元トリニティの生徒はゲヘナの風紀を守りたい。 作:スイソーミズクサ
薄いブロンドの髪の少女は路地を歩いていた、その足取りは重くフラフラとしている。
「ここがミレニアムかぁテンション上がるわーあはは……」
ふと空を見て高笑いをする、その声には寂しさと悔しさ、そして切なさが含まれていた。涙が頰から垂れてくる。
不気味に思われているのか周囲の通行人は彼女を避けて歩く。
「あはは……何よそれ……私だってぇ頑張ったのにぃ!!」
彼女の名前は桐藤シロウ。ゲヘナの風紀委員である。先週、彼女はコンテナターミナルで「便利屋」と呼ばれる規則違反者を捕まえようとしたが、その過程でコンテナターミナルが爆発し、「便利屋」も取り逃してしまった。
この事件の結果、彼女は一週間の謹慎処分を受け、その後さらに一週間の活動停止処分が課せられることになった。
本来今日はシャーレの当番だったのだが、活動停止処分のせいで行けなかった。
「アコのやつぅぅ!何が駄鳥よ!ふざけるんじゃないわよ!」
ガン!と近くにあったゴミ箱を蹴り上げた、ゴミ箱は宙に舞いゴミを撒き散らした。周囲の人間は更に遠ざかった。
「なーにが駄鳥よ!いつも首にカウベルつけて!手錠を付けて!どの口が言ってんのよ!あの牛女!」
シロウは激しく地団駄を踏む、その衝撃で地面のコンクリートがひび割れ砕ける。
「はっ……いけないいけない、うん駄目だな……うん」
冷静になったのか、シロウは周囲をキョロキョロと見渡す、周囲にはもう誰もいなかった。
「はぁ、そうだよ……長期休暇だと思えば良いんだ、折角ミレニアムに来たんだ、楽しもう」
やっと切り替えたのか、シロウは前を向いて歩き始めた。
路地から大通りに出る、古臭い煉瓦造りの建物が多いゲヘナとは異なり、鉄筋コンクリート製のビルが立ち並び、様々な場所に電光掲示板が設置され、自律稼働するロボットが至る所にいた。
「やっぱ全然雰囲気違うんだなゲヘナとは……」
シロウはミレニアムにくるのが初めてな様で感嘆の声を上げた。
「さーてと、ミレニアムで人気のスイーツ店はと……」
スイスイとスマホをなぞり情報を探す。その結果近くに人気のクレープ屋があることが分かった。
「ピスタチオクリーム……美味しそうだな」
シロウはスマホで地図アプリを開いて、案内を開始させ、それに沿って歩き始めた。
「にしても、治安良いなぁ……銃撃戦の音もあんまり聞こえないし……爆発音も殆どしない……」
おそらく、ゲヘナがおかしいだけなのだろうが、やはり比べてみるとゲヘナとは月とスッポンと言えるレベルで治安が違う。
少しだけ寂しさを感じる。
「何考えてるんだろ、俺」
自分がこの一年であまりにゲヘナに染まりすぎたという事を改めて実感する。普通、あんなに銃撃戦なんて起きないのだ、爆発事件もあんなに起きる訳ない。
しばらくすると行列が見えてくる。どうやら着いたようだ。
「結構並んでるなぁ……」
沢山の生徒達がスマホを片手に行列に並んでいる。銀髪の見覚えがある生徒がいるが気にしない、シロウは彼女に少しだけ嫌われている。
とりあえず並んでみる。
「ペースからして、後二時間くらいか……」
そう呟いた直後に背後に誰かが並んだ。こんなにすぐ後ろに並ぶなんて人気なんだなとシロウは思い、背後をチラリとみる。
背後に並んだのは金髪碧眼の華奢な少女だった。白磁の様な肌に無機質な顔立ち、一切乱れない佇まい、さながら人形の様だ。
じっと見ていると、こちらの方に目だけを向けてきた。
「何か?」
「あっいえ何でもないです」
声をかけられる事を想定していなかったので言い訳をして顔を背けた。
相手からの追い討ちはなかった。
気まずい時間を紛らわす為にシロウはイヤホンを耳に装着し音楽を流す。一年くらい前に先輩……いまは憎っくき便利屋に行ってしまった先輩にお勧めしてもらった、ブラック・デス•ポイズンの曲だ。
激しいドラムの音と長く金属質なギターの音が耳に響く、歌詞の意味はよく分からないが、何かを忘れたい時にはピッタリだ。
しばらく音楽に集中していると、自分の番まであと数人と言った所まで来ていた。シロウはイヤホンを外すと、店の前の置かれたメニュー表の看板を見る。
「ピスタチオ……紅茶クリーム……!」
メニュー表の中から二つの候補を導き出す。この二つの内どれかに決めないといけない。
シロウはしばらく唸っていると、自分の番が回ってきた。
「どれになさいますか?」
「あっえっと……ピスタ……いや紅茶……うーん、ピスタチオと紅茶の二つで!」
二つにした。だって、どっちも食べたいんだもんとシロウは頭の中で可愛らしく舌を出した。
「はい!ピスタチオと紅茶クリームの二つですね!」
改めて口に出されると恥ずかしいからやめて欲しいとシロウは思った。しばらく待っていると店員が出来上がったクレープ二つを持ってくる。香ばしい良い香りだ。
それを受け取りシロウは列を離れた。
背後から「申し訳ありません、今日は売り切れてしまって……」と声が聞こえた。どうやら、私が最後のクレープを買った様だ。少しだけ罪悪感が湧いてくる。それを、振り切る様に早歩きになる。
カッカッカッ
後ろから罪悪感が追いかけてくる、まだ振り切れていない様だ。さらに速度を上げる。
カッカッカッカ
まだ振り切れない、速度を上げる。
カッカッカッカッカ
まだ振り切れない、軽く小走りになる。
それを続けて幾分か経った頃。
「なぜ、逃げるのですか?」
声が聞こえてくる、シロウは立ち止まり体ごと振り返る。振り返った先には先程の人形の様な少女がいた。シロウは腰に下げた拳銃に咄嗟に手をかけようとするが、すぐにやめる。
「えっと……誰?」
「誰とは?」
表情を変えずに首を軽く傾げた。
「いやほら、あんたの名前……」
「あぁ……失礼いたしました、私はトキ……です」
少し考える素振りをしてそう答えた。謎の間があったことにシロウは違和感を感じだが追求はしない。
「そっそうなんだ……じゃっじゃあね」
シロウはトキから目線を外して、その場を去ろうとする。グイっと袖が引っ張られた。シロウは袖を見る、袖は華奢な指に掴まれていた。
「あの、離して?」
そうシロウは言うと、トキは手を目の前に差し出してくる。
「えっと握手したいのか?ごめん、いま俺両手塞がってて……」
「いえそうではなく、クレープを」
「あぁ、分かった」
シロウはトキにピスタチオクレープを渡した。トキは手に取ったクレープをじっと見つめている。
「はい、握手」
シロウはトキに手を差し出した。その瞬間、トキはクレープを口に運んで。
パクっ
食べた。
「ん?へ?あの……うん?」
「これがピスタチオですか、ふむなるほど中々美味しいですね」
シロウはあまりの状況に頭が混乱している、そのシロウを気にせずにトキはもう一口クレープを口に含んだ。
「私の耳にも、届いてこれる実力は確かにあるようですね」
モグモグと可愛らしい咀嚼音を鳴らしながら、そんな事を呟く。
「いやなんで!?えっなんで食べた!?」
漸く思考が纏まったようで、シロウは歯型の付いたクレープを持ったトキに言う。トキはその言葉に首を傾げる。
「……買ってくれたのでは無いのですか?」
「いや……あんたの為には買ってわけじゃないんだけど」
トキはうんうんと頷きながら再びクレープを食べた。真面目に聞いているのか怪しい態度だ。
「話聞いてる?」
「てっきり、財布を忘れてきてしまって途方にくれていた私に助けてくれたのかと思っていたのですが」
「財布忘れてたのに並んだの!?」
行動の意味の分からなさに頭を抱えそうになるが、それをなんとか抑えてトキに問いかける。
「なっなんで、助けてくれると思ったんだ」
「私をチラリと見たからです、「あっ奢ってくれるんだなと」思いました」
「なにそのエキソントリックな思考回路」
訳の分からないことを言ったトキに対してシロウは顔を顰めた。
「まぁ過ぎたことは良いではないですか」
「いや、俺にとっては現在進行形だけど、絶賛奪われてますけど」
「人聞きが悪い、渡してきたではありませんか」
「握手したいのかなって思ってだよ!何処にも置き場所がなかったからあんたに持ってもらっただけ!」
「むぁまぁ、貴方の代わりにもぐもぐ感想を述べますが、とてももぐもぐ美味しいです」
「食べながら言わないでもらえるかしら!」
「あっ」
脆いキャラを崩しながらシロウはトキの持つクレープを奪い取る。トキは無表情を崩さずにじっとクレープを見る。
「なっなによ……」
シロウはトキの何も変わらない様子に後退りする、それに合わせてトキは目線をクレープから外さずに近づく。
「あっあう……分かったわよ!渡せば良いんでしょ!」
トキの目線に耐えられなくなったのか、シロウは押し付けるように彼女にクレープを渡した。
「ありがとうございます、もぐもぐ」
トキはクレープを渡されると、すぐにに食べ始めた。シロウは溜め息を吐くと、手に持っていた紅茶のクレープを食べ始めた。ふわりと爽やかな香りが喉を突き抜けていく。意外といい茶葉を使ってるのかもとシロウは思いながら黙々と食べる。
クレープが半分程のサイズになった頃にシロウはチラリとトキの方を見た。もう既に食べ終わっていた様でシロウを先程と同じ様な目で見ていた。
「……上げるわ……やるよ」
「わーい」
感情のこもっていなさそうな喜びの声をトキは上げながら、シロウからクレープを受け取り食べた始めた。シロウはトキが食べている隙にその場から離れようとする。
「どこへ行くのですか?」
トキは袖を掴まれ立ち止まってしまう。シロウは青筋を立てながら後ろを振り返りトキを見る。袖を掴んでいない方の手でクレープの包み紙を持っていた。急いで食べたのか頬にはクリームがついている。
「なっなんだよ」
「いえ、助けてもらったのですから、お礼をしようと」
「結構です」
トキの申し出を食い気味に拒否しトキの手を振り払おうとするが、中々離さない。そうしているとトキはシロウの袖を掴みながら何処かに歩き出した。
「じゃあ行きましょうか」
「えっなに!?なんなのよ!?断ったわよねぇ!?」
「私が一度断られたくらいで諦める女だと思いましたか?」
「諦めなさいよ!私は貴方に関わりたくないのよ!」
シロウはキャラを再び崩しながら暴れるが、トキは意に介さずに進み続ける。そう何も反応されない内に諦めたのかシロウは数分後には大人しくなっていた。
しばらくしてシロウは周りを見渡した、周囲の通行人は先程とは異なり殆ど生徒となっており学園が近いことが察せられた。
「ミレニアム……」
シロウがそう呟くと、袖を引っ張る力が止まった。
「つきました」
トキは淡々とした声でそう告げるとシロウの袖を離した。
「……ねぇ、このまま俺がダッシュで逃げようとしたらどうするのか」
「拘束します」
そう言いながらトキは学園の中に入っていく、シロウは逃げても無駄だと思ったのかそのまま着いていく。翼持ちの生徒が珍しいのか視線がシロウの方に集まっていく。
「なっなぁ?俺どこに連れて行かれてるんだ?」
「……なにってお礼をする為に私のオフィスに……」
「おっオフィス?社長かなんかなの?」
「社長ではないです、家政婦、お手伝いさん、ハウスキーパー、ボディーガード、破壊工作その全てを行うことの出来るメイドです」
「前半部分殆ど同じじゃない?あと最後だけ物騒!」
半ば引きずられる様にトキのオフィスまで連れ込まれた。
「ここが私のオフィスです」
トキはくるりと身を翻しながらそう言った。
オフィスの内は人一人が住めるほどの広さがあり、大きなガラス窓のせいか、どこか落ち着かない雰囲気を漂わせている。シロウはその中をぐるぐると歩き回る。
「あぁうん、おっきいね」
「……もっと、感動すべきでは?」
トキは数ミリ程度目を細める。シロウはその些細な違いに気付かずに。オフィスの中を歩き回る。
「そう言えば、なんでこんなところに連れてきたんだ?」
「……?」
コテンと頭を傾ける、まるで何も考えてなかったかな様な動作だ。まさかそんなことはないだろうとシロウは軽く笑う。だがトキから返答はない。
「……えと」
「申し訳ありません、具体的なお礼の方法を思い付いてませんでした」
ぺしっと自分の頭を叩いて、頭を傾ける。テヘペロとでも言いたいのだろうが表情が変わってないせいでなんの可愛げもない。
「ふざけんなよ本当に……」
シロウは頭を抱えて蹲る。その様子を見たトキは頭をぽんぽんと優しく叩く。
「……まぁそこまで落ち込まないでください……そうですね、何か一つ私に命令を」
「……じゃあ……えと、うーん」
頭を捻るシロウをトキをじっと見つめる。思考が落ち着いたシロウはトキにスマホを差し出した。
「モモトークのIDを教えろ」
大昔に目指していたことを思い出したシロツはトキに命令した。
トキはその命に即座に答える為にスマホを取り出し、モモトークのアプリを起動し、高速でIDを入力した。
「はい」
トキはシロウにスマホを返す。それを受け取り画面を見る、画面には飛鳥馬トキと言う文字が無機質な初期アイコンと共に写されていた。
「ふぅ、んじゃこれで俺達友達ってことで」
「友達になれという命令を受けた記憶は無いのですが」
「めんどくさ……いいんだよ、連絡先知ってたら友達なんだよ」
「そうですか」
シロウは近くのソファに置いていた荷物を手に持つ。
「取り敢えず、なんか用があったらそれで呼んでくれ」
「……用とは?」
そんな疑問に持つことじゃ無いだろと内心思いながら、シロウはトキの目を見る。
「……遊びたいとか、困ったことあるから助けてとか」
「……分かりました、しかるべき時に呼べば良いのですね」
「そんな重く考えなくても……」
そうシロウは呟きながらオフィスの中から出て行った。
数日後、シロウは久しぶりに風紀委員会の本部に訪れていた。
「謹慎お疲れ、楽しかったか?」
ながい銀のツインテールを揺らしながらイオリが問いかけてくる。微妙に心配そうな声色だ。
「あぁうん、楽しかったよ、友達も増えたし」
「は?えっ……」
信じられないと言った顔でシロウを見る。その目に機嫌を悪くしたシロウは若干刺々しい雰囲気を出す。
「あーうんごめん、デリケートな問題だったなごめん」
「そう気を遣われると、かえって傷つくんだけど」
イオリの対応に眉をひそめながら、執務室の戸を開けた。
デカグラマトン見るに。リオに仕えてたときのトキって多分、今の無表情おもしろ女じゃなくて、無表情クール女だったんだろうなと思うんですよね。まぁ、正直私にはおもしろ女じゃないトキは想像つかんので、リオに仕えていた時もプライベートでは今ほどじゃないけどふざけるみたいなキャラにしました。正直全然自信ないです。こんな奴だっけトキって?
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