元トリニティの生徒はゲヘナの風紀を守りたい。   作:スイソーミズクサ

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めっちゃ長くなってしまった。最近暇になったので更新速度上がると思います。


三話 覆面を被った不良令嬢

 

そこかしこから銃声が鳴り。路地からはカツアゲを行う不良の声が聞こえる、壁やシャッターを見ると大量の落書きがある。ゲヘナとはまた違った治安の悪さ。

 

ゲヘナが世紀末的な治安の悪さなら、こちらはヤクの臭いがそこらじゅうから漂ってきそうな治安の悪さだ。

 

「安いよ安いよー合法グリス安いよー」

「こっちには適法ダムダム弾があるよー」

「チェーンソーいかがー」

「工業用アルコールいかがー」

 

露店を開く少女達は通行人に呼びかける。彼女達の露店にある商品をチラリと見る。粗雑な作りの値札に雑に置かれた怪しい代物。まともな人間だったら買わないだろう。

 

そんな町中を一人の少女が歩いている。先日、風紀委員としての活動を再開した桐藤シロウだ

 

「さっさと便利屋を捕まえて帰らないとな」

 

自身の目的を呟いたシロウは露店の品をチラチラと見ながら歩みを進める。

 

「うん?」

 

足が止まる、目線が定まる、目線の先には一冊の本がある。値札にある商品名を見る。

 

「三大校重役卒業アルバム……各五千円……」

 

その名前に惹かれて、シロウはその露店に近づく。それに気づき店主が顔を向けてくる。

 

「どうだい嬢ちゃん、三大校の重鎮たちの小中学時代の卒業アルバム、ここでしか買えないと思うぜ」

 

ニタニタと笑う店主に微妙な気持ち悪さを覚えたが、それよりも好奇心が勝つ。シロウは試し読みの許可をもらい、アルバムを手に取った。

 

手に取ったアルバムは姉が卒業した年のトリニティ自治区の中学校のアルバム、それをパラパラと捲る。そうしているうちに姉が写っている写真が載るページに辿り着く。

 

写真に写る姉は、ピンク色の髪の少女と並んで笑顔を浮かべ、ピースサインをしていた。

 

「イラつく」

 

ボソリと口から漏れ出た、それに反応して店主は怪訝な顔になる。それに気付いたシロウはすぐに笑顔を繕う。

 

「えっと……これください」

 

気まずくなったのか彼女は目に付いたアルバムも手に取り、財布からお札を取り出して店主に支払う。店主は受け取ったお札をじっと見つめた後に。「まいど」と呟いた。

 

シロウはそれ聞くとやましいことから逃げるように、その場を離れた。

 

 


 

 

「買っちゃったよ」

 

そうため息を吐きながら手に持つ二つのアルバムを見る。

微妙なバツの悪さを感じる。風紀委員なのに悪行に手を貸してしまったそんな気になる。

 

「はぁまぁ、いいや早く便利屋探さないと……」

 

彼女がブラックマーケットに来たのは、姉の卒業アルバムを買うためではない。ここら一帯にオフィスを移したという、「便利屋68」を調査する為に来たのだ。

 

一月ほど前に散々「便利屋」に煮湯を飲まされた彼女は、復讐に燃えていた。とはいえ、今回は調査が目的なので、直接捕まえるつもりはない。

 

「とりあえず、アルバムを……」

 

シロウは背負っていたリュックを前に回し、アルバムを詰め込もうとする。

 

ダダダダっ

 

銃声が響く。音の数や種類から、誰かが無差別に乱射しているのではなく、複数人で戦闘が行っていることが察せられた。

大きさからして、すぐ近くで行われていることが分かる。

 

「はぁ……またか」

 

だが、それほど驚くことではない。普段から騒がしい環境には慣れている。風紀委員としては争いを収めるべきなのだろうが、ここはゲヘナではない。

 

それにここで戦闘行為を行えば、この辺りを支配するマーケットガードに目を付けられる可能性がある。だから、仲裁に入るつもりはない。

 

だがそれでも気にはなる。どんな輩がどんな理由で争いをしているのかが。

 

「なにしてるんだか」

 

シロウは銃声のする方向に体を向けた。案の定、不良生徒たちが争っている。どうやら二つの集団が対立しているようだ。

 

片方は、停学や退学になったであろう、みすぼらしい制服を着た生徒たち。もう片方は、清潔で綺麗な身なりをした生徒たちだ。後者は、この場所には似つかわしくない存在に思えた。

 

その綺麗な制服のデザインにシロウは見覚えがあった。

 

「あれは……アビドスか?」

 

アビドス、過去にキヴォトス最大の学園として名を馳せた学園の名前。現在は大規模な砂嵐により、その栄華の殆どが砂に埋もれている。

 

「なんで?」

 

シロウは頭に疑問符を浮かべながら、戦闘の様子を観察する。そうじっと見ていると、見覚え……というより親しみがある制服……いや顔が見えた。

 

「あいつ!!」

 

シロウはそれを確認した瞬間、駆け出した。

不良達の元まで、あと三十メートル……二十メートル。

 

「ん?なんだ?」

 

不良たちの一人がこちらに気づき、体を向けた。そして、走ってくるシロウを視界に捉えたその不良は、多少狼狽えながらも手に持った銃のトリガーを引こうとする。

 

しかし、その前にシロウは跳んだ。走る勢いそのままに、不良へ強烈な飛び蹴りを叩き込んだ。

 

「ぎゃぁぁぁぁ!?」

 

蹴られた不良は、荒いアスファルトの上に倒れ伏した。

 

周りにいた不良たちは状況が飲み込めていないのか、ポカンとした顔でその場に立ち尽くしている。その隙に、不良たちに銃弾が次々と撃ち込まれた。

 

撃ったのは、不良たちと相対していたアビドスの生徒たちだ。生徒たちは突然現れたシロウをじっと見つめている。その視線はとても厳しい。

 

「助太刀、いらなかったか?」

 

シロウはヘラヘラと笑いながらそう言ったが、生徒たちの視線は変わらない。少しでも怪しい動きをすれば撃たれそうだ。シロウは冷や汗をかきながら、その場で固まった。

 

“シロウ?”

 

ふと、柔らかく心地よい声が響いた。

 

その声のした方向――生徒たちの背後を見る。

 

「せっ、先生!?」

「知り合い?」

 

狼のような風貌の生徒が先生に語りかける。先生は穏やかにうなずいた。

 

“久しぶりだね。謹慎になったって聞いてたけど、大丈夫だった?”

 

「えっ……あ、いえ、そのぉ、特に変わりなく……」

 

シロウは気まずそうに答えながら、ゆっくりと立ち上がった。そしてシロウは自分が現れるが否や先生の背に隠れた生徒を見た。

 

「で?ヒフミはこんなところで何してるんだ?」

 

声をかけられた少女は先生の背後からチラリと顔を出した。

 

「あはは……お久しぶりですシロウちゃん」

「こんなところで再開したくなかったけどな」

 

苦笑いをしながらヒフミは先生の背に隠していた体を晒す。

 

“知り合い?”

「あっはい、中学時代同級生だったんです!」

 

身振り手振り体をパタパタと動かしながら先生に言う。そう説明しているとヒフミははっとした顔をして慌てだした。

 

「あっそう言えば!みなさん早くここから離れましょう!マーケットガードが来るかもし知れません」

 

なんでお前はそんなことを知っているんだとシロウは問いただしたくなったが、答えて貰える雰囲気じゃなかったので、取り敢えずヒフミ達についていくことにした。

 

 


 

 

走ってから数分、騒がしい音がある程度小さくなった頃、ヒフミ達は足を止めた。

 

「取り敢えずここまで来れば、追いかけては来ないと思います」

 

ふうっと息を吐きながらヒフミは後ろを振り返る。振り返った先には息切れした先生と汗を拭うアビドスの生徒たち、そして呆れた表情でヒフミを見つめるシロウがいた。

 

「えっと……弁明させてください、シロウちゃん」

「……いや、なんとなく察してるからもういいよ」

 

そう言うと次にシロウは先生の方に体を向けて体をさする。

 

“ありがとうね、シロウ”

「いえいえ、いつもご苦労されてますね」

 

だいぶ回復したのか、先生は猫背気味だった背をピンと正した。

 

「で?君はヒフミちゃんの友達なの?」

 

その様子を見ていたホシノは訝しむ様な声で言う。シロウは流し目でホシノを見る。

 

「まぁ一応……で、なんでヒフミはあんたらと居るんだ小鳥遊ホシノ」

「おじさんのこと知ってるの?」

「まぁな、有名人だし」

「有名人ってそんなー」

 

そう頬を掻きながら恥ずかしそうに言う。そしてその問答をヒフミは不思議そうな目で見る。

 

「あの……シロウちゃん?」

「なんだ?ヒフミ?」

「その喋り方どうしたんですか?」

 

ヒフミは首を傾げながら質問する。その問いにシロウは溜め息を吐き目を細める。

 

「まぁいいだろ、そこは……」

「髪型も変わってますし……」

「イメチェンだよ」

「翼もボサボサ……と言うより鋭い感じに」

「かっこいいだろ」

 

ヒフミに投げかけられた質問を次々に淡々と答えていく。ヒフミは釈然としていない様子だ。

 

「あの制服ってゲヘナの……」

「風紀委員」

 

アビドス生徒たちの内二人がひそひそと話している。シロウはそれに反応し生徒たちの方を向く。

 

「あぁゲヘナの風紀委員……き……シロウだよろしく」

「へぇー風紀委員なんですね〜もしかして潜入任務とかですか〜」

「まぁだいたいそんな感じだ、あんたらは?」

「えーと私達はですね……あっあそこにたい焼きさんがありますね、あれでも食べながらゆっくりと話しましょう☆」

「いやあの俺は」

 

そうシロウは断ろうとしたが、勢いに流されてしまい、そのまま一緒にたい焼きを食べることになった。

 

 


 

 

流されたシロウは、たい焼きを食べながらアビドスの生徒たちの話を聞いていた。

 

「旧式のクルセイダーを不良がか……」

「そうそう。今じゃ取引されていない代物だからね、そんなものが出回るとしたら、ブラックマーケットくらいしか考えられない、それで、ここに来たんだ。君は何か知らない?」

 

そう言い、小柄な少女……ホシノはてっぺんからぴょんと伸びたひと束の髪を揺らしながら、シロウの顔を覗き込んだ。

 

「知らないって言われてもな……俺も初めて来るし……。ヒフミはどうなんだ?」

「えっ、私ですか?」

「お前、ここに何度も来てるだろ? 何か分かんないのか?」

「うーん……まぁ、違和感は感じますね」

「違和感って?」

 

シロウがそう尋ねると、ヒフミは細い路地を指さした。そこには、犬型の大人と、ヘルメットをかぶった生徒がいた。大人は、何か瓶のようなものを懐から取り出している。

 

「あれって……なんかの取引してるのか?」

「はい、多分ですけど、お酒じゃないかと」

“お酒!?”

「声が大きいです!」

 

ヒフミは先生にそう注意する。その声に反応し、取引をしていた二人が辺りをチラチラと見渡した。ヒフミたちは慌てて視線をそらす。

 

「にしても、酒って……キヴォトスじゃ規制厳しいだろ?」

「そうですね。ブラックマーケットでもあまり出回らない代物ですね。」

“未成年飲酒……あとで没収を……”

「先生、目的を見失わないでよ?」

 

そう言いながら、チラリともう一度取引現場に視線を向ける。

 

これがブランデー……

飲むんじゃないぞ?あくまでも料理用で売ったんだからな

 

会話が微かに聞こえた。しかし、内容までは分からない。ヒフミたちは、会話を聞き取るために耳を傾けた。

すると、声は小さいものの、先ほどよりも鮮明に聞こえた。

 

「にしても、レシピ本も酷いや、キヴォトスでブランデーなんて見つかるわけないのに、なんで載せるんだよ」

「別に生徒だけに売ってるわけじゃねぇからな」

 

“……料理用?”

「そうみたいですね……」

 

先生はほっとしたように息を吐いた。

ヒフミはシロウとアビドスの生徒たちを交互に見る。

 

「えっと……このように、そういった悪い取引があちこちで行われてるんです!」

「悪いことには見えなかったけど……」

 

セリカがそう呟くと、ヒフミは苦笑いを浮かべた。

 

「まぁ、あんな感じで、ここで商売をしている企業は、ある程度開き直って悪事を働いてるんです。」

「開き直る……それってどういうこと……?」

「つまり、隠そうとしないんです。みんな、悪いことをしてるって前提があるから」

“悪事を突かれて、市場から締め出される心配もないわけだね”

「そういうことです。だから、少し探せば戦車の取引に関する情報も見つかるはずなんですが……」

 

ヒフミがそう言いながら考え込んでいると、どこからか車のエンジン音が聞こえた。

シロウは音のする方へ体を向けようとした。

 

『そちらに武装した集団が接近中!』

 

先生の持っていた通信機から、アヤネの緊迫した声が響いた。

 

『気付かれた様子はありませんが……まずは身を潜めた方が良いと思います』

「あれは……」

「マーケットガードです!早くどこかに隠れないと!」

 

そう言うと、全員が路地に飛び込み、身を隠した。少しするとマーケットガードの車と共にトラックが現れた。

 

暗い路地から様子を伺う。

 

「護送してるのは……現金輸送車だね」

 

シロコがそう呟く。現金輸送車はしばらく走るとある建物の前で止まった。

 

「止まったね……もしかしてヒフミちゃん、もしかしてあれって銀行?」

「あっはい、ブラックマーケットの闇銀行です」

「闇銀行?」

「ブラックマーケットで最も大きなの銀行の一つです、横領、強盗、誘拐など、さまざまな犯罪で得られた財貨が、あの銀行に流れているそうです。そして、その財貨がさらなる犯罪の資金源となり、悪循環を生んでいるそうです」

 

そう淀みなく説明するヒフミを見て、なんでそんなに詳しいんだと言いたくなるが我慢した。

 

「まさしく闇だね」

「と言うかあの車ってカイザーか?やっぱ関わってるんだな」

「えっカイザー!?」

 

セリカが叫び、思わず身を乗り出した。近くにいたシロコが「セリカ、静かに」と囁きながら、彼女を抑える。

 

その時、現金輸送車からロボ型の大人が降りてきた。銀行の入り口にいた行員から集金確認書類を受け取り、サインをする。

 

口元を押さえられたセリカは、シロコの手を振りほどき、言った。

 

「あの人、いつも集金に来る人!」

「集金?カイザーの社員がか?」

 

シロウがセリカに声をかけると、通信機からアヤネの返答が返ってきた。

 

『カイザーローンは、私たちが借金している相手なんです』

「マジかよ……運がないな、あんたら、よりによってカイザーグループとはな」

「何か問題のあるところなの?」

「まぁ、そうだな……、合法と違法の狭間のグレーで立ち振る舞うせいで、簡単には取り締まれない、風紀委員長も目をつけている厄介な企業達だよ」

「そっか……アヤネちゃん、さっきの現金輸送車の走行ルート調べられる?」

 

シロウの話を聞いたホシノはアヤネに調べ物を頼む。

 

『少々お待ちください……全てのデータがオフラインで管理してるようです、全然ヒットしません』

「だろうねー」

「そういえば、いつも返済は現金だけでしたよね、それはつまり……」

「私たちの支払った現金が、ブラックマーケットの闇銀行に……」

「じゃあ何?私達はブラックマーケットに犯罪資金を提供してたってこと!?」

 

徐々に空気が落ち込んでいく、部外者である二人は少しだけ息苦しさを感じる。

 

『ま、まだそうと決まった訳では、証拠だって足りませんし、あの輸送車の動線を把握するまでは……』

「証拠……あっ!さっきサインしてた集金確認の書類、それを見れば証拠になりませんか?」

 

重くなった空気を断ち切るようにヒフミは提案する、それにアビドスの生徒達も同調する。

 

「あはは……でも考えてみたら、書類はもう銀行の中ですし……無理ですね.ブラックマーケット中でも最も強固なセキュリティを誇る銀行の中に入るのは……」

 

そう言いながらヒフミは申し訳なさそうな顔をする。そこにシロコが済ました顔で。

 

「うん、正面突破しかないね」

「正面突破……でもマーケットガードの人数もすごいですし……」

 

「大丈夫ヒフミ、もう方法は考えてある、ホシノ先輩」

「おぉ〜あれをやるのか〜やっちゃうの〜?ほんとうにぃ?」

「……えぇっ?」

 

ヒフミはシロコ達の会話に間の抜けた声を上げる。

 

「あ……!!そうですね、やっちゃいましょう☆」

「何?どういうこと?……まさか、私が思ってる方法じゃないわよね?」

 

セリカの問いに対してシロコはサムズアップで応える。

 

「嘘!?本気なの!?」

「なぁさっきから何の話をしてるんだよ、意味わからんぞ」

 

シロウは当然の疑問を口にする、シロコはそれに答える。

 

「残された方法はたった一つ」

 

そう言うとシロコはバッグから青い布を取り出し、それを顔に被せた。目と口だけを、彼女の場合は耳も露出させ、あとは全て布で覆い隠す。

 

「銀行を襲う」

 

そう彼女はいつもと変わらないトーンで言い放った。

 

「「はいっ!?」」

 

ヒフミとシロウは全く同じ種類の驚きの声を上げた。

 

「だよねー、それしかないよねー」

「はいぃぃぃ!?」

 

ヒフミは素っ頓狂な声を上げた。

 

「わぁ☆そしたら悪い銀行をやっつけるとしましょう!」

「なに、なんなの?」

 

シロウは理解が追い付いてないのか、口が塞がらない。

 

「はぁ……本当にやるのよね?じゃあ仕方ないわね」

 

セリカは頭を抑えて溜め息を吐いた後に、カバンから赤い目出し帽を取り出し装着した。

 

「とことんやるしかないか!!」

 

そう叫んだ。シロウは頭に疑問符を浮かばせながら「あっセリカのには耳を出す穴は付いてないんだ?」としょうもない疑問が湧き出た。

 

“銀行、襲うの?あのえっちょっと!?”

 

先生も微妙に理解が追い付いてないのか、アビドスの生徒達を見ながら、通信機からの返答を待つ。

 

『……はぁ、了解ですlこうなったら止めても聞く耳持たないでしょうし……その方法ならどうにかなるかもしれませんし』

 

理想の回答は帰ってこなかったようで先生は眉を顰めて困り顔をする。

 

「ごめんね、ヒフミ、シロウ、あなた達の分の覆面は準備がして無い」

「うへぇ〜じゃあもしバレたらゲヘナの風紀委員会かトリニティのせいって言うしかないねー」

 

とてつもない理不尽の塊のような事を言われたヒフミは頭が混乱しているのかロクな返答ができない。シロウはその場を逃げ出す準備をしている。

 

「それは、可哀想すぎます」

「ノ、ノノミさん……」

「仲間外れは可哀想です!」

「ノ、ノノミさん……」

 

そう言いながら、ノノミはたい焼きの袋をヒフミにかぶせた。

たい焼きの袋には、いつの間にか穴が開いており、それが覗き穴になっている。そしてキュッキュとマジックペンで5と書かれた。

 

「あうぅぅ、どうしてぇ……」

「ん、完璧」

「おぉ〜闇の世界で生きてそー、こりゃもうボスだね」

 

「うわぁ……逃げないと」

「ん、逃がさない」

 

シロウはその光景を見て逃げ出そうとするが、シロコに捕えられた。

 

「君には何被せちゃおっか?」

「これとかどう?」

「おーっ それはオシャレだねぇ」

 

そう言いながら、ホシノ達はシロウに一つだけ穴のの開いた麻袋を被せ、簡単に脱げないように茶色のリボンで締めた。そして6の数字を書いた。

 

「いやぁ、こりゃあ傑作だよぉ、この見た目で池の近くに立ってたらおじさんやばいかも」

「ん、マチェーテ持たせよう」

 

シロウは諦めたのか何も抵抗はしない。

 

「じゃ、行こっか、闇銀行に」

「それじゃあ、先生、例のセリフを」

“いや、先生として、これは……”

「先生」

“……ぎ、銀行を襲うよ!”

「ん、さすが先生」

 

先生は圧に負けた、なんて情けない大人だろう。

 

 


 

 

銀行の中は広く、人で溢れていた。怖そうな大人の姿も多い。

 

照明は闇銀行らしからぬほど明るく、目が痛い。この銀行の実態には、まるでそぐわない。行員たちも、犯罪に関わっているとは思えないほど、真っ当な雰囲気を醸し出している。それがまた独特の緊張感を生み、彼女を焦らせた。

 

自分の理想を叶えるためにここへ来たのに、門前払いされ、嫌気が差す。まだスタートラインから一歩しか進んでいないのに、底のない沼に嵌ったような感覚に陥る。

 

「融資の承認は下りませんでした、お力になれず、申し訳ありません」

 

冷たく、事務的な対応。その言葉を聞いた彼女は、行員を引き止めようとした。

 

ガチャンと何かが下ろされる音が響いた。その瞬間、銀行内の光が消え去り、闇に包まれた。

 

ダダダダダっ

 

闇の中で銃声が鳴る、それと共にマズルフラッシュの光が目に焼きついていく。

 

「ウワァぁぁぁ!?」

 

沢山の大人の悲鳴が聞こえる、闇の中では何が起きているか分かりづらいからか恐怖が深まる。

 

そして悲鳴が止んだ頃に照明が再び点く。

 

暗闇に慣れた目にはとても眩しく映る。光に目が慣れると、今の事態を引き起こしている原因であろう人物達が現れた。 

 

目出し帽を被った集団、一人はボストンバッグを持っている。そう銀行強盗だ。

 

「全員その場に伏せなさい!持っている武器は捨てて!」

 

えらく高い声が響いた、おそらく地声とは違う裏声を使った命令。

 

「言うこと聞かないと、痛い目にあいますよ☆」

 

明るい声とは裏腹に、ミニガンを警備員に突きつけ、恐怖を植え付ける。

 

「あ、あはは……みなさん、ケガしちゃいけないので……伏せてくださいね……」

 

抵抗しないことによるメリットの提示、優しげな口調で言う事によって、抵抗感をなくしている……プロだわ。

 

「非常事態発生、非常事態発っ「うるさい」

 

行員の頬を銃弾がかすめた。行員の額に冷や汗がにじむ。

これは、撃つときは容赦しないという見せしめ……。

 

「そんなに喚くからだよー、それに外部へ通報できるシステムは電源落としたちゃったから使えないよ」

 

飄々した態度で希望を容赦なく断つ。

 

「ひひぃ!?」

「ほら、そこ!!逃げるな!下手に動いたらあの世行きよ!」

 

立ち上がって逃げようとする客に銃を向け、逃がさないという警告を示す。

 

「みなさん、お願いだから、じっとしていてください……。」

 

怯える客たちを穏やかな声でフォローする。

まさに飴と鞭……。

 

「監視カメラの死角、警備員の動線、銀行内の構造、全て頭に入ってる、無駄な抵抗はしないこと」

 

そして、今までやったことの総まとめの事実を行員に突きつける。

そしてテーブルの上に大きめのボストンバッグを乗せる。

 

「さぁそこのあなた、このバッグに入れて、少し前に到着した現金輸送車の……」

「わ、わかりました!何でも差し上げます!現金でも、債券でも、金塊でも、いくらでも持っていってください!!」

 

恐怖の感情に染まったであろう行員は一刻も早くそこから抜け出そうと服従の言葉を綴る。

 

そして行員はその場にあった現金や資料、とになく何でも詰めまくった。

 

「あの、シロ……いやブルー先輩!ブツは手に入った?」

「あ、う、うん確保した」

「それじゃ逃げるよー!全員撤収!」

「アディオ〜ス☆」

「け、ケガ人はいないようですし……すみませんでして、さよなら!!」

「じゃあな!悪いことはするもんじゃないぜ!」

 

そう各々言い放つと強盗達はその場を離れて行った。

 

「や、やつらを捕らえろ!!道路を封鎖!マーケットガードに通報だ!」

 

恐怖から抜け出せたのか、行員は伏せていた警備員達に命令を下す、が無駄だろう、あの早さだ、いまさら連絡した所でもう遅い。

 

「社長大変な事になったね、どうしよっか……社長?」

「カヨコ!先に出てて!私、あの人たち追いかけるわ!」

「えっ社長!?」

 

 


 

 

アルは強盗達が逃げた方向に向けて走った、どうしてあんなに手際よくできるのか、どうしてあんなにアウトローになれたのかを聞く為だ。

 

追跡は意外と楽で、倒れたマーケットガードが目印になっていた。

 

しばらく走っていると、先程の強盗達の後ろ姿が見えた。

 

 

「はぁ……ふぅ……ま、待って!!」

 

そう声かけると、青い目出し帽を被った少女が銃を向けてくる。

 

「あ、落ち着いて、私は敵じゃないから」

 

アルはそれを宥めるように笑顔で言う、嬉しさが隠しきれないそんな笑顔。その様子を見て強盗達はごにょごにょと何かを話し合う。

 

「あ、あの……対したことじゃないんだけど……」

「銀行の襲撃、見せてもらったわ……ブラックマーケットの銀行をものの5分で攻略して見事に撤収……あなたたち、稀に見るアウトローっぷりだったわ」

 

アルは満面の笑みで強盗達を褒め称える、強盗達はその様子に狼狽える。

 

「正直、すごく衝撃的だったというか、このご時世にあんな大胆なことができるなんて……感動的というか」

「わ、私も頑張るわ!法律や規律に縛られない、本当の意味での自由な魂!そんなアウトローになりたいから!」

 

そこから止まらずアルは嬉しそうにはしゃぐ。

 

「そ、そういうことだから……名前を教えて!」

「名前……!?」

「その、組織っていうか、チーム名とかあるでひょ?正式な名前じゃなくてもあいいから……私が今日の雄志を心に深く刻んで置けるように!!」

 

一人で盛り上がっているアルに強盗達は困惑の表情になる。

そうしていると強盗のうちの一人、麻袋を被った一際不気味な強盗がアルに声をかける。

 

「なるほどな、つまりお前は立派なアウトローになる為に俺たちを教科書にするわけだ、お前のその憧れに応える為に、名乗るとしよう」

 

麻袋の少女は後ろにいた緑の目出し帽の少女に声をかける、そしてその少女は麻袋の少女に耳打ちをする。

 

「覆面水着団、それが俺たちの名だ」

「覆面……水着団!?や、ヤバい!超クール!!カッコ良すぎるわ!!」

 

何処がかっこいいと思ったのか問いただしたいと言う気持ちに麻袋の少女は襲われるが、話がまたズレそうな為、出さない事にした。

 

「うへ〜本来はピッチリとしたスクール水着に覆面が最高なんだけどね、ちょっと緊急だったもんで、今日は覆面だけなんだー」

 

小柄のピンクの目出し帽が胡乱な事を言う、その言葉にすら目を輝かせる、恋は盲目……いや憧れは止まらないとかその類なのか?

 

そんなことを麻袋は思っていると緑の目出し帽が横からひょいと顔を出して。

 

「そうなんです!普段はアイドルとして活動してて、夜になると悪人を成敗する正義の怪盗に変身するんです!」

 

あまりに設定がモリモリすぎる。

 

「そして私はクリスティーナだお♧」

「私はブルー、趣味は銀行強盗、こっちの赤いのがツン」

「犬みたいな名前を勝手に付けないでよ!」

「私はウジャトだよー」

「パメラだ」

「そして、我らの首領のファウスト様!」

「えっ!?」

「すごいわ!みんなめちゃくちゃキャラが立ってる!」

 

アルは目をキラキラさせながら強盗達に憧れの視線を向ける。そんなアルに対して麻袋はこんな質問を投げかけた。

 

「なぁ、君はどうしてアウトローになりたいんだ?」

「えっ?何でって?かっこいいから……いや、私は……何事も恐れず、何事にも縛られない、ハードボイルドなアウトローに……自分を変えたかったから……」

 

アルがそう言うとパメラは紙を手渡した。

 

「えっと……これは?」

 

「ここに住所を書け。俺がアウトローとは何かを教え……いや、お前のなりたいアウトローを見つける手助けをしよう」

 

「えっ……見つける?」

 

「あぁ、見つけるんだ。正直、アウトローになりたいと言っても、お前はただルールを破るだけの存在になりたいわけじゃないだろ?」

 

「そう……ね」

 

アルは首肯し、しばらく顔を伏せて考え込んだ。

 

やがて、顔を上げた。

 

「私にとってのアウトローを……うん、分かったわ」

 

そう言うと、パメラから渡された紙に便利屋の住所を書き込んだ。

 

「じゃあ、手伝いをお願いしてもいいかしら?」

 

「よろこんで」

 

そう言って、パメラはアルから紙を受け取った。

 

「さて、パメラちゃんそろそろ行かないと、覆面水着団の助けを求める人はまだいるよ!」

「あぁごめん」

「それじゃこの辺でアディオス〜☆」

 

そう言って強盗達は去っていった。その背中をアルは見えなくなるまで目で追い続けた。

 

 


 

 

「いやぁ、すごいかったわ、あの人たちみたいになれるような私も頑張らないと……」

 

アルはご機嫌に笑いながら、強盗達が置いていったボストンバッグを大切そうに抱えている。その様子をハルカは不安そうに、ムツキと可笑しそうに、カヨコは溜め息を吐いた。

 

「どうしたのよ、カヨコそんな溜め息吐いて」

「……ねぇ、社長本当に気づいてないの?」

「何が?」

 

心底不思議そう、疑う事を知らない子供のような目でカヨコを見る。その様子にカヨノは再び溜め息を吐いた。

 

「アレ、銀行強盗してた子達、アビドスの生徒だよ」

「えっ?」

「あと、その中にいた麻袋の子、風紀委員会の子だよ」

「はい?」

「それに、住所を渡しちゃったから……今夜は眠れないかもね!」

「な……な」

 

次々と情報を加えられたアルは白目を剥きながら叫んだ。

 

「な、何ですってー!!!!」

 


 

 

シロウはヒフミやアビドスの生徒達と帰路を辿っていた。

 

「うへぇ〜まさかシロウちゃんがあそこまでノリノリでやるとは……で、どうするの?本当に手伝いに行くの?」

 

ホシノはシロウの顔を覗き込む。シロウはその疑問に意地の悪い笑みで返す。

 

「んな訳、いまメールで風紀委員の方に便利屋の住所を送ったよ、今頃大慌てだろうな」

 

そうシロウは言い放つと、その場にいた全員が顔を顰める。

 

「そんなにドン引きしなくてもいいだろ……先生もそんな顔するなよ!俺だって傷つくんだよ!」

 

“とりあえず、シロウは人の気持ちも考えようね”

 

 

 




はい、久しぶりですね。
今更遅いですが、ブルアカふぇす、凄かったですね。
私は初日に現地で参戦してきましたが、いやこう……物凄かったですね。

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