元トリニティの生徒はゲヘナの風紀を守りたい。   作:スイソーミズクサ

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お久しぶりですね。はい皆さんドルマリー、ドルラコ様は引けたでしょうか? 私は六十連で二人とも来てくれました。

かなり稚拙な文ですがお許しください。


Vol.1 砂混じりの日常
一話 初仕事


 

「来ないわ……」

 

赤髪の少女は今どき珍しいダイヤル式の黒電話を見つめる。その目には不安や焦燥が宿っている。

 

「何が?社長?」

 

ピアス開けた少女が赤髪の少女に訪ねる。

 

「依頼よ!依頼!」

「なんだ、そんことか……」

「そっそんなことって何よ!」

 

ピアスの少女はまたか……と言った雰囲気を出しながら安堵する。そこまで重要な事ではないと思った彼女はイヤホンの掃除を始めた。

 

「だって!もう起業してから一週間も経ってるじゃない!それなのに相談の電話すら来ないなんて、おかしいじゃない!ムツキだってそう思うわよね!」

 

ハキハキと自分の不安を元気いっぱいに喋りながら、ムツキに同意を求める。

声をかけられたムツキは態とらしく考える素振りをする。

 

「うーん、そうだねぇ、アルちゃんが不安に思うのも分かるけど……チラシとか……広告って私達出してたっけ?」

 

クスクスと笑って、それでいて心配している様な声色でムツキは赤髪の少女……アルに言う。それを聞かれた彼女は顔を青くして一筋の汗を流した、その場にいた二人が「あっ忘れてたな」と呆れ気味の顔をする。

 

「あっ……そうじゃない、私……広告出してないわ」

「はぁ……」

「忘れてたんだぁ、へぇ〜」

 

空気が少し重くなる、重くしているのはアルだけで、他の二人はいつものことと割り切っている。

 

「まぁそんな事もあろうかと、ハルカちゃんにチラシを配るように頼んでおいたけどねぇ、多分もうすぐ帰ってくるよ」

「えっ本当!?」

 

アルの顔がパァーと明るくなる、相変わらず変化が激しさにムツキはにんまりと笑う。

 

「あっアル様!チラシ配ってきました!」

「ほら、帰ってきた」

「でかしたわ、ハルカ!」

 

ハルカが戻ってくると、アルは駆け寄って抱きしめた。

抱きしめられたハルカは、口元を歪めて笑みを浮かべる。

ムツキは「ハルカちゃんばっかりずるーい!」と言いながらアルに抱きついた。

その様子を見たカヨコは、ふっとため息をついた。

 

「社長、褒めてる所、悪いけど来てるよ?」

「えっ?何が?」

 

前後から抱きつかれてるアルは首だけをカヨコの方に向ける。

カヨコはとチリリンと激しく音を鳴らす黒電話を指差していた。

 

「えっ!?もしかして!?」

 

アルはハルカを抱き抱え、ムツキを引き剥がしながら、音を鳴らす黒電話に手を伸ばす。そして受話器をとった。

 

「はい!便利屋68、陸八魔です、はい……そうです……本当ですか!?あっいや、その分かりました……勿論受けさせていただます、手付金はいりません、依頼が完了した後に依頼料は受け取らせていただきます、では」

 

そう言うと、アルは受話器を黒電話に下ろし。社員達の顔を見る。

 

「やったわぁ!!初依頼よ!」

「凄いです!アル様!」

「アルちゃん、やったじゃん!」

 

わーいとアルは走り回りそうな程、興奮する。ムツキとハルカは喜ぶアルを見て笑顔になる。

 

「……で、どう言う依頼だったの?」

 

カヨコがぴょんぴょんと飛び跳ねるアルに対して訪ねる。

 

「えぇそれがね……」

 

 


 

 

「まさか、初仕事が人助けとはねぇ……さっすがアルちゃん、優しいねぇ」

 

便利屋たちはDUのコンテナターミナルへ向かいながら、仕事の内容を確認していた。依頼は、この辺りに出没する不良集団「メキメキヘルメット団」に誘拐された友人を助けてほしいというものだ。

 

「違うわよ!お金さえあれば何でもやるのが、便利屋でしょ!確かにアウトローには少し似合わない仕事かも知らないけど、頼まれたからにはしっかりやるわよ!」

「真面目だねぇ」

「とっとにかく!ほらもう目的地はすぐそこよ!」

 

わざとらしく話を逸らそうとするアルを見てムツキはクフフと笑った。

 

 


 

 

「いやぁ、今日も財布もほっかほかだぁ」

 

ヘルメットを被った少女はお札を数えながら、そんなことを呟いた。時間としては夜、普通の子供はもう既に寮や家に帰っている時間だ。そして今の夜は曇り空、普段であれば僅かな光源になる月すらも雲に隠れている。

 

「だな!トリニティのお嬢様はお金持ちが多くて助かるなぁ」

「誘拐って本当に儲かるなぁ……ビジネス化できないかな」

 

少女達は中腰で座り、反社会的な会話をする。まるで新作のスイーツまたはコスメを試したかの様なノリだ。

 

「でも、そろそろ不味いんじゃない?」

「何が?」

「ほら、トリニティの……正義実現委員会だよ、こんなに色々やってたら、そろそろ目をつけられても可笑しくないなぁって」

「うーん、そうねぇ、もう小づかいは十分貯まったし、そろそろこういうことから足洗うかぁ」

「じゃあさ、つぎは何しよっか、オレオレ詐欺とかどう?」

「オレなんて使わないし、アタシアタシ詐欺の方が良くない?」

 

足を洗うとは一体……と言いたくなるような会話をする彼女達をコンテナの上から見つめる影がいた。彼女達はそれに気づかない。

 

「じゃあ、この子どうする?まだ振り込み来てないけど」

 

一人が自分の後方を指差す、その方向に縄で縛りつけられ頭陀袋を頭に被せられた少女がいた。

その少女は死んでいるのではないかと思ってしまう程、微動だにしない、不安に思った不良のうちの一人はそっと近づき、心音に耳を澄ます。

 

「よかったー生きてたぁ」

「そりゃ、そのくらいじゃ死なないでしょ」

「でも、ほら縛り方間違って、息が出来なくなってたら怖いし……ん?あれは……?」

 

雲に隠れていた月がゆっくりと姿を現した。それと同時に、四つの影が彼女たちに覆いかぶさるように重なる。彼女たちは影の伸びた先を見上げた。コンテナの上に何かが立っている。背後に輝く月明かりに逆光となり、顔は見えない。

 

「だ…誰!?」

 

思わず漏れた声は、次の瞬間、一発の銃声でかき消された。驚きと共に胸を強く押さえられるような感覚に変わる。その場にいた全員が、倒れた仲間を見て何者かの襲撃だと察し、そして犯人がコンテナの上にいることに気づく。

 

「なん、だぁ!?」

 

銃を構えようとするが、その瞬間、手を撃たれ、銃を落としてしまった。倒れた不良たちは立ち上がろうとするが、次々に撃たれ、意識を失っていく。その光景は、まるでゲームの「起き攻め」のように見えた。

 

そして不良達が全員倒れ伏すと同時に、四つの影が地上に降りた。

 

「なっ何者……」

 

辛うじて息のあった不良が影たちを睨む。その不良の額に銃……赤いライフルが向けられる。

 

「覚えておきなさい……私達は便利屋68、何でも屋……よ」

 

アルは最大限低く冷たい声で言うが声色から喜び滲み出ている。

 

「べ、便利屋……ぐふっ」

 

やられ役として理想的な断末魔をあげる不良にアルは歓喜する、自分が理想とする光景を作り出せたと跳ねそうになる。

 

「ふふふ、あはは!」

「社長……」

 

カヨコはそんなアルを見て呆れながら、気絶した不良達を縄で縛っていく。他の二人は散らばったお札を拾う。

 

「ねぇ、アルちゃん、このお金どうしよっか?」

「ん、お金?そうね……拾わないわ」

「そうなの?結構な額集まりそうだけど」

「そんなみみっちい真似、アウトローはしないわ」

「そっかぁー」

「すっすみません」

 

ムツキ達はお札から手を離した。カヨコはその様子を見て「拾えば良いのに」と呟いた。

 

「社長、この子はどうするの?」

 

カヨコは縛られた少女を指差した。

 

「勿論、依頼人の元に送り届けるわよ、依頼は送り届けるまでよ」

 

そう言いながら、アルは少女の元に近づきしゃがんだ。コロンと何かが転がる音が足元から聞こえた。

アルは足元をチラリと見る、複数の穴が空いた筒状の物が見える。

 

「社長!!」

 

背後からカヨコの声が聞こえる、彼女の普段の立ち振る舞いには、あまり似合わない焦った声だ。

 

「へ?」

 

惚けた声が出た、その瞬間、筒状の物体は炸裂し周囲に眩い光と耳が貫かれたと思うほどの音を放った。

 

「きゃぁぁぁ!?」

 

耳がキーンと痛む、視界が光の残像に埋め尽くされる。痛む目と揺らぐ体を抑えしゃがみ込む。

 

数秒立つと、残像が消え視力が回復する。アルは周囲を見渡し仲間の様子を確認する。

 

「カヨコ……ムツキ、ハルカ……?」

 

カヨコとムツキは見つけることができたが、ハルカの姿が見えない。嫌な予感がしたのかアルは冷や汗を流した。

 

「嵌められた……」

 

目の前のカヨコは頭を抑えながら呟く。アルは嵌められたとは?と頭を傾ける。

 

「さっき捕まってた子いたでしょ、あの子が閃光弾を……!!社長避けて!」

「え!?」

 

アルは間抜けな声を出しながら、カヨコが睨みつけていた背後に身を向ける。

 

バン!!

 

頬を何かが掠めた。その瞬間にアルは嵌められたという意味を察した。

 

「カヨコ!ムツキ!一旦隠れるわよ!」

 

そう言うと三人は目の前にあったコンテナの中に飛び込むように隠れた。

 

「アルちゃん、これマズイかもね」

 

ムツキは口元だけを明るく歪ませながら、弾を込めるアルを見つめる。

 

「……ハルカは」

「さっきの捕まってた子がいなくなってたから、多分その子か協力者に……」

 

アルは表情は更に険しくなる。

 

「ねぇ、私達ってそこまで活動してないわよね……」

「そうだねぇ、まだ起業してから日が浅い……と言うか、今回が初仕事だし恨みとかも買ってないはずだしね」

「じゃあ多分」

「まぁ、そうだねぇ」

 

カヨコとムツキは口を合わせて言う。アルはさらに顔を険しくして二人が考えている答えと同じことを言った。

 

「風紀委員会……よね」

「それしかないでしょ」

「まさかDUまで追いかけてくるとは思わなかったけど」

 

カヨコはデモンズロアーの弾数を確認しながら言う。

ムツキはチラリと外を覗いた、外には人こそいないが、ライフルのスコープが反射した光がチラチラと見えた。

 

「うーん包囲されてるね多分、でてったらパーンって撃ち抜かれる感じ」

「そう……ムツキ、閃光弾とかある?」

「なにするの?」

「もちろん戦うわ、逃げる為にね、状態を整えるわ」

 

そうアルは目を細め表情筋を引き締める。その様子にムツキはにやけ、カヨコは溜め息を吐いて「いつもそうしたらいいのに」と呟いた。

 

 


 

 

「にしても、シロウ先輩も無茶しますよねぇ、まさか自分から餌になるなんて」

 

ライフルに取り付けられたスコープででコンテナを覗きながら言う。

コンテナの上では数人の風紀委員が待機しており、そのうちの半数はスナイパーライフルを装備している。

他のコンテナの上、更にコンテナターミナルの外にも多数の風紀委員が待機しており、便利屋包囲網が出来上がっている。

 

「こんな深夜に呼び出されると思わなかったけどねぇ、はぁ何時に帰れるんだろ」

「うーん……何時だろ、もう便利屋が立てこもって言ったから一時間くらい経ってるから、もうちょっとかかるかもねぇ」

「アニメ消化するつもりだったのに……うん?」

 

覗いていたスコープの先に何かが転がったのが見えた、筒状のなにかだ、一瞬だけ缶ジュースのようなものだと思ったのだが、よく見ると違うのが分かった。

 

「はっあれっば!?」

 

気付くのがもう少し早ければ致命傷は避けられたかもしれない。レンズの先のソレは強い閃光と音を放った。

 

「んぎゃぁぁぁぁ!?目があぁぁぁ!!!」

 

スコープを覗いていた委員達が目を抑えてのたうち回る、他の委員達もスコープを覗いていた生徒達ほどではないが、蹲っている者も多い。

 

「まさか、やり返してくるなんて……」

 

辛うじて平気な生徒が便利屋が居るはずのコンテナ確認する、変化は何もない。

 

「……あの一瞬の隙に逃げてそうだな……近づいて確認するか?」

 

そう言いながら立ち上がり、足をふらふらさせながら、自分の乗っているコンテナから降りようとする。

 

「ん?」

 

ガタンと鉄板に何かが落ちた音がした、音の大きさから、中々の重さを持つものと推察できる。つまり爆弾ではない……じゃあなんなのか。

耳を澄ますと少しだけ荒い息遣いが聞こえた

 

「だ バン

 

降り立ったであろう何者かに問おうとした、風紀委員は頭を撃ち抜かれ失神した。撃ち抜いた何者かはファーのついたマントをたなびかせながら、一人一人の頭を蹴り上げて気絶させていく。

 

「ふぅ……取り敢えずここらは制圧ね」

 

そう言いながらアルは深く息を吐いた。

 

「ハルカ……」

 

風紀委員に囲まれ、泣きながら蹲っているハルカの姿が脳裏に浮かんだ。その様子を思い浮かべたアルは、小さく「酷いことをされていないわよね……」と呟いた。

 

「いや、考えても仕方ないわね……とにかく、ここらを探さないと」

 

アルは周囲を見渡した。隣のコンテナに黒い何かが見える。

 

「ん?あれは……もしかして、ハルカ!?」

 

夜の闇に包まれてはっきりとは見えないが、誰かが倒れているのがわかる。アルはそれがハルカだと直感し、隣のコンテナの列へと飛び移った。

 

「間違いないわ、ハルカ!」

 

アルはハルカらしき人物に駆け寄った。数メートルの距離まで近づいたとき、はっきりとハルカの姿が見え、確信が生まれる。しかし同時に、アルの頭に疑問が浮かんだ。

 

(なんでハルカがこんなところに放置されてるの?普通、人質にするはずじゃ……?)

 

何かがおかしい、そう思うと同時に急激に感覚が冴えていく、空気の流れがおかしい、何かの視線を感じる。

 

「っ!!」

 

アルは自身の感覚を信じて、後ろに下がった。

 

ばぎぃん!!

 

目の前に何かが落ちた、いやその鋭さと勢いから偶然落ちて来たわけではないことはよく分かる。明確な攻撃であることをアルは理解した。

 

「避けたな」

 

低く冷たい声が静寂を崩した、その存在はそれと同時にコンテナから足を抜いた。

 

「あっ貴方は……」

 

プラチナブランドの短い髪に、髪色と同じ色の瞳、白磁の様な白い肌に、一切の余分を感じさせない体付き、剣の様な細い足、そして体を簡単に覆い隠せる程の大きさの翼。

 

「何?ジロジロ見て?気持ち悪い」

 

アルに対してその存在は射るような視線を向ける、それに気圧されたアルは後ずさるが、すぐにハルカを思い出し立ち止まる。

 

「貴方がハルカを攫ったの?シロウ」

 

そうアルは問いかける。シロウはふぅと息を吐いて、微笑む。

 

「えぇ俺がやったわ」

 

シロウは嘲笑う様な調子で言う。アルはその口調に頭を傾げた。

 

「貴方……キャラ変えた?」

 

アルはシロウにそう問いかけると、シロウは固まった。

 

「なっなんのことだ……ぜ……よ」

「……」

 

自分でもキャラが定ってないのか、語尾が迷っている。

 

「とっとにかく!お前も捕まえにきた!大人しくしてもらうぞ!」

 

シロウは誤魔化すように声を張り上げ、宣言する。

そして懐から赤い拳銃を取り出し、スタンガンを構えた。

 

「……まずっ!」

 

アルは急いで後ろに下がる。それに気づいたシロウは足を踏み締め、スタンガンを前に構えながら前に跳んだ。

 

スタンガンが首元に迫る。その間にアルは自身の持つSR、ワインレッド•アドマイヤーを差し込み、それを防いだ。

 

「ちっ!」

 

シロウは舌打ちをしながら、つま先を伸ばした鋭い蹴りを腹部に入れる。

 

「っ痛!?」

 

アルは腹部を押さえ、痛みに顔を歪める。蹲る彼女にさらに追撃を加えようと、シロウはネバーダイを構え、発砲した。アルは即座に地面を転がって銃撃を回避し、素早くシロウに銃口を向ける。

 

「喰らいなさい!」

 

アルは叫ぶと同時に引き金を引き、弾丸を放った。シロウは咄嗟に体を翼で包み弾丸を防御した。

 

「痛……ん?なんだ、この光は」

 

着弾地点は赤い光を放っていた。嫌な予感がしたのか、シロウは着弾地点の羽根をむしり取ろうとし、手を伸ばした。

 

その瞬間、赤い光は膨張し爆裂した。

 

「ぬぎゃぁ!?」

 

爆発音の後に、短い断末魔が聞こえた。その爆発はコンテナに大きな穴を開け、その中に落ちたのかシロウの姿は何処にも無かった。

 

「よしっ!」

 

アルはガッツポーズをし、倒れているハルカに目線を向け、走り出す。

 

 

 

それが命取りだった。

 

 

 

「きゃあ!?」

 

アルは何者かに頭を捕まれ、頭を叩きつけられた。

鋭い痛みが後頭部に、鈍い痛みが額に伝わる。

 

「っぅうぅ!離しっ!なさい!」

 

アルはそれに支配されないように必死に抵抗するが、抵抗するたびに彼女の頭に指が食い込んでいき、押し潰そうとする力が強まる。

 

「諦めろよ、いい加減」

 

シロウは冷たい言葉をアルにかける。段々と抵抗する気力も薄れてくる。

 

「ハ……ルカ……」

 

アルはすぐ前に倒れ伏しているであろう、ハルカに起こそうとする。だが返事はない。

 

「うっぐぅぅ……」

 

心の中が申し訳ないと気持ちで一杯になる、社員の一人も助けられない自分が嫌になる。諦めちゃいけないのに諦めそうになっている自分に腹が立つ。

 

(まだ……)

 

声に出す気力すらもうない、でも心だけは諦めてはダメだ。

 

ダッダッダ

 

何かが近づいてくる音がした。その音の主はすぐ近くにまで行って立ち止まる。そしてアルの頭上で金属が擦れる音が鳴った。

 

「しっ死んでください!!」

 

おどおどした声が頭上に響く。その次の瞬間、ズドンと発砲音が響いた。

瞬間、頭から痛みが離れていく。アルは立ち上がり、声の主を確かめる。

 

「ハルカ!」

「わっアル様!?」

 

アルは目の前にいたハルカを抱き寄せ、抱えるようにして、その場から離れる。アレで倒れるはずがない、すぐに起き上がってくる、そう予測を立てる。

 

「陸八魔アルゥ!!お前えぇぇ

 

予想が当たった。アルは走る速度を上げた。

 

どのくらい距離が離れているかは分からないが、振り返れば速度を落としてしまい、追いつかれてしまう。アルは背後の音に集中し距離を測ることにした。

 

 

「あっアル様!」

「口を開かないで!舌噛んじゃうわよ!」

 

恥ずかしそうなハルカの声を遮り、アルは叫ぶ。迫る音は激しさを増させている。

 

(このままじゃ、追いつかれる……!)

 

あまりに全力で走り過ぎて息が苦しい、横腹が痛い。音の近さからしてシロウはすぐ後ろにいるはずなのに、速度を上げられない。

 

(……!?)

 

背後の音が途切れた、嫌な予感がしたアルは真横に体を逸らした。先程まで自分がいた地点に足による軌跡が描かれる。

 

「ひっ!?」

 

間抜けな声を出しながら、アルは背後を振り返り後ろに下がる。

 

「逃げないでよ、俺が悪いことしてるみたいじゃない」

 

また口調が変わってる……とアルは思いながら、銃を向ける。

 

「……そのくらいの、距離だったら直ぐに詰められるわよ?」

 

シロウは不機嫌そうに頭を傾ける。

 

「まぁそうね……でも、ここで終わりよ」

「なに?諦めたの?つまらないわね」

 

シロウはサディスティックな笑みを浮かべて、スタンガンを向ける。拳銃を先程とは違い持っていない。

 

「拳銃落としたの?」

「貴方のせいでね」

 

笑みが崩し、アルを軽く睨み付ける。

 

「まぁいいわ、おま……貴方だけでも連れて行くわ、そこにいる子には興味ないし」

 

シロウはアルの側にいるハルカを見ながら言う。ハルカは何も言わない。

 

「貴方さえ捕まえれば便利屋は瓦解するでしょうしね」

「それはどうかしらね」

 

アルはシロウの背後を見る。

 

「ん?……何処見てるのよ」

「いえ……気にしなくていいわ、それに……もうすぐ分かるもの」

「それってどう パン

 

乾いた静かな音が響いた。その音に合わせてシロウの頭の軸がぶれ、体をよろめかせる。そしてそのよろめいた隙に何者かが彼女の頭に跳び蹴りを加えた。

 

「あっいたっぁぁ……」

 

痛みに呻くシロウの目の前にか細い少女が軽やかに着地した。

 

「ごめん社長、遅くなった」

「カヨコ!」

 

アルはぱぁーと顔を明るくさせる、その様子を見たカヨコは柔らかい笑顔を一瞬だけ浮かべた。

 

「先に逃げたと思ってたんだけど……狙ってたの?カヨコ先輩」

「別に狙ってたわけじゃない、たまたまこうなっただけ」

 

笑顔を崩したカヨコは溜め息を吐きながら、銃をシロウに向ける。

 

「とりあえず諦めたら?貴方一人で私達三人を相手には出来ないでしょ」

「……倒すつもりで来たわけじゃないの?先輩」

「別に貴方を倒すのは目的じゃない、逃げ道を作るのが私達の仕事、そう社長に頼まれたからね」

「逃げる?そりゃあ無理よ、貴方たちも捕まえる為に一中隊くらい連れて来たもの、このコンテナターミナルは完全に包囲されてるはずよ」

 

シロウは誇らしげに無い胸を張った。その様子にカヨコは更に深い溜め息を吐いて。

 

「なによ?」

「いや、まぁそうだね……無線開いてみたら?」

 

シロウは懐から無線機を取り出し語りかける。無線機からは爆発音と少女の焦った様な声が聞こえた。

 

「えっ!?」

「はぁ……気づいてなかったんだ、そんなんでよく幹部なんて務まらるね」

 

カヨコはまた溜め息を吐いて、アルとハルカに「逃げるよ」と語りかけた。

 

「ちょっ貴方達!待ちなっ!?」

 

シロウは逃げる彼女達を追おうとするが、目の前に何かが投げ込まれ立ち止まってしまう。投げ込まれた物は緑の凸凹とした物体、つまり手榴弾。

 

「やばっ」

 

そう呟いた瞬間、手榴弾は爆裂した。

 

 


 

 

アル達はコンテナターミナルの入り口まで来ていた、道中には気絶した風紀委員しかおらず。なんの苦労もなかった。

 

入り口の近くにはオフロード車のボンネットに腰掛けたムツキがいた。パタパタと足を揺らしつまらなそうな顔をしている。

 

「あっ!アルちゃーん!こっちこっち!」

「ムツキ!」

 

アル達に気がついたムツキはイタズラっぽい笑みを浮かべながら手を振る。

 

「いやぁ大変だったよー風紀委員達を制圧するのは……褒めて褒めてー」

「本当によくやったわ!」

 

アルはムツキを抱きしめて頭を撫でる、その様子をカヨコは呆れた目で見ながら。

 

「とりあえず後にしない?それ、早く逃げないと、追手が来るかもしれないし」

 

カヨコはムツキが腰掛けていた車に乗り込みエンジンをかけた。

「それもそうね」とアルは言うと車に乗り込んだ、それに続いてハルカとムツキも後部座席に乗り込んだ。

 

全員が乗り込んだことを確認したカヨコはアクセルを踏んだ。

 

 

 

「にしても……散々だったね初仕事」

「本当にそうね……あぁ思い出すと……うぅ、報酬も受け取れてないし……せっかく気合いを入れたのに」

 

アルは頭を抱えながら、今日のことを振り返った。

 

「まぁまぁアルちゃん元気だしなよ」

 

そう励ましながらムツキはアルにボタンを手渡した。

 

「ん?これは何?ムツキ」

「なんだと思う?」

 

身を乗り出し、アルの様子を覗き込みながら言う。

 

「ボタン?」

「せーかい!」

 

キャッキャと楽しそうにしながら、ムツキはアルが持っているボタンを推した。

 

「えっいや、なんのボタンなの?これ」

 

アルはムツキの方を見ながら言う、額には汗が滲んでおり、不安の感情が透けて見える。ムツキはそのアルの様子を見て更におかしそうに笑う。

 

「もうすぐわかるよ、いやぁ楽しみだなぁ」

「いやだから、これなんの ドカーン

 

背後で爆発音が轟いた。視界の端に赤い光が飛び込んでくる。カーブミラーには、巨大な爆炎が映し出されていた。アルは驚きに駆られ、反射的に後ろを振り向く。

 

さっきまでいた、コンテナターミナルが、火の海となっていた。

 

「いや、ちょっムツキ!?こっコンテナターミナルが」

「綺麗だね花火♪」

「ムツキいぃ!?」

 

アルは額から汗を吹き出しながら白目を剥く。ムツキはきゃっきゃと無邪気そうに笑う。ハルカは爆発の様子を見て感嘆の声を漏らす。カヨコは溜め息を吐いて呟いた。

 

「大丈夫かな、これから」

 

自分の心配が杞憂に終わることをカヨコは願った。




大体時系列としては先生がキヴォトスに来てから、二週間後くらいの出来事のつもりで書いてます。

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