TS異世界転生姫プレイ   作:パンデュ郞

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第54話:シャーロットと違和感の答え

「もうやだぁ~!」

 

 自室、ベッドにダイブする。

 その後、枕に頭を擦りつける。そんなに質がいい枕じゃないからざらざらするけれど、それがまた若干の心地良さがある。

 いきなりの俺の奇行にアリスちゃんが少しびっくりしていたのが視界の端に見えた。

 

「はぁ~」

 

 ため息が出る。なんかもう、全てに疲れた。

 本当に、本当に疲れた。

 

「お姉さん、具合が悪いんですか?」

「ううん、ごめんね心配させちゃって。……はぁ~」

 

 アリスちゃんの気遣いが温かい。

 それでも、ため息が抑えきれない。

 結局報酬のお金は貰いに行けてないし、骨折り損のくたびれ儲けだ。

 セイラムとのいざこざは向こうに伝わっているだろうし。彼女が上層とのかかわりが深いなら今後の仕事にも支障が出るかもしれない。

 選択をちょっとだけ後悔している。

 

 でも、ついて行くっていう選択肢はなかったしなぁ。

 結論としては、お金に釣られて怪しい依頼を受けた俺が悪いってことになるか。

 でもぉ、生活が苦しいのは本当の事だったしぃ……。あのお金があればぁ、一気に色んな直下の問題が解決できたはずだったしぃ……。

 

「これ以上マスターに借りを作るのも悪いし……。ううん、何かいい方法はないか」

「もしかして、お金、ですか?」

「うっ」

「私のせいで苦労させてしまって……」

「わー! それは違う、それは違うから!」

 

 今現在、アリスちゃんの生活費はまだ俺持ちだ。

 もちろん彼女が給仕として働いた給料は出ている。しかし、それは個人で使ってほしいから受け取っていない。

 きちんと面倒を見るつもりで引き取ったんだ。一人で生きていけるようになるまでは、保護者として色々としてあげたい。

 

 そう、だから子供にお金の心配されるなんて、心が痛くて仕方がないのだ。

 じゃあ溜息をやめろよって? ごもっともでございます。

 

「ちょっと仕事で上手くいかなくて、少し落ち込んでただけだから」

「それって、冒険者の方のお仕事ですよね?」

「そうそう」

 

 少しだけ今からでも誘いに乗ろうか迷うぐらいには、魅力的な額の報酬だった。

 でも、まさかあんなイカれ女が依頼主だなんて……。

 トリシェルでも、もう少しまともに話を聞いてくれると思う。

 

「お姉さん、お店の人から凄い凄いって良く言われてるんですよ」

「ありゃ、そうなんですか?」

「はい、お姉さんがいるときはみんな遠慮してるみたいで、私一人になると嬉しそうにいっぱいお話してくれるんです」

 

 少しだけ笑いながら、アリスちゃんは嬉しそうに語ってくれる。

 面はゆいような、なんと言うか。常連さん、一応俺に配慮してくれてたんだな。

 実際のところ、可愛い女の子が楽しそうに話を聞いてくれるから俺の話題を出しているだけかもしれないけど。

 酒飲みのおっさんたちなんて、語りたがりで仕方がないんだから。

 

「そっか。アリスちゃんの方は順調?」

「はい! 最近はマスターさんにも、料理長さんにも褒められることが増えてきたんです!」

「そっかそっか。それはよかった」

 

 あぁ~アリスちゃんに癒されるぅ。

 このままアリスちゃんベッドに引きずり込んで抱き枕にして寝よっかな。

 嫌な事全部忘れて眠りたい。

 

「お姉さんの方は、そんな溜息吐くなんてどんなことがあったんですか? 私、お姉さんのお話聞きたいです!」

「んー? 私かぁ、私の方はねぇ……」

 

 愚痴を吐き出させてもらえるみたいなので、ちょっとだけ甘えさせてもらう。

 あんまりアリスちゃんの前で恰好悪いところは見せたくない。でも、このぐらいは許してほしい。今回のは本当に精神に来たんだ。

 

 アリスちゃんは俺が話終えるまで、相槌を打ちながらじっくりと話を聞いてくれる。

 そうして、俺が語り終えると、こてんと可愛らしく首を傾げた。

 

「……あの、お姉さん」

「ん? なあにアリスちゃん」

「その、人がモンスターを操るのって、普通にあることなんですか?」

「あはは、そんなこと――っ」

 

 あるはずがない。そう言いかけて、すっと頭の底が冷えていく。

 あの時は冷静じゃなかったから、気が付けなかった。その後は、お金の事で頭がいっぱいだった。

 どうして言われるまで気が付けなかったのか。

 

 普通の人間が、モンスターに襲われる恐怖に駆られながらあんな暗闇の中にいられるか? 俺にはできない。守ってもらえてる状態でも、恐怖を抑えきれなかったぐらいだ。

 リヴェンぐらい強くても、精神は疲労する。

 なのにあいつは、ここで待っているとまで言い切った。つまり、いつかわからない俺たちが戻ってくるときまであそこにいるという宣言だ。

 

 できるのか? そんなことが。

 いいや、できるはずがない。

 モンスターに絶対に襲われない、ダンジョンの中でも暮らしていける、そんな確証がなければ。

 

「……ダンジョンの、秘宝」

 

 可能性が頭によぎる。

 曰く、ダンジョンの根源。曰く、ダンジョンの全て。

 手にしたものは、ダンジョンを手中に収めるのと同義という、噂話。

 それを……セイラムは持っている?

 

「まずい、まずいまずいまずい」

 

 急いでベッドから起き上がる。

 突然だったから、またアリスちゃんをびっくりさせてしまったけれど、申し訳ないが構っている余裕はない。

 

 何がまずいかというと、リヴェンがこの事実に思い至らないはずがない。

 そうか、あいつが言っていた“気づけないはずがない”というのはこのことを指していたのか!

 あいつは俺たちの事を知っている。リヴェンがダンジョンの秘宝を求めていることも知っているはずだ!

 

 なら、リヴェンが取る行動は何か……そんなの、わかりきっている。

 

「ごめんなさいアリスちゃん! 急ぎの用事が出来ました!」

「あっ、お姉さん!?」

「話に付き合ってくれてありがとうございます!」

 

 急ぎ外出用のボロの外套を手に取り、身にまとう。

 思えばダンジョンの中で、リヴェンは既に気が付きかけていた様子だった。なら、もう思い至っていてもおかしくはない。

 

 ダンジョンに再度向かう前に俺に確認を取るだろうか?

 いいや、セイラムの目的は俺だと言っていた。なら、あいつはきっと俺を連れていってくれない。一人で行ってしまう。

 最悪の想定は、二人で行って、負けて俺だけが連れ去られることだからだ。

 それなら、一人で挑むことをあいつは選択するだろう。

 

「待ってくださいよ。あれは流石にまずいですって」

 

 暗闇の向こうにあった感覚を思い出す。

 まるで怪物姉と同等かそれ以上に悍ましい気配だった。形容しがたい、人が立ち向かっていいものとは思えないそれだった。

 決して、一人で立ち向かって何とかなるような相手じゃない。

 

 道行く人が不思議そうにこちらを見てくる。そんな視線も気にせず、表通りを全力疾走してリヴェンの宿まで向かう。

 間に合え。間に合ってくれ。嫌な予感が胸の中で淀むように離れてくれない。

 絶対に一人で行ってはいけない、頼む、間に合ってくれ――。

 

 宿にたどり着き、扉を勢いよく開け放つ。

 そのまま二階に登ろうとして……一階で酌を傾けていた男に声をかけられる。

 

「……おや、お嬢さん」

「はぁ、はぁ。えと、ニールさん、でしたよね?」

 

 この胡散臭い顔には覚えがある。怪物姉騒動の前に一度顔を合わせていた。

 リヴェンの部下、のはずだ。

 

「ええ。お急ぎの様子で。うちのボスに何か用事ですか?」

 

 彼は酒の席を一度立ち、こちらへ近づいてきてくれる。

 あまり大きな声で言えない話だ。俺としても助かる。というか息が切れてあまり声が出せない。

 

「リヴェン。リヴェンさんは、まだ部屋にいますか?」

「ん? あー、そういえばさっきなんか装備整えて出てきましたね。御用でしたか? 伝言なら――」

「ありがとうございます!」

「あっ、ちょっと!」

 

 クソ、やっぱり遅かったか。

 後ろで何か呼び止める声が聞こえるが、待ってなんていられない。

 こうしているうちにも、リヴェンが危ない目にあっているかもしれないんだ。

 

 一人で無事に帰ってきてくれる可能性はある。俺がしようとしているのは無駄な可能性もある。気づいてなくて、ただ単に買い物に出かけただけの可能性もある。

 何より、あいつが思った以上に滅茶苦茶強くて全て一人で何とかしてくれる可能性すらある。

 でも、大事なのは最悪の想定だったときだ。楽観視して、後悔することだけはしたくない。

 杞憂で終わった時は……笑い話にすればいいだけだ。

 

「一人でダンジョンには潜れない。頼れるのは――」

 

 心当たりなんて一つしかない。

 この数か月でどれだけの借りを作ればいいのだろうか。そろそろ返しきれるか心配になってきた。

 本当に、持つべきは人の縁とはよく言ったものだ。

 一人では何一つできない俺でも、ここまでやってくれたのは全て人のおかげだもんな。

 

 次の目的地へ足を向け、続けて走る。

 もう呼吸が苦しい。

 

「そのフードは、シャーロット嬢?」

「ぜぇ、レイナー、ぜぇ、レイナードはぁ、いますか?」

 

 扉を開き、近くにいた人物に寄って話しかける。

 そう、あんな怪物に立ち向かうのなら、レイナードぐらいしか当てがなかった。

 

「クランマスターか? クランマスターなら――」

「レイナードなら外出中だよ、シャーロットちゃん」

 

 よく知った声。間が良かったのか、悪かったのか。

 最近本当に縁がある。

 

「……トリ、シェル」

「話、聞かせてもらえるかな? レイナードが用事で帰ってくるまでの間でいいからさ」

 

 そう言いながらウインクする彼女の表情に、どこか演技しているかのような胡散臭さを感じざるを得なかった。

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