元トリニティの生徒はゲヘナの風紀を守りたい。   作:スイソーミズクサ

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ナギちゃん可愛いね……ミカも可愛いね……


六話 トリニティ

 

頭がコクリコクリと揺れる、意識がモヤに覆われている。薄く生ぬるい膜に包まれた様な気分だ。

 

「おい起きろ、もう着いたぞ」

 

二の腕に重い衝撃が走る、それによりモヤは晴れ、膜は解けて消えていく。それを感じたシロウは瞼を開いた。

 

「ここまで来て眠るなんて……カフェインを点滴で用意しましょうか?」

「アコ行政官、それは死んでしまいます」

「もういいよ、エナドリを定期的に口に流し込めば起きてられるだろ」

「全体的に俺に対する扱い酷いよね」

 

起きたシロウに対して、隣に座っているアコとイオリはそんなことを言うとシロウは二人に対して抗議するような視線を送る。だが二人はその視線に対して何か反応することはなく二人で愚痴を言い始めた。

 

「と言うか、万魔殿の奴ら……なにが「風紀委員会に貴様達は地べたを這ってこい」だ!普通、用意するだろ車!自分達だけ車で行って……」

「本当です!なんなんですかあの人たち!ヒナ委員長のお陰でゲヘナは崩壊せずに済んでるというのに!」

「もういいだろ、それにセナさんのお陰で車には乗れてるんだから、カリカリしてないで頭冷やせ」

 

そう言いながらシロウは水筒の中の氷をアコとイオリに投げる。そしてそれが元に取っ組み合いになった。

 

「まぁ今日はありがとうねセナ」

「いえ、このぐらいは大丈夫です、私も丁度トリニティの救護騎士団の救護技術が気になっていたので、寧ろ機会が貰えて感謝しています」

 

運転するセナと助手席にいるヒナは和やかな様子でお喋りをしている、後部座席の連中とは大違いだ。

 

「そう言えばシロウ、今日一日中はマコトの護衛に付いてもらうけど大丈夫?」

 

ヒナは後部座席の方に顔を向けながら言う、シロウはアコとまだ取っ組み合いをしており頬を引っ張りあっている。

 

「ふぁんていいました?」

 

そんな状況で声色そのものはいつもと変えずにヒナに聞き返す、その様子にヒナは呆れながらもいつものことと諦めた。

 

「もう一度言うけど、今日一日は万魔殿の議長、マコトの護衛として働いてもらうから……前も言ったけどこれはトリニティの生徒会長からの要望だから……私達は正義実現委員会の方で話し合いがあるから着いて行けないけど大丈夫?」

「分かってますよ……俺も受け入れましたから」

 

とても受け入れたとは思えない刺々しい冷たさを帯させた声で言う。

 

「まぁ護衛だけだから、変なことは言われないはずよ」

「そうですnいったぁ!?あんた顔面にグーはないでしょグーは!」

「何が駄目ですか!ヒナ委員長が気遣ってるのが分からないんですか!」

「しらないわよ!というか殴った理由それなの!」

「……はぁ」

 

重い溜め息をヒナは吐きながら、今日の目的を思い出す。

今向かっているところはトリニティ総合学園。

ゲヘナ、ミレニアムに並ぶとされる学園の一つで、煤や暴力に塗れたゲヘナとは異なり、白く優雅な雰囲気に満ち溢れた学園だ。

 

今回そこに向かっているのは、エデン条約と言うゲヘナとトリニティの間に交わされる平和条約の話し合いのためだ。

 

「とりあえずそろそろ着くから、準備しなさい」

「分かりました委員ちょっ、ちょっと!離してください!」

「喧しいわ!さっきのお返しよ!」

「イオリさん!この人を引き剥がして下さい!」

 

アコとシロウはまだ喧嘩をしていた、その様子を見てヒナは先程よりも深い溜息を吐きながら、これからのことに不安を覚えた。

 

 


 

 

「テーマパークに来たみたいだなぁ」

「おう、そうだな」

「イオリさん顔がだらし無いですよ……それではトリニティに舐められてしまいます」

 

馬鹿みたいな顔を晒すイオリに昔のスケバンのような思考回路のアコ、適当な相槌をうつシロウ、無表情のセナ、溜め息を吐くヒナ、変な集団がトリニティスクエアを練り歩く。

 

「じゃあシロウがんばってね」

「マコトさんが何言っても気にしないようにしてくださいね、あの人の言うことは十割戯言ですから」

 

そう言うと、彼女達は正義実現委員会本部の方へ歩いて行った、シロウはその背中に軽く手を振って見送る。

彼女達の背が霞んだ頃に彼女はトリニティの校舎の方へ向き直る。

 

「行くか……」

 

鉛のように重たい足を引きずりながら、校舎の中へ入っていく。

 

 

校舎の中はゲヘナとは異なり、散らかっておらず弾痕もなく、廊下もワックスがしっかりとかけられピカピカに輝いていた。

 

「変わらないな……」

 

ずだずたしてひっぺがしたいと言う気持ちを抑えながら、シロウは辺りを見渡す。するとトントンと肩を叩かれた。

 

「やっと来ましたかシロウさん、探しましたよ」

 

後ろを振り返ると小さな体躯に赤いモジャモジャとした長い髪を持つ少女が呆れた顔をしながら立っていた。

 

「イロハさん……あぁそう言えば護衛でしたね」

 

忘れかけていた目的を思い出したシロウは確認を取るようにイロハに言うと、彼女は嘆息する。

 

「目的を忘れるとは凄いですね、それだと貴方は何も知らずにここに来たと言うことになるのですが」

「それでいいよ、元々来たくなかったし」

「そう言う気持ちなのは、よく伝わりますよ」

「なんで?」

「分かりやすい顔をしてるからです、マコト議長と同じくらい」

 

そう言うとイロハはシロウを追い越し、小馬鹿にしているのかニヤけた顔をシロウを見る。

 

「じゃあ行きますか、マコト先輩が煩いと思いますが、まぁ遅刻した貴方が悪いのでそこは受け入れてください」

「はぁい」

 

シロウはそう返事を返すとイロハと共にティーパーティが行われるベランダの方へ向かった。

 

 


 

 

会議が行われるベランダに向かうと、すでに席には万魔殿の議長であるマコトや幹部たちが座っており、反対側にはトリニティの生徒会長である聖園ミカと桐藤ナキサが並んでいた。その間を取り持つように、エデン条約の発起人でもある連邦生徒会長が中央に陣取っている。

 

シロウが会場に入ると、マコトや幹部たちから軽く睨まれるが、気にする様子はない。堂々とした態度でマコトの背後に立ち、まるで「さっきからここにいましたよ」と言わんばかりの振る舞いだ。

 

「ある意味、そこまで図太いのも才能ですね」

 

イロハはそう言いながら席に着いた。

 

それからしばらくして会議が始まった。

議題はエデン条約についてで、予定や役割分担などの意見をまとめているようだ。

 

シロウはその様子を眺めながら、大きな欠伸をし、目をこすった。

ふと視線をトリニティ側の席に向けると、桐藤ナギサと目が合う。慌てて目をそらすシロウの顔は、どこかぎこちない。

 

そうしているうちに、いつの間にか会議は終わっていた。

シロウは終了の雰囲気を察し、席を立つ幹部たちの後を追おうと、会場を出ていく万魔殿の一行について行く。

 

「待ってください」

 

後ろから引き止める声が聞こえた、心地よい懐かしい声だ。その声を聞いたシロウは立ち止まりそうになるが、顔をブンブンと振ってそれを振り払う。

 

「呼ばれてますけど」

「気のせいです」

 

シロウはイロハの言葉を食い気味に否定する。

そしてそのまま会場から出て行こうとする。

 

「ナギちゃんのこと無視するなんて、ひっどーい☆」

 

神経を逆撫でするような声が後ろから追いかけてきた。シロウは顔を顰め無視しようとするが、突然肩を叩かれ、危うく倒れそうになる。

 

「うわっ」

 

なんとか踏ん張って倒れないようにする、だがそのせいで立ち止まってしまう。

 

「あっごめーん、でも止まらなかったシロちゃんが悪いよね」

 

耳元でわざとらしい謝罪をする彼女に苛立ちを感じながら、シロウは前を見るが、もうすでに万魔殿の生徒達の姿はなく、取り残されたことを悟った。

 

「なんの用ですか?ミカさん」

 

シロウは体を翻し、微笑みながらミカ達の方を見る。

ミカは少しだけギョッとしたような顔になっているが、すぐに取り繕った。

 

「いやぁ、ナギちゃんが折角声をかけてくれたのに無視するなんて酷い子だなぁって」

 

ミカは頭を軽く掻き笑いながらそう言う。相変わらず見た目だけは可愛らしいとシロウは思いながら歯を軋ませる。

 

「そうですね...申し訳ありませんお姉様、折角お声がけいただいたのに無視してしまいました」

 

シロウはナギサに軽く頭を下げる。

 

「いえ……私も引き止めてしまって申し訳ありません、その……急いでるいるのですよね?」

「まぁそうですね……一応、万魔殿の護衛で来ているので」

「遅刻したのに?」

「ミカさん……」

 

シロウは笑顔を崩さずに答えたが、ミカは煽るような口調を続けた。

 

「だってナギちゃん、シロちゃんって今はゲヘナの風紀委員会の幹部なんだよ、結構責任がある立場にいる訳だよね?なのに遅刻だなんて……良いのかぁって思って」

 

ミカはナギサに駆け寄りながら言う、シロウとナギサはその様子に溜め息を吐く。ミカは二人を見て「えっ何その反応?」と不満そうにする。

 

「ミカさん、シロちゃんと呼ぶのはやめて下さい、私は犬ではありませんよ?」

 

シロウは苛立ちを声色のみに乗せて、ミカに抗議する。

 

「でも、昔はナギちゃんの後ろをずっとついて回ってたんじゃん、子犬みたいに」

「それは昔の話ですよね……」

 

シロウはミカを軽く睨みつける、睨まれた本人は可笑しそうに笑っている。彼女は更に苛立ちを募らせる。

 

「まぁいいです……それよりも姉様、何故私を指名したのですか?私はゲヘナの政治には一切関わっていませんし詳しくもありません、だから交渉や会議でトリニティを有利な立場に立たせることもできませんよ」

 

シロウは遮る隙を与えないように早口で捲し立てるように言う。

 

「私はそう言う意図で呼んだわけでは……」

「信用されてないね、ナギちゃん」

「それでは私はこれで」

 

シロウは身を扉の方に再度向けて歩き出そうとする。

 

「まっ待ってください!」

 

シロウは歩き出そうとした瞬間に腕を掴まれてしまう。後ろを見てみるとナギサが彼の腕を掴んでいた。その手は小刻みに震えており、何かに怯えている様にも見えた。

 

「その……今日シロウを呼んだのはそう言った意図ではないんです」

「……どういう意図で呼んだんですか?」

「ちゃんとゲヘナで生活できているのか心配になって……「ちゃんとご飯食べてますか?」とか「寝れていますか?」とか「友達はできましたか?」とか色々聞きたいことがあって!」

 

何かに縋るような声ででナギサは言う。その表情は不安に満ちており、ひどい顔をしている。

 

「それに相談した「あのねぇ…」

 

ずんと重たく低い声がベランダに響いた、ナギサはそれにびくりと肩を振るわせた。シロウはずきりと痛む胸を抑えながらナギサを睨む。

 

「もういい?私だって暇じゃないのよ」

 

乱暴にナギサの手を払い、扉に方に向かい手をかける。

後ろから啜り泣く様な声が聞こえるが気にせず扉を開ける。

 

「……いつまでも貴方の妹だと思わないでください」

 

そう呟いて、シロウはベランダを出た。

 

 


 

 

「結構遅かったですね」

「イロハさん……」

 

ベランダを出てしばらく廊下を歩いていると、階段の近くでイロハが立っていた。

 

「どうでしたか?久しぶりにお姉さんと話してみて」

「知ってたのか?」

「ええ、もちろん、貴方が桐藤ナギサの妹だってことは、誰でも知ってますよ」

 

シロウは「妹」という言葉に少しだけ眉をピクリと動かしたが、表情には出さないようにする。

 

イロハと話をしながら階段を降りていく。

 

「苗字とか、出来るだけ名乗らないようにしてたんだけどな」

「名乗らなくても分かりますよ、私は入学届で知りましたが、普通の生徒でもなんとなく似ていると感じると思いますよ?もっとも、ゲヘナの生徒たちは他校の生徒会長になんて興味がないでしょうから、気づかない人の方がが多いかもしれませんが」

「そうか……」

「マコト議長は最初、貴方が入学してきた時、トリニティの弱点を見つけられるかもとか、そんなことを思ってたそうですよ」

「へぇ……」

「まぁ実際に来た貴方はそんな風に役立つ人材ではありませんでしたけどね、風紀委員に入ってしまいましたし」

「悪かったな」

 

そんな会話をしながら二人で校舎を出る。

 

「そう言えば、ティーパーティってあと一人生徒会長がいる筈ですが、今日はいませんでしたね、触れて欲しくなさそうだったので触れませんでしたが」

「セイアさんか、多分体調不良とかだと思うけど……あの人、体が弱いし」

 

か細い棒切れの様な肢体を持つ、小煩い狐耳の少女をシロウは思い浮かべた。

 

「まぁいなくて良かったよ、説教臭いし」

「そうですか」

 

そう話をしている内に、外で待っていた万魔殿と合流した。

合流したシロウは万魔殿を車まで送り、風紀委員会の元に向かった。

 

 


 

 

風紀委員会と合流した後、セナの車に乗り込んだ。

シロウはアコとイオリに挟まれる様な形で座っている。

 

「今日どうだった?」

「何が?」

 

隣に座るイオリが聞いてくる、俯いたシロウの顔を覗き込みながら聞いてくる。

 

「いやほら、確かお姉さんなんだろ?桐藤ナギサって」

「あぁ……まぁ別に特に何も……無かったよ」

「ある感じだよな、それ」

 

シロウはそんなことを聞いてくるイオリと揺れて顔にかかってくるツインテールに苛立つ。

 

「とりあえずお前、そのツインテール切り落とせ」

「はぁ?なんでだよ」

「邪魔くさいんだよ」

 

イオリの顔を掴んで、定位置に無理やり戻す。

 

「何も無かったよ……本当に、逆にイオリ達はどうなんだ?」

「うーん、私も特に何もなかったけど……あぁでもなんか身長も胸も羽も大きい奴がこっちのことずっと睨んでたな、私も睨み返したけど」

「ヤンキーかよ」

「たしかにあの人ずっと見てましたね、なんだったでしょうか」

 

アコは溜息を吐きながらそう言う。疲れているのか目をしょぼしょぼしょぼとさせている。

 

「多分、ハスミさんだな、話したことはないけどゲヘナがめちゃくちゃ嫌いとかなんとか」

「へぇーシロウはあの場にいなくてよかったな」

 

シロウはそれを聞いて軽くそうだなと言うと、車を運転するセナに声をかけた。

 

「セナさんはどうだった?救護騎士団は?」

「はい、とても親切な方達でした、やり方がゲヘナとはかなり異なっていて勉強になりました、団長という方がいなかったのは少し残念でしたが」

「いない?ミネ団長が?」

 

シロウは頭の中で妙に禍々しいオーラを放つ勇ましい少女を思い浮かべる。

 

「はい、なんでも失踪中だとか」

「え……あの人が?」

「はい、なんでも先月から学校にも来ていないそうで、知り合いですか?」

 

バッグミラーでシロウの様子を伺いながらセナは言う。

 

「一応知り合いではあるけど……」

「手紙やメールによる知らせも無かったそうです」

「意味がわからん」

 

シロウは率直に思ったことを口にする。一瞬だけ、なぜ失踪したかを考えたが疑問が増えるだけだったので、すぐに思考を止めた。

 

「何か事件に巻き込まれたとかじゃない?」

「いや、あの人に限ってそんな……だってあの人、思いっきりジャンプするだけで地面が砕けて凹むんだぞ」

「なんだその化け物」

 

イオリは眉を顰めて頭を押さえる。

 

「正直、あまり良い状況では無いような気がしますし、本当にエデン条約なんて締結できるんでしょうか?」

「まぁそうね……トリニティの生徒達も私達を良い目では見ていないでしょうしね」

 

心配事を言う二人に対して、シロウは声をかける。

 

「まぁ考えても仕方ないし……そこら辺は万魔殿が上手くやってくれるんじゃないですか?」

「あの人達にそんなことできますかね……マコトさんにはとても無理な話な気もしますけど」

「案外上手くやるかもしれないわ、そういうところは割と上手いし、詰めは甘いけど」

「とりあえず、これが杞憂に終わることを願うことにしますよ」

 

そう言いながらシロウは目を閉じた。

 

 


 

 

数ヶ月後、連邦生徒会長が失踪した。

 

そして先生が現れた。




本当は連邦生徒会長との絡みを書こうと思ったんですけど、色々と違うなと思ったのでやめました。
因みに次の話でストック終了、そしてプロローグも終了します。

多分、感想と評価をくれたら喜びます。
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