TS異世界転生姫プレイ   作:パンデュ郞

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第5話:シャーロットと地上へ帰る途中△

 エリアボスが倒されて、ボスが持っていた旗だけがこの場に残された。

 スケルトンジェネラルの通常ドロップは旗なんかではない。なんかよくわからない石みたいなものだ。用途がいまいちわかってないから、無価値だと判断されている。

 

 男は旗をしばらく眺めていたが、やがて興味なさそうに投げ捨てた。

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

 思わず声を出してしまう。

 スケルトンジェネラルが旗を残したなんて情報は知らない。これはかなり貴重な品だ。

 この男はそんなことも知らないで、無造作に地面に放り投げた!

 一体いくらで売れると思ってるんだ! こういうダンジョンで稀に落ちるイレギュラー品は高値で取引される。下手すれば並みの冒険者の半年、いや一年分の稼ぎぐらいの金額になる。

 特にフロアボスのものなんてどれ程の値が付くのか。想像もできない。

 

 急いで旗を拾う俺に一瞥もくれないで、男は先へ進む方向へ歩き出す。

 

「行くぞ」

「そっちは先に進む道ですよ!?」

 

 フロアボスを倒したら帰るんじゃなかったのか。

 ダンジョンの奥へ進もうと男を、叫んで呼び止める。

 彼は鬱陶しそうに振り返り、俺を見てくる。

 

「フロアボスがこの程度なら、先に進んでも問題ないだろう」

「ありますよ! 今何時だと思ってるんですか、私達、ダンジョン内で休憩を取るための装備なんて持ってないんですよ!」

 

 こいつ本当に何を考えているんだ。馬鹿、馬鹿なのか本当は。

 あまりにも考えなしすぎる。

 

「……ふむ。確かに、休息用の装備は必要か。上階の様子を考えると、長期間の休憩も取れないだろうしな。遠征でも満足な休息を取らない部隊は壊滅する」

「そうですそうです。なので、本日はもう帰りましょうそうしましょう」

 

 生きて帰るのが一番大事なこと。命あっての物種、何事も生きていてこそだ。

 本当、この戦利品をさっさと持ち帰って換金してしまいたい。重いし邪魔だし。

 あと着替えたい。大分乾いてきたけど、気分が悪い。

 

「――真っ当な意見だ。お前の進言を受け入れて、町に戻るとしよう」

 

 全力で何度も頷いた。頼むから生きて帰らせてほしい。

 俺の全力の肯定に何を思ったのか、男は大きなため息を吐いた。

 

 帰り道では特に大きな出来事が起きることもなく、現れたモンスターは男によって倒されていく。

 そうやって、ダンジョンの出入り口直前まではトラブルなくたどり着くことができた。

 

「やったぁ! 生きて帰ってこれた!」

 

 生還できた喜びから、急ぎ足で男の横を通り過ぎてダンジョンの出入り口へ小走りで向かう。

 ダンジョンの出入り口に近づくと、そこには門番のように三人の屈強な男が立っていた。

 そのうち二人は、先ほど二階層で男に腕を切り飛ばされた二人組だ。

 

 俺は即座に切り返して、男の背後に再度逃げ込む。

 男が鬱陶しそうにする。苛立ちを隠すこともなく舌打ちもされた。

 

「なんだ」

「あれ、あれ見てくださいって。さっきの二人組ですよ。絶対ろくでもないことですって」

「だからどうした」

「守ってください!」

 

 また大きなため息を吐かれた。そんな胡乱な目で見ないで欲しい。

 俺は守られなければ生きていけないか弱い女の子なのだ。荒事に関しては専門外、危ない臭いがした瞬間に逃げさせてもらう。

 

「……はぁ」

 

 了承と言うよりも、相手するのが面倒になった諦めの溜息に聞こえる。

 でも受け入れさせれば勝ちなのだ。否定しないってことは受け入れてくれたってこと!

 こっちの方が後腐れがなくてむしろ楽! この人は強いけど、今後深くかかわり合いたいタイプでもない。

 協調性も薄いし、俺の顔の良さも通じないし、何考えてるかわかりづらいし。

 

 男たちがこちらに気が付いた。

 

「兄貴! こいつです、こいつが俺らの腕を!」

「ほう? 見ない顔だな。そっちは……野良猫亭の看板娘か。今日の髪色は緑なんだな」

「ははは、どうもー……」

 

 やばい、地上での私を認識されている。

 これはひと悶着あったらマスターに迷惑かけてしまうかも。

 

 腕を切り落とされたはずの二人組の腕はくっついていた。

 私達がフロアボスと戦ってる間に落ちてた腕を拾って地上でくっつけたのか。それとも、腕のいい回復魔法使いによって治してもらったのか。

 どっちでもいいけれど、武器を振るえるようになって良かったね。今は良くないけど!

 

「うちの若い者が世話になったみたいじゃねぇか。なあ」

「知らん。俺は売られた喧嘩を買っただけだ。それに、二度と面を見せるなと言ったはずだが?」

 

 鋭い眼光が兄貴と呼ばれた男の背後に立っているあの二人組を射貫く。

 二人は先ほどの恐怖に怯んだ様子を見せたが、すぐに兄貴分が庇うように立ち位置を変えた。

 

「そうかい。それで済ませられるわけがねぇんだこれが」

 

 明らかに敵意を持って接してきている。

 やっと地上に帰れると思ったのに、問題が起きるのは勘弁してほしい。

 

「……何が言いたい。言ってみろ。聞く程度はしてやる」

「へぇ、その程度はわかるのか。いいとこのボンボンが」

「切られたいのか?」

 

 再び放たれる殺気。それだけで俺たちは圧倒される。……ただ一人を除いて。

 前に出てきた兄貴分は、降参とばかりに両手を挙げた。この殺気の中で、汗こそ掻いているものの、平然と動けているのは実力者の証拠だろう。

 

「わかったわかった。俺たちが来たのは、外でこの話をしないように念を押しに来ただけさ」

「ほう?」

 

 どうやら戦うつもりはないらしい。男の殺気が収まる。

 よかった。助かった、かもしれない。

 

「俺の可愛い弟分が、こんな些細ないざこざで冒険者としてケチが付くのはかわいそうだろう? 当事者であるお前たちが黙っててくれれば、俺たちも必要以上に労力を出さないで済む」

 

 些細ないざこざ、か。

 襲われた当人としては不服だが、実際そうだ。

 こんなやり取りはこの町では日常だ。とやかく言ってはキリがない。

 

 日常とはいっても、問題を起こした冒険者は煙たがられる。

 問題を起こすような人物を同じパーティに入れたいとは思わないし、地上の町の警邏(けいら)にも目を付けられる。

 

 特にいいことはない。裏のグループに所属してるなら、話は変わるが――。

 少なくとも、彼らにはそういうつもりがないらしい。

 穏便に済むならそれに越したことはない。大事なのは明日のわが身、安心安全が第一。

 

「話はそれだけか?」

「わかってくれたか?」

「ああ、お前らが途方もない阿呆だということがな」

 

 ――何を言い出すんだこの男は。

 挑発? 挑発したのかこの男。なんで何事もなく終わりそうなのに火に油を注いだ?

 

 挑発されたことを即座に理解した三人組は、眉間に皺を寄せて怒りを面に出す。

 

「――お前、何を言ったか理解してるか?」

「ああ。理解している。お前らが阿呆だと言った」

「なぁ、人が穏便に済ませようって言うのに、火種を追加して楽しいか?」

 

 兄貴分の雰囲気が変わる。

 荒事を何度も乗り越えてきた男が持つ圧を、隠すこともなく露にしてくる。

 俺なんかは耐性がなければ漏らしていたかもしれない。今は漏らすものもないんだけど。

 この男、この圧を正面から受けてよく平然といられるものだ。

 

「穏便に? 一方的に要求を叩きつけておきながら、よくものうのうとほざけたものだ」

「正気か? お前」

「ああ。それとも、怖気づいたのか?」

 

 一歩も引かない男に、兄貴分の方がたじろぐ。

 殺気とは違う。彼から暴風が吹き荒れているような、単純な存在感。兄貴分のものとは比較にならない。

 背後の二人組に至っては、威圧感だけで目を回している。

 なぜか兄貴分は俺の方をちらりと一目だけ見て、少しだけ考える素振りを見せた。

 

「……何が目的だ」

 

 引き下がってくれるのか。

 ここまでの圧力を見せられて、実力差を感じ取ったのか。

 

「目的などない。俺はただ、俺に命令できると思っている思い上がりを否定しているだけだ」

「つまり、お前に不利益さえなければ、特に俺らに何もする気はないと?」

「俺の目的の足しにならんことに気を割いている余裕はない」

 

 なんでお前はそんなに喧嘩腰なんだよ!?

 

「わかった。なら、今日このダンジョンであったことは忘れるんだな。それがお互いの身のためだ」

「そうか。やる気がないならそれでいい。おい、行くぞ」

 

 三人組の横を通り過ぎて男は地上への階段を上っていく。

 俺は少し出遅れて、男の背中と三人組を交互に見てから、急いで駆け抜ける。

 幸いにも呼び止められることはなく、地上への階段を駆け上ることができた。

 

 階段を上りきり、無事に地上へ生還を果たした。

 結果だけ見れば、今回は命を拾えただけでなく、稀に見る大豊作。災い転じて福となすとはこのことだ。

 

 もうこれ以上じっとしてなんていられない。極度の緊張から解放された俺は、すぐさまその場から駆け出す。

 俺は抱えている旗が人目を吸い寄せるのを感じつつ、逃げるようにして戦利品を換金しに向かうのだった。

 

「さて、連絡先をだな――」

 

 背後からの男の声は、雑踏にかき消されて俺には届かなかった。

 舌打ちをされたのも、当然聞こえなかった。

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