だけを殺せということ。

 Vはワールドの思惑が読めないでいた。

 まるでこのナイトシティに最も似合わないと言っても過言ではない正義という言葉。それを為せと言わんばかりの条件でありながら、悪の親玉になった姿を見たいという。

 まともに答えるつもりがないようにも思える。本当に何を考えているのか一部たりとも見えて来ない。

 超常的な相手ではあるし、只人が考えを理解するなど端から無理なのかもしれないが。

 

『三つ目。これは一つ目と二つ目の両方に関わることだが、君はとある銃でしか人を殺せなくなる。それ以外の武器全般は持つことすら叶わず、肉体攻撃も威力はあれど非致死性に変化させる。首をへし折ろうとしても決して折れないし、どれだけ殴っても殺せない。話を聞かせてもらうのは容易そうだね』

「……物理法則を捻じ曲げたってわけ」

『私の世界だ、気にしなくていいさ』

 

 気を失わせるつもりが強く殴り過ぎて死なせてしまう、などの不慮の事故が起きない部分は好感が持てる。おそらくワールドもそう言った場面を考慮しての条件なのだろう。

 しかし問題はノルマである三人を始末する方法だ。

 とある銃というのがどんな銃かにもよるが、サイレンサーが付いていない場合隠密での殺害は不可能となってしまう。銃声によって銃撃の犯人が誰かはすぐにバレるし、聞きつけた敵が大量に湧いてくる場面もあるだろう。結果として敵を多く作り過ぎてしまう。

 自分一人ならどうとでもなりそうだが、自らに恨みを持った何者かが大切な誰かに害を及ぼすのは絶対に避けたい。

 三つ目にして中々に鬱陶しい縛りを設けられてしまったと、Vは軽く唇を噛んだ。

 

『そして四つめ。これが最後になるが、君の事情を他者に説明出来るのは三回までとする』

 

 以上だ。

 ワールドはここ一番の笑顔でそう締め括った。

 三という数字に思い入れでもあるのか、などと考えつつVは歪みそうになる顔を何とか取り繕う。

 事情説明が三人にしか出来ない。つまり腹を割って話せるのも三人だけ。

 幸運なことに、このナイトシティでは沢山の出会いに恵まれたし、信頼のおける人物も多くいた。

 その中から、はたまたこれから出会う誰かからたった三人しか選べない。

 信頼を得る難易度が跳ね上がってしまった。

 ただまあ、とVは僅かな空白の時間を儲けた後に口を開く。

 

「楽しそうじゃない」

 

 Vはジョニーがやっていたように、不敵にニヒルに笑って見せる。

 過去の経験と記憶、強化された肉体。大盤振る舞いなボーナスであることに変わりはない。

 頭には常に煩い同居人がいて、いつ爆発してもおかしくない爆弾を抱えながら実有不明の生きる術を探す。

 それと比べれば、示された四つの制約など他愛無く思えてくる。楽過ぎるくらいだ。

 

『その意気だヴァレリー。期待しているよ』

 

 そう言ってワールドはVに向かって右手を差し出した。

 演劇かと思えるほどに華麗な仕草で出された手には、何処から取り出したのか一丁のハンドガンが乗っていた。

 重厚感のある大口径のそれは一見ヌエかと思われたが、愛用していた者からすればすぐに違うとわかった。過去に見たことのない、Vの知識にはない銃だ。

 黒を、よく見れば黒にほど近い紫をベースに、銃口から伸びた三本の細い白の曲線が時に交わり螺旋を描きながらバレルを装飾している。シンプルでありながら、神秘的な雰囲気を形作るそれらが顕すのは生命の円環か。はたまた運命の交錯か。そこからは特に装飾はなく、フレームにはアルファベットが数文字、グリップパネルの中心にはローマ数字の21が刻まれている。

 

『"レムニスケート"。とある世界では砂漠の鷲と呼ばれていた銃でね。見た目はそのものだが性能は別物だよ』

 

 受け取ってくれたまえ、と一歩踏み込んで差し出してくるワールドの銃をVは躊躇いながらも手に取る。

 

『それが最後の贈り物。威力は保証しよう。戦車は無理だが、装甲車程度ならそれ一丁で方が付く』

「威力は、ね」

『射撃はお手のものだろう?君の十八番を奪っては悪いと思ったのさ』

「まあ、真っ直ぐ飛ぶなら文句はないけど」

 

 手に取ってみてまず驚いたのは重量だ。見た目に反して思いの外軽い。下手すると小口径の銃よりも軽く、これなら取り回しに苦労はないだろう。

 続いてグリップを握ってみる。

 するとどういう訳か、異様に手に馴染んだ。まるで使い慣れたジャッキーのヌエやジョニーのマロリアンのような、もしかしたらそれ以上の感触。

 この銃ならばどんな的でも打ち抜ける、Vは強い万能感に支配された。

 

『お気に召したようで何よりだ』

「……ええ、とっても」

『補足すると、それはキロシと連動出来る仕組みでね。出来るだけ早くキロシを身につけてアイアンサイト越しに誰か覗いてみるといい。とても面白いと思うよ』

「本当に至れり尽くせりね……」

 

 ワールドが口を開くたびに、加速度的に疑心が大きくなっていく。

 騙し騙されの世界で生きてきた以上これは癖みたいなもの。もはや初対面の相手を素直に信用するなど不可能だ。しかしそれにしたって、疑いの余地が多すぎる。胡散臭いどころか既に騙されている気しかしない。

 

『さて、これ以上猜疑の目を向けられても困ってしまうのでね。この辺りで失礼させて貰おうか』

 

 二歩、後方へ下がりワールドは背中で手を組む。彼の中ではこの長いようで短いような問答は終わりらしい。

 だがVとしては一方的に話を押し付けられただけだ。質問もしないうちに帰ってもらっては困る。

 

「ちょっと、少しはこっちの話も聞いてよ」

『ん……?ああ!そうか、そうだね、聞きたいことは山ほどあるだろうね』

 

 うんうん、とやはり態とらしくワールドは大袈裟に首を何度も頷かせる。

 

『だが残念。君に干渉出来る時間がもうあと僅かしか残されていなくてね。答えられたとしても一つくらいなんだ』

「え、何よそれ!?」

 

 声に力が入るのも仕方がなかった。

 聞いておかなければならないことは幾らでもある。小一時間問い詰めたとしてもおそらく収まらないほどに。

 それをたった一つに纏めるなど無理だ。

 だがこの様子では懇願したところでワールドの行動は変わらない。駄々を捏ねても質問一つは確定事項。

 Vはふらつく頭に怒りを覚えながらも回す。

 最善は何か。何を聞くのが正解か。より良い終わりへと辿り着くにはどうするべきか。必死に考えを巡らせる。

 そしてふと気づく。

 

「ふっ」

 

 Vは思わず笑ってしまった。

 なんだか馬鹿らしく感じたからだ。

 相手は超常の存在で、起きている現象も摩訶不思議。未知ばかり。不安は募るばかり。

 ただ逆に考えてみよう。

 今すぐ何かしなければ死ぬわけでも、誰かが死んでしまうわけでもない。しょうもない質問をしてしまったとしても条件は変わらないし、質問出来なかったとしても焦る理由がない。悲観する必要がない。

 だってVの人生はまたここから始まるのだから。始められるのだから。

 すっと、肩の力が抜けていくのを実感しながらVは問いかける。

 

「じゃあもう一度聞くけど、あんたの望みはなんなの?」

 

 聞いたうえで聞き流そうとしたであろう問いを。

 

『……君が私の元まで辿り着くことさ』

 

 目も表情も仕草も同じだった。

 普通の人ならば声も同じに聞こえたかもしれない。

 だがVの鍛えられ、強化された耳は鋭敏に聞き取った。

 答えたワールドの声音がほんの僅かに、然りとて確実に高く柔らかくなったことを。

 真意が籠っていることを。

 意味するところはわからない。

 だがきっと、答えは進んだ道の先にある。

 

「そう……。なら意地でも辿り着いてやるわよ」

 

 Vは世界へ告げる。

 手にした無限の可能性、その銃口を向けて。

 

 

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