TS異世界転生姫プレイ   作:パンデュ郞

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第31話:トリシェルと暗殺者集団

「ふんふんふーん」

 

 鼻歌交じりに裏町を行く。

 ああ、今日はなんという幸福の日だろうか。あの方のために働くことができるだなんて。

 しかも、今回は直々の御言葉を貰って動いている。これ以上の喜びはない。

 だって、私は生まれた時からかの方々の物なのだから。

 

「ああ、早く目覚めてくださらないかな」

 

 そうすれば、薄汚い養父の真似もせずによくなる。

 世に擬態するためだと言っても、気に入らないものは気に入らない。

 例え、必要なことだとしても、そう簡単には割り切れない。

 そういう時には、この言葉を口ずさむ。

 

「“青は白と共にある色。そう、遥かなる蒼穹のように”」

 

 私を生み出した人が残した言葉。私が好きな言葉でもある。

 生きる意味を明確にしてくれる。存在意義を忘れさせないでくれる。

 迷う事の何と無価値かを教えてくれる。意識を画一化させてくれる。

 

 意思の再統一も終わり、私は裏町を進み続ける。

 やがて、一つの古びた建物の前にたどり着く。古民家。以前は貧民が住んでていたらしいけれど、今となっては……たぶんね? 生きてはないだろうけど。

 

 私は入り口の扉を思い切り蹴り破る。

 砕けた木くずが宙を舞う、室内は暗く、人の気配はない。

 無防備に中へ足を踏み入れる。

 

「だから、消えてくれないかな? 黒の一味さん?」

 

 私がそう言うのと同時に、左右から人の輪郭が現れ襲い掛かってくる。光るものも見える。刃物か。

 姿は見えても、気配はまるでない。

 ふーん。最低限の力はあるみたいだね。黒の手下だからと言って、侮れはしないかな。

 ま、元から慢心なんかする気はなかったけど。

 

「遅い」

 

 黒の中に紅が飛び散る。入り口からの光を反射し、白く光る刃が弧を描く。

 モンスター相手には使う事のない私の武装。喜んでいるのが伝わってくる。あの方のために振るわれることの光栄さに輝きも増す。

 

 どさりと倒れる音が聞こえる。二人、私の左右に姿を隠すような外套を身にまとった人物が二人倒れていた。

 

「……何者だ、お前は」

 

 闇に紛れていた集団が姿を現した。

 姿を隠す、気配を隠す能力は及第点かな。やっぱり、直接来て正解だった。

 

「やだなぁ。風に吹かれて飛んできたゴミをはたき出すのに誰がとか理由が必要?」

 

 冗談交じりに挑発してあげる。でも、冷静さを欠いている様子はない。流石にこの程度は当然か。逆上して襲い掛かってくれれば楽だったんだけどなぁ。

 少しだけ数を数える。ひー、ふー、みー……、ま、いっぱいだね。よくもまあこれだけの数を工面したものだよ。

 

「しかし、こんな人数送り込んでくるだなんて、よっぽど臆病者なんだね、えーと、なんて言ったっけ……」

 

 私が呑気にお喋りしていても、彼らは襲い掛かってこない。

 さっき左右の二人を倒した際、私の得物を見逃したのだと思う。だから、迂闊に手を出せない。

 なら、もう少しの間好き勝手やらせてもらおうかな。

 白を奉ずるこの町に、黒の手先が土足で入るだなんて不愉快にも程があるのだから。

 

「ロザリンドだっけ? 君たちの主も随分と哀れだね。こんなことにムキになって――」

 

 彼らの主の名前を出した瞬間、明らかに空気が変わった。いいぞ、その調子。

 

「随分と、恵まれない。ああ、それとも、愚かなだけなのかな?」

 

 空気が変わる。相手の纏う殺気の質が高まる。そうそう、それでいいの。

 

「まあ、無能だから仕方ないか。愛情に飢えた、欠陥品だからね」

 

 それを言い切るや否や、一斉に殺気が私を突き刺す。

 思わず口角が上がる。こういう連中は本人を刺すんじゃない、主人を刺すんだ。

 

「どうかしたぁ? 待てができるだけ、主人よりもお利口なワンちゃんたち」

 

 ついに、一人が我慢できずに動き出す――瞬間に倒れる。

 

「まず一人」

 

 一度動き出してしまえば、もう止まれない。私という異物を排除するために彼らは動き出した。

 連携は手慣れたもので、暗殺者ながらに正面戦闘の心得も身に着けているみたい。

 

 私は両手を動かし、迎撃の態勢を整える。

 きらりと光る刃は正確無比に相手へと跳び、すんでのところで弾かれる。

 

「チャクラムだ! 紐がついている、軌道に気を付けろ!」

「正解」

 

 今の一瞬で私の武装は看破される。流石に防がれれば、目視は避けられないか。

 私の得物はチャクラムが二つ。紐を括り付け、自由自在に操る。対人用の装備だ。

 

 指を曲げて、チャクラムに括り付けた紐を適度に操る。それだけで意のままにチャクラムは宙を泳ぎ、激しく相手へ食らいつく。

 弾かれようと、その場ですぐに勢いを取り戻す。自由自在に宙を舞う刃が、常に彼らを付け狙う。

 ならばと距離を詰めんと踏み込む相手には、紐を操り牽制する。私が指を少し動かすだけで、すぐさまそこをチャクラムが切り裂くぞ、と脅しをかける。

 ただ、数が数。徐々に距離は詰まる。でも、相手が迫ってくるのなら、その分後ろへ引く。距離は確かに、一定の距離には踏み込ませないように。

 縦横無尽に駆けるチャクラムの防壁の前に、相手も攻めあぐねている。一種の硬直状態。

 

 私の背後には出入口がある。あいつらからしたら、ここまで来て逃げるとは思わないだろうけれど、逃がしたくもないはず。

 なんて言ったって、私がどうやってこの場所を突き止めたのか、どうして傷を負っただけの連中が動かなくなったのか、種がわからないのだから。情報を吐き出させないと、今後の活動に支障が出る。

 だから、私は彼らを外へ誘う。

 

 チャクラムを敵の一体に飛ばし、弾かせる。

 その間に身を翻し、出入口を潜り外に跳び出る。

 同時に、左右から追撃がかかる。中だけではなく、当然外にもいるか。

 ……いや、上からも来ている!

 

 くんっと紐を弾く。まずは上の人物へ向けて紐を操る。先端のチャクラムは弾かれるが、それは想定内。もう一方のチャクラムを上手く動かし、紐で胴体を括る。

 そのまま、右の方への相手へ振り回し――重力を乗せて叩きつける。潰れたカエルのような悲鳴が両者から上がった。

 隙を縫って、残された左手方面からの刺客が、無防備になっている私の脇腹へとナイフを突き立てる――。

 

「残念でした」

「何ッ!」

 

 ……が、内側に着込んだ私の防具を貫くのにはちょっとばかり武器の性能がよろしくなかったようで。

 ナイフは突き刺さらず、叩きつけられた衝撃だけが私に伝わる。

 予想外の現実に一瞬思考を止めている男。その思考を一生のものにしてあげる。

 足を回し、顎を揺らす。それだけで、白目をむいて彼は崩れ落ちる。

 これで五人目。

 

「ねーねー。この程度なの、君たちって」

 

 そうしている隙に、すっかり取り囲まれてしまっていた。こういう動きばかりは素早いな。

 周囲をぐるりと見回してみる。ここは裏道のど真ん中、前後左右どこを見ても暗殺者たち。人気は他にない。僅かに漂う血の臭い。これじゃあ、ここら辺住処にしてる人も寄り付かないだろうね。

 

 彼らの表情には、怒りの他にも焦りが見えてきた。

 こらえきれず、笑みがこぼれる。

 

「おままごとなら他所でやればよかったのに。わざわざ、この町に踏み入らずにさ」

「……何者だ、お前は」

「おんなじことしか喋れないのかなー? 知能が低いって大変だねぇ!」

 

 状況が有利になったからか、彼らは少しばかり余裕を取り戻しているように見える。

 私が外におびき寄せたから、他に伏兵がいるんじゃないか、とかね。警戒する余裕も出てきているみたい。

 いいね。少しは楽しくなってきたかな。

 

 周り全員が一斉に構える。ナイフだけでない。備えていた暗器も使ってきそうな雰囲気を感じる。

 彼らは私を仕留めてから情報を聞き出す方針に切り替えたみたい。

 そう、それでいい。

 

 最初に襲い掛かってくるのは背後の男。

 背後からの攻撃は身を屈めて避ける。空を切り裂く音が頭上から聞こえてくる。舌打ちも同時に。

 足を回し、背後の男の足を払う。体勢を崩したところに立ち上がり、腹部へ膝を入れる。

 

 次が来る前にチャクラムを両手に構え、左右へ放つ。

 先ほどよりも速度を上げて展開されるそれらは対応を許さない。 

 空中に光の線を描く円弧は的確に彼らの腕を切り裂き、ナイフが地面に落ちる音が鳴る。

 それだけでなく、次の瞬間には人が地面に倒れていく音が鳴り響く。

 

「毒かっ! しかし、我らには……」

「耐性があるって? でもさぁ、この町にしかない毒には耐性はないよね? 北から来た君たちには、ね」

 

 例えば、麻痺毒として役に立つモンスターの体液だとか。

 

 状況を理解したのか、即座に駆け巡るチャクラムへとそれぞれ一人ずつ身を投じる。

 少し虚を突かれた。

 自身の身を投じて、私の武装を剥がしに来た。このチャクラムは所詮刃のついた金属円と、強靭な紐で構成された武器でしかない。大の男が一人無理やり抑え込めば、それを動かせるだけの力は私にはない。

 むしろ、そのままだと紐を伝って私の行動が制限される。即座に手首に括ってある紐を解き、武器を捨てる。

 

 からりと乾いた音がするのと同時に、目の前にギラリと光る刃が突き付けられる。

 

「どうだ。武器がなければ、ただの女に過ぎない」

「…………」

「質問に答えてもらおう。お前は何者で、どうやって我々の存在を知った」

 

 周囲を少し探る。まだ十数人は残ってるかな。

 うーん、もうちょい減らしたかった。

 

「答えると思う?」

「なら、ここで死んでもらうだけだ」

「やだなぁ、どっちにしても殺す気だったでしょ?」

 

 私は笑顔を保ったまま答える。

 この状況で余裕を保っているのが不思議なのか、連中の間で緊張感が漂う。

 目撃者は少ない方がいいから、あんまり使いたくないんだけど。この数ならしょうがないかな。

 

「まあ、答えてあげてもいいけど――勝利を確信するのは早いんじゃない?」

「何――っ!」

「『凍り付け』」

 

 言霊により、仕組んでいた魔法が発動する。

 地面がほのかに光り、図形を描いていく。先ほどまで、チャクラムが舞っていた場所を追従するように。

 

 白く光る刃が眼前へと迫り――、すんでのところで動きを止める。

 

「残念。君たちは暗殺者としては一流かもしれないけれど……化かし合いでは三流だったみたいだね」

 

 足も、腕も凍り付き、動けなくなった彫像を眺めながら私は一人呟く。

 この町を戦場に選んだ時点で、こいつらに勝ち目はなかった。

 この町は黒を認めない。黒に染まることはない。町の意思が、私の味方をしてくれている。

 

 周りの全員が氷に包まれたのを確認して、私は一息入れる。

 

「そろそろあの方はオークションに参加してる頃かな?」

 

 地面に落ちているチャクラムを回収し、懐にしまう。

 流石にこれを残しておくと、証拠を残してしまう事になる。代えが利く武装ではあるけれど、回収はしておかないと。

 

「あーあー。早く目覚めてくださらないかな。そうすれば、本当の意味でこの身も、命も、魂さえも捧げられるのに」

 

 いつの日か来るその日を待ち望む。今日みたいに、ずっと命令をしてくださればいいのに。

 でも、そうなると隣のあいつが邪魔になる。多分、今日も隣にいるのだろう。

 黒がそこにいることはこの上なく腹立たしいが、あの方はもう受け入れてしまった。なら、私がどうこうできる範疇を越えてしまっている。

 

「あっ、そうだ」

 

 この場を立ち去る前に、言い忘れたことがあるのを思い出した。

 まあ、聞こえてないとは思うけれど。一応。

 

「あの方はお優しいからね。嫌いな相手でも死んでほしくは無いって。だから、すぐには動けないだろうけど、死なない程度で解けるようになってるよ」

 

 本当に優しい。さっさと殺してしまえば後腐れもないのに。

 何がそうさせるのだろう。

 

「じゃ、これに懲りたら二度とその面を見せないようにね~」

 

 それだけを言い残して、私はさっさとこの場を後にする。

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