TS異世界転生姫プレイ   作:パンデュ郞

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第43話:シャーロットと閉幕、そして開幕

 レイナード達が騒めいている。

 遠慮なく限界値を叩いたのだ、それはそうだろう。

 あまりにも何も考えてなさすぎる……。ここまでくれば、大物かもしれない。

 

「……三百五十二」

 

 声が上がった。様子を見るためか、上がる額は少なめだ。

 

「三百五十五!」

 

 だが、奴は止まらない。

 騒めきが走る。向こうの陣営からも、こちらの陣営からも。

 

「トリシェル!?」

「いやいやいや! 私の情報網が疑われるのはわかるけどさ! 流石に嘘じゃないって!」

「そのようだ。あいつらの方を見ろ」

 

 会場はにわかに湧きたっている。

 その中でも、特に騒がしい場所――馬鹿たちの席では怒声が飛び交っていた。

 

「ちょ、ちょっと! お前それは限度額――」

「うるさいうるさいうるさい! 小馬鹿にされて終わっていられるか!」

「でも、お前父親からあれだけ――」

「どうせ今回だって見逃してくれるさ! 黙って見ていろ、三百七十!」

 

 駄目だ。もうあれは自棄になっているという次元を超えている。

 何がどうなっても止まらないだろう。だって、他の誰も入札していないのに勝手に値段を跳ね上げるほどの狂いっぷりだ。

 金貨だぞ、金貨なんだぞ。その三百七十枚で何ができると思ってる。

 下層なら生活する分なら幾らでも。遊んで暮らしても何年も持つような額だぞ、額なんだぞ。意地だけで浪費していい額では断じてない。

 

 驚きのあまり、声が出てこない。

 あれを見せられて、なんといえばいいのかわからない。

 勝手に熱暴走を起こして自壊する機械を見ている気分だ。

 

「……三百、八十」

「三百九十!」

 

 苦々しく声を上げても、即座に向こう見ずに上書きされる。 

 これは、どうなるんだ?

 

「トリシェル。これ、仮に支払えなかった場合ってどうなるんですか?」

「悪質な妨害行為とみなされるだろうね。詳しいことはわからないけれど、最善でもこの町にはもういられないんじゃないかな」

「それって……」

 

 向こう見ずな馬鹿が勝手に自滅する分にはいい。

 でも、それはつまり……リヴェンが同じことすれば、王位継承戦からは脱落すると同義なのではないだろうか?

 リヴェンを見る。顔色が悪い。もしここが連盟主催の場でなければ、即座にあれを切り殺しに向かってそうな殺気を漂わせている。

 

 こんな、こんなことがあっていいのか?

 あれだけ本気になって、全てをなげうつ覚悟で臨んで、考え無しの阿呆に全てを破壊される?

 こんなことが許されていいのか? いいはずがないだろう!

 

 何とか、何とかしなければ。何かを考えろ――っ!

 

「向こうが限度額オーバーの入札をしてるって訴えれば――っ!」

「証明する手段は? 向こうがしらばっくれれば終わり」

「支払い不可での処理は。そこで再度入札を――」

「原則、そう言った品は連盟が回収して終わり。私は同じ品が再度売りに出されてるのを見たことはないかな。信頼できる人に個別で売りに出してるんだとは思うけれど、それがこちらに回ってくるとは……」

 

 浮かんだ案は即座に否定される。

 目を見ればわかる。トリシェルも否定したくて否定しているわけじゃない。

 向こう見ずな案に突っ込まないように、俺の様子を良く見ている。

 

 何か言いたそうにしているのも、感じる。

 何が言いたいのかはわかる。どうせ、諦めろと言いたいんだろう。リヴェンの事で、俺には関係ないからと。不運だったと切り捨てろと。

 

「……シャーロットちゃん」

「黙っててください」

「でもさ」

「いいから、黙ってろ!」

 

 語気が強くなる。

 こちらへ伸ばされていた手が、そっと引いていく。

 

「……四百」

 

 リヴェンが、限度額を叩いた。

 被害は甚大。これでダメなら、もうこいつは手を出せない。

 

 頼む。向こうが自らの愚かさを理解して、これで引いてくれ。ここが最後なんだ。

 お前のためでもあるんだ。わかれ、理解しろ、急に賢くなれ、誰か止めろ。

 

 思わず両手を顔の前で握り合わせ、祈る。

 神様なんて信じてない。でも、祈りはする。何だっていい、こんな惨い終わりがあってたまるか――。

 

「――四百十!」

 

 当然のように、声が会場中に響き渡った。

 途端に、全体が静まり返る。意味を理解したが故の絶望と、何も知らないが故の困惑。それらが合わさり、急に時が止まったかのように沈黙が場を支配する。

 

「な、なんだ? 僕の勝ちか? 勝ちなんだな?」

「お、お前。そんな金額払えるのか……?」

「ははっ、そんなの後からどうにかすればいいさ。確かに、ちょっと使いすぎたかもけれど……今は喜ばせてくれ。勝ちだ、僕の勝ちだ! ははっ、これであの子も――」

 

 どこかで雑音が鳴っている。今は静かにしてくれ。

 理解するのに時間がかかっているんだこっちは。

 

「…………ここまで、か」

 

 どれだけの間経ったのか。わからないけれど、リヴェンが言葉を漏らしたことで俺の時間は動き出した。

 

「リヴェン、さん」

「いや。しかし。だが。うむ」

「リヴェンさん」

「……すまん。少し、混乱しているようだ」

 

 落胆具合で、どれだけ欲していたのかはわかる。

 こんな誰もが呆れ変えるような結末が、ふざけた話で邪魔されるだなんて。当人がどれだけショックを受けるのか想像もできない。

 トリシェルも、何か憎まれ口の一つでも言いそうなものなのに、今だけは静かだ。

 

「王位継承戦とは、比べるまでもない。あいつなら、何を馬鹿やっているのかと笑うだろう」

 

 それは、自分に言い聞かせるような。

 

「そうだ、これで活動資金もそのままだ。残念ではあるが、所詮は寄り道だ」

 

 今すぐにでも耳を塞いでしまいたい。聞いていられない。

 何かできないか。何もできないのか。本当にここで手詰まりなのか。

 

「本懐を遂げる。そのことを忘れて少しばかり――」

 

 考えに考えても、結論は出ない。何が正しいかなんて、もうわからない。

 だから、我慢の限界を迎えたという事実だけを認めることにした。

 

「四百五十!」

 

 その場で立ち上がり、声を張り上げる。この場にいる全員に、誰一人漏れず聞かせてやるために。

 会場中の視線が一斉にこちらへ向いたのを感じた。

 

「なんですか! 四百五十、四百五十って言ってるんですよ!」

 

 俺を見ている全員へ向けて怒鳴り散らす。

 レイナードへも、あの馬鹿へも。……隣で呆け面をしている、リヴェンにも。

 

 ああ、一度言葉を口にしたら止まらなくなってきた。無性に腹が立つ。

 もういいや、知ったことか。好きにやってやる。

 どうせ今回限りのオークションだ。俺が欲しいものが特にあるわけでもない。今後出禁にされたところで痛くも痒くもないね!

 

「大体ね! 自分が払える額を超えて入札している大馬鹿がいる癖に、まともな競売ができるわけがないんですよ!」

「ちょ、ちょっと。シャーロットちゃん……?」

「トリシェルは黙ってなさい! おい、そこのアホ面!」

 

 俺は払えない金額を入札し続けた馬鹿へ指をさす。

 そう、そこで僕? って困惑しているお前だよ、お前!

 

「さっきからなんですか! セオリー無視して暴走機関車! ふざけるんじゃないですよ!」

「で、でも……」

「でもじゃない! 勝手に人の事を物扱いしたのもそうですけれど、何も考えない空っぽな頭に中身詰め直してから出直してきてください! 第一、キモイんだよお前の一挙一動が!」

 

 周りの空気が変わったのも気にせず、言いたいことを言い続ける。

 横で何とか収めようとしている奴がいるが、今は好き勝手やらせろ。

 

「何が『僕の妾にならないか?』だよ。頭イカれてんのか? 誰が望んでお前みたいな泥船について行くっていうんだよ!」

「で、でも!」

「この期に及んで反論を口にしようとするなゴミムシ! いいから、俺はお前の妾になんてならないし! 自分に払えない金額を入札する向こう見ずにこの刀は渡さない! わかったらさっさと手を引けクズ野郎!」

 

 言いたいことを一息に言い切って、俺は肩で息をする。

 言ってやった。言ってやったぞ。

 やってしまった感もあるけれど、それ以上に達成感が支配する。

 これで何か言われようが後悔はしない。もう、しーらね。

 

 場は先ほどとは違う沈黙に包まれていた。

 なんか、あれ。あれ?

 

 周囲を見渡す。リヴェンも、トリシェルも、レイナードも、他の参加者の誰もがこちらを見ている。それはわかってる。でも、表情が。

 その表情は、驚愕というよりも……?

 

 パチパチパチと、乾いた拍手が鳴り響く。

 思わず、そちらへ視線を向けた。

 

「いやあ、素晴らしい啖呵でした!」

 

 拍手をしていたのは、ステージの上で司会を務めていたお姉さんだった。

 彼女は仰々しく一歩、二歩と前に歩み出て、両手を広げて存在をアピールする。

 ただそれだけなのに、その動作が途方もなく歪に感じた。

 

「なんと素晴らしいやり取りでした! 大変見る価値があったと、あの方が仰せです!」

 

 あの方。誰だ。いや、わかる。理解した。

 つまり、つまり?

 

「魔力反応が急増!?」

 

 隣でトリシェルが叫ぶ。

 リヴェンが席を立ち、ステージ上へと椅子の上を飛び跳ね向かう。

 

 ここで、ようやく全てを理解できた。

 オークション会場で、ある程度の場所があって、俺たちが手を出せない場所。

 ずっと目の前にあったじゃないか。この会場内で、唯一スポットライトの当たる場所が。参加者ならば、絶対に赴かない場所が。

 

「不思議ですか? では、種明かしといたしましょう!」

 

 ステージ横から全身マントに包まれた群衆が姿を現す。

 その中に、二人ほど見た目が違う奴がいる。

 

 いち早くステージ前までたどり着いたリヴェンは、現れた群衆に阻まれて、司会の彼女へとたどり着けない。

 

 会場の人々が理解しきる前に、彼女たちは次の段階へと進む。

 

「こういうことです!」

 

 司会のお姉さんが、着ていた服をその場で脱ぎ捨てた。

 その下には――遠目からでは細かいのはわからないほど、詳細な文様が描かれていた。

 

「必要なのは離れた地点を繋げるだけの魔力! 地点の指定は直接個人に魔法陣を仕込むことで省略! 細かい準備は事前に服飾に仕込むことで痕跡を排除!」

「魔力反応更に増大……ちょっと、早すぎるよこれ! あまりに想定外が過ぎるって!」

「それでは、皆さま私はこれでごきげんよう。ここから先は――」

 

 そう、言い残し、まばゆい光と暴風がステージ上から会場中に駆け巡る。

 思わず顔の前を腕で覆う。あまりに強い風に、目を開けていられなかった。

 

 数秒。風が吹き止むたったそれだけの間に状況は様変わりしていた。

 近くでは衝撃波も発せられていたのだろう。近くまで寄っていたはずのリヴェンが離れた位置に飛ばされていた。

 そして、ステージの上には司会のお姉さんはおらず、代わりに――。

 

「皆様、お初にお目にかかりますわ」

 

 大きくはない。けれどよく通る声。会場中の誰もが、二階席の最も後ろの人物も聞き逃さなかっただろう。

 漆黒のドレスに身を包んだ、何もかもが黒い女性がそこには気品を漂わせて佇んでいた。

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