元トリニティの生徒はゲヘナの風紀を守りたい。 作:スイソーミズクサ
「えっゲヘナに行くんですか!?」
「あっうん、言ってなかった?」
シロウの目の前にいる少女は丸く大きな瞳をパチパチとさせ、口を大きく開いて驚いた。
「いや初めて聞きましたよ」
「まぁ言ってませんでしたからね」
「さっき、言ってなかった?とか言ってましたよね!」
少女は抗議するような視線に切り替えて、ズイズイと顔を近づけてくる、吐息が鼻に直接かかってくるほど近い。
「まぁ待ってよ、別に今生の別れになるわけじゃあないしさ」
「そうなんですけど……そのお姉さんにはどう説明を……」
あまりに近かったのでシロウはヒフミの肩を掴んで離す、彼女自身も近過ぎたことに気づいていたのか特に抵抗はなかった。
「お姉様にはもう説明していますし、大丈夫ですよ」
「よく説得できましたね……」
あははと苦笑いをしながら、首を細かく揺らした。
「でもなんでゲヘナに?トリニティじゃ駄目なんですか?」
ヒフミは首を小さく傾けながら疑問を口にした。
いちいち動作が可愛らしく、実は狙ってやっているのではないかと思ってしまう。
「あぁ何というか……その……自由になりたかった……とか?」
「自由……やっぱりお付きの仕事って大変なんですか?」
「まぁ大変と言えば大変だけど……どっちかと言うと……抜け出したかったとか?」
「あはは……平凡な私にはよく分からない境地ですね……」
「……そうだね」
「なんで目を逸らすんですか?」
ペロロ狂いが普通な訳ないだろう。
「ペロロ……」
「寝るなよ、朝会で」
肩に強い衝撃が加えられ、ぼやけた意識が晴れていく。
口元が僅かに濡れて粘ついている。
それをを裾で拭き正面を向き直す、正面には魔王の様な椅子に座り込んだ少女、その傍には中々に奇抜な格好をした痴…人が立っている
長々としたつまらない話が続いている。早く終わらないかと思い時計に目を向ける、針が九時半を指している。始まった時間は大体八時ごろだ、そろそろ終わると予想して、真面目に聞くことにする。
「研修期間お疲れ様でした……これからは正式な風紀委員として頑張ってください」
そう研修期間、風紀委員会では加入し一ヶ月の間は仕事内容について学んだり、慣れるまでの研修がある。
昨日それが終わり、今日から本格的に風化委員として活動できる。
「では、パトロールの担当関しては配布した資料に書かれてますので、それをご参照ください」
解散と言う合図を痴女が出すと、全員が立ち上がり会議室から出ていく。
「なにぼーっとしてるんだ?早く行くぞ」
先程肩を叩いてきたツインテールが早く部屋から出るように促す、つんけんした雰囲気を漂わせる彼女は手に持っていた帽子を被りながら部屋を出て行った。
「分かったよイオリ」
同僚である彼女の名前を言いながらシロウは部屋を出た。
担当の地区に来た、イオリとシロウはパトロールをしていた。
「にしても長かったな研修」
「まぁそうだなぁ……いきなり実戦とかじゃなくて良かったとは思うけど……うわ」
辺りを見渡していると、コンビニの方から喧しい声が聞こえてきた。目を向けると、明らかに時代錯誤な服装をした四人組の集団がいる。耳を澄ませると、どうやらコンビニの店員にイチャモンをつけているようだ。
状況を確認するためにコンビニへ向かおうと体を動かした瞬間、イオリが先に駆け出していった。
「おい、ちょっ待て!?」
「見つけたぞ!規則違反者共め!」
シロウはイオリを止めようと声をかけるが、彼女は敵へ突進する猪の様な速さでコンビニに突っ込んでいく、そして自動ドアが開くよりも早く、ドアを蹴破り細かいガラスの破片を纏いながら突入していった。
「なんだぁっ「覚悟しろ!」
そう叫びながら、不良の顔面を蹴り上げ、間髪入れずに手に持ったライフル……クラックショットの銃口を近場の不良の額に向けて撃ち放つ。
「ぐえっ!?」
「なんなのぉ!!」
突然の状況に困惑しているのか、不良達は動かない、そこを更にイオリは攻め立てていく。そしてシロウがコンビニに着く頃には制圧し終わっていていた。現場は窓が割れ、棚は倒れ不良たちが横たわっていた。
「遅かったな」
「お前が早いだけだ」
「取り敢えず連絡入れるぞ」
不良たちにペタペタと額に付箋を貼った後、連行する為に電話をかけておく、本部に居場所を伝えるとそのまま現場を後にした。
「まぁうん……まだ仕事始めてから十分しか立ってないんだけどなぁ」
「そりゃそうだろ、まだゲヘナに慣れないのか?」
「いや、慣れないと言うか……頭で分かってても、頭の内にある常識が今の現実を否定しようとしててさ」
シロウ自身、そう言う暴力で何もかも解決できるゲヘナに憧れてきたところはある。ただ常識があまりにも地元とかけ離れていたので。来たことを微妙に後悔し始めていた。
「そっか、そう言えばトリニティから来たんだったな、なら仕方ないんじゃないか?」
「まぁそうなんだが……もうここに来て一ヶ月は経つし、そろそろ慣れないといけないんだけどな……」
「……そう言えばなんで、ゲヘナに来たんだ?トリニティじゃダメだったのか?」
「あ……えと、自由になりたかったとか?」
シロウは少しだけ息を詰まらせながら、少し前に幼馴染に対して誤魔化しで言った言葉を言う。
「ふぅん……やっぱり家柄とかそこら辺に縛られたりするのか?ああ言うところって」
「まぁそうだな、結構多いよ、姉とかが立派な肩書きとか役職に就てたらら、その妹とかも大きな期待が掛かるし、そのせいで自分も大きめの役職に就かされたりするな、それも自分の能力に合わないタイプのな」
「随分と実感籠った言い方だけど、お前もその口なのか?」
「あぁ……いや俺はそうなる前にトリニティを出たし……」
少し言い淀みながらもシロウは答える。イオリは少し怪しむ様な挙動をするが、またチンピラを見つけた為かそちら方へ目を向ける。
「あっ、またか規則違反者共め」
そう言いながら、不良たちに向かってまた全力疾走していき、瞬く間に制圧していった。
シロウは自分はもしかして要らないのでは?と思いながらも不良たちの額に付箋を貼り、本部に連絡をして、その場をイオリと共に離れた
「と言うか、お前なんでアイツらに付箋とか貼ってるんだ?なんか書いてあるのか?」
「ん?あれか?あれには俺の電話番号とメアドとモモトークIDが書いてあるんだ」
「なんで?意味が分からないんだけど」
「いや、その……友達作りたくて……」
イオリは軽く引いた目でこちらを見てくる。
「そんな目で見るなよ」
「いや……もしかしてトリニティにいた頃友達とかいなかったのか?って思ったんだけど……」
「まぁうん、いなかったな……うん」
「お、おい、泣くなよ。」
そう言いながら、イオリはハンカチを差し出してきた。
シロウはその行動に首をかしげながら、頬に触れてみる。すると、わずかに濡れていることに気づいた。
「いや、友達が全くいなかった訳じゃないのよ……二人はいたのよ……あはは……」
「なんかごめん……」
トラウマを思い出したのか微妙にキャラを崩しながら、ぶつぶつと呟くように言う。
「まぁ良いんだよ……これから友達は増やすしな、その為にアレをやってるんだ……」
「なぁ、それで友達本当に増えたのか?」
「……いや増えてない」
「増えてないのかよ」
「でも、トリニティ時代から一応三人は友達増えたんだよ!」
と言いながらシロウは懐からスマホを取り出して、モモトークの画面を見せる。
画面には友だちリストと写っている。
「えっと……ヒフミ、マリー、アル、ムツキ、私……この上の2人はトリニティの友達だな、下のが増えた友達……お前私も含めてたのか」
「えっ友達じゃないのか?俺たち」
「いや、そう言う訳じゃないんだけど……まぁ私を除くと2人か……どっちも見たことないな」
「入学式で友達になったんだ」
「じゃああの付箋は意味がないってことだな」
「そんなストレートに言わなくても良いじゃない!」
そうギャーギャー喋っていると、近場から大きめの爆発音が聞こえた、今日初めての爆発音、音の聞こえた方向へ向くと大きな煙が上がっていた。
「今度は爆破か……いくぞ!」
「あぁ!」
シロウとイオリは爆発が起こった方向へ走り出した。
「なんだこれ……」
「酷いな」
現場へ向かうと、爆発により吹き飛んだ建物があり、その周囲には割れたアスファルトやコンクリートが散らばっていた。
そしてその周囲にはタンクトップにヘルメット、そしてハンマーを手に持った工事現場の作業員にしか見えない集団がいた。
「温泉♪温泉♪」
「開発♪開発♪」
「発破♪発破♪」
「まさか……温泉開発部か!!」
「なにぃ!?あの温泉開発部か!?」
温泉開発部とは、一年である鬼怒川カスミを中心に結成された部活である。温泉を掘り起こし、その地域を開発することを目的とする部活なのだが、その実態はありとあらゆる場所を温泉開発と称して破壊の限りを尽くすテロリストだ。
「噂には聞いていたけど……物凄いな」
「とても出来立ての部活とは思えないな」
煤と汗に塗れたタンクトップの生徒達は、とても楽しそうな顔で陽気なリズムを奏でながら破壊活動を進めている。
「取り敢えず叩き潰すか」
「正直、なかなかの人数だし応援を呼んだ方が良い気もするが……まぁ待ってても被害が拡大するだけか」
そう呟きながら、シロウは腰の左のホルダーから赤黒くに塗装した拳銃……ネバーダイを取り出し、右のホルダーから先日買ったバトン型のスタンガンを取り出す。
「行くぞ!全滅させてやる!」
「あぁ!!」
そう叫ぶと同時に、シロウ達は遮蔽物から飛び出した。
イオリはクラックショットから弾丸を放ち一人ダウンさせ、シロウも取り出したネバーダイを撃ち一人ダウンさせる。
「ぎゃあっ!?」
「敵襲かぁ!?温泉開発を邪魔するのかぁ!?」
「なんで邪魔するのぉ〜みんなハッピーになれるヨォ」
「ふきとべー!」
敵達ははロケットランチャーやグレネードランチャーを向けてくる。
当たってしまえば無事じゃすまないだろう、彼女はそう考えると足にできる限りの力を込めて飛び上がる、それと同時にロケットランチャーが発射されるが、狙っていたのが地上にいた彼女だった為、当たらなかった。
そして跳び上がった彼は上から敵の総数を確かめる。
「五人か……いけるな」
そう呟くと、彼女はスタンガンを構えて落下と同時に敵の一人に叩き付けた、ガンと大きな金属音が周囲に響く、叩いた敵の一人はフラフラとしながら倒れた。
流石に飛び込んでくると思わなかったのか、全員唖然とした表情になる、その隙にスタンガンを起動し一番近くいたの敵の首に押し当てる。
電撃が首筋で瞬きバチバチと鳴る。
「何すんのさぁ!?」
そう叫びながらショットガンをもつ敵が、こちらに銃口を向けてくる。
至近距離で撃たれてしまえば、気絶は免れないだろう。
だが敵が引き金を引く前に、彼女は敵のショットガンを持つ手をネバーダイで撃ち抜いた。
「きゃっ!?」
と叫び声を上げながらショットガンを離す。シロウはそれを回収し、離した敵の顔面に撃ち放つ。敵は顔面を真っ赤に腫らしながら倒れた。
そしてロケットランチャーやグレネードランチャーを持ちながら呆然としている奴らを順番に念入りに叩き潰した。
「よし、これにて終了、イオリ!お前はどうだ!」
「こっちも片付けた!あとは連絡するだけだ、頼めるか?」
シロウはイオリの言葉に手を振って返事をする、そして倒れた温泉開発部達に付箋を貼りながら本部に連絡をした。
取り敢えず今日はこれで仕事終わりか?とシロウは少しだけ達成感に浸りながら。のど飴を口に放り込んだ。
「シロウ、何休んでるんだよ、まだ1時間も経ってないぞ」
「……そうですね」
まだ達成感に浸るのはまだ早かった。
シロウは溜め息を吐きながら、イオリと共にパトロールに戻った。
ネバーダイ
シロウが愛用する拳銃。
中学に上がった頃に姉からプレゼントされた銃。赤黒いカラーリングだが貰った当初は桃色だったらしい。
モデルはワルサーP99
彼女はキャラ作りが甘いですね
シロウのキャラが変わってると思う方がいるかもしれませんが、気のせいではありません。