TS異世界転生姫プレイ   作:パンデュ郞

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前の話のラスト部分、生還時の歓喜具合が足りないなって読み直して思ったので、少し加筆しました。


第6話:シャーロットと迷惑客〇

「いらっしゃいませー!」

 

 何もない日には、俺は野良猫亭という酒場で働いている。

 酒場とは言っているけれど、料理もきちんと出す食事場でもある。

 かなり美味しい料理が出ると評判で、食事時になるといつも満席になるぐらいに人気の店だ。

 

 色々な偶然が重なって、この酒場で俺はウェイトレス兼、看板娘をやらせてもらっている。

 女の身で安全な宿なんてそうそうない。ここは極めて稀有な拠点なのだ。

 そんな感じでここのマスターには普段お世話になってるから、仕事への身の入り方もひと際だ。

 

「シャーロットちゃんおはよう! 今日も可愛いね」

「やだもう、そんなこと言ってもサービスできませんよ?」

「ははは、これは手厳しい。じゃあ今度パーティ組んでくれよ」

「どうしようかなー?」

 

 野良猫亭には冒険者が数多く訪れる。

 飯が美味い、酒も美味い、可愛い看板娘がいる。だから人が集まる。

 人が集まれば情報も集まる。結果、人が集まれば更に人が集まる。おかげで大盛況だ。

 

 朝早いこんな時間にも、これからダンジョンに潜る冒険者たちで溢れかえっている。

 これからダンジョンに入るからか、お酒は頼まない人が多い。代わりに朝食を頼むものだから、調理場は大忙しだ。

 忙しすぎて、この間新しく人を雇っていた。顔合わせしたけれど、いかついお兄さんだった。料理はとても上手だった。

 

「シャーロットちゃん、昨日は酷い目に遭ったんだって?」

「そうなんですよー」

「固定のパーティを組めばそういうトラブルもなくなるぜ? うちなんてどうだ! 幸運の女神様が入るとなれば、誰も文句は言わないだろうさ」

「ふふっ、ありがとうございます」

「おっ、じゃあ受けてもらえるのかな?」

「考えさせてくださいねー」

 

 注文された品を届けながらも、俺は笑顔を欠かさない。

 接客は笑顔だ。可愛い女の子に笑顔で接されて嫌な男はいない。

 相手をいい気分にさせておけば、こちらにも友好的な反応が返ってきやすい。

 こっそりとチップをもらえることもあったりする。

 

 そうやって接客をしている時、入り口の戸が勢いよく開いた。入ってきたのは、周囲を過剰に見渡している挙動不審気味の人物。

 その姿を見て、思わずせっかく作っていた笑顔が崩れかけてしまう。

 現れたのは昨日パーティを組んだ冒険者の一人。つまり、俺を見捨てて逃げた一人だ。

 名前は……何だっけ。忘れた、というか思い出したくもない。

 

 あっ、視線があった。こっちに来る。

 

「シャーロット、無事だったんだな。……その髪色はどうしたんだい? 昨日とは違うみたいだけれど」

「いやー、あのー。まあ、はい」

「そんなことよりも昨日はすまなかった! お前を攻撃したあいつには厳しく言っておいたから、二度とさせない!」

 

 二度とないのはお前らと組むことだと、咄嗟に口にしそうになった。危ない危ない。

 こっちは命を落としかけているのに、厳重注意だけで気が収まるはずがない。

 

 しかし、迂闊な奴だ。これだけ冒険者がいる中で、その話を持ち出すのがどれだけ危険な行為かわかっていない。

 ああ、そういえば、こいつらは新人パーティだったな。

 この町へ来たばかりだから、ダンジョンに入る前に色々と町について紹介してあげたんだった。

 

「どうか許してはくれないか? 僕たちパーティとして上手くやれてたと思うんだ」

「お客様、困ります」

「頼むよシャーロット! 僕たちには君が必要なんだ!」

 

 いきなり俺の両肩を強くつかんできた。真剣な目で力説しているが、ちょっと掴む力が強い。

 かなり痛い。次々と何を言ってるのか耳に入らないぐらいには。

 

 時折いるんだこういう迷惑客が。

 特に、気を利かせて初心者たちにサービスしてあげると、こういうのになりやすい。

 普段は常連さんたちがこっそり裏で手を回してくれてたりするのだけれど……。今回は町に来たばかりという事、情報が出回るのが遅れたという事で、何事もなく俺の元に来れてしまったらしい。

 

 こういういざこざを避けたければ、その場その場で人を集める臨時パーティばかりやっていないで、面子が固定となる固定パーティを組むべきなのはわかる。

 でも、俺の実力では行けるところが限られるからなぁ。軋轢は生まれない方がいい。固定パーティになると、今度はそういうパーティ内での成長曲線や実力差で軋轢が生まれてしまう。

 

 固定の大きなパーティに寄生してもいいけれど、それは懲りた。

 前に一度酷い目に遭って、それ以降は身の程に合った範囲での活動を徹底している。なにせ、中規模のパーティが一つ解散するほどの騒ぎになってしまったのだ。

 

 今の状況でも十分な稼ぎは得られているし、問題が起きるよりかは遥かにいい。

 パーティのマスコットとして活動してくれ、という軽めの誘いは未だに大量に受けるけれど。

 

 俺が困っていると、周りの席で何やら相談し合っている気配を感じた。

 どうやら助け舟を出してくれるつもりらしい。

 

「おい、坊主――」

「邪魔するぞ」

 

 声が被った。常連さんの一人が俺を助けようと席を立ったのと、店の入り口の戸から声が響いたのは同時だった。

 入り口から入ってきたのは、昨日の黒髪の剣士だ。

 男は店の中を一度見回してから、こちらの姿を確認すると鋭い目つきを向けてくる。

 周りの状況を一切気にせず、真っすぐ俺の前までやってくると、見下ろすように俺を見てきた。

 

「見つけたぞ、女」

「あっ」

「昨日はよくも逃げ出してくれたな。おかげで無駄な時間を過ごした」

 

 昨日のパーティリーダー君を挟むようにして、俺の前に立っている。

 常連さんも突然現れた黒髪の剣士の圧に押され、動きを止めてしまっていている。

 

「野良猫亭というヒントがなければどれだけ時間がかかっていたことか――」

「……なんだ君は」

 

 一早く動き出したのは、昨日のパーティリーダー君だ。背後に立った男に対し、高圧的に出る。

 新人だからか、黒髪の剣士が放っている威圧感を意にも介していない。

 彼の勇気ある行動に、酒場中が騒めく。

 

「今、彼女は僕と話をしているんだ。割って入ってこないでくれ!」

「お前は何だ」

「僕はニック。いずれ全てのダンジョンを制覇する男だ!」

 

 大言壮語を吐くパーティリーダー君ことニック少年を、黒髪の剣士が正面から無表情で見つめている。

 数秒にらみ合いが続き、彼は諦めたように言葉を吐き捨てる。

 

「お前の名前など聞いていない。お前は何だと聞いている」

「んなっ!? 失礼だぞ!」

 

 相手の事を一切尊重しない物言いの男にニック少年は憤る。

 黒髪の剣士は鼻で笑った。

 

「失礼? ほう、何様のつもりだ?」

 

 男がそう言うだけで圧がある。

 昨日のように意図して殺気や威圧をしているわけではない。それでも、俺たちと彼の間にはどうしようもない力量差があるとわからせられる。

 

 悔しそうに後ろに下がるニック少年。俺は当たらないように、そっと横に逸れた。

 

「う、ぐ。僕は彼女にパーティに残ってくれるようにお願いしてたんだ、用件はその後にしてくれ!」

「ほう、仲間なのか」

「そうだ……っ」

 

 黒髪の剣士は俺の方を見てきたが、全力で首を横に振る。

 どこかのパーティに所属した覚えはない。

 

「違うと言っているようだが」

「それはっ……昨日ちょっと事故があって、それで混乱しているだけだ」

「そうなのか?」

 

 彼はまたこちらの方を見てきたが、今度も全力で首を横に振る。

 

「違うと言っているようだが」

 

 こうなるとニック少年はもう手詰まりだ。

 援護を求めて周りを見渡しているけれど、この店にはむしろ敵しかいない。

 

「て、照れているだけだ! だってあんなに親身になって相談に乗ってくれたのに……」

「シャーロットちゃんは初心者には優しいって評判だぞー」

「逆に慣れてる人間には辛辣だけどな」

「そんなことありませんから!?」

 

 聞き捨てならない野次が聞こえた。

 辛辣にした覚えなんてない。むしろ熱心に媚を売っている。

 あまりにもしつこい客には丁寧にご遠慮いただいているだけだ。

 

「そうかぁ? この間なんてあのうざったい奴に『ごめんなさい、その日は先約があるんです』って断ってたじゃあないか。俺、その日暇してるシャーロットちゃん見たぜ?」

「それ、はぁ……ちょうど用事が終わった直後だったんですよ。多分」

「ま、あいつはちょっとしつこすぎたしな。わからんでもない」

「それ以上は怒りますからね、営業妨害ですよ!」

 

 好き勝手言ってくる常連さんにこれ以上変なことを言わない様に釘を刺す。

 

「そんなっ、こと……」

 

 ともあれ、ニック少年はショックを受けたようで、固まってしまっている。

 短い間の付き合いだったけれど、結構な好意を持たせてしまっていたようだ。

 若い少年の心を弄んでしまった。そう仕向けたのは俺だけれども。

 

「あの、それで、私は固定を組む気は今のところないんです。ごめんなさい」

 

 正面からそう告げると、ニック少年はその場にへたり込んでしまった。

 彼の今にも泣きそうな表情を見て、流石に罪悪感を覚える。

 ちょろすぎて心配になる。ボディタッチは控え目だったのに。

 

 今後悪い人に騙されたりしないだろうか。この町でやっていくのには、純粋すぎる。

 これをいい経験だと思って成長してくれればいいのだが……。

 

 そんなことを思案していると、俺の上に黒い影が落ちる。

 黒髪の剣士がすぐ目の前に立っていたのだ。

 

「さて、これでじっくり話ができるな?」

「あは、あはははは……」

 

 不機嫌さを隠しもしない男に、俺は愛想笑いを浮かべてやり過ごすほかなかった。

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